2017年6月

米国・EU

中国の国営化学メーカー,ケム・チャイナによる,スイスの世界的なアグリビジネス企業,シンジェンタの買収計画について,連邦取引委員会が同意命令案のパブリックコメントを開始及び欧州委員会が条件付きで承認

2017年4月4日 連邦取引委員会 公表
2017年4月5日 欧州委員会 公表
原文
連邦取引委員会
欧州委員会

【概要】

 中国の国営化学メーカーであるケム・チャイナによる,スイス所在のアグリビジネス企業,シンジェンタの買収計画について,2017年4月4日,連邦取引員会は特定の農薬事業の譲渡を命ずる同意命令案のパブリックコメントを開始した旨,また,同年4月5日,欧州委員会は特定の農薬及び植物成長剤事業の売却を条件に同計画を承認する旨公表した。

連邦取引委員会の公表文(概要)

 連邦取引委員会(以下「FTC」という。)の申立書(complaint)によれば,当事会社から当初提案された買収計画は,3種類の農薬,すなわち,除草剤,殺虫剤及び防カビ剤市場における競争を著しく阻害する可能性があった。
 シンジェンタは米国においてこれら3種類の農薬のいずれについてもブランド農薬を有し,どの製品でも高い市場シェアを得ている。また,ケム・チャイナの子会社であるアダマは,ジェネリック農薬の専業メーカーで,米国におけるこれら3種類のジェネリック農薬のメーカーの中で1位又は2位の地位を占める。
 申立書によれば,当事会社から提案された問題解消措置が無ければ,ケム・チャイナの子会社であるアダマのジェネリック農薬とシンジェンタのブランド農薬の間において現に行われている直接の競争が消滅することになる。そして,米国におけるこれら3種類の農薬の顧客は,より高い価格を支払わされるか,又は,サービスの質の低下を余儀なくされる可能性が高まることになる。
 同意命令案では,ケム・チャイナに対して,アダマが米国で営む農薬事業で有するこれら3種類の農薬に関する全ての権利及び財産をカリフォルニア所在の農薬メーカーであるAMVACに譲渡することを求めている。
 本件買収計画に対しては,世界の競争当局が審査を行っている。FTCは審査するに当たり,オーストラリア,カナダ,欧州委員会,インド及びメキシコ競争当局と,しばしば担当者レベルで共同して分析を行い,米国民の利益に資する結論を得るに至った。
 FTCは同意命令案についてパブリックコメントを行うことを2-0で議決した。

欧州委員会の公表文(概要)

 今回の条件付承認決定は,買収計画の詳細審査を踏まえて行われたものである。シンジェンタは全世界で主要な農薬メーカーであり,ケム・チャイナは,イスラエル所在の子会社アダマを通じ,欧州の農薬市場において事業活動を行っている。シンジェンタは自社で開発した有効成分を用いてブランド農薬を製造販売している。それに対し,アダマは,第三者によって開発され,特許が失効した有効成分のみを用いて農薬を製造販売する,世界最大のジェネリック農薬のメーカーである。
 欧州委員会は,提案された買収により複数の既存の農薬市場で競争が減殺されることを懸念した。加えて委員会は,それによって,植物成長剤市場における競争が減殺される可能性があることを懸念した。ケム・チャイナとシンジェンタは,新規の革新的な農薬の開発では競争関係に無いことから,欧州委員会は既存の農薬市場における競争に焦点を当てて調査した。
 その結果,買収後の当事会社の合算シェアは,複数の農薬及び特定の植物成長剤市場において非常に高くなり,競争業者がほとんど存在しなくなることが明らかになった。アダマはこれらの農薬及び植物成長剤の多くにおいて,シンジェンタと競合する重要なジェネリック農薬のメーカーである。特に,欧州委員会は,複数の加盟国において穀物等に用いられている防カビ剤,除草剤,殺虫剤及び種子処理製品並びに同じく穀物に用いられる植物成長剤の市場において有効な競争が著しく阻害されると判断した。
 ケム・チャイナは,欧州委員会の全ての懸念事項に対処するために一連の問題解消措置を提案した。すなわち,①アダマが営む農薬事業の主要な部分(防カビ剤,除草剤,殺虫剤,種子処理事業など),②シンジェンタが所有する農薬の一部(防カビ剤及び除草剤),③アダマが開発中のジェネリック農薬のうちの29品目並びにこれらの農薬の研究及び試験結果に対するアクセス権,④アダマが営む穀物用の植物成長剤事業の大半,⑤これらの農薬及び植物成長剤の利用に関連する全ての無形資産及び人的資源を売却する。
 欧州委員会は,これらの一括売却措置によって,買収後においても農薬及び植物成長剤市場における有効な競争は確保されると判断した。なぜなら,ケム・チャイナは,当事会社の製品の重複が問題となる全ての市場において,アダマ又はシンジェンタの製品を譲渡することとなるからである。開発中のアダマのジェネリック農薬を譲渡することは,長期的に見て,譲渡される事業の実効可能性と競争力が確保されることになる。譲渡資産の買い手が当事会社と持続的に競争することが可能になることで,欧州の農家及び消費者に利益がもたらされることになる。以上を踏まえ,欧州委員会は条件付で本取引を承認した。
 なお,本件審査に当たって欧州委員会は,当該買収計画を審査する多くの競争当局と緊密に連絡を取ってきた。中でも,ブラジル,カナダ,中国及びメキシコの競争当局並びに米国連邦取引員会とは定期的に情報交換を行ってきた。

EU

欧州委員会,南欧バナナカルテル訴訟に対する欧州司法裁判所の判決を歓迎

2017年4月27日 欧州委員会 公表
原文

【概要】

 欧州委員会は,カルテルの立証において,加盟国の政府機関により合法的に送達された文書を使用することは,当該機関が競争法を所管していない場合でも認められるとした欧州司法裁判所の判決を歓迎した。
 欧州司法裁判所(ケースC-469/15P)は,2015年の欧州一般裁判所の判決(ケースT-655/11)について,バナナ輸入業者のパシフィック・フルーツ・グループが提起した控訴を却下した。本日の判決は,一般裁判所の評価を完全に確認し,特にイタリアの金融警察(Guardia Di Finanza)が欧州委員会に送付した証拠の認容性を支持した。
 2011年10月,欧州委員会は,EU加盟三国(ギリシャ,イタリア,ポルトガル)におけるフレッシュバナナの価格調整カルテルにチキータと共に参加したパシフィック・フルーツ・グループに対して,制裁金を課す決定を下した。
 カルテル調査の一環として,欧州委員会はイタリアの金融警察から文書のコピーを受け取った。欧州司法裁判所は,これらの文書をカルテルを立証する証拠として用いることができると解されるとする一般裁判所及び欧州委員会の判断に同意した。欧州司法裁判所は,当該文書の送達が国内法の下で違法と宣言されたものでない限りは,それが加盟国の競争当局以外の政府機関による場合であっても証拠として許容されることを確認した。同裁判所はまた,欧州競争ネットワークにおける当局間の協力に関する規則は,加盟国の競争当局以外の政府機関から伝えられた情報について,当該情報が他の目的で取得されたことのみを理由として,欧州委員会による利用が妨げられるものではないことを確認した。
 さらに,欧州司法裁判所は,一般裁判所が,パシフィック・フルーツ・グループに課された制裁金について詳細な審査を行っていると判断するとともに,欧州委員会が本件の行為について競争制限効果を評価することなく,競争制限の目的を有するから違反行為であると宣言する権限を有していると理解したことは正しいと判断した。

背景事情

 欧州委員会は,2004年7月から2005年4月の間,主要なバナナ輸入事業者であるチキータとパシフィック・フルーツの2社がカルテルに参加し,欧州機能条約第101条に違反したことを認定した。カルテル参加者は,将来価格,価格水準,価格の動きと傾向などの価格戦略を調整するとともに,今後,価格に関して採るであろう行動について情報を交換していた。

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