2017年10月

EU

欧州司法裁判所は,インテルによる市場支配的地位の濫用事件について,同社によるパソコンメーカー等に対するリベートが競争を制限し得るものであったか否かについての検討が行われていないとして,欧州普通裁判所の判決を差戻し

2017年9月6日 欧州司法裁判所 公表
原文

【概要】

 インテルが市場支配的地位を濫用していたとして,欧州委員会が同社に10億6000万ユーロの制裁金を賦課した決定を支持した欧州普通裁判所の判決について,欧州司法裁判所はこれを破棄する判決を下した。同裁判所のプレスリリースの概要につき,以下のとおり。

 本件は,インテルが主張していた,本件リベートが競争を制限し得るものであるかどうかの論点を検討するため,欧州普通裁判所に差し戻される。

 2009年5月13日の決定に基づき,欧州委員会は,米国のマイクロチップメーカーであるインテルに対し,x86中央演算処理装置(以下「x86CPU」という。)の市場における支配的地位を濫用し,EU及び欧州経済圏の競争法に違反したとして,10億6000万ユーロの制裁金を課した。さらに,欧州委員会は,インテルに対し,継続している違反行為を直ちに取りやめるよう命じた。
 欧州委員会によれば,インテルは,2002年10月から2007年12月にかけて,競争事業者のAdvanced Micro Devices Inc.を市場から排除する戦略を実行することにより,x86CPUの世界市場における支配的地位を濫用した。
 欧州委員会は,インテルが当該市場において約70パーセントあるいはそれ以上のシェアを有し,かつ競争事業者による新規参入や事業拡大が,研究開発,知的財産及び生産設備に関する投資の回収不能を理由に,極めて困難であることから,同社が市場支配的地位にあると認定した。
 欧州委員会によれば,当該濫用行為は,インテルが自己の顧客(パソコンメーカー)及び超小型電子部品の小売業者であるメディア・サターンに対して行った幾つかの手段に特徴がある。
 すなわち,インテルは,x86CPUの全て又はほとんど全てをインテルから購入するというという条件で,4大パソコンメーカー(デル,レノボ,HP及びNEC)にリベートを付与した。同様に,インテルは,メディア・サターンがインテル製x86CPUを搭載したパソコンのみを販売することを条件に金銭を付与していた。欧州委員会によると,これらリベートや金銭は,上記4社及びメディア・サターンのインテルに対する忠誠を高め,インテルの競争事業者が当該市場で競争する余地を著しく制限した。インテルの反競争的行為は消費者の選択肢を狭め,技術革新のインセンティブを低下させた。
 欧州委員会は,2006年ガイドラインに基づき,インテルに対して10億6000万ユーロの制裁金を課した。インテルは,欧州委員会の決定の破棄,又は,少なくとも制裁金の大幅な縮減を求めて,欧州普通裁判所に提訴した。
 欧州普通裁判所は,2014年6月12日の判決において,インテルの訴えを全て棄却した。
 
 インテルは,欧州普通裁判所の判決について,欧州司法裁判所に控訴した。インテルの主張は,欧州普通裁判所は,とりわけ,本件の全関連事実の中でも特に焦点となっていたリベートについて検証しておらず,法律上の瑕疵があるというものであった。
 当該訴えに関し,欧州司法裁判所は,欧州普通裁判所が支持した,市場支配的地位にある企業により付与されるリベートは,それ自体に競争制限効果があり,事件の全ての関連事実の分析,特に,同等に効率的な競争者テスト(以下「AECテスト」という。)は不要であるとの欧州委員会の主張について注目している。
 欧州委員会は,問題のリベートが,それ自体競争を制限し得るものである旨強調するが,それにもかかわらず,欧州委員会は,その決定の中で,本件関連事実に関して詳細な検討を行っている。そして,インテルが行っていたリベートは,インテルと同程度に効率的な事業者であっても提供し得ないものであったとし,問題のリベートスキームが当該競争者を排除し得るものであったと結論付けている。したがって,AECテストは,問題のリベートスキームが同等に効率的な競争者を排除する可能性があったかどうかという点で,欧州委員会の判断に重要な役割を果たすものである。
 そのため,欧州普通裁判所は,AECテストに関するインテルの主張(とりわけ,AECテストに関して欧州委員会が誤った判断をしているとする主張など)の全てを検討することが求められていたにもかかわらず,同裁判所はこれを怠り,当該リベートにより競争が制限され得るかどうかという検討を行っていない。したがって,欧州司法裁判所は,問題となるリベートが競争を制限し得るものであったか否かについての検討が行われていないとする理由により,欧州普通裁判所の判決を差し戻すこととした。
 なお,インテルが主張していた,濫用行為の処罰に関する欧州委員会の管轄権の欠如及びインテルの防御権を侵害した手続上の問題の申立てについては棄却する。

欧州委員会は,外国企業による直接投資を審査する枠組みを提案

2017年9月14日 欧州委員会 公表
原文

【概要】

 欧州委員会は,9月14日,外国企業による欧州域内への直接投資(以下「対内直接投資」という。)を審査する枠組みの設定について提案することを公表した。同時に,欧州委員会は,対内直接投資の詳細な分析を開始し,対内直接投資に関する共通の戦略的関心及び解決策を明らかにすることを目的に,加盟国とともに,調整グループを設置することとした。
 欧州は世界的に最も開かれた投資環境を有している。対内直接投資の開放性は欧州条約において定められている。しかしながら,外国の投資者が,安全保障上及び社会秩序のために重要な活動を行っている欧州企業を支配し,影響を与えるために,戦略的な資源を買収しようとする場合がある。例えば,重要な技術,インフラ,エネルギー,機密情報等の運営や供給に関することである。外国の国有企業によるこれら戦略的分野における買収は,欧州の技術水準の優位性を後退させるために,第三国がこれら資源を活用することになるだけでなく,我々の安全保障又は社会秩序を危険にさらすことにもなり得る。
 欧州委員会は,欧州が必要不可欠な利益を維持するために,以下のとおり,新しい法的枠組みを提案する。
 - 安全保障又は社会秩序の観点から加盟国が対内直接投資を審査するために,欧州レベルでの枠組みを導入。その際,透明性の義務,多様な地域の外国企業による投資を同等に取り扱うためのルール及びこれらの審査メカニズムの下での決定に関して適切な救済措置が行われることの確保の義務も取り入れる。
 - 加盟国及び欧州委員会間の協調的メカニズムを導入。このメカニズムは特定の外国企業が1以上の加盟国に投資をする場合に,他の加盟国の安全又は社会秩序に影響を与える可能性がある場合に機能する。
 - 例えば,研究,宇宙,輸送,エネルギー及び通信の分野において,対内直接投資が欧州域内の利益に関する事業や計画に影響を与える場合に,安全保障又は社会秩序の観点から,欧州委員会が審査を行う。
 対内直接投資の審査の枠組みでは,投資家及び加盟国が透明性及び予見可能性を確保できるようにする。この枠組みは,12の加盟国において既に導入されている加盟国レベルでの審査メカニズムを基にしているが,加盟国が新しいメカニズムを採用したり,又は,そうしたメカニズムの不採用を維持することを妨げるものではない。対内直接投資に関する決定がなされた場合においても,国家の必要な柔軟性は維持されることになる。また,いかなる投資の審査についても,加盟国が最終的な決定権限を維持することになる。 
 欧州域内への対内直接投資を審査するための規則案は,欧州議会及び欧州評議会における加盟国の承認が必要となる(通常の立法手続)が,時間を無駄にしないよう,欧州委員会は,同時並行的に,以下の2つの追加的な方策を開始することを提案する。
 第一に,欧州委員会は,今回の規則案に関する全ての問題を取り扱い,同時に,より広範囲な議論を行うための場として,対内直接投資に関する調整グループを設置する。このグループは,例えば加盟国,加盟国間又は欧州レベルにおいて,安全保障,社会秩序,重要な資源のコントロールといった観点から,戦略的意味を有する分野及び資源を特定するといった,広範な権限を有する。 
 また,対内直接投資に関する情報,ベストプラクティス及び分析を共有し,さらに,戦略的買収を容易にしている第三国による補助金等の共通の問題を議論する。このグループは欧州委員会が議長を務め,全ての加盟国の代表者から構成されることになる。
 第二に,欧州委員会は,2018年末までに,対内直接投資に関する詳細な分析を行う。その際,買収された場合に安全保障,社会秩序上の問題を引き起こすこととなる戦略的部門(エネルギー,宇宙,輸送等)及び資源(主要技術,重要なインフラ,機密情報等)に焦点を当てる。特に,第三国の国有企業,又は,第三国から莫大な補助金を得ている投資者が問題となる。欧州委員会は,加盟国と協調しながら,ケーススタディを通じて,詳細な情報を収集し,傾向を分析し,投資による影響を評価する。

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