2020年9月

EU

欧州委員会は,不当な高価格設定の懸念に対するアスペンの提出した確約案について,意見募集を開始

2020年7月14日 欧州委員会 公表
原文

【概要】

 欧州委員会は,本日,世界的な製薬会社であるアスペンが同委員会の示した不当な高価格設定に関する懸念に対処するために提出した確約案について,利害関係者からの意見募集を開始した。アスペンは,当該確約案において,欧州における6種類の重要ながん治療薬の価格を平均73%引き下げ,かつ,これらの特許切れの治療薬を長期間にわたって確実に継続して供給することを提案している。
 欧州委員会は,2017年5月15日に正式調査を開始して以降,アスペンが重要な特許切れのがん治療薬について不当な高価格を設定することにより,多くの加盟国内市場において支配的地位を濫用してきたことに重大な懸念を有していた。アスペンは,他社から当該がん治療薬事業を買収した後,2012年にエストニア,ドイツ,ラトビア,リトアニア,ポーランド,スウェーデン及び英国において価格の引上げを開始し,その後,アスペンが当該がん治療薬を販売している欧州の全ての国において同様の戦略を実施した。
 アスペンの上記行為は,白血病や他の血液がんの治療に主に使用される多くのがん治療薬に関連したものであり,その中には,アルケラン,ロイケラン及びピュリネソールのブランド名で販売される治療薬が含まれる。
 欧州委員会は,アスペンの収益及びコストに関する会計データについて調査を行った結果,アスペンの販売するがん治療薬の価格が引き上げられた後,同社は欧州におけるがん治療薬の販売において,一貫して非常に高水準の利益を確保していた。また,アスペンのがん治療薬の価格は,医薬品の種類及び販売先の国によって異なるものの,合理的な収益率を考慮するとしても,関連費用を平均約300パーセント上回る価格設定となっていた。
 重要なイノベーション及び商業的なリスクに対して報酬を得る必要がある場合など,高い利益水準を説明できる事例もある。しかし,欧州委員会の調査においては,以下のとおり,アスペンが実現してきた非常に高水準の利益については,正当化事由を確認できなかった。まず,同社の医薬品は特許切れ後50年が経過していることから,当該医薬品への研究開発投資は既に十分に回収されていることになる。また,欧州委員会の予備的評価(訳注:理事会規則第1/2003号第9条第1項に規定された確約手続の過程において,欧州委員会が示す競争上の懸念に係る予備的評価)の結果,2013年から2019年までの間,アスペンの単位コストの上昇幅は僅かであり,アスペンによる価格の引上げは,当該コストの上昇と明らかにつり合いがとれていなかった。
 アスペンの行為は,欧州経済領域(EEA)全体に及んでいた。ただし,イタリア競争当局が2016年にアスペンに対しイタリア国内市場において当該医薬品の価格の引下げを命じる決定を行っていることから,今回の欧州委員会の調査では,イタリアは対象としていない。
 今回の,時には何百パーセントにもなるの価格引上げに当たり,アスペンは,患者及び医師がこれらの特定のがん治療薬を使用する以外にほとんど選択肢を有していないという事実を利用していた。各国の保健当局がアスペンによる価格引上げの申請に抵抗を試みると,アスペンは保険で払戻し可能な医薬品リストから同がん治療薬を外すと脅したり,さらに,一般用医薬品市場から同がん治療薬を撤退させる準備さえした。
 アスペンの行為は,顧客に不正な価格や取引条件を押し付けることを禁止する欧州競争法(欧州機能条約(TFEU)第102条及びEEA条約第54条)に違反する可能性がある。
 
確約案の内容
 アスペンは,欧州委員会の示した競争上の懸念に対処するため,以下の確約案を提案した。
a)アスペンは,欧州全体において6種類のがん治療薬の価格を平均約73%引き下げること。
b)当該価格は,今後10年間アスペンが請求可能な最高額であり,既に2019年10月から有効であること。
c)アスペンは,今後5年間の当該がん治療薬の供給を保証するとともに,更に5年間にわたり供給を継続する,又は他の医薬品供給業者に販売承認を与えること。
 欧州委員会は,全ての利害関係者に対し,官報への掲載日(訳注:2020年7月15日)から2か月以内に,アスペンの提案した確約案について意見を提出するよう求めている。欧州委員会は,提出された全ての意見を考慮し,当該確約案が競争上の懸念に十分に対処しているか,最終的な判断を行う。
 確約案が確定すれば,欧州委員会は,EUの反トラストに係る理事会規則(理事会規則1/2003)第9条に基づき,当該確約案についてアスペンに対し法的拘束力を付与するものとする決定を採択することができる。
当該決定は,欧州競争法違反があったか否かについての欧州委員会の判断を示すものではないが,確約した企業は当該確約を遵守するよう法的に拘束される。当該確約に違反した場合には,欧州委員会は,欧州競争法違反を立証することなく,違反した企業の全世界における総売上高の10%までの額の制裁金を課すことができる。
 
背景
 アスペンは南アフリカに本社を置く世界的な製薬会社であり,EEA内に複数の子会社を有している。
 EUでは,各加盟国の保健当局が,医薬品価格の設定方法と,社会保障制度の下で払戻しの対象となる治療法について自由に定めることが認められている。各加盟国は,それぞれ経済面及び健康面の必要性に応じ,異なる医薬品価格及び払戻政策の方針を採用している。医薬品価格については通常,製薬会社と加盟国の価格及び払戻しを担当する当局との間で,交渉が行われる。そして,治療上の選択肢がない又はほとんどない重要な医薬品の場合には,当局の交渉力は極めて弱くなる。
 欧州機能条約第102条は,不当な高価格設定を含め,市場支配的地位の濫用を禁じている。これらの規定の実施については,EUの反トラストに係る理事会規則(理事会規則1/2003)で定義されており,各加盟国の競争当局によっても運用される。
 

欧州委員会は,エチレンの購入カルテルに参加したとして3社に対し,総額2億6000万ユーロの制裁金を賦課

2020年7月14日 欧州委員会 公表
原文

【概要】
 欧州委員会は,化学製品メーカーであるOrbia, Clariant及びCelaneseの3社に対し,欧州競争法に違反したとして総額2億6000万ユーロの制裁金を課した(内訳は,Orbia2236万ユーロ,Clariant1億5576万ユーロ及びCelanese8230万ユーロ)。Westlakeは,欧州委員会に対し本件カルテルの存在を明らかにしたことから,制裁金を課されなかった。
 4社は,エチレンの事業者向け市場における購入カルテルに参加し,共謀して,可能な限り低価格でエチレンを購入していた。4社は,いずれもカルテルヘの関与を認め,和解に応じた。
 エチレン購入者は通常,供給契約に基づいてエチレンを購入しているところ,エチレンの購入価格は変動が大きいことから,購入者は価格変動のリスクを減らすため,当該契約において価格算定式が規定している。当該価格算定式においては,エチレン購入者と販売者の個々の交渉価格を踏まえた業界の参考価格である,いわゆる「月ぎめ契約価格」(以下「MCP」という。)が利用されることが多い。
 欧州委員会の調査の結果,2011年12月から2017年3月までの間,4社は,MCPの決定の過程において,4社に有利になるように,エチレン販売者に対する価格交渉戦略を調整したことが明らかとなった。4社のうち,Westlakeは米国に,Orbiaはメキシコに,Clariantはスイスに,Celaneseは米国に,それぞれ本社を置き,違反行為はベルギー,フランス,ドイツ及びオランダに及んでいた。
 多くのカルテルが販売価格を引き上げるものであるのに対し,4社は共謀してエチレンの購入価格を引き下げ,エチレン販売者に不利益をもたらしたものである。具体的には,4社はMCPを引き下げ,4社にとって有利な価格とするため,エチレン販売者とのMCPの決定に係る交渉の前後に,価格交渉の戦略について調整したほか,価格に関連する情報交換を行っていた。これらの行為は,欧州競争法により禁止されている。

制裁金
 各社の制裁金額は,欧州委員会の2006年制裁金ガイドラインに基づき決定された。
 制裁金額の決定に当たり,本件は購入価格に関するカルテルであるため,欧州委員会は,欧州域内における(売上額ではなく)購入額を用いて制裁金額を決定した。
 また,購入額は,厳密にいえばカルテル行為により引き下げられたと考えられることから,制裁金額は,当該違反行為が経済に与えた影響よりも低い水準になると想定された。そこで,欧州委員会は,過小評価を回避するため,同ガイドラインに基づき,裁量により制裁金額を各社それぞれ10%引き上げた。
 さらに,欧州委員会は,制裁金額を決定する際,違反行為の継続期間,違反行為における各社の重要性の程度,各社の企業規模,また,Clariantに関しては過去にも同様の違反行為に対し制裁措置が採られていた事実についても考慮した。
 欧州委員会の2006年リニエンシー告示に基づき,

  •  Westlakeについては,カルテルの存在を明らかにしたことから100%の免責が認められ,総額約1億9000万ユーロの制裁金が免除された。
  •  Orbia, Clariant及びCelaneseについては,欧州委員会の調査への協力度合いに応じて制裁金の減額が認められた。減額は,各社が協力を開始した時期,提出した証拠が欧州委員会によるカルテルの立証に役立った程度を踏まえて決定された。

 加えて,欧州委員会は,各社がカルテルヘの参加とその責任を認めた事実を踏まえ,欧州委員会の2008年和解告示に基づき,各社に課される制裁金の額を10%減額した。

背景

 エチレンの価格は変動が大きいことから,業界ではエチレン供給契約において,専門の市場情報提供業者が公表するMCPを用いることが多い。
 翌月のエチレンのMCPの決定に当たっては,2組の異なる供給者と購入者のペアが,それぞれ価格で合意に至らなければならない(2+2ルール)。翌月の価格について1組のペアが合意に達すると,当該合意内容を民間の独立した市場情報提供業者に通知する。もう1組のペアが,先のペアと同一の価格で合意した場合,当該価格が翌月のMCPとして市場情報提供業者によって公表される。MCPは,ベルギー,フランス,ドイツ及びオランダにおける長期供給契約の価格算定式の一部として用いられている。
 本件違反行為の目的は,4社の有利になるように,毎月のエチレン販売者とのMCPの交渉に共同して影響を及ぼすことにあった。本件カルテル行為は,可能な限り低価格でエチレンを購入することを目的としており,エチレン販売者との交渉中に,MCPの決定の基礎となる価格に関連する情報交換が行われていた。
 

欧州委員会は,消費者向けIoTに関するセクター調査を開始

2020年7月16日 欧州委員会 公表
原文

【概要】

 欧州委員会は,本日,欧州域内における消費者関連商品・サービス向けのIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の競争に関するセクター調査を開始した。
 本件調査は,ネットワークに接続し,音声アシスタントや携帯端末などにより,遠隔操作が可能となる消費者関連商品・サービスに重点を置く。これらの商品・サービスにはスマート家電やウェアラブル端末が含まれる。本件調査を通じて得られた市場に関する知識は,欧州委員会による当該セクターにおける競争法の執行に用いられることとなる。
 欧州域内における消費者関連商品・サービス向けのIoTは発展の比較的初期段階にあるにもかかわらず,特定の企業が競争を構造的にゆがめている兆候がみられる。特に,特定の自社優遇や独自規格の運用に結び付いた行為だけでなく,データアクセス及び相互互換性の制限に関連した行為もみられる。IoTのエコシステムは強いネットワーク効果及び規模の経済によって特徴付けられることが多く,それにより支配的なデジタルエコシステム及びゲートキーパーが急速に台頭し,ティッピング(tipping,訳注:市場が特定の企業に偏ること)のリスクが現れるおそれがある。
 そのため,本件調査を通じて,欧州委員会は,その特性,普及の程度及び競争上の論点となり得る事項の影響を一層理解し,欧州競争法の観点からそれらを評価するため,市場情報を収集することとなる。
 本件調査では,ウェアラブル端末(例:スマートウォッチ,フィットネストラッカー),スマートホームに関連して使用される冷蔵庫,洗濯機,スマートテレビ,スマートスピーカー,照明システム等のインターネットに接続された消費者向けデバイスなどが対象となる。また,音楽及び動画ストリーミングサービス等のスマートデバイスを通じて入手できるサービス及び当該サービスにアクセスするために使用される音声アシスタントに関する情報も収集する。
 本件調査結果の分析後,欧州委員会が特定の競争上の懸念があると認めた場合には,欧州委員会は,制限的な取引慣行及び市場支配的地位の濫用に関する欧州競争法の遵守を確保するため,事件調査を開始することができる。
 本件調査は,特に,人工知能(AI),データ及びデジタルプラットフォームに関する規制イニシアティブなど,欧州委員会のデジタル戦略の枠組みにおいて開始された他の活動を補完するものである。
 欧州委員会は,2021年春に暫定報告書を公表し,パブリックコメントを実施した上で,2022年夏に最終報告書を公表する見込みである。
 

 

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