2020年10月

EU

欧州委員会,アルストムによるボンバルディアの買収計画について条件付きで承認

2020年7月31日 欧州委員会 公表
原文

【概要】

 欧州委員会は,EU企業結合規則に基づき,アルストムによるボンバルディア・トランスポーテーション(以下「ボンバルディア」という。)の買収計画について,アルストムが提出した一連の問題解消措置を完全に履行することを条件に承認した。
 アルストム及びボンバルディアは,鉄道輸送事業における世界的な事業者である。両社は,幅広い製品に関する事業を保有しており,以下の製品の製造及びサービスの供給において競争関係にある。
超高速鉄道,幹線鉄道及び都市部鉄道:超高速鉄道には時速300キロメーター以上の長距離鉄道,幹線鉄道には都市間及び近郊鉄道,都市部鉄道には地下鉄及び路面電車が,それぞれ含まれる。
主要路線及び都市部における信号ソリューション:信号ソリューションには,幹線及び都市部の路線ネットワークにおいて,安全制御のために線路や列車内に取り付けられている信号に係るシステムが含まれる。この信号ソリューションには,現在,欧州経済領域全体に展開される列車搭載式European Train Control System(ETCS)が含まれるところ,同システムは欧州全体の標準規格への準拠を促進し,相互互換性を確保し,国境を越えて安全に旅行することを可能にするものである。
 
欧州委員会の審査
 欧州委員会の審査の結果,本件買収計画は,以下の分野において重大な競争上の懸念を引き起こすことが明らかとなった。
(1)超高速鉄道の分野において,本件買収後の当事会社は,重要な地位を有し,疑いの余地のないマーケットリーダーとなる。
(2)幹線鉄道の分野において,本件買収後の当事会社は,特にフランスとドイツにおいて両者が既に有する地位を更に強化する。
(3)幹線の信号システムの分野において,本件買収後の当事会社は,列車搭載式ETCSを供給する競合他社が,既に設置された,旧型の列車搭載式信号システム及び既に稼働している列車(欧州経済領域内において大部分を占める。)との接続を行うことを困難にさせる能力及びインセンティブを有するおそれがある。また,本件買収によって,オランダにおいて,買収後の当事会社が唯一の旧型列車搭載式信号システムの供給業者になるおそれがあった。
 他方で,欧州委員会の審査の結果,本件買収計画は,上記以外の市場,特に欧州経済領域内におけるボンバルディアの地位が非常に限定的である主要路線及び都市部における信号システム内においては,競争上の懸念がないことが確認された。
 
当事会社の問題解消措置案
 欧州委員会の懸念に対処するため,アルストムは一連の問題解消措置を提出した。
(1)日立製作所と共同開発する超高速鉄道「Zefiro V300」について,現時点でボンバルディアが出資する資産を売却すること。また,アルストムは,現状欧州において超高速鉄道を製造する最大の機会であるHS2(訳注:HS2(High Speed 2)は英国において計画されている高速鉄道路線)において,ボンバルディア及び日立製作所で構成されるコンソーシアムによる共同入札を維持するための一連の措置についても約束した。
(2)各当事会社が有する以下の資産の売却
 (a)アルストムの幹線用列車コラディア・ポリバレント(Coladia Poluvalent,訳注:列車のブランド名)
 (b)フランスのライヒスホーフェン(Reichshoffen)に有するアルストムの製造施設
 (c)ボンバルディアの幹線用列車タレント3(訳注:列車のブランド名)
 (d)ドイツのヘニングスドルフ(Henningsdorf)に有するボンバルディアの製造施設
(3)競合他社のために,旧式列車搭載信号システム及び必要な接続情報やサポートを提供すること
(4)あらゆる利害関係者のために,オランダにおいてインフラ管理を行う事業者であるプロレールへの旧型の列車搭載信号システムを供給すること
 最終的な問題解消措置は,アルストムによるボンバルディアの買収に関して欧州委員会が示した競争上の懸念に対処するものであり,市場参加者からの意見を受けて大幅に改善されたものである。欧州委員会は,問題解消措置により修正された本件買収計画は競争上の懸念を引き起こすものではないと結論付けた。
 欧州委員会の決定は,問題解消措置の完全な履行を条件としている。
 

欧州委員会,GoogleによるFitbitの買収計画について詳細審査を開始

2020年8月4日 欧州委員会 公表
原文

【概要】

 欧州委員会は,EU企業結合規則に基づき,GoogleによるFitbit(訳注:ウェアラブル端末等を提供する事業者)の買収計画について,詳細審査を開始した。欧州委員会は,当該買収計画により,Googleが各個人に最適な広告を提供し表示するために利用してきた膨大なデータを更に増加させ,オンライン広告市場におけるGoogleの地位が一層強固となることを懸念している。
 
欧州委員会の予備的懸念
 欧州委員会は,一次審査において,当該買収計画がオンライン検索及びディスプレイ広告サービス(インターネット上の検索エンジンの検索結果ページ又はその他のインターネット上のページにおける広告スペースの販売)並びに「アドテクノロジー」サービス(プログラム化されたデジタル広告の販売及び購入の促進のために使用される分析・デジタルツール)の供給に影響を与える可能性があることに懸念を抱いた。GoogleによるFitbitの買収の結果,Googleは,①Fitbitが管理するユーザーの健康及び運動に関するデータベースを取得するとともに,②Fitbitと同様のデータベースを開発する技術を取得することとなる。
 一次審査の段階において,手首に装着したウェアラブル端末を通じて収集されたデータは,オンライン広告市場において重要な優位性をもたらすことが明らかとなっている。本件買収計画により,検索エンジンを通じて提供され,他のインターネットページ上に表示される広告を各個人にとって最適化するサービスについてGoogleがデータの優位性を高めることにより,競合他社は,オンライン広告サービスにおいてGoogleと競争することが一層困難となる。そして,本件買収計画は,Googleの競合他社にとって,参入や事業拡大の障壁を高め,最終的に,広告主やサイト運営者は高額な料金を支払わなければならなくなり,オンライン広告仲介事業者の選択肢が少なくなるという損害が発生することになる。
 現段階において,欧州委員会は,以下の事項を考慮している。

  • Googleは,欧州経済領域の各加盟国(市場シェアが不明のポルトガルを除く。)のオンライン検索広告サービス供給市場において支配的地位を有している。
  • Googleは,少なくとも以下の加盟国において,オンラインディスプレイ広告サービスの供給,特にソーシャルネットワークサービス以外のディスプレイ広告に関連した市場において強力な地位を有している。
オーストリア,ベルギー,ブルガリア,クロアチア,デンマーク,フランス,ドイツ,ギリシャ,ハンガリー,アイルランド,イタリア,オランダ,ノルウェー,ポーランド,ルーマニア,スロバキア,スロベニア,スペイン,スウェーデン及びイギリス
  • Googleは,欧州経済領域におけるアドテクノロジーサービス供給市場において強力な地位を有している。
 欧州委員会は,一次審査の段階におけるオンライン広告市場に関する競争上の懸念を確認するため,本件買収計画の影響について,詳細審査を実施する予定である。
 また,欧州委員会は,以下の事項についても審査する予定である。
  • 欧州ではいまだ新興段階にあるデジタルヘルスケア分野において,Fitbit及びGoogleが有するデータベース及び機能の統合の影響。
  • GoogleによるFitbitの買収の結果,Googleが,競合他社のウェアラブル端末と,Googleのスマートフォン用Android OSとの間の相互互換性を低下させる能力及びインセンティブを有するか。

 欧州委員会は,一次審査の段階において,世界各国の競争当局及び欧州データ保護会議と緊密に協力しており,詳細審査の段階においても,当該協力関係を継続する予定である。
 本件買収計画は,2020年6月15日,欧州委員会に対して届出が行われた。Googleは,2020年7月13日,欧州委員会の懸念に対処するための問題解消措置案を提出した。同措置案において,Googleは,Google内の他のデータセットから分離された仮想ストレージであるデータサイロを設け,同サイロにFitbitのウェアラブル端末を通じて収集された特定のデータを保存することを提案した。また,データサイロ内に保存されたデータについて,Googleは広告目的で使用できないとする制限が付されていた。しかし,欧州委員会は,Googleの問題解消措置案において提案されたデータサイロでは,一次審査において特定された本件買収に係る重大な懸念を明確に払拭するには十分ではないと考えている。とりわけ,同措置案は,買収の結果Googleがアクセスでき,広告の提供のために価値のある全てのデータに対してとられたものではない。
 欧州委員会は,2020年12月9日までに決定を発出する予定である。詳細審査の開始は,最終結果に予断を与えるものではない。

 

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