EU
欧州委員会は,Amazonに対し,非公開の出店者データの使用に関して異議告知書を送付するとともに,eコマース市場における取引慣行についての2件目の調査を開始
2020年11月17日 欧州委員会 公表
原文 原文<べステア―委員声明>
【概要】
欧州委員会は,Amazonに対して,Amazonの行為はオンライン小売市場における競争を歪め,EU競争法に違反する旨の予備的見解を通知した。欧州委員会は,Amazonが,自社と競合関係にある出店者の事業に関する非公開データを,自社の小売事業の利益のために利用していたことを懸念している。
また,欧州委員会は,Amazonの自社の小売サービス及び物流・配送サービスを利用する出店者の優遇について,新たに正式調査を開始した。
Amazonによるマーケットプレイスにおける出店者データの使用に関する異議告知書
Amazonは,(i)出店者が消費者に対し直接商品を販売できるマーケットプレイスを提供する役割及び(ii)同じマーケットプレイスで出店者と競争しながら,自らも小売業者として商品を販売する役割の2つを担っている。
また,Amazonは,マーケットプレイスサービスの提供者として,商品の注文及び出荷数,マーケットプレイスにおける出店者の収益,出品ページへの訪問者数,出荷方法及び過去の実績等に関するデータ,品質保証を含む消費者からの評価など,出店者の事業に関する非公開データにアクセスすることができる。
欧州委員会による予備的調査の結果によれば,Amazonの小売サービス部門の従業員は,出店者に係る膨大な量の非公開データにアクセスでき,それらのデータを自社のシステムに集約し,マーケットプレイスにおける他の出店者に対して不利益になるような戦略的な経営判断を検討するために利用している。こうしたシステムによって,Amazonは,例えば,商品カテゴリー全体で最も売れ筋の商品に焦点を合わせて,自社ブランドの商品を出品する等,競合する出店者の非公開データを考慮して出品を調整することができる。
欧州委員会による予備的見解によれば,Amazonは,マーケットプレイスにおける出店者の非公開データを利用することで,小売競争において想定されるリスクを回避し,同社にとって欧州で最大の市場であるドイツ及びフランスにおけるマーケットプレイスサービス市場で支配的地位を濫用している。本異議告知書の内容が確定すれば,Amazonの一連の行為は,市場での支配的地位の濫用を禁止する欧州連合の機能に関する条約(以下「TFEU」という。)第102条の規定に違反することとなる。
「Buy Box」とプライム表示に関するAmazonの取引慣行に関する調査
また,欧州委員会は,Amazonが自社の小売サービス部門及びマーケットプレイスにおいて同社の物流・配送サービス(いわゆる「fulfillment by Amazon」)を使用する出店者を恣意的に優遇しているおそれがあるとして,Amazonの取引慣行に対する2件目の調査を開始した。
欧州委員会は,特に,Amazonが,同社の料金プログラムに基づき,「Buy Box」(訳注:日本では「ショッピングカートボックス」と呼ばれる,購入者が商品をショッピングカートに追加する際に使用する「カートに入れる」と表示されるボタンのこと)の獲得者を選択し,アマゾンプライム会員(以下「プライム会員」という。)に対して商品を提供できるようにするための設定基準について,Amazonの小売部門又は同社の物流・配送サービスを使用する出店者を優遇していたか調査することとしている。
「Buy Box」は,Amazonのウェブサイト上の目立つ位置に表示され,消費者は,特定の小売業者の商品をショッピングカートに直接追加できる。「Buy Box」を勝ち取る,すなわち,ショッピングカートに直接追加される商品として選ばれることは,Amazonのマーケットプレイスの中で選ばれた商品として,目立つように表示されることを意味し,その売上はマーケットプレイス全体の売上のうち大部分を占めることから,マーケットプレイスの出店者にとって重要である。欧州委員会による調査は,マーケットプレイスの出店者がプライム会員に対し効果的にアプローチできる可能性にも焦点を当てる。プライム会員数は増加し続けており,Amazonのマーケットプレイスではプライム会員相手の方が非プライム会員相手よりも売上高が上回る傾向にあるため,売り手側にとってプライム会員にアプローチすることが重要だとされている。
上記の内容が立証された場合,Amazonの取引慣行は,市場における支配的地位の濫用を禁止するTFEU第102条の規定に違反する可能性がある。