2021年2月

EU

デジタル時代への対応:欧州委員会は新たなデジタルプラットフォームのルールを提案

2020年12月15日 欧州委員会 公表
原文

【概要】
 欧州委員会は,2020年12月15日,SNS,オンラインマーケットプレイス及びデジタルサービスを対象とした新たな包括的なルールとして,デジタルサービス法案(以下「DSA」という。)及びデジタル市場法案(以下「DMA」という。)を公表した。
 DSA及びDMAの提案は,欧州が有する価値観を核とするものである。これらの新たなルールは,オンライン上での消費者保護,プラットフォームビジネスにおける透明性の確保,プラットフォーム事業者の説明責任の確立等を通じて,公正かつ開かれたデジタル市場を目指すものである。欧州単一市場全体に適用されるこの新たなルールは,更なるイノベーション,成長,競争を促進する。また,ユーザーに対しては,新しく,秀逸で信頼性の高いオンラインサービスをもたらすとともに,小規模プラットフォーム事業者,中小企業及び新興企業に対しては,事業拡大をサポートし,法令遵守に係るコストを削減し,欧州単一市場全体の消費者へ容易にアクセスすることを可能にする。さらには,欧州単一市場へのゲートキーパーであり又はゲートキーパーになりつつあるオンラインプラットフォームが,不公正な取引条件を課すことを禁ずる。DSA及びDMAの2つの提案は,欧州における新たなデジタル時代の10年を創造するという欧州委員会の野心的な試みの中心に位置付けられるものである。
 
DSA
 昨今のデジタルサービスの状況は,電子商取引指令が採択された20年前とは大きく異なる。オンライン仲介サービス事業者は,産業のデジタル化における不可欠なプレーヤーとなった。特に,オンラインプラットフォームによって,膨大な消費者利益及びイノベーションがもたらされ,欧州内部及び外部との国境を越えた取引が促進され,欧州の多様な企業及び取引事業者には新たな機会が与えられてきた。一方で,オンラインプラットフォームは,違法なコンテンツの頒布や,違法な商品及びサービスのオンライン販売の手段としても利用されている。特に,大規模プラットフォーム事業者は,情報共有及びオンライン取引のための,公共的なスペースに準ずる機能を果たしている。そして,プラットフォームが有する性質上,システムとして広く浸透し,ユーザーの権利,情報提供及び一般消費者の参加に対して一定のリスクをもたらしている。
 
 欧州全域に拘束力を有するDSAは,商品,サービス又はコンテンツと消費者とを繋ぐ全てのデジタルサービスに対して一連の義務を課している。例えば,違法なコンテンツをより迅速に削除するための新しい手順や,オンラインユーザーの基本的権利の包括的な保護等が含まれる。これは,新たな枠組みにより,ユーザーの権利,仲介プラットフォーム及び公的機関の責任のバランスを再調整するものであり,人権,自由,民主主義,平等,法の支配の尊重を含む欧州の価値観に基づくものである。この提案は,民主主義の強靭性を強化することを目的とした欧州民主主義行動計画(European Democracy Action Plan)を補完するものである。
 具体的には,欧州全域に拘束力を有するDSAの下で,デジタルサービスに対する一連の調和のとれた新たな義務を下記のとおり導入する。

  • 違法な商品及びコンテンツの削除に関するルールを策定すること
  • 情報の誤削除等に関して,ユーザーに対し,不服申立ての機会を与える等の保護措置を設けること
  • 大規模プラットフォーム事業者が濫用行為の防止を目的とする内部監査等を行うこと
  • オンライン広告や商品を推奨するアルゴリズム等の透明性を確保すること
  • 研究者に対して,プラットフォームの機能やオンライン上のリスクについて調査するために,プラットフォーム事業者のデータへのアクセスを認めること
  • 違法な商品等の販売者の追跡(トレーサビリティ)の仕組みを策定すること
  • 欧州単一市場全体で効果的な執行を確保するために行う各国機関の協力を革新的なものにすること

 欧州人口の10%以上(月間平均ユーザー数が4500万人以上)を擁するプラットフォームは,消費者等に広く浸透する性質があると考えられることから,自社のリスク管理に係る特定の義務を負うだけでなく,DSAが規定する新たな監視体制を遵守することとなる。この新しい説明責任の枠組みについては,欧州加盟国各国に置かれたデジタルサービスコーディネーターを執行機関とするが,大規模プラットフォーム事業者に対しては,基本的には,欧州委員会が直接監督し,制裁を与える特別の権限を有する。
 
DMA
 DMAは,欧州単一市場へのデジタル「ゲートキーパー」として機能するプラットフォームによる特定の行動から生じる悪影響に対処するものである。「ゲートキーパー」とは,加盟国の国内市場に大きな影響を与え,ビジネスユーザーが顧客にアクセスするための重要な玄関口(ゲートウェイ)として機能し,確固たる地位を享受し又は享受しつつあるプラットフォームを指す。これらの要素により,当該プラットフォームは,民間のルール策定者として振る舞い,事業者と消費者との間のボトルネックとして機能する力を与えられている。このようなプラットフォーム事業者が,プラットフォームのエコシステム全体を管理し,ゲートキーパーとして不公正な商慣行を行うことにより,ビジネスユーザーや競合事業者の価値ある革新的なサービスが,消費者に届くことを妨害し又は遅延させる可能性がある。
 
 DMAは,水平的なP2B規則(訳注:プラットフォーム事業者による不公正な取引慣行及び取引条件の透明性確保に関する規則),欧州オンラインプラットフォーム経済監視委員会(EU Observatory on the Online Platform Economy)による実態調査の結果及び競争法の執行を通じてオンライン市場に対処してきた欧州委員会の豊富な経験に基づいて策定されたものである。また,DMAは,ゲートキーパーによる不公正な商慣行を定義・禁止し,市場調査に基づいた執行メカニズムを提供するための調和のとれたルールを策定している。同メカニズムにより,絶えず進化するデジタル技術の中で,DMAに規定された義務も最新の状態に保たれている。
 
 具体的には,DMAは以下のことを定めている。

  • 不公正な商慣行に陥りやすい「コア・プラットフォーム・サービス」(検索エンジン,ソーシャルネットワーク,オンライン仲介サービス等)の主要な提供者であり,「ゲートキーパー」に該当するとして客観的な基準を満たす事業者に対してのみ,DMAは適用される。
  • ゲートキーパーを定義するために,定量的な閾値を定める。また,欧州委員会は,市場調査を実施し,その結果に基づき,ゲートキーパーを指定することができる。
  • ユーザーがプレインストールされたソフトウェア及びアプリケーションをアンインストールすることを妨害する等の明らかに不公正な商慣行の数々を禁止する。
  • ゲートキーパーに対し,第三者の提供するソフトウェアが適切に機能し,自社サービスとの相互運用を可能にする等の特定の対策を積極的に実施するよう要求する。
  • 実効性確保のために,違反行為に対してゲートキーパーの全世界売上高の最大10%の制裁金の賦課等の制裁を課す。また,再度の違反行為があった場合,制裁として,構造的な是正措置や,コンプライアンス確保に向けて他の同等に効果的な代替措置がない場合には,特定の事業の売却命令を発出する可能性がある。
  • ゲートキーパーに対する新たなルールが,デジタル市場の変化を捉えることができるよう,欧州委員会は対象を限定した市場調査を実施して,ゲートキーパーの新たな商慣行及びサービスについて,DMAの適用対象に追加する必要があるかを評価できるようにする。
 

欧州委員会はGoogleによるFitbitの買収計画を条件付きで承認

2020年12月17日 欧州委員会 公表
原文

【概要】
 欧州委員会は,EU企業結合規則に基づき,GoogleによるFitbit(訳注:ウェアラブル端末等の開発,製造,流通事業者)の買収計画について,Googleが欧州委員会に提出した一連の確約案を完全に遵守することを条件として承認した。
 この度の欧州委員会の決定は,Google及びFitbitの各事業活動を補完的に組み合わせる内容の買収計画を詳細に審査した結果に基づくものである。欧州におけるスマートウォッチ市場では,Apple,Garmin,Samsungなど,大規模な競合他社が複数存在し急成長しており,Fitbitの市場シェアは非常に限定的なものとなっている。また,本計画では,Google及びFitbitの事業活動が水平的に重複する程度は極めて限定的である。本件に係る欧州委員会の審査は,Fitbitのウェアラブル端末を介して収集されたデータ並びにウェアラブル端末及びGoogleのスマートフォン向けAndroidオペレーティングシステムの相互運用性に焦点を当てて行ったものである。
 
欧州委員会の調査
 詳細審査の期間中,欧州委員会は本買収計画の当事会社の競合他社のみならず,多様な市場参加者及び利害関係者から,広範な情報及び意見を収集した。また,欧州委員会は,世界各国の競争当局及び欧州データ保護会議と緊密に協力を行った。
 詳細審査の結果を踏まえ,欧州委員会は,当初提出された本買収計画によって複数の市場における競争に対し,悪影響が及ぶことを懸念し,特に以下の事項を指摘した。

  • 広告:Googleは,Fitbitの買収により,(i)ユーザーの健康及び運動に関してFitbitが管理するデータベースを取得するとともに,(ii)Fitbitと同様のデータベースを開発する技術を取得することとなる。また,既に膨大な量のデータを保有するGoogleが,各個人に最適化して広告を表示するためのデータを一層増加させることにより,競合他社がオンライン検索広告,オンラインディスプレイ広告及び「アドテク」のエコシステム全体の市場において,Googleが提供するサービスと競争することは一層困難になる。したがって,本買収により,Googleの競合他社の参入や事業拡大が妨げられ,最終的に広告主にとっては高額な料金の支払を余儀なくされ,選択肢が少なくなるという損害が発生するおそれがある。
  • デジタルヘルスケア市場におけるウェブアプリケーションプログラミングインターフェイス(以下「ウェブAPI」という。)へのアクセス:当該市場のプレーヤーの多くは,ウェブAPIを通じて,Fitbitのユーザーにサービスを提供する見返りにFitbitユーザーの健康と運動に関するデータを収集することにより,Fitbitから当該データにアクセスしている。この点につき,欧州委員会は,Googleが,本件の買収完了後,競合他社によるFitbitのウェブ APIへのアクセスを制限する可能性があると指摘した。このような戦略は,特に欧州のデジタルヘルスケア分野のスタートアップ企業に損害を与えるおそれがある。
  • 手首装着型のウェアラブル端末:欧州委員会は,買収完了後,Googleが競合他社の手首装着型ウェアラブル端末と,Androidスマートフォンとの相互運用性を低下させることにより,競合他社を不利な立場に置く可能性があることを懸念する。

 市場参加者の一部は,Googleが既にデジタルヘルスケア市場で重要な地位にあり,Google及びFitbitの保有する各データベースを組み合わせる度合いによっては,競合他社がもはや競争上太刀打ちできず,Googleが当該市場で競争上の優位性を獲得するおそれがあるとして懸念を示していた。しかしながら,欧州委員会の詳細審査では,デジタルヘルスケア分野はまだ欧州において揺籃期(初期の段階)にあること,当該市場で多数の事業者が事業活動を行っていることから,当該懸念は確認できなかった。また,Fitbitのユーザー数は,急成長中のスマートウォッチ市場では限られていることも考慮された。
 
確約案
 欧州委員会の競争上の懸念に対処するために,Googleは以下の確約案を提出した。
 
広告に関する確約案:

  • Googleは,オンライン検索広告,ディスプレイ広告,広告仲介商品など,欧州経済領域(以下「EEA」という。)内のユーザーの手首装着型ウェアラブル端末その他のFitbit端末から収集した健康増進及び運動に関するデータをGoogleの広告に使用しないものとする。当該対象となるデータの中には,装着センサー(GPSを含む。)を介して収集されたデータ及び手動で入力されたデータも含む。
  • Googleは,関連するFitbitのユーザーに関するデータを技術的に分離することを継続する。当該データは広告に使用される他のGoogleデータとは分離された上で,「データサイロ」内に保存される。
  • Googleは,EEA内のユーザーが,自らの健康増進及び運動に関するデータについて,Googleアカウント内に保存されたデータ,又は,他のGoogleのサービス(Google検索,Googleマップ, Googleアシスタント,YouTube等)を通じてFitbitアカウント内に保存されたデータのいずれを用いるかどうか,実効的に選択することができる。

 
ウェブAPIアクセスに関する確約案:

  • Googleは,FitbitのウェブAPIを介して,Fitbitの競合他社に対し,ユーザーの同意を得た健康及び運動に関するデータを提供するためのソフトウェアアプリケーションへのアクセスを無償で維持する。

 
Android APIに関する確約案:

  • Googleは,手首装着型ウェアラブル端末がAndroidスマートフォンと相互運用性を保つために必要な,現在の重要な機能を全て含む(訳注:誰もが自由にアクセスできる)パブリックAPIを,AndroidのOEM事業者に対して無料でライセンスすることを継続する。当該機能の中には,Bluetoothを介したAndroidスマートフォンへの接続,スマートフォン内蔵カメラ及びGPSへのアクセス等を含む。本確約を長期間にわたり実効的なものとするために,当該機能の改善及び更新についても同様に取り扱われる。
  • GoogleがAndroidオープンソースプロジェクト(以下「AOSP」という。訳注:Androidの開発プロジェクトであり,開発されたプログラムのソースコードが公開されると誰でも自由に閲覧や再利用が可能となる。)の外部で,相互運用性のある重要なAPI(以下「コアAPI」という。)を複製することにより,Android APIに関する確約を反故にすることは事実上できない。なぜなら,本確約に従い,Googleは,相互運用性が保たれたコアAPIが提供する機能を,将来的にはオープンソースコードとして,維持し改善を続ける必要があるからである。すなわち,相互運用性が保たれたコアAPIの機能の改善(プライベートAPIを介して利用可能となった場合を含む。)に関しても,AOSPの中で開発し,オープンソースコードとしてFitbitの競合他社に提供するものとする。
  • Googleは,ウェアラブル端末のOEM事業者に対し,Android APIへのアクセスを許可する。これにより,Androidスマートフォンアプリの開発者は,AOSPに含まれない独自のGoogleアプリの一群であるGoogleモバイルサービス(GMS)に含まれるAPIの利用も可能となる。
  • また,Googleは,警告,エラーメッセージ又は許可リクエストを差別的に表示することで競合他社の手首装着型ウェアラブル端末のユーザー体験の質を低下させたり,(訳注:手首装着型ウェアラブル端末の)競合他社がGooglePlayストアのコンパニオンアプリ(訳注:スマートフォンやタブレットなどの携帯端末にインストールして、ネットワークに接続されたテレビやゲーム機等との連携を可能にするアプリケーション)へアクセスする際に差別的条件を課したりすることにより,Android APIに関する確約を反故にしない。

 
 確約の有効期間は10年である。オンライン広告市場におけるGoogleの確固たる地位を考慮し,欧州委員会は,必要性があれば,広告に関する確約の有効期間を最大10年間延長する旨を決定することがある。
Googleが提出した確約案は,市場参加者からの意見に基づいて,当初案から大幅に改善された。欧州委員会は,確約によって修正された買収計画について,競争上の懸念を引き起こさないと結論付けた。当該決定は,当事会社らが確約を完全に遵守することを条件としており,特に,最近提案されたデジタル市場法を通じて,デジタル市場における公正で競争的な市場を確保するための欧州委員会の取組を予断するものでははない。


 

 

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