2021年6月

EU

Air CanadaとTransatによる統合計画撤回に対する欧州委員会Vestager上級副委員長(競争政策担当)の声明

2021年4月2日 欧州委員会 公表
原文 

【概要】
 欧州委員会は,Air CanadaがTransatの全株式を取得するという統合計画(以下「本統合計画」という。)について,撤回すると決定したとする両者の発表を確認したことを公表した。欧州委員会が指摘した競争上の懸念は,当事会社から提案されていた問題解消措置によっては解消されなかったとの認識を示した。欧州委員会は,2020年5月25日,本統合計画についての詳細審査を開始していた。
 欧州委員会のVestager上級副委員長(競争政策担当)は,次のように述べている。
 「Air CanadaとTransatは,欧州-カナダ間の幅広い路線網を持つ二大航空会社である。本統合が当該市場における競争に悪影響を及ぼし,旅行者にとって価格の上昇,品質の低下,選択肢の減少などにつながる懸念があったため,欧州委員会は詳細審査を開始した。
 欧州における企業結合規制の政策基準と枠組みは,経済に影響を与える深刻な打撃を受けている時期においても適用される。新型コロナウイルス感染症の流行は,航空業界に深刻な影響を与えているものの,迅速かつ強力な経済回復を実現するためには,競争的な市場構造の維持が不可欠である。旅行者が休暇を過ごしたり,大切な人を訪ねたりするために大西洋を再び横断することができるようになるときまで,市場は動態的かつ競争的な環境に保たれているべきである。
 全ての事案は,事案ごとの事実と特徴に基づいて評価されなければならない。本件において,欧州委員会は,新型コロナウイルス感染症の流行による危機がAir Canada,Transat及び競争事業者の事業にどの程度の影響を与えるかを調査した。その結果,これまでに得られた情報に基づけば, Air CanadaとTransatは,危機以前から両社が運航している欧州経済領域とカナダを結ぶ路線の大部分において,長期的には,本件統合がなければ実際の競争事業者又は潜在的な競争事業者であり続けるであろうとの予備的見解に達した。
 詳細審査で行われた綿密な分析に基づく中間見解によれば,本統合計画は多くの大西洋横断航路において競争上の懸念をもたらす可能性が示された。市場テスト(market test)の結果,当事会社から提示された問題解消措置は不十分なものであった。」
 

欧州委員会は,Appleに対し,音楽ストリーミングサービス提供事業者に対するApp Storeの契約条件について,異議告知書を送付

2021年4月28日 欧州委員会 公表
原文 

【概要】
 2020年4月30日,欧州委員会は,Appleに対し,音楽ストリーミングサービス提供事業者に対するApp Store(訳注:Appleのアプリストア)のルールに関して,異議告知書を送付した。本異議告知書は,欧州経済領域内におけるAppleの音楽ストリーミングアプリであるApple Musicと競合するあらゆる音楽ストリーミングアプリに対するAppleのルールに関するものであり,2019年3月の「Spotify」からの申告に対応するものである。
 欧州委員会のVestager上級副委員長(競争政策担当)は,次のとおり述べた。
 「アプリストアは,今日のデジタル経済において中心的役割を果たしている。我々の予備的見解では,Appleは,App Storeを通じてiPhoneユーザー及びiPadユーザーに対するアプリのゲートキーパーとなっている。Appleは,Apple Musicにより音楽ストリーミングサービス提供事業者と競合しているところ,App Storeにおいて,競合他社に不利に働く厳格なルールを課し,ユーザーからより低価格な音楽ストリーミングサービスの選択肢を奪うことによって,競争を阻害した。」
 欧州委員会の予備的見解によると,Appleは,App Storeを通じた音楽ストリーミングアプリの配信市場において,支配的地位を有している。音楽ストリーミングアプリ開発事業者(以下「アプリ開発事業者」という。)にとって,App Storeは,Appleのスマート携帯OSであるiOS上で機能するAppleの携帯端末のユーザーに対する唯一のゲートウェイである。Appleの端末とアプリは閉鎖されたエコシステムを形成しており,そこでは,iPhone及びiPadに関するユーザーについてのあらゆる側面をAppleが支配している。
 App Storeはこのエコシステムの一部であり,Apple端末(iPhone及びiPad)のユーザーが携帯端末へアプリをダウンロードできる唯一のアプリストアである。Apple端末のユーザーはAppleブランドに対してかなり忠実であり,簡単には他のブランドには切り替えない。結果として,iOSユーザーにサービスを提供するために,アプリ開発事業者はAppleが設定する強制的かつ交渉余地のないルールに従うことを条件として,App Storeを通じてアプリを配信せざるを得ない。
 欧州委員会の懸念は,Appleがアプリ開発事業者との契約において課している次の2つのルールの組み合わせ(combination)に関するものである。
① 有料デジタルコンテンツの配信における,Appleのアプリ内購入システム(in-app purchase system(IAP))の利用の強制。
  Appleは,強制的なIAPを通じて購入されるあらゆる定期契約に関して,アプリ開発事業者に対し30%の手数料を課している。欧州委員会の調査によれば,多くの音楽ストリーミングサービス提供事業者は価格を引き上げることでこの手数料をエンドユーザーに転嫁している。
② アプリ開発事業者がユーザーに対してアプリ外での代替的購入手段を通知することを制限する顧客誘導禁止条項(anti-steering provisions)。
  Appleはユーザーに対し他の手段で購入した音楽の定期契約の利用を許容しているが,本条項によりアプリ開発事業者は,一般的により安価であるそのような他の購入手段をユーザーに通知することができない。欧州委員会の懸念は,Apple端末のユーザーが音楽定期契約サービスに対して著しく高い価格を支払っている,又は一定の定期契約をアプリ内で直接購入することが妨げられているということである。
 
 欧州委員会の予備的見解は,Appleのルールは,競合するアプリ開発事業者のコストを上昇させることにより音楽ストリーミングサービス市場の競争を阻害しているというものである。これは,消費者にとってiOS端末におけるアプリ内音楽定期契約の価格を引き上げるものである。また,Appleは,あらゆるIAP取引の仲介者となり,料金請求手続や関連する連絡を競合他社から引き受けている。
 こういった行為は,市場支配的地位の濫用を禁ずるEU機能条約第102条の規定に違反するおそれがある。ただし,異議告知書の送付は,調査結果を予見させるものではない。

 

 

ページトップへ