EU
欧州委員会,エヌビディアによるアームの買収計画について詳細審査を開始
2021年10月27日 欧州委員会 公表
原文
【概要】
欧州委員会(以下「欧州委」という。)は,EU合併規則に基づき,エヌビディア(NVIDIA)によるアーム(Arm)の買収計画について詳細審査を開始した。欧州委は,買収後の当事会社が,エヌビディアの競合事業者によるアームの技術へのアクセスを制限する能力及びインセンティブを持つこととなり,本件買収計画が半導体産業における価格上昇,選択肢の減少及びイノベーションの低下につながることを懸念している。
エヌビディアは,データセンター,IoT,自動車,ゲーム等様々な用途向けのプロセッサ製品を開発・提供している。アームは,特に半導体チップメーカーやシステムオンチップ(Systems-on-Chip。多様な機能を持つ集積回路で,以下「SoC」という。)の開発事業者に対して,処理装置に係る知的財産のライセンスを提供している。エヌビディアは,アーム買収によって,アームの技術及びライセンス事業を完全に掌握することとなる。
欧州委の競争に関する予備的懸念
欧州委は,予備審査の結果,プロセッサ製品に使用される中央処理装置(CPU)の知的財産のライセンス供与市場において,アームが強大な市場支配力を有していると考えている。そして,欧州委は,合併後の事業者が,エヌビディアが競合する可能性のあるプロセッサ製品のプロバイダーによるアームの技術へのアクセスを制限又は低下させ得ることを懸念している。また,予備審査によれば,合併後の事業者は,様々な異なる分野のプロセッサ製品の供給市場における競争を減退させ得る閉鎖戦略を採る経済的インセンティブも有することとなる。競争減退のおそれがある分野は以下のとおり。
・データセンター用CPU
・データセンターで使用されるスマート・ネットワーク・インターコネクト(SmartNIC。ネットワーク,ストレージ,セキュリティ処理をCPUからオフロードし,CPUの負荷を軽減して処理を高速化するもの)
・自動車に搭載される先進運転支援システム(ADAS)に使用される半導体(自動車がドライバーを支援するための幅広い技術的特徴を含む。)
・インフォテイメント(infotainment)アプリケーションに使用される半導体(インフォテイメントとは,ドライバーや乗客のための車内における情報及びエンターテイメントを意味し,オーディオ・ビデオの再生,カーナビゲーションシステム,USB・Bluetooth接続,インターネットアクセス,Wi-Fiなど様々な機能を含む。)
・高性能なIoT機器を装備するSoC
・ゲーム機に搭載されるSoC
・一般的なPCに使われるSoC
欧州委は,今後,これらの市場に関する当初の競争上の予備的懸念の妥当性を判断するため,詳細審査を開始する。
また,欧州委は以下の点についても更に検討する。
・アームのライセンシーはエヌビディアと競合しているため,商業上の機密情報を合併後の事業者と引き続き共有することを躊躇する可能性があることに鑑み,本件買収がイノベーションを阻害するおそれがあるか否か。
・アームの研究開発費が,下流市場のエヌビディアにとって最も収益性の高い製品に集中し直すことにより,他の分野でアームの特定の知的財産に大きく依存している事業者に不利益をもたらす可能性。
予備審査において,欧州委は世界各地の競争当局と緊密に協力してきた。欧州委は,詳細審査においても本協力を継続する。
本件買収計画は,2021年9月8日に欧州委に届け出られ,10月6日にエヌビディアは欧州委の予備的懸念の一部に対処するための問題解消措置案を提出したが,欧州委は,本件買収計画の影響に関する重大な懸念を明確に払拭するには当該問題解消措置案は不十分であると判断したため,市場参加者に対する意見公募は行わなかった。
詳細審査の期限は2022年3月15日である。詳細審査の開始は,最終結果を予断するものではない。