2022年1月

EU

欧州一般裁判所は,グーグルに対して24億2000万ユーロの制裁金を賦課した欧州委員会の決定を支持

2021年11月10日 欧州一般裁判所 公表
原文
【概要】
 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は,2017年6月27日の決定により,グーグルが自社の比較ショッピングサービス(専門的な検索サービス)を,競合する比較ショッピングサービスよりも優遇することにより,欧州経済領域の13か国(訳注:ベルギー,チェコ,デンマーク,ドイツ,スペイン,フランス,イタリア,オランダ,オーストリア,ポーランド,スウェーデン,英国及びノルウェー)のオンライン総合検索サービス市場における支配的地位を濫用したと認定した。欧州委は,グーグルの総合検索エンジンを使って商品を検索した際に,同社の比較ショッピングサービスによる検索結果の方が,競合する比較ショッピングサービスによる検索結果に比べて,消費者の目に止まりやすいように配置・表示されていると認定した。また,競合する比較ショッピングサービスの検索結果は,(青いリンクの形で表示される)単純な一般的な検索結果として表示されていたため,グーグルの比較ショッピングサービスによる検索結果とは異なり,グーグルの総合検索結果ページの調整アルゴリズムによって(表示順が)降格される傾向にあった。
 欧州委は,当該違反行為に関して,グーグルに対して24億2449万5000ユーロの金銭的制裁を課し,そのうち5億2351万8000ユーロは,グーグルとグーグルの親会社であるアルファベットに対して連帯して課した。グーグル及びアルファベットは,欧州委の決定を不服として,欧州一般裁判所(以下「一般裁判所」という。)に訴訟を提起した。
 一般裁判所は, 2021年11月10日の判決により,両社が提起した訴訟をほぼ全面的に棄却し,欧州委が課した制裁金を支持した。
 
1 一般裁判所は,本件行為の反競争的性質を認めた。
 まず,一般裁判所は,事業者が支配的地位を有しているだけでは,たとえグーグルほどの規模の事業者であっても,また,当該事業者が隣接市場への進出を計画している場合であっても,当該事業者を批判する理由にはならないと考えている。しかしながら,一般裁判所は,総合検索結果ページにおいて自社の比較ショッピングサービスをより有利に表示・配置すると同時に,ランキングアルゴリズムによって競合する比較サービスの検索結果を格下げすることにより,グーグルは能率競争から逸脱したと判断している。三つの具体的状況,すなわち,(1)比較ショッピングサービスのためにグーグルの総合検索エンジンが生成するトラフィックの重要性,(2)一般的に上位数件の検索結果に集中するというユーザーの行動様式,(3)比較ショッピングサービスのトラフィックにおいて「迂回した」(diverted)トラフィックの割合が大きく,事実上,代替経路が存在しないという事実を考慮すると,本件行為は,市場における競争を弱めるおそれのあるものであった。
 また,一般裁判所は,あらゆるコンテンツを含む検索結果を一覧表示するよう設計されたグーグルの総合検索エンジンの普遍的な使命を考慮すると,グーグルの検索結果ページで1種類のみの特定の検索結果,すなわちグーグル独自の検索結果のみを積極的に表示することは,ある種の異常性を伴うと指摘している。総合検索エンジンは,原則としてオープンなインフラであり,その正当性と価値は,外部(第三者)ソースからの結果を受け入れ,それらのソースを表示する能力にあり,それによって検索エンジンの信頼性が向上する。
 次に,一般裁判所は,本件は,競合する比較ショッピングサービスがグーグルの総合検索結果ページを使用する際の,グーグルによる総合検索サービスの提供条件に関するものであると考える。この点について,一般裁判所は,総合検索結果ページは,市場において経済的に実行可能な方法で置き換えることが可能な実際の又は潜在的な代替物が現状存在しないという点で,不可欠施設(essential facility)に似た特徴を有していると考える。しかし,一般裁判所は,このような施設へのアクセスに関する全ての行為について,必ずしも,グーグルがその主張の裏付けとして依拠しているBronner事件判決(訳注:欧州司法裁判所判決1998年11月26日)で示された供給拒絶に適用される条件に照らして評価されなければならないことを意味するものではないと考える。その意味で,一般裁判所は,本件行為は供給拒絶ではなく,自社の比較サービスの利益のためのグーグルによる差別的取扱い(a difference in treatment)であり,したがって,Bronner事件判決は本件には適用されないと考える。
 最後に,一般裁判所は,グーグルが,検索結果の出所,つまり,自社の比較ショッピングサービスを利用したものか,競合サービスを利用したものかに基づいて,差別的取扱い(differentiated treatment)を行っていると認定する。したがって,一般裁判所は,グーグルが,実際には,検索結果の優劣によることなく,競合サービスより自社の比較ショッピングサービスを優遇していると判断する。一般裁判所は,たとえ競合する比較ショッピングサービスからの検索結果が,より関連性の高いものであったとしても,それらの結果は,位置や表示の面でグーグルの比較ショッピングサービスからの検索結果と同じ扱いを受けることはあり得ないと指摘している。競合する比較ショッピングサービスは,グーグルに金銭を支払うことにより「ボックス」に表示されることで,検索結果の表示の品質を向上させることが可能となったが,一般裁判所は,そのサービスは,比較ショッピングサービスがビジネスモデルを変更し,グーグルの直接の競合相手ではなくなり,代わりにグーグルの顧客となることにより利用できるものであると指摘する。
 
2 欧州委は競争への有害な影響を正しく認定した。
 一般裁判所は,本件行為がトラフィックに与えた影響に関する欧州委決定の認定に異議を唱えるためにグーグルが提出した主張を退けた。一般裁判所は,これらの主張は,グーグルの比較ショッピングサービスの検索結果表示の影響のみを考慮しており,競合する比較ショッピングサービスの検索結果が総合検索結果の中で適切に配置されないことによる影響を考慮していないと指摘する。他方で,欧州委は,グーグルの行為と,総合検索結果ページから競合する比較ショッピングサービスへのトラフィックが全体的に減少し,グーグルの比較ショッピングサービスへのトラフィックが大幅に増加したこととの関連性を立証するために,具体的なトラフィックデータや,結果の可視性と結果の出所であるウェブサイトへのトラフィックとの相関関係を含む,多くの要素に基づいて,これら二つの側面の複合的な影響を問題にしたのである。
 一般裁判所は,本件行為が競争に与える影響について,支配的な事業者が,正常な競争を成り立たせる方法とは異なる方法を用いて,市場における競争の維持又は成長を妨げる場合に支配的地位の濫用となるのであり,当該行為が競争を制限するおそれがあることを示すだけで違反が成立すると考える。したがって,欧州委は,実際の市場の発展に関するグーグルの主張を含め,関連する全ての状況を分析する必要があったが,市場における実際の排除効果を立証する必要はなかった。これに関連して,一般裁判所は,本件では,グーグルの総合検索結果ページから比較ショッピングサービスへのトラフィックに対する本件行為の実際の影響を測定した上で,欧州委が,当該トラフィックがトラフィック全体において大きな割合を占めていること,その割合は広告(AdWords)やモバイルアプリケーションなどの他のトラフィックによっては効果的に代替できないこと,結果として,比較ショッピングサービスの消滅,当該市場におけるイノベーションの減少,消費者の選択肢の減少といった競争の弱体化の兆候が現れる可能性があることを示す十分な根拠を有していたと指摘している。
 また,一般裁判所は,比較ショッピングサービス市場における競争が依然として活発なのは,同市場にオンライン小売プラットフォームが存在するためであるというグーグルの主張を退けた。一般裁判所は,当該プラットフォームは同じ市場に存在しないという欧州委の評価を支持する。どちらのカテゴリーのウェブサイトも商品検索機能を提供しているが,同じ条件で提供されているわけではなく,また,インターネットユーザーであれオンライン販売者であれ,ユーザーは両者を同じように利用しているわけではなく,利用するとしても補完的に利用しているのである。そのため,一般裁判所は,オンライン小売プラットフォームからグーグルへの競争圧力はほとんどないという欧州委の見解を支持する。また,一般裁判所は,仮にオンライン小売プラットフォームが比較ショッピングサービスと同じ市場に存在していたとしても,全ての関係国において比較ショッピングサービス市場の少なくないシェアが影響を受けているため,確認された反競争的効果は,グーグルの行為が濫用とみなされるのに十分なものであったことを明らかにしている。したがって,一般裁判所は,比較ショッピングのための専門的な検索サービス市場に関する欧州委の分析を支持する。
 しかし,一般裁判所は,グーグルの行為が総合検索サービス市場に(潜在的に)反競争的な影響を与えたことについて,欧州委が立証していないと判断し,同市場についてのみ違反認定を取り消す。
 
3 一般裁判所は,グーグルの行為に関する,客観的な正当化事由を認めない。
 グーグルは,自社の行為が濫用的であるとされたことに異議を唱えるに当たり,第一に,検索サービスの質を向上させ,本件行為に関連する排除効果を相殺したという意味での,自社の行為の競争促進的特徴を根拠とし,第二に,グーグルが欧州委の求める平等な取扱いを提供できない技術的制約を根拠としている。
 一般裁判所はこれらの主張を退けている。一般裁判所は,第一に,総合検索結果の順位付けのアルゴリズムや,グーグルの専門的な製品の検索結果の位置と表示の基準は,サービスが競争促進的に改善されていることを表しているかもしれないが,それは本件行為,すなわちグーグルの比較ショッピングサービスからの検索結果と競合する比較ショッピングサービスからの検索結果の不平等な取扱いを正当化するものではないと認定する。一般裁判所は,第二に,グーグルは,当該行為に関連した,競争への悪影響を打ち消すような効率性の向上を立証していないと考える。
 
4 違反行為を改めて評価した上で,一般裁判所は制裁金額を支持する。
 最後に,一般裁判所は,自社に制裁金が課せられるべきではなかったというグーグルの主張を退けた。特に,本件のような行為類型が欧州委によって競争法に照らして分析されたのが初めてだったという事実や,欧州委が手続の過程において,グーグルに本件行為の是正を要求することはできないと指摘していた事実,あるいはグーグルが確約によって本件の解決を図ることを望んでいたという事実によっても,グーグルに制裁金を課すことが妨げられるわけではない。
 また,一般裁判所は,制裁金額の水準を決定するために事実を自ら評価した結果,第一に,総合検索サービス市場に限定して欧州委の決定の一部が取り消されたことは,制裁金の基本額を決定するために欧州委が同市場での売上高を考慮しなかったことに鑑みれば,制裁金額には影響しないと認定する。第二に,一般裁判所は,違反が特に深刻なものであることを強調し,総合検索サービス市場での濫用が立証されていないという事実を考慮しつつ,本件行為が過失ではなく故意に行われたという事実も考慮している。  一般裁判所は,グーグルに課された制裁金額を支持すべきと認定し,検討を終了した。

欧州委,グリーン及びデジタルへの移行並びに強じんな単一市場の実現に向けた競争政策の貢献と評価をまとめる

2021年11月18日 欧州委 公表

原文

 欧州委は,新たな課題に対応する競争政策に関するコミュニケーション(指針)を採択した。本コミュニケーションは,欧州の復興への道筋,グリーン及びデジタルへの移行並びに強じんな単一市場のために競争政策が果たす重要な役割を明確にしている。本コミュニケーションは,競争政策が,新たな市場環境,優先政策及び顧客ニーズに適応する能力を備えていることを強調している。例えば,欧州委は本日,新型コロナウイルス危機に際して,加盟国が事業者に的を絞った支援を提供できるようにするため,国家補助に関する暫定枠組みの第6次改正案を採択した。また,欧州委は現在,全ての競争法関連制度(合併規制,反トラスト規制及び国家補助規制)が目的に適合していることを確認し,既存のツールボックスを補完するために,競争政策ツールの見直しを進めている。
 EUの設立以来,競争政策は,EUの経済的繁栄の維持・促進に貢献してきた。競争法を積極的に執行することにより,欧州の消費者及び事業者に貢献し,あらゆる規模の事業者で構成される,欧州経済のダイナミックで活気に満ちた構造を育んできた。
 今日,EUは新たな課題に直面している。それは,新型コロナウイルス危機後の復興に向けた険しい道を登りつつ,欧州の産業がその強じん性を強化し,グリーン及びデジタル両者への移行を導くことができるようにすることである。効果的で十分に調整された競争政策によって,この課題の達成が可能となるが,そのためには,官民の莫大な投資,イノベーション及び十分に機能的な単一市場が必要となる。
 
本コミュニケーションにおける例は以下のとおり。
・ 欧州の新型コロナウイルス危機への対応及び欧州の復興を支援するため,欧州委は,2022年6月末まで現行の措置を限定的に延長する,国家補助暫定枠組みの第6次改正案を採択した。これは,クリフエッジ効果(訳注:急激に状態が変化すること)を避けつつ,危機対策の段階的な廃止に向けた道筋を示すものであり,復興段階において,民間投資を活性化し,呼び込むための新たなツールを導入するものである。
・ 新たな気候・環境保護・エネルギー国家補助ガイドラインは,グリーンへの移行に貢献するために,脱炭素化,循環型,生物多様性,クリーン又はゼロエミッションモビリティ(訳注:電気自動車等のように走行時に排気ガスを排出しない車両)及び建物のエネルギー効率化に向けた産業界の取組を支援することを目的としている。
 また,欧州委は,水平的協定の一括適用免除規則及びガイドラインの改正の一環として,事業者間でより持続可能な製品及び生産プロセスを追求するための協力ができるよう,ガイダンス及び法的確実性を提供することを意図している。
・ デジタルへの移行に貢献するため,改正後のブロードバンド国家補助ガイドラインは,急速に変化する顧客のニーズに対応した,ブロードバンドネットワークの展開及び利用を促進することによる,デジタルインフラの開発促進を目的としている。
 さらに,欧州委は,合併規則第22条の適用に関する新たなガイダンスを通じて,デジタル分野において問題となるおそれのある買収の規制を強化している。これにより,加盟国は,問題となるおそれのある買収が加盟国の届出基準を満たしていなくても,当該 買収事案を欧州委の審査に付託することができるようになり,特にデジタル分野において,売上高からは想像できないほどの潜在的競争力を持つ革新的な事業者の買収について,欧州委が審査できるようになった。
・ 欧州委は,水素,クラウド,健康,マイクロエレクトロニクスといったグリーン及びデジタル分野の主要な優先課題において,画期的なイノベーション及びインフラ投資を可能にすることにより,市場の失敗を共同で克服する,汎欧州的なEUの共通利益に関する重要プロジェクト(Important Projects of Common European Interest。以下「IPCEI」という。)を設計しようとする現在の加盟国の取組を引き続き支援していく。今後のIPCEI国家補助コミュニケーションでは,IPCEIの開放性を更に高め,中小企業の参加を促進し,加盟国及びEUのリソースを蓄えるための基準を明確にする。
・ オープンで競争力のある市場に基づく強じん性に貢献するために,EUの合併規制は,市場の競争力及びサプライチェーンの多様性を維持しつつ,事業者が規模を拡大することを引き続き可能にする。また,反トラスト規制は,EUの事業者が,研究開発を進めるために協力したり,製品の設計・生産・商品化を共同で行ったり,事業に必要な製品やサービスを共同で購入したりすることを認めている。
 
 最後に,欧州委は,半導体に関する例外的な状況,すなわち,その関連性及び地政学的に困難な状況下での限られた事業者に供給を依存していることを考慮して,特に,半導体エコシステムにおける,欧州初の施設の設立のための潜在的な資金ギャップを埋めるための支援について,承認することが可能である。欧州機能条約第107条第3項に基づくこのような支援は,積極的な競争保護の対象とならなければならず,欧州経済全体で差別なく広く利益が共有されることが保証されなければならない。 

 

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