2022年2月

EU

欧州委,マイクロソフトによるニュアンスの買収計画を承認

2021年12月21日 欧州委員会 公表
原文
【概要】
 欧州委は,Microsoft Corporation(以下「マイクロソフト」という。)によるNuance Communications(以下「ニュアンス」という。)の買収計画を無条件で承認した。欧州委は,本件買収計画が欧州経済領域(以下「EEA」という。)において,競争上の懸念を生じさせることはないとの結論に達した。
 ニュアンスは,医療分野及び顧客関係管理ソリューションに強みを持つ音声認識ソフトウェア企業である。マイクロソフトは,生産性向上・ビジネスソフトウェア,クラウドコンピューティング及びパーソナル・コンピューティングを提供する世界的なテクノロジー企業である。
 
欧州委の調査
 欧州委は,市場調査の結果,本件買収計画が音声認識ソフトウェア,クラウドサービス,企業向け通信サービス,顧客関係管理,生産性向上ソフトウェア及びPC用オペレーティングシステムの各市場において競争を著しく低下させるものではないと判断した。
本件調査において,欧州委は,以下の点について検討した。
 
・音声認識ソフトウェア市場におけるニュアンス及びマイクロソフトの事業活動における水平的重複について
 マイクロソフト及びニュアンスは,極めて異なる製品を提供していることが明らかとなった。ニュアンスが,大抵は設定の必要がなく,導入後すぐに使用することができる(out-of-the-box)ソリューションをエンドユーザー向けに提供しているのに対して, マイクロソフトは,開発者が音声認識技術を自社のプログラムに取り入れるために利用する「Azure Cognitive Services」の一部であるアプリケーション・プログラミング・インタフェース(application programming interfaces:API)を提供している。これを踏まえて,欧州委は,当事会社は統合後も他の企業とのし烈な競争に直面することになると考えている。
 
・マイクロソフトのクラウドコンピューティングと川下市場のニュアンスの医療用音声認識ソフトウェアとの間の垂直的関係について
 欧州委は,市場調査により,医療分野で競合する音声認識サービス事業者はクラウドコンピューティング・サービスをマイクロソフトに依存しておらず,また,医療分野の音声認識サービス事業者はクラウドコンピューティング・サービスを特に重要視していないことが判明した。
 
・ニュアンスの音声認識ソフトウェア製品とマイクロソフトの多くの製品との複合的関係について
 当事会社は,統合後,(医療用)音声認識ソフトウェア,企業向け通信サービス,顧客関係管理ソフトウェア,生産性向上ソフトウェア及びPC用OSの各市場において競合他社を締め出す能力及び動機を持たないことが明らかとなった。いずれにせよ,現在,Windowsは,ニュアンスの音声認識ソフトウェアが利用可能な唯一のPC用OSである。当事会社は,統合後も引き続き他社とのし烈な競争に直面することとなる。
 
・ニュアンスのソフトウェアによって音声認識されたデータの使用について
 欧州委は,ニュアンスがニュアンスのソフトウェアによって音声認識されたデータ(以下「音声認識データ」という。)を,ニュアンスのサービスを提供するためだけに使用することができると判断した。音声認識データは,他社に使用されることはなく,また,契約上の制約やデータ保護規制により,他の目的に使用することはできない。また,音声認識された重要な情報は,一般に,複数のソースからのデータを組み合わせた電子カルテシステムなどの第三者のアプリケーションに保存されていること,対照的に ニュアンスの音声データは断片的な情報であることを考慮すれば,音声認識データへのアクセスが,マイクロソフトが競合する医療ソフトウェアプロバイダーを締め出すような優位性をもたらすものではない。
 
 したがって,欧州委は,本件買収計画は,企業結合審査の対象となったEEAのいかなる市場においても競争上の懸念を生じさせるものではないと判断し,本件買収計画を無条件で承認した。

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