EU
欧州委,現代重工業による大宇造船海洋の買収計画を差止め
2022年1月13日 欧州委員会 公表
原文
【概要】
欧州委員会(以下「欧州委」という。)は,EU合併規則に基づき, 現代重工業ホールディングス(Hyundai Heavy Industries Holdings。以下「HHIH」という。)による大宇造船海洋(Daewoo Shipbuilding & Marine Engineering。以下「DSME」という。)の買収を差し止めた。これら韓国の造船会社2社の合併は,合併後の新会社に支配的地位をもたらし,大型の液化天然ガス(LNG)運搬船(以下「LNG船」という。)建造の世界市場における競争を減少させるものである。HHIH及びDSMEは,欧州委の懸念に対処するための問題解消措置を正式に提示しなかった。
本日の決定は,本件合併計画について,欧州委による詳細審査を経て下されたものである。両社は,大型LNG船建造における世界的リーダーであり,この極めて集中した市場における上位3社のうちの2社である。
大型LNG船は,LNGのサプライチェーンに欠かせない存在であり,マイナス162℃で大量のLNG(145,000㎥以上)を運搬できる高度に精巧な船舶である。過去5年間,大型LNG船建造の世界市場は400億ユーロに達し,欧州の顧客からの受注が全体のほぼ50%を占めている。
欧州委は,審査期間中,多数の顧客,競合他社及びその他の第三者から意見を聴取した。これらの聴取先は,本件合併により,大型LNG船建造の世界市場において支配的な地位を持つ事業者が誕生し,競争が減少し,大型LNG船の価格が上昇することを懸念していた。
欧州委の決定
欧州委は,本件の詳細審査の開始時に,オイルタンカー,液化石油ガス(LPG)運搬船,コンテナ船及びLNG運搬船(大型及び小型)の建造市場に関して懸念を示したが,本日の決定は,大型LNG運搬船の市場に関するもののみである。
欧州委は,本件合併が①大型LNG船建造市場における,当事会社による支配的地位の創出,②供給者の選択肢の減少,③EUの顧客,ひいてはエネルギーの消費者に対する価格上昇をもたらすと判断した。
当事会社は,欧州委の懸念に対処する問題解消措置を正式に提出しなかった。そのため,欧州委は,本件合併計画を差し止めた。
欧州委,消費者向けモノのインターネットに関する最終報告書を公表
2022年1月20日 欧州委員会 公表
原文
【概要】
欧州委は,消費者向けモノのインターネット(Internet of Things。以下「IoT」という。)に関する競争分野の調査結果を公表した。最終報告書と職員作業文書(staff working document)は,欧州連合(以下「EU」という。)で急速に成長しているIoT関連製品及びサービス市場における潜在的な競争上の懸念を明らかにしている。
公表された文書は,2021年6月の予備報告書に関する意見公募で寄せられた意見を考慮し,同月に公表された欧州委の予備報告書の結論を確認した上で,欧州委の所見を示したものである。意見公募で寄せられた意見には,大手消費者向けIoT企業,スマート・デバイス・メーカー,クリエイティブなコンテンツ・サービス・プロバイダー,団体,電気通信事業者などの関係者からの意見が含まれている。
セクター調査の主な結果
消費者向けIoTに関するセクター調査の主な調査結果は,予備報告書にも記載されている以下の点,すなわち,(1)消費者向けIoT製品及びサービスの特徴,(2)これらの市場における競争の特徴,(3)消費者向けIoTの現在の機能及び将来の見通しに関連して関係者が提起した潜在的な懸念のある主な分野を網羅している。
消費者向けIoTデバイス及びサービス市場の競争の特徴
本セクター調査の結果から,消費者向けIoTは急速に成長し,我々の日常生活の一部となりつつあることが明らかになった。また,他のスマート・デバイスや消費者向けIoTサービスとの対話を可能にするユーザー・インターフェースとして,音声アシスタントの利用が増加する傾向にある。
消費者向けIoT製品及びサービス市場における競争の特徴
本セクター調査に参加したほとんどの関係者は,本セクターへの参入や拡大の主な障壁の1つは技術投資のコストであり,特に音声アシスタント市場で高いと指摘している。もう一つの重要な参入障壁は競争状況であり,消費者向けIoT分野の内外で独自のエコシステムを構築している垂直統合型企業(グーグル,アマゾン,アップルなど)との競争が困難であると多くの関係者が報告している。これらの企業は,最も一般的なスマート・デバイスやモバイル・デバイスのオペレーティング・システム(以下「OS」という。)及び主要な音声アシスタントを提供しており,消費者向けIoTシステムにおけるスマート・デバイスとサービスの統合プロセスを決定している。
潜在的懸念のある主な分野
関係者からは,以下の点について懸念が示された。
1 音声アシスタントに関連する排他的行為,抱き合わせ行為及び同一のスマート・デバイス上で異なる音声アシスタントを使用する可能性を制限する行為。
2 音声アシスタントやスマート・デバイスのOSが,ユーザーとスマート・デバイスや消費者向けIoTサービスの仲介役であること。この位置付けは,データの生成及び収集における重要な役割と相まって,ユーザーとの関係をコントロールすることを可能にするものと考えられる。このような背景から,関係者は,消費者向けIoTサービスの発見可能性及び可視性に関連した懸念を表明している。
3 サードパーティ製のスマート・デバイスや消費者向けIoTサービスとユーザーとのやり取りに関する情報を含む,音声アシスタント提供者によるデータへの広範なアクセス。関係者は,大量のデータへのアクセス及び蓄積によって,音声アシスタント提供者が市場における地位を向上させ,隣接する市場に容易に参入できるようになると考えている。
4 消費者向けIoT分野では,独自の技術が普及しているため,相互運用性が欠如してお り,時として「デファクトスタンダード(de facto standards)」の構築につながる。特に,一部の音声アシスタントやOSの提供者は,相互運用性や統合プロセスを一方的にコントロールし,サードパーティのスマート・デバイスや消費者向けIoTサービスの機能を,自社のものと比較して制限することが可能であると言われている。
セクター調査のフォローアップ
消費者向けIoTに関するセクター調査の過程で収集された情報は,欧州委の今後の執行・規制活動の指針となる。セクター調査に続く競争法執行措置は,事案ごとの評価に基づかなければならない。さらに,セクター調査から得られる結論は,欧州委のデジタル戦略の実施に向けた活動に役立つものとなる。特に,本セクター調査の結果は,欧州委が提案するデジタル市場法案に関する現在進行中の立法論議にも寄与することになる。
さらに,今回のセクター調査は,企業に商習慣の見直しを促すことにもなる。このような観点から,欧州委は,アマゾンが最近,同社の自動商品注文サービスやスマート商品注文サービスに適用される企業間取引条件の一部を改訂したことに注目している。
欧州一般裁判所,インテルに10億6000万ユーロの制裁金を課した欧州委決定を一部取り消し
2022年1月26日 欧州一般裁判所 公表
原文
【概要】
欧州委は,2009年5月13日の決定により,市場から競合事業者を排除することを目的とした戦略を実施することにより,2002年10月から2007年12月にかけてx86プロセッサの世界市場における支配的地位を濫用したとして,マイクロプロセッサ・メーカーであるインテル(Intel)に対して,10億6000万ユーロの制裁金を賦課した。
欧州委によれば,本濫用行為は,インテルがその取引先に対して行った2種類の行為,すなわち,露骨な競争制限(naked restrictions)及び条件付きリベートによって行われたという特徴があった。具体的には,条件付きリベートについては,インテルが戦略的OEMメーカー4社(デル〔Dell〕,レノボ〔Lenovo〕,ヒューレット・パッカード〔Hewlett-Packard〕及びNEC,以下「メーカー4社」という。)に対して,メーカー4社がx86の中央処理装置(central processing units:CPU)の全て又はほぼ全てをインテルから購入することを条件に,リベートを付与していたことが判明した。インテルは同様に,欧州のマイクロエレクトロニクス機器の小売業者(Media-Saturn-Holding:MSH)に対しても,MSHがインテルのx86のCPUを搭載したコンピュータのみを販売することを条件に,報酬を支払っていたことが判明した。これらのリベートや報酬(以下「問題のリベート」という。)により,メーカー4社及びMSHの忠誠を確保し,それによって競合事業者が自社のx86プロセッサに関して能率競争を行う能力を著しく低下させた。欧州委によれば,インテルの反競争的行為によって,消費者の選択肢が減少し,イノベーションへのインセンティブの低下を招いたとしている。
この決定に対してインテルが提起した訴訟は,2014年6月12日の欧州一般裁判所(以下「一般裁判所」という。)の判決により全面的に棄却された。インテルによる上訴に対して,欧州司法裁判所(以下「司法裁判所」という。)は2017年9月6日の判決により一般裁判所の判決を破棄し,本件を一般裁判所に差し戻した。
インテルは,一般裁判所の判決の取消しを求める主張において,特に,一般裁判所が問題のリベートについて,関連する全ての状況に照らして検討しておらず,法律上の瑕疵があったと批判した。司法裁判所は,この点について,一般裁判所は,支配的地位にある事業者が提供するリベートは,その性質上,競争を制限するおそれがあるという前提に立っており,その結果,事件の全ての状況を分析したり同等に効率的な競争事業者(as-efficient-competitor:AEC)について分析したりする必要がなかったと指摘している。しかしながら,欧州委は,当該決定において,これらの状況を詳細に検討した結果,AECは実行不可能な価格を提示しなければならず,したがって,問題のリベートはそのような競合事業者に閉鎖効果をもたらす可能性があると判断していた。司法裁判所は,問題の所在が競合事業者に閉鎖効果をもたらす可能性があるかどうかを欧州委が評価する上で,AEC分析が重要な役割を果たしていたと判断し,一般裁判所はAEC分析及びその結果を欧州委がどのように適用したかについて,インテルの主張を全て検討する必要があるとした。一般裁判所がそのような検証を行わなかったため,司法裁判所は,一般裁判所の判決を破棄し,問題のリベートが競争を制限するおそれがあるかどうかをインテルの主張に照らして検証するために,本件を一般裁判所に差し戻した。
一般裁判所は,2022年1月26日,差戻しに関する判決を下し,問題のリベートをEU機能条約第102条が規定する濫用に該当するとして,全ての濫用行為に関してインテルに制裁金を課した本件決定について,その一部を無効とした。
一般裁判所の認定
全ての検討の結果,欧州委が行った分析は不完全であり,いずれにしても,問題のリベートが反競争的な効果を持ち得る,又は持つおそれがあることを必要な法定基準で立証できていないということになる。よって,一般裁判所は,これらの行為がEU機能条約第102条の意味における濫用に当たると判断することはできず,本件決定を取り消すものとする。
最後に,欧州委がインテルに課した制裁金の額に対する本件決定の一部取消しの影響については,一般裁判所は,露骨な競争制限のみに関連する制裁金の額を特定する立場にはないと考える。したがって,一般裁判所は,認定された違反行為に関してインテルに10億6000万ユーロの制裁金を賦課した本件決定を全面的に取り消すこととする。
欧州委,メタ(旧フェイスブック)によるカスタマーの買収を条件付承認
2022年1月27日 欧州委員会 公表
原文
【概要】
欧州委は,本日(2022年1月27日),メタ(Meta,旧フェイスブック〔Facebook〕)によるカスタマー(Kustomer)の買収計画について,EU合併規則に基づき承認した。本件承認はメタが提示した確約を完全に順守することを条件としている。
本決定は,メタによるカスタマーの買収計画について詳細審査を行った結果を踏まえたものである。カスタマーは,小規模ながら,顧客サービス・サポート用の顧客関係管理(customer relationship management。以下「CRM」という。)ソフトウェア市場において,革新的で急成長している事業者である。このようなソフトウェア・アプリケーションは,事業者が顧客との間で,質問への返答,問題解決,助言を行う上で活用される。メタが運営する人気のメッセージング・チャネルであるWhatsApp,Instagram及びMessengerは,事業者が顧客と対話するための重要な手段であり,顧客サービス・サポート用CRMソフトウェアのプロバイダーにとっては,インプットとなるものである。したがって,メタとカスタマーは,垂直的に関連する市場で事業を展開しているということになる。欧州委の審査は,メタがカスタマーの競合事業者である顧客サービス・サポートCRMソフトウェアプロバイダーに不利益を与える可能性があるかどうかに焦点を当てたものであった。
欧州委の審査
欧州委は,詳細審査において,競合事業者や顧客から幅広い情報や意見を収集し,加盟国及び世界各国の競争当局と緊密に連携した。
市場調査の結果,欧州委は,本件買収が当初届出のままでは,以下の市場において競争を阻害し得るとの懸念を抱いていた。
・ CRMソフトウェアの供給市場
・ 顧客サービス・サポート用CRMソフトウェアの供給市場
特に,欧州委は,メタが,カスタマーの競合事業者や新規参入事業者に対して,メタのメッセージング・チャネルのアプリケーション・プログラミング・インタフェース(application programming interfaces。以下「API」という。)へのアクセスを拒否又は制限するなど,囲い込み戦略を採る能力及び経済的インセンティブを有していることを確認した。カスタマーと同様に,これらの事業者は中小企業顧客(small and medium business customers: SMB)に焦点を当てており,特に,イノベーションの特別な原動力となっている。このような囲い込み戦略は,CRM ソフトウェアの供給市場及び顧客サービス・サポート用CRMソフトウェアの供給市場における競争を減殺し,企業顧客,特に中小企業に対して,価格の上昇,品質の低下及びイノベーションの低下を招き,ひいてはこれらが消費者に転嫁される可能性がある。
欧州委が予備的な懸念を表明していたオンライン・ディスプレイ広告サービスの供給市場に関しては,本件買収が効果的な競争を大きく阻害する可能性はないと判断した。
特に,欧州委は,メタがカスタマーの顧客からどのようなデータを取得するのかを調査した。カスタマーは事業者間取引向けの製品を提供しており,企業顧客のデータを所有していない。データへのアクセスは,最終顧客の同意を必要とする企業顧客との契約に依存すること になる。いずれにせよ,カスタマーの規模は小さいため,その潜在的な成長を考慮しても,追加的なデータ量は大きくはならないと考えられる。さらに,広告キャンペーンのパフォーマンスを測定し最適化するために,メタ及び競合の広告プラットフォームの両方とそのようなデータを共有することに対して,事業者が強い商業的関心を持つことから,オンライン・ディスプレイ広告サービスの競合プロバイダーは,同様の商業データにアクセスしており,今後もアクセスし続けることとなる。
したがって,欧州委は,メタが自社のオンライン・ディスプレイ広告サービスを改善する目的で追加的にデータを入手したとしても,オンライン・ディスプレイ広告サービスのプロバイダー間の競争に大きな悪影響を与えることはないと判断した。
問題解消措置の提案
欧州委が指摘した競争上の懸念に対処するため,メタは10年間の包括的なアクセス権の確約を提示した。
・公開APIへのアクセスに関する確約:メタは,競合する顧客サービスCRMソフトウェアプロバイダーや新規参入事業者に対して,同社のメッセージング・チャネルの公開APIへの無償かつ非差別的なアクセスを保証することを約束する。
・コアAPI同等アクセスの確約:現在カスタマーの顧客が使用しているMessenger,Instagramのダイレクトメッセージ及びWhatsAppの特徴や機能が改良又は更新された場合には,カスタマーの競合事業者や新規参入者も改良されたものを同様に利用できるようにすることをメタは約束する。これは,将来的にカスタマーの顧客のかなりの割合が,メタが提供するメッセージング・チャネルを使用するようになったとしても,新しい特徴や機能について,全て同様に利用できるようにするということでもある。
本件買収の完了前に任命される受託者はこれらの確約の履行を監視する。その義務を果たすために,受託者はメタの記録,人員,施設及び技術情報へのアクセス等について広範な権限を有し,その義務の遂行を支援する技術専門家を任命することができる。また,本確約には,第三者が利用できる迅速かつ拘束力のある紛争解決メカニズムが含まれている。また,メタは,新しいメッセージング機能に関する全てのベータテストの結果を四半期ごとに監視受託者に報告することに加え,関連するAPIと機能の詳細を同社のウェブサイトで公開することが要求されている。
本件買収は,確約によって修正されたため,もはや競争上の懸念を引き起こすことはないと欧州委は判断した。欧州委の決定は,同確約を完全に遵守することを条件としている。