2022年5月

EU

欧州委、事業者間の水平協力協定に関する規則等の改正案について意見募集開始

2022年3月1日 欧州委員会 公表
原文
【概要】
 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は本日(2022年3月1日)、研究開発協定に関する水平一括適用免除規則及び専門化に係る協定(注)に関する水平一括適用免除規則(Horizontal Block Exemption Regulations。両規則をまとめて以下「HBERs」という。)及び水平ガイドライン(以下「水平GL」という。)の改正案について、意見募集を開始した。
(注)当事者の一方が他方のために一定の機種の製品の製造を放棄し、又は製造することを約束し、双方が製品を製造することを決定する協定(出所:長縄友明「米欧独占禁止法(2/2)」(大阪経大論集・第61巻第4号2010年11月))
 HBERs及び水平GLの改正案は、2019年9月に開始された検証及び評価プロセスを踏襲したものであり、評価の結果、デジタル化やグリーン化など、過去10年間に起こった経済及び社会の発展に現行のルールが十分に適応していないと判明した特定の分野において、現行のルールを適応させることを目的としている。また、HBERsの一部の規定は、硬直的かつ複雑であると考えられ、水平GLによって提供される法的確実性のレベルは、対象となる様々な種類の水平協力協定に対して均一ではないと判断された。
 
改正案について
 HBERs及び水平GLの改正案に添付される説明文書に詳細に記載されているとおり、改正案の目的は以下のとおりである。
・ 研究開発及び製造などの分野において、以下の手段によって、企業がより協力しやすくする。
① HBERs及び水平GLの文言の明確化
② HBERsの適用に関する新しい指針の追加
③ 専門化協定に関する一括適用免除規則の範囲を若干拡大し、例えば2者以上が締結する一方的な専門化協定などを対象とすること
・ 競争の効果的な保護を継続させるために、比較可能な競合の研究開発の取組が十分にある場合に限り、以下を適用免除の対象とする。
① 全く新しい製品、技術及びプロセスに関する研究開発協定
② 特定の目的を対象にしているものの、製品又は技術の面ではまだ具体化されていない研究開発の取組
・ 持続可能な目標を追求する水平協定の評価に関する新たな章や、データ共有、モバイル・インフラ共有協定及び入札コンソーシアムに関する新たな指針の追加
・ 水平協力協定の評価に関する一般的な枠組みを合理化及び更新することによる、欧州委及び各国競争当局(National Competition Authorities。以下「NCA」という。)の行政管理の簡素化
 
今後の手続
 利害関係者は、2022年4月26日までに改正案に対する意見を提出することが求められている。
 
評価の背景
 2021年5月、欧州委は、現行のHBERs及び水平GLの評価結果を示す職員作業文書を公表した。評価において、HBERsは、水平GLとともに、有用な手段であり、利害関係者にとって引き続き重要であることが示された。しかしながら、評価によって、有効性、関連性及び一貫性に関して改善の余地があることが確認された。また、HBERs及び水平GLの文言が十分に明確であるとはいえない、あるいは厳密過ぎたり解釈困難であったりするとみられる箇所が多数確認された。
 この評価を受けて、2021年6月、欧州委は影響評価を開始し、その間、意見募集、対象を幾つかに限定したアンケート、ワークショップ及びNCAとの協議などを通じて、改善点に関する追加の証拠収集を行った。さらに、欧州委は、5人の専門家に対して、HBERs、共同購入及び持続可能性協定に関する特定のテーマについての支援調査を依頼した。
 欧州委は本日(2022年3月1日)、専門家による支援調査についても公表している
 
HBERsの背景
 市場において同レベルで事業を展開する2者以上の競合事業者間の水平協力協定によって、特に事業者が補完的な活動、技能又は資産を組み合わせた場合に、実質的な経済的利益及び持続可能性をもたらす可能性がある。水平協力は、リスクを共有し、コストを削減し、投資を増やし、ノウハウを蓄積し、製品の品質と多様性を高め、イノベーションを促進する手段となり得る。同様に、水平協力は、サプライチェーンにおける不足及び混乱に対処したり、特定の製品、サービス及び技術に対する依存を軽減したりする手段ともなり得る。
 HBERsの対象となり得る研究開発協定や専門化協定のような分野における競争促進的な水平協定は、デジタル化及びグリーン化に不可欠であり、域内市場の機能の適正化につながるものである。HBERsは、一定の条件を満たす研究開発協定及び専門化協定が、EU機能条約第101条第3項の要件を満たすと推定されるため、EU機能条約第101条第1項の適用が免除されることを定めている。EU機能条約第101条第3項に基づき、このような協定は、商品の生産又は流通の改善や、技術又は経済の発展の促進に寄与するものであり、かつ競争を排除することなく、その結果として得られる利益を消費者に公平に分配することを認める限りにおいて、単一市場と両立することが明らかにされている。
 したがって、HBERsは、このような種類の協定にセーフハーバーを設けるものである。また、水平GLは、HBERsの解釈及び適用の方法、研究開発と専門化に関するEU機能条約第101条第1項及び第101条第3項の遵守の自己評価方法に関する指針を提供しているが、HBERsが対象としない他の種類の水平協力協定についても同様に指針を提供している。これには、購入、商用化、標準化及び標準契約条件に加え、より一般的な情報交換も含まれる。

欧州委、オンライン・ディスプレイ広告におけるグーグル及びメタによる反競争的行為の疑いで審査を開始

2022年3月11日 欧州委員会 公表
原文
【概要】
 欧州委は、グーグルとメタ(旧フェイスブック)の間のオンライン・ディスプレイ広告サービスに関する合意が、EU競争法に違反している疑いがあるとして、正式審査を開始した。
 グーグルは、同社の「Open Biddingプログラム」等により、ウェブサイトやモバイル・アプリのオンライン・ディスプレイ広告枠について、リアルタイムで入札を行うことによって、広告主とパブリッシャー(媒体社)との間を仲介する広告技術サービスを提供している。メタは、オンライン・ディスプレイ広告サービスを提供しており、グーグルや競合事業者の広告技術サービスを利用した、サードパーティのパブリッシャーの広告枠向けの入札に、同社の「メタ Audience Network」を通じて参加している。
 欧州委の審査の対象は、2018年9月にグーグルとメタとの間で結ばれた、グーグルのOpen BiddingプログラムにメタのAudience Networkが参加する旨の合意(グーグル内部ではコードネーム「ジェダイ・ブルー(Jedi Blue)」と呼ばれている。)に関するものである。欧州委は、本件合意が、グーグルのOpen Biddingプログラムと競合する広告技術サービスを排除しようとする取組であり、これにより、オンライン・ディスプレイ広告市場における競争を制限し、又はゆがめ、パブリッシャーや最終的には消費者に対して不利益をもたらすおそれがあることを懸念している。
 当該事実が立証されれば、本件審査対象の行為は、EU競争法(EU機能条約第101条〔競争制限的協定〕及び/又は第102条〔市場支配的地位の濫用〕)に違反する可能性がある。
 欧州委は今後、優先事項として本件詳細審査を実施する。正式審査の開始は、その結果を予断するものではない。
 なお、英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)も、グーグルとメタとの間の合意について、独自の調査を開始している。常日頃から、欧州委は、CMAと連絡を取っており、適用される規則及び手続に従って、本調査に関してCMAと緊密に協力する。

欧州委がアマゾンによるMGMの買収を承認

2022年3月15日 欧州委員会 公表
原文
 欧州委は、EU企業結合則に基づき、アマゾンによるMGM Holdings Inc.(以下「MGM」という。)の買収計画について、無条件で承認した。欧州委は、本件買収によって、欧州経済領域(European Economic Area。以下「EEA」という。)における競争上の懸念は生じないと判断した。
 アマゾンは、小売、家電、テクノロジー・サービスなど様々な事業を展開しており、プライム・ビデオ(Prime Video)を通じて自社及びサードパーティのオーディオビジュアル(以下「AV」という。)コンテンツの(共同)制作及び小売供給も行っている。MGMは、AVコンテンツの制作及び配給を行うエンタテインメント企業である。
 
欧州委の調査
 欧州委は、市場調査に基づき、本件買収によって、以下の各市場において、競争が著しく阻害されることはないと判断した。
①AVコンテンツの制作及び供給
②テレビチャンネルの卸売供給
③AVサービスの小売供給
④劇場公開映画の制作及びサードパーティの配給事業者への配給権許諾
⑤マーケットプレイス・サービスの提供
 これらの市場は、加盟国単位で画定される可能性が高いことが判明している。
 
 欧州委が、本件調査において検討した結果は、次のとおり。
・AVコンテンツのバリューチェーンにおけるアマゾンとMGMの活動の水平的な重複
 欧州委は、アマゾンとMGM(以下「両社」という。)との間の重複は限定的であると判断した。両社は主にAVコンテンツのバリューチェーンの異なる領域で活動しており、両社が活動している領域において、その合計の市場シェアは低い。
・AVコンテンツのバリューチェーンにおける両社の活動の垂直的関係
 欧州委は、(1)AVコンテンツの制作者及びライセンサーとしてのMGMの川上市場での活動は他の市場参加者の活動に比べて限定的であり、(2)MGMのコンテンツは必需品とはいえず、(3)多様な代替コンテンツが存在している、と判断した。動画配信プラットフォームの中でもアマゾンが大きな存在感を示している加盟国内市場においてでさえ、アマゾンは他の市場参加者との激しい競争に直面していると、欧州委は判断した。
・劇場公開用映画の制作及びライセンスといった川上市場と、映画の劇場公開といった川下市場における、両社の活動の間の垂直的関係
 欧州委は、MGMの映画がEEAにおける興行収入に占めるシェアは限定的であり、MGMはジェームズ・ボンドなどの成功を収めた映画シリーズに関する権利を有しているものの、制作スタジオとしては総合的に上位に位置するものではないと判断した。
・MGMのコンテンツと、アマゾンの既存のAV関連の小売及びマーケットプレイス・サービスのセット販売に関する複合的関係
 欧州委は、アマゾンのプライム・ビデオにMGMのコンテンツが追加されても、マーケットプレイス・サービスの提供者としてのアマゾンの地位には大きな影響を与えないと判断した。
 以上より、欧州委は、本件買収計画について、EEA内で調査対象となったいずれの市場においても競争上の懸念を生じさせることはないと判断し、無条件で承認した。
 

欧州委、公正かつオープンなデジタル市場実現のための規則に関する政治的合意を歓迎

2022年3月25日 欧州委員会 公表
 原文
 欧州委は、昨日(2022年3月24日)、欧州議会とEU加盟国との間でデジタル市場法 (Digital Markets Act。以下「DMA」という。) に関する迅速な政治的合意に達したことを歓迎する。提案から1年強で合意されたこの規制は、大手デジタル企業のゲートキーパーとしての力を包括的に規制する、この種のものとしては初めての取組の一つである。
 DMAは、企業と消費者との間にボトルネックを生み、場合によっては、オンライン・マーケットプレイス、オペレーティング・システム、クラウド・サービス、オンライン検索エンジンなどの異なるプラットフォーム・サービスで構成されるエコシステム全体までも支配する事業者であるゲートキーパーに対して適用される。これらのゲートキーパーは、明確に定義された多くの義務及び禁止事項に従うこととなる。ゲートキーパーが従う義務及び禁止事項は、ゲートキーパーのデジタルサービスにおける競争可能性を確保することを全体的な目的として、最も不公正な市場慣行、すなわち他社にとっての参入障壁を形成又は強化する慣行を踏まえて確立される。
 同時に、DMAは、明確な義務が迅速に遵守されるように、効果的な執行メカニズムを構築する。
 DMAは、デジタルサービス法(Digital Services Act(DSA))とともに、安全で透明性のあるオンライン環境を確保することを目的とした、デジタル空間の壮大な改革の一部である。このパッケージは、ソーシャル・メディア、オンライン・マーケットプレイス及びEUで運用されているその他のオンライン・プラットフォームを含む、全てのデジタルサービスの包括的な新たな規則を確立するものである。これは、EUをデジタル時代に適合させるための欧州デジタル戦略の中核である。
 DMAは、EU及びEU加盟国単位での競争法の執行を補完するものであり、単独行為に関するEU競争法及びEU加盟国競争法の執行を妨げるものではない。
 
今後の手続
 欧州議会及び欧州理事会の政治的合意は、今後、両共同立法者による正式な承認が必要となる。採択されれば、DMAはEU全域で直接適用され、発効から6か月後に適用される。
 
背景
 欧州委はEU単一市場へのデジタル 「ゲートキーパー」 として機能するオンライン・プラットフォームによる特定の行為から生じる悪影響に対処するため、2020年12月、DMAを提案した。
 ゲートキーパーが、自社のサービスを優遇する、自社のビジネスユーザーが消費者と接点を持つことを妨げるなどの商慣行を行った場合に、自社のビジネスユーザーや競合他社の貴重で革新的なサービスを妨げたり、遅延させたりするおそれがある。さらに、ゲートキーパーが自社のアプリストアに不公正なアクセス条件を課したり、他の方法でアプリケーションをインストールすることを禁止したりするような不公正な行為を行った場合、消費者は、より高額な料金を支払う可能性が高くなり、又は代替サービスによって得られる可能性がある利益を実質的に奪われるおそれさえある。
 DMAは、強固な監督体制を通じて展開されることとなり、そこでは、欧州委がEU加盟国の当局と緊密に協力しながら、この規制の唯一の執行機関となる。欧州委は、企業の全世界売上高の最大10%の制裁金を、また、違反が繰り返された場合には最大20%の制裁金を課すことができるようになる。さらに、組織的な違反の場合には、欧州委は、義務の実効性を確保するために、必要な行動的又は構造的な是正措置を課すこともでき、それには当該違反に関連する更なる買収の禁止が含まれる。
 最後に、DMAは欧州委に市場調査を実施する権限を与えており、これにより、規制で定められた義務が、常に発展しているデジタル市場の現実に対して、最新の状態に保たれるようにする。

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