2022年9月

EU

欧州議会、デジタルサービス法案及びデジタル市場法案を正式承認

2022年7月5日 欧州議会及び欧州委員会 公表
原文(欧州議会)
原文(欧州委員会)
【概要】
 欧州議会は、2022年7月5日、本会議において、欧州委員会(以下「欧州委」という。)が2020年12月に提出したデジタルサービス法案(DSA : Digital Services Act)及びデジタル市場法案(DMA : Digital Markets Act)を採択した旨を発表し、また、欧州委は、当該採択を歓迎する旨を発表した。
 欧州議会及び欧州委による報道発表の概要は、それぞれ以下のとおりである。
  
欧州議会による報道発表の概要
 欧州議会は、2022年7月5日、DSA及びDMAに関する最終投票を実施し、DSAは賛成539票、反対54票、棄権30票で採択され、DMAは賛成588票、反対11票、棄権31票で採択された。
 DSAは、新たな義務として以下のものを含んでいる。
(1)オンライン上の違法コンテンツに対抗するための新たな措置及びプラットフォームに対する迅速な対応義務
(2)製品・サービスの安全性確保のための、オンラインマーケットプレイスにおけるトレーサビリティ及び取引業者に対するチェックの強化
(3)プラットフォームの透明性及び説明責任の向上
(4)ミスリーディングな行為並びに子供をターゲットとした広告及び機微な情報に基づいた広告等、特定のタイプのターゲット広告の禁止
・月間利用者数が4500万人以上となる巨大オンラインプラットフォーム(VLOP : Very Large Online Platforms)及び巨大オンライン検索エンジン(VLOSE : Very Large Online Search Engines)は、欧州委が執行するより厳しい義務を遵守しなければならず、当該義務には以下のものが含まれる。
・違法コンテンツの流通、基本的権利及び選挙プロセスへの悪影響、ジェンダーに基づく暴力への悪影響等のシステミックリスク等を予防すること
・独立した監査の対象となること
・プロファイリングに基づく推奨を受け取らないという選択をユーザーに付与すること
・当局及び適格とされた研究者によるデータ及びアルゴリズムへのアクセスを促進すること
 
 また、DMAは、「ゲートキーパー」に指定された大規模プラットフォーム事業者に対して、以下の義務を設けている。
 ゲートキーパーに指定された者は、以下のことを行わなければならない。
・第三者に対し、自社のサービスと相互運用を行うことができるようにすること
・ビジネスユーザーが、ゲートキーパーのプラットフォームで生成したデータへのアクセスを許可し、ゲートキーパーのプラットフォーム外で自身のオファーを宣伝したり顧客と契約を締結したりできるようにすること
 ゲートキーパーに指定された者は、以下のことを行ってはならない。
・自社のプラットフォームで自社のサービス又は製品を他の第三者よりも有利に位置付けて表示(自己優遇)すること
・ユーザーがプリインストールされていたソフトウェアやアプリをアンインストールしたり、第三者の提供するアプリやアプリケーションストアを利用したりすることを妨げること
・明示的に同意された場合を除き、ターゲット広告に基づくユーザーの個人データを処理すること
 さらに、DMAにおいては、ゲートキーパーに指定された者が本ルールを遵守しない場合には、欧州委は、当該者の直近の事業年度における世界総売上高の10%までの制裁金を賦課することができ、不遵守が繰り返された場合には、当該売上高の20%までの制裁金を賦課することができることが定められている。
 今後は、EU理事会において、DMAは本年7月に、DSAは本年9月に、それぞれ採択されることが見込まれており、両法は採択された後に官報に掲載され、掲載後20日で発効する。DSAは、発効から15か月後又は2024年1月1日のいずれか遅い日から適用され、DSAに規定されるVLOP及びVLOSEに対する義務規定については、その指定から4か月後に適用される。また、DMAは、発効から6か月後に適用される。ゲートキーパーは、指定から最低6か月の期間を経過後、新しい義務規定に従うこととなる。
 
欧州委による報道発表の概要
 欧州委は、DSA及びDMAが欧州議会で採択されたことを歓迎する。これらのデジタルサービス関連法案は、DMAについて本年3月24日に、DSAについて本年4月23日に共同立法者が政治的合意に達した。同法案は、EUで活動する巨大オンラインプラットフォームを対象に欧州委によって執行される。欧州委は、同法案の発効後直ちに執行の役割を担えるよう必要な全ての準備を講じている。

欧州一般裁判所、IlluminaによるGrailの買収について、加盟国からの付託要請を受理した欧州委の決定を支持

2022年7月13日 欧州一般裁判所 公表
原文
【概要】
 欧州一般裁判所は、欧州委員会(以下「欧州委」という。)が欧州合併規則の届出対象でない又は加盟国若しくは欧州経済領域協定(以下「EEA協定」という。)締約国の国内企業結合規制の届出対象でない企業結合について、審査を行う権限を有するとの判決を下した。
 
 Illuminaは、米国のゲノム解読事業者であり、遺伝子解析のための統合システム、特にがんスクリーニング検査の開発などに使用される次世代ゲノムシーケンサーを開発、製造及び販売している。Grailは、米国のバイオテクノロジー事業者であり、がんスクリーニング検査の開発にゲノムシークエンスを利用している。
 2020年9月21日、上記2社(以下「当事会社」という。)は、IlluminaによるGrailに対する独占的支配権の取得計画について公表した。当事会社の売上高が閾値を超えなかったため、本件企業結合は、理事会規則139/2004号(2004年1月20日)企業集中規制(以下「企業結合規則」という。)第1条に基づく  届出がなされなかった。また、加盟国及びEEA協定の締約国の閾値にも達していなかったため、届出が行われなかった。
 加盟国の競争当局は、企業結合規則第22条に基づき、閾値に達しないものの、加盟国間の通商に影響を与え、かつ当該加盟国の領域内における競争に著しい影響を与えるおそれのある企業結合について、欧州委に企業結合審査の付託を要請することができる。
 欧州委は、2020年12月7日に本件企業結合に関する申立てを受け予備審査を行い、本件企業結合は加盟国の競争当局による付託の対象となる条件を満たすとの結論に達した。予備審査に基づき、欧州委は、特に本件企業結合が域内市場の競争に及ぼし得る影響について、本件企業結合が実施されれば、欧州で多く の事業活動をしてきたIlluminaが欧州市場において、Grailの競合他社のがん検診の開発に必要な次世代シーケンサーへのアクセスを阻害することが可能となり、その結果、将来的に競合他社の成長を制限することが可能となることを懸念した。そこで欧州委は、2021年2月19日、加盟国に対して書簡を送付し、本件  企業結合について通知した上、企業結合規則第22条に基づく付託要請を送付するよう呼びかけた。2021 年3月9日、フランス競争委員会が付託要請を送付し、その後、ギリシャ、ベルギー、ノルウェー、アイスランド及びオランダの競争当局が付託要請を送付した。欧州委は、2021年3月11日、当事会社に付託要  請について通知した(「情報レター」)。そして、欧州委は、2021年4月19日、各競争当局からの付託要請及び参加要請を受理することを決定した(「受理決定」)。
 Illuminaは、Grailの支援も受け、受理決定及び情報レターの取消しを求めて訴訟を提起した。一般裁判所は、迅速手続を経て構成員を増員したパネルの結論に基づき、当事会社の訴えを全面的に却下した。今回、一般裁判所は、付託した加盟国において届出義務はないものの、競争上の重要性が売上高に反映されて いない事業者の買収を伴う企業結合への企業結合規則第22条に規定される付託メカニズムの適用について、初めて判決を下した。本件では、一般裁判所は、原則として、本件のような状況では欧州委が審査権限を有するとみなされる可能性があることを認めている。さらに、一般裁判所は、本件のような状況において 加盟国が付託要請を提出する期間として定められている15営業日の始期の解釈についても明確にしている。
 今回の一般裁判所判決は、2021年3月31日に発表された「企業結合規則第22条に定められた加盟国と欧州委員会との間の移送制度の適用に関するガイダンス」に従って、企業結合規則第22条に規定されている付託メカニズムの適用に関する欧州委の新しいアプローチを予見するものであり、同条の執行によって、EUの企業結合規制が、重要な競争力を潜在的に有する革新的事業者による企業結合に対してより適切に対処する道が開かれたことになる。

欧州委員会、アマゾンから提出されたマーケットプレイス上の販売事業者のデータの利用並びにBuy Box及びアマゾンプライムへのアクセスに関する確約案について、意見募集を開始

2022年7月14日 欧州委員会 公表
原文
【概要】
 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、アマゾンによるマーケットプレイス上の販売事業者の非公開データの利用並びに販売事業者に「Buy Box」及び「アマゾンプライム・プログラム」へのアクセスを与える際に偏重がある可能性に関する競争上の懸念に対処するため、アマゾンから提出された確約案について、意見募集を開始した。
 
欧州委の審査
 アマゾンはデータ駆動型のビジネスを行う事業者であり、小売事業に関する意思決定のほとんどは、関連データを基にした自動化されたシステムによって行われている。アマゾンはプラットフォームとして2つの役割を担っており、同社は、販売事業者が消費者に商品を直接販売できるマーケットプレイスを運営すると同時に、販売事業者と競合する小売業者として自社のマーケットプレイス上で商品を販売している。アマゾンは、この2つの立場を有する結果、プラットフォーム上で、販売事業者の非公開ビジネスデータを含む大量のデータを利用することができる。
 欧州委は、2019年7月17日、アマゾンが自社のマーケットプレイスを利用する独立販売事業者の非公開データを利用することがEU競争法に違反するかについて、正式審査を開始した。そして、2020年11月10日、欧州委は、プラットフォームにおける公正な競争を歪め、効果的な競争を妨げることになるため、アマゾンがマーケットプレイス上の販売事業者のビジネスデータに基づいて小売に関する意思決定を調整するべきではない旨の予備的見解について説明した異議告知書を発出した。
 
 欧州委は、上記と並行して「Buy Box」及び「アマゾンプライム・プログラム」についても審査を開始した。
(1) アマゾンの「Buy Box」は、特定の販売事業者の商品を目立つように表示し、購入ボタンをクリックすることで商品を迅速に購入できるようにするものである。
(2) 「アマゾンプライム・プログラム」は、月会費又は年会費を支払う顧客にプレミアムサービスを提供し、一定の条件の下で、販売事業者にプライム会員への販売を認めているものである。
 欧州委は、「Buy Box」及び「アマゾンプライム」のルールと基準の双方が、アマゾン自身の小売事業及びアマゾンの物流・配送サービスを利用するマーケットプレイス上の販売事業者を不当に優遇していることを予備的に確認した。この偏重は、上記以外のマーケットプレイス上の販売事業者、その独立配送業者、他のマーケットプレイス及び最も買い得な商品を目にすることができないかもしれない消費者に害を及ぼす可能性がある。
 
提示された確約案
 アマゾンは、両審査に関連する欧州委の競争上の懸念に対処するため、以下の確約案を提示した。
 
(1) アマゾンは、マーケットプレイス上の独立した販売事業者の活動に関連する又はそこから派生する非公開データを当該販売事業者と競合する自社の小売事業のために使用しないことを確約する。これは、アマゾンの自動化ツールと、アマゾンマーケットプレイスからのデータを小売事業の意思決定のために相互利用することができる従業員の両方に適用される。関連するデータは、個別データ及び集計データの両方が含まれ、例えば、販売条件、収益、出荷、在庫関連情報、消費者のアクセスデータ又はプラットフォーム上の販売事業者のパフォーマンスなどが含まれる。アマゾンは、これらのデータをブランド商品及びプライベートブランド商品を販売する目的で使用しないことを確約する。
  
(2) アマゾンは、「Buy Box」に関して以下のことを確約する。
〇「Buy Box」の獲得者を決定するために販売事業者のオファーをランク付けする際に、全ての販売事業者を平等に取り扱うこと。
〇さらに、価格又は配送、あるいはその両方に関して最初のオファーと十分に差別化された2番目のオファーがある場合、「Buy Box」の獲得者に対して2番目の競合オファーを表示すること。どちらのオファーに対しても、同じ説明を表示し、同じ購入手順を提供すること。これにより、消費者の選択の幅が広がる。
(3) アマゾンは、「アマゾンプライム」に関して以下のことを確約する。
〇マーケットプレイス上の販売事業者及び「アマゾンプライム」への商品提供の資格について、非差別的な条件及び基準を設定すること。
〇「アマゾンプライム」上の販売事業者が、物流・配送サービスを提供する配送業者を自由に選択し、選択した配送業者と条件について、直接交渉できるようにすること。
〇「アマゾンプライム」を通じて入手した、第三者である配送業者の条件及びパフォーマンスに関するいかなる情報も、自社の物流サービスのために使用しないこと。これは、配送業者のデータが競合するアマゾンの物流サービスに、直接流出しないようにするためである。
 確約案は、欧州経済領域におけるアマゾンの現在及び将来の全てのマーケットプレイスを対象としている。ただし、イタリア競争当局が2021年11月30日に下した決定により、イタリア市場に関して、既にアマゾンに問題解消措置が課されていることから、「Buy Box」及び「アマゾンプライム」に関連する確約案 は、イタリアを除外している。
 確約は5年間有効であり、トラスティが実施状況を監視し、欧州委に定期的に報告する。
 欧州委は、全ての利害関係者に対し、2022年9月9日までアマゾンの確約案について意見募集を行う。
 

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