2023年1月

EU

デジタル市場法:開かれた市場を確保するためのゲートキーパーに対する規制の発効

2022年10月31日 欧州委員会 公表
原文
【概要】
 明日(2022年11月1日)、デジタル市場法(Digital Markets Act、以下「DMA」という。)が発効する。DMAは、オンライン・プラットフォームエコノミーにおいてゲートキーパーとして活動する企業による不公正な行為に終止符を打つものである。DMAは、2020年12月に欧州委員会(以下「欧州委」という。)が提案し、2022年3月に記録的な速さで欧州議会と理事会で合意されたものである。
 DMAは、大規模なオンライン・プラットフォームが「ゲートキーパー」に該当する場合を定義している。ゲートキーパーは、ビジネスユーザーと消費者との間に重要なゲートウェイを提供するデジタル・プラットフォームであり、その地位によって私的なルールメイカーとして振る舞う力を付与され、これによりデジタル経済におけるボトルネックを生み出す可能性がある。このような問題に対処するため、DMAは、ゲートキーパーが特定の行為を行うことを禁止するなど、ゲートキーパーが遵守しなければならない一連の義務を定めている。

ゲートキーパーの指定
 DMAに規定されている、いわゆる「コアプラットフォームサービス」を1つ以上運営している企業は、以下に述べる要件を満たしていれば、ゲートキーパーに該当する。コアプラットフォームサービスとは、アプリストアのようなオンライン仲介サービス、オンライン検索エンジン、ソーシャルネットワーキングサービス、特定のメッセージングサービス、動画共有プラットフォームサービス、仮想アシスタント、ウェブブラウザ、クラウドコンピューティングサービス、オペレーティングシステム、オンラインマーケットプレイス、及び広告サービスである。
 企業がDMAの適用対象となる主な基準は次の3つである。
① 域内市場に影響を与える規模:当該企業が欧州経済領域(EEA)内で一定の年間売上高を達成し、少なくとも3つのEU加盟国でコアプラットフォームサービスを提供している場合。
② ビジネスユーザーから最終消費者への重要なゲートウェイを管理:当該企業がEU域内で、月間4500万人以上のアクティブなエンドユーザー及び年間1万人以上のアクティブなビジネスユーザーに対してコアプラットフォームサービスを提供している場合。
③ 確立された持続的な地位:当該企業が過去3年間、上記②の基準を満たした場合。

「やるべきこと」と「やってはいけないこと」の明確なリスト
 DMAは、公正で開かれたデジタル市場を確保するため、ゲートキーパーが日常業務で実施する必要のある「やるべきこと」と「やってはいけないこと」の一覧を定めている。これらの義務により、企業が市場に参入し、製品やサービスの長所に基づいてゲートキーパーに対抗する可能性が広がり、企業がイノベーションを起こす余地が増えることになる。
 ゲートキーパーが自社サービスを優遇したり、自社サービスを利用するビジネスユーザーが消費者にアプローチすることを妨げたりするなどの行為を行った場合は、競争が妨げられ、イノベーションの低下、品質の低下、価格の上昇につながる可能性がある。ゲートキーパーが自社のアプリストアに不当な利用条件を課したり、他のソースからのアプリケーションのインストールを妨げたりするなどの不公正な行為を行った場合、消費者はより高い料金を支払うか、代替サービスがもたらす利益を事実上奪われるおそれがある。

次のステップ
 DMAは発効とともに重要な実施段階に入り、6か月後の2023年5月2日から適用が開始される予定である。その後、2か月以内、遅くとも2023年7月3日までに、ゲートキーパーになり得る企業は、自社のコアプラットフォームサービスがDMAの定める閾値を満たしているかどうかを欧州委に届け出なければならない。
 欧州委は完全な届出を受理した後、45営業日以内に当該事業者が閾値を満たしているかどうかの評価を行い、ゲートキーパーとしての指定を行う(遅くとも2023年9月6日までに行う。)。ゲートキーパーとしての指定後、ゲートキーパーは6か月以内にDMAの規定を遵守する必要があり、遅くとも2024年3月6日までには遵守する必要がある。
 DMAの執行に備え、欧州委は既に業界の利害関係者と積極的にコンタクトを取り、新しい法律の効果的なコンプライアンスを確保するための取り組みを始めている。また、欧州委は今後数か月の間に、DMAの下でのゲートキーパーの義務遵守に関する第三者の意見を把握するため、関 心を持つ関係者との専門的ワークショップを多数開催する。そのうち、最初のワークショップは2022年12月5日に開催され、「自社優遇」規定に焦点を当てる予定である。
 さらに、欧州委は、通知の手続に関する規定を盛り込んだ施行規則の作成にも取り組んでいる。
 

欧州委員会、マイクロソフトによるアクティビジョン・ブリザードの買収計画について、第2次審査を開始

2022年11月8日 欧州委員会 公表

原文

【概要】
 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、マイクロソフトによるアクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)の買収計画を評価するため、EU企業結合規則に基づき、詳細な審査(第2次審査)を開始した。欧州委は、本件買収計画が、家庭用ゲーム機(以下「ゲーム機」という。)及びパーソナルコンピュータ(PC)用のビデオゲームの販売市場、並びにPC用オペレーティングシステム(OS)市場における競争を低下させる可能性があることを懸念している。
 マイクロソフト及びアクティビジョン・ブリザードは、両社とも、PC用ゲーム、ゲーム機及び携帯端末向けのゲーム開発者並びにパブリッシャー(訳注:ゲームの企画、宣伝、販売等を行う事業者)であるとともに、PC用ゲームの販売者でもある。さらに、マイクロソフトは、ゲーム機用ゲームの販売、ゲーム機「Xbox」に関連する商品・サービスの提供、PC用OS「Windows」やクラウドコンピューティングサービス「Azure」などの幅広い製品・サービスの提供も行っている。

欧州委の予備的審査による競争上の懸念
 欧州委の予備的審査の結果、本件買収計画は、マルチゲームの定額配信サービスやクラウドゲームストリーミングサービスを含むゲーム機及びPC用のビデオゲームの販売市場、並びにPC用OS市場における競争を著しく低下させるおそれがあることが判明した。
 特に、欧州委は、マイクロソフトがアクティビジョン・ブリザードを買収することにより、アクティビジョン・ブリザードのゲーム機及びPC用のビデオゲーム、特に「Call of Duty」のような知名度が高く、大きな成功を収めているゲーム(いわゆる「AAA」(トリプルエー)タイトル)へのアクセスを阻害する可能性があることを懸念している。
 予備的審査では、マイクロソフトがゲーム機用ビデオゲームのマイクロソフトの競合販売会社に対し、アクティビジョン・ブリザードのゲーム機用ビデオゲームをゲーム機で配信することを阻止したり、これらのビデオゲームの利用頻度や利用条件を低下させたりするなどの閉鎖戦略を採る能力及び潜在的な経済的インセンティブを有している可能性があると示唆された。
 特に、マルチゲーム配信サービスやクラウドゲームストリーミングサービスに関して、欧州委は、本件買収計画が実行されると、マイクロソフトがこうしたサービスを提供しているゲーム機及びPC用のビデオゲームの競合販売会社に不利益を与え、マルチゲーム配信やクラウドゲームストリーミングという新サービス提供の鍵となる自社のゲーム機及びPC用のビデオゲームへのアクセスを制限する可能性があることを懸念している。
 このような閉鎖戦略は、ゲーム機及びPC用のビデオゲームの販売市場における競争を減殺し、価格の上昇、品質の低下及びゲーム機販売事業者のイノベーションの低下を招き、最終的にはこれらが、消費者に転嫁されるおそれがある。
 最後に、予備的審査の時点においては、欧州委は、本件買収計画がPC用OS市場における競争を減殺させるおそれがあることも懸念している。特に欧州委は、アクティビジョン・ブリザードのゲームとマイクロソフトのクラウドゲームストリーミングによるゲーム配信をウィンドウズに統合することにより、マイクロソフトのOSであるウィンドウズに対抗するPC用OSの競合事業者の能力を低下させるおそれがあることを懸念している。その結果、消費者にウィンドウズを搭載していないPCの購入をためらわせる可能性がある。
 予備的審査において、マイクロソフト、がPC用OSの競合事業者に対して、上記行為を行う能力及び潜在的な経済的インセンティブを有している可能性が示唆された。
 欧州委は今後、本件買収計画の影響について第2次審査を行い、当初の競争に関する懸念が確認されるかどうかについて判断する。
 本件買収計画は、2022年9月30日に欧州委に届出が行われた。
 欧州委は、90営業日以内(2023年3月23日まで)に決定を行う。第2次審査の開始は、審査の結果に予断を与えるものではない。

 

欧州委員会、関連市場告示の改正案に関する意見募集を開始

2022年11月8日 欧州委員会 公表
原文
【概要】
 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、本日、関連市場告示の改正案について、全ての利害関係者に向けた意見募集を開始した。市場画定は、合併やほとんどの競争法違反事件を評価する際の重要な第一歩である。市場画定は、事業者間の競争の境界を画定する役割を果たす。今回の改正は、関連市場告示が1997年に制定されて以来初めて行われるものであり、特にデジタル化や製品・サービスの新しい提供方法などの重要な発展を考慮するとともに、経済活動の相互関係の密接化やグローバル化の性質を反映するために行われる。
 関連市場告示の改正案は、2020年4月に開始した抜本的な見直し作業を経て策定された。2021年7月に欧州委から公表された評価結果によると、現行の関連市場告示は現在も十分適用可能なもので、概ね目的にも適ったものとなっているが、新たな市場の現実の考慮と併せて、欧州委の実務、EUの判例法に適合させるためには、一定の見直し及び明確化が必要であることが示された。意見募集のために本日発表された改正案には、100人以上の利害関係者からの意見が反映された。

提案した変更点
 関連市場告示の改正案の主な目的は、事業者がコンプライアンスを促進することができるように、指針、透明性及び法的確実性を具体的な事例を含めて提供することである。また、欧州委と各国競争当局による法執行をより効率的にすることも目的としている。
 提案している変更点は、市場画定に関する様々な重要問題について、新たな又は追加の指針を提供するものであり、具体的には以下のとおりである。
1 市場画定の原則及び競争法の適用を目的とした市場画定の方法に関して説明する。
2 製品・サービスの革新性や品質など、価格以外の要素をより重視する。
3 特に技術や規制の変化など、構造的な変遷が予想される市場において、将来を見越して市場を画定することを明確にする。
4 例えば多面市場や「デジタル・エコシステム」(例:モバイルOSに関連して構築された製品)などのデジタル分野に係る市場画定に関する新たな指針を示す。
5 例えば事業者がパイプライン製品の分野でイノベーション競争を行う場合、当該市場をどのように評価すべきかなどを明確にするためのイノベーション集約型市場に関する新たな原則を示す。
6 世界市場を画定するための条件、輸入品の評価方法、さらには集客地域(消費財の小売販売など)によって定義される地方市場に関する欧州委の考え方など、地理的市場の画定に関する更なる指針を示す。
7 欧州委が市場画定の際に用いることのあるSSNIP(small but significant and non-transitory increase in price)テストなどの定量的手法について明確にする。
8 市場画定に関する欧州委の豊富な経験及び個別事案の事実に基づく検討を踏まえ、考えられる証拠資料とその証明力に関する指針を拡充する。

今後の手続
 関係者は、2023年1月13日までに、本関連市場告示案に対する意見を提出することができる。
 今回の意見募集で寄せられた意見を含め、改正手続中に収集した証拠に基づいて、欧州委は、2023年第3四半期までに新たな関連市場告示を作成することを目指し、本日(2022年11月8日)公表した改正案の修正を経て、最終案を策定する予定である。

改正過程の経緯
 欧州委は、2020年4月、現行の関連市場告示の評価を開始した。欧州委は、その評価手続の一環として、意見募集の結果、寄せられた意見の概要、加盟国競争当局からの意見の概要などの意見募集の結果とともに、改正根拠となる調査の結果を公表した。
 欧州委は、2021年7月に、評価結果をまとめたスタッフ作業文書(Staff Working Document)を公表した。
 当該評価を受けて、欧州委は、2021年11月に、「新たな課題に適合した競争政策」と題する議会等に対する声明(Communication)の中で、より広範な競争政策の考慮事項として市場画定を取り上げることについて触れ、現行の関連市場告示を見直すと発表した。2022年1月には、見直しを開始するための根拠に関する情報提供の照会(call for evidence)を公表した。

関連市場告示の背景
 市場画定は、事業者間の競争の境界を明らかにするためのツールである。関連製品市場及び地理的市場を定義する目的は、価格決定など事業者の営業上の意思決定を行う際の又は潜在的な競争相手を特定することである。このような観点から、市場画定によって、特に市場支配力を評価するために有意義な情報である市場シェアを算出することが可能となる。
 市場画定は、事業者が活動する競争環境について、一時的及び長期的の両方の側面から理解するのに役立つ。市場は静的なものではないため、生産プロセスや消費者の嗜好、その他の市場の特殊性(イノベーションサイクル、サプライチェーン、デジタル市場や関連ビジネスモデルの特殊性、新規供給者先の獲得の容易さなど)の変化を考慮し、規制の変更にも対応するため、個々の事案ごとに、市場画定の分析を行う必要がある。同様に、地理的市場の画定も、個別事案ごとに改めて評価する必要がある。その結果、特に消費者や顧客の観点から、市場が実際にどのように機能しているかに応じて地域市場(消費財の小売販売など)からグローバル市場(航空部品の販売など)まで画定される可能性がある。
 関連市場告示は、欧州委がEU競争法の執行において関連製品市場及び地理的市場の概念をどのように適用するかについて、その原則及びベストプラクティスに関する指針を提供するものである。
 

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