2023年3月

EU

欧州委員会、メタのオンラインクラシファイド広告市場における濫用行為に対して異議告知書を送付

2022年12月19日 欧州委員会 公表

原文

【概要】

 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、メタに対し、同社がオンラインクラシファイド広告市場における競争を歪めることにより、EU競争法に違反したとの予備的見解(preliminary view)を通知した。欧州委は、メタが同社のオンラインクラシファイド広告サービスであるFacebook Marketplaceを個人向けソーシャルネットワークであるFacebookに抱き合わせていることを問題視している。また、欧州委は、メタが自社の利益のために、Facebook Marketplaceの競合他社に不公正な取引条件を課していることを懸念している。

 メタは、米国の多国籍テクノロジー企業である。同社の主力製品は、登録ユーザーがプロフィールを作成し、写真やビデオをアップロードし、メッセージを送り、他の人とつながることができる個人向けソーシャルネットワーク「Facebook」である。また、メタはユーザーが商品を売買できる、「Facebook Marketplace」と呼ばれるオンラインクラシファイド広告サービスも提供している。


メタの抱き合わせ行為及び広告データの利用に関する異議告知書の概要

 欧州委は、メタが、欧州全域に広がる個人向けソーシャルネットワーク市場及び加盟国のソーシャルメディア上のオンラインディスプレイ広告市場において支配的地位を有していると予備的に判断した。

 欧州委は、メタがその支配的地位を以下の2つの方法で濫用していると予備的に判断した。

 第一に、メタは、自社のオンラインクラシファイド広告サービスであるFacebook Marketplaceを、自社が支配的な地位を有する個人向けソーシャルネットワークであるFacebookに抱き合わせている。これは、Facebookの利用者が、望むと望まざるとにかかわらず、自動的にFacebook Marketplaceにアクセスすることになることを意味する。欧州委は、この抱き合わせにより、競合他社が対抗できない実質的な流通上の優位性をFacebook Marketplaceが獲得しているため、Facebook Marketplaceの競合他社が市場から締め出される可能性があることを懸念している。


 第二に、メタは、FacebookやInstagramに広告を掲載している競合のオンラインクラシファイド広告事業者に対して、不公正な取引条件を一方的に課している。欧州委は、競合他社から得た広告関連データをFacebook Marketplaceのために利用することをメタに許可するとの取引条件が、メタのプラットフォームにおけるオンラインディスプレイ広告サービスを提供するに当たって、不当かつ不相応であり、必要でないものであることを懸念している。このような条件は、競合他社に負担を課し、Facebook Marketplaceのみに利益をもたらすものである。


 上記行為が確認された場合には、市場支配的地位の濫用を禁止するEU機能条約第102条に違反することとなる。

 異議告知書の送付は、審査の結果を予断するものではない。

 欧州委員会は、2021年6月4日、フェイスブックに対し、EU競争法違反の疑いで、正式審査を開始していた。


欧州委員会、アマゾンが提示した確約案を承認

2022年12月20日 欧州委員会 公表

原文
【概要】

 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、アマゾンが提示した確約案に法的拘束力を付与した。アマゾンの確約案は、アマゾンがマーケットプレイスの販売業者の非公開データを利用していること並びに販売業者に「Buy Box」(訳注:販売業者の商品を目立つように表示し、購入ボタンを直接クリックすることで商品を迅速に購入できるようにするもの。)及び「Prime programme」(訳注:消費者に有料でプレミアムサービスを提供し、独立の販売業者が一定の条件の下で当該消費者に販売することを許可するもの。)へのアクセスを認めるに当たり、バイアスがかかっている可能性があることに関する欧州委の競争上の懸念に対処するものである。


1 欧州委の懸念

 欧州委は、2019年7月、アマゾンがマーケットプレイス上の販売業者の非公開データを利用していることについて正式な審査を開始した。欧州委は、2020年11月10日、異議告知書を送付し、その中で、アマゾンがフランスとドイツの市場において、第三者の販売業者へのオンラインマーケットプレイスサービスの提供について支配的な地位にあることを予備的に判断した。また、アマゾンが自社の小売事業に関する決定を行う際に、マーケットプレイス上の他の販売業者の非公開のビジネスデータを利用することにより、自社のプラットフォームにおける公正な競争を歪め、有効競争を妨げていると予備的に判断した。

 これと並行して、2020年11月10日、欧州委は、アマゾンが設定している「Buy Box」の獲得者を選定する基準及び販売業者が「Prime programme」で商品を提供できる基準について、アマゾンの小売事業又はアマゾンの物流・配送サービスを利用している販売業者の優遇につながっているかどうかを評価するために、2件目の審査を開始した。

 欧州委は、2件目の審査について、アマゾンが第三者の販売業者へのオンラインマーケットプレイスサービスの提供に関して、フランス、ドイツ及びスペイン市場において支配的 地位を濫用していると予備的に判断した。また、「Buy Box」及び「Prime programme」に関するアマゾンのルール及び基準が、自社の小売事業及び物流・配送サービスを利用する販売業者を不当に優遇していることを予備的に判断した。


2 確約の内容

 上記の両審査に関連する欧州委の競争上の懸念に対処するため、アマゾンは当初、次の確約案を申し出ていた。

(1) データ使用に関する懸念に対処するため、アマゾンは以下を確約することを提案した。

ア アマゾンのマーケットプレイスにおける独立の販売業者の活動に関連する又は、その活動から派生する非公開データをアマゾンの小売事業のために使用しないこと。これは、アマゾンマーケットプレイスからのデータを小売事業の意思決定のために相互利用する可能性のあるアマゾンの自動化されたツール及び従業員の両方に適用される。

イ 上記データについて、ブランド商品及びアマゾンのプライベートブランド商品を販売する目的で利用しないこと。

  

(2) 「Buy Box」に関する懸念に対処するため、アマゾンは以下を確約することを提案した。

ア 「Buy Box」の獲得者を決定するためのオファーにランキングを付ける際、全ての販売業者を平等に扱うこと。

イ 「Buy Box」の獲得者となる1番目のオファーと価格又は配送面で十分に差別化された別の販売業者からの2番目のオファーがある場合、「Buy Box」の獲得者と競合する2番目のオファーも表示すること。

ウ どちらのオファーも、同じ説明情報を表示し、同じ購買方法を提供すること。


(3) 「Prime programme」に関する懸念に対処するため、アマゾンは以下を確約することを提案した。

ア マーケットプレイス上の販売者向けに「Prime programme」への商品提供の資格について、非差別的な条件及び基準を設定すること。

イ 「Prime programme」の販売業者が、物流・配送サービスを提供する運送業者を自由に選択し、選択した運送業者と直接条件を交渉できるようにすること。

ウ 「Prime programme」を通じて入手した第三者運送業者のサービス提供条件やパフォーマンスに関するいかなる情報も、自社の物流サービスのために使用しないこと。


 欧州委は、2022年7月14日から2022年9月9日の間に、アマゾンの確約案について市場テストを行い、利害関係のある第三者と協議して、競争上の懸念が取り除かれるかどうかを検証した。この市場テストの結果を踏まえ、アマゾンは当初の提案を修正し、以下を確約した。 

(1) 競合する2つ目の「Buy Box」のオファーの表示が目立つように改善し、消費者の関心を十分に集められない場合に備えて、レビューメカニズムを組み込むこと。

(2) 販売業者と運送業者に対して、確約の内容と新たに得られる権利に関する透明性の確保及び迅速な情報伝達を行い、特に販売業者の独立系運送業者への早期切替えを可能にすること。

(3) データ保護のルールに従った上で、独立系運送事業者がアマゾンの顧客と直接コンタクトを取るための手段を整備し、アマゾンが提供するものと同等の配送サービスを提供できるようにすること。

(4) アマゾンと競合する貨物サービスのデータ(特に貨物の分析データ)の利用からの運送事業者のデータ保護について改善すること。

(5) 追加の通知義務を導入することにより、モニタリング・トラスティーの権限を強化すること。

(6) 確約の不履行が疑われる場合、全ての販売業者及び運送業者に開かれた一元的な苦情処理の仕組みを導入すること。

(7) 「Prime programme」及び競合する2番目の「Buy Box」のオファーに関連する確約の期間を当初提案された5年間ではなく、7年間に延長すること。

 欧州委は、アマゾンが最終的に提示した確約案により、アマゾンがマーケットプレイス上の販売業者のデータを自社の小売事業のために使用せず、「Buy Box」及び「Prime programme」に非差別的なアクセスを与えることが保証されることを確認した。そのため、欧州委は、アマゾンのこの確約案に法的拘束力を付与することを決定した。

 提案された確約案は、アマゾンが現在及び将来にわたって欧州経済領域(EEA)内に展開する全てのマーケットプレイスを対象としているが、イタリアの競争当局が2021年11月30日、イタリア市場に関してアマゾンに是正措置を課す決定を下したことから、「Buy Box」と「Prime programme」に関連する確約からイタリア市場は除外されている。

 最終的な確約は、「Prime programme」及び競合する2つ目の「Buy Box」の表示に関する部分については7年間、それ以外の部分については5年間、それぞれ有効である。また、欧州委の監督の下、独立したモニタリング・トラスティーが確約の履行と遵守を監視する責任を負う。

 欧州委は、アマゾンが確約に違反した場合、EU競争法の違反認定を行う義務を負うことなく、アマゾンの年間総売上高の10%を上限とする制裁金を賦課すること、又はアマゾンの日次売上高の5%を履行強制金として違反した日ごとに賦課することができる。


欧州委員会、農業分野におけるサステナビリティ協定に関するガイドライン案について、意見募集を開始

2023年1月10日 欧州委員会 公表表

原文

【概要】

 英欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、2023年1月10日、農業分野におけるサステナビリティ協定に関するガイドライン案について、意見募集を開始した。

 欧州委は、EUの共通農業政策(common agricultural policy:CAP)改革において導入されたEU競争法の新たな適用除外(訳注:2021年に欧州議会と理事会によって採択された共通市場機構規則(Regulation 1308/2013 establishing a common organisation of the markets in agricultural products(CMO規則)を改正する規則(REGULATION (EU) 2021/2117)により新たに定められたもの)の対象となる農業分野におけるサステナビリティ協定に関するガイドライン案について、意見募集を開始した。

 EU機能条約第101条は、一般的に、競争を制限する事業者間協定、例えば、価格上昇や数量減少につながる競合事業者間の協定を禁止している。しかし、CMO規則第210a条は、農業分野における特定の制限的な協定が持続可能性に関する基準を満たすために不可欠である場合、当該協定をEU機能条約第101条に規定する禁止対象から除外している。本ガイドライン案は、農業食品分野で活動する事業者が、同規則第210a条の下で、どのように持続可能性のための共同取組を行うことができるかを明確にすることを目的としている。

 本ガイドライン案の主な内容は、以下のとおりである。

・適用除外の範囲を明確にすること。

 適用除外は、農業生産者の間で締結される協定のほか、農業生産者と農業食品サプライチェーンで活動する事業者(農業資材の販売や農産物の流通・輸送・包装に関わる企業など)との間の協定のみに適用される。農業生産者を含まない農業食品サプライチェーンに係る事業者間のみで締結された協定は、協定が農産物に関するものであっても、適用除外の対象とはならない。


・適用対象となる持続可能性の目的を明確にすること。

 本ガイドライン案は、協定で追求する持続可能性の目的の範囲を明確にしている。協定の目的は、CMO規則の第210a条に規定されており、①環境保護、②農薬及び薬剤耐性菌の削減、③動物の健康及び福祉の3つのカテゴリーに分けることができる。環境保護の目的には、例えば、土壌の構成要素の改善や生物多様性を高めるために、土壌の保護及び浸食に対する抵抗力を向上させるための協定が含まれることが、本ガイドライン案で明示されている。


・持続可能性に関する基準の要件を定めること。

 当事者は、適用除外規定の適用を受けるためには、EU法又は国内法の下で義務付けられているものより高いレベルの持続可能性に関する基準を採用することについて合意する必要がある。本ガイドライン案は、義務付けられている基準と比べて、どの程度の向上を図る必要があるのか、その最低水準を定めていないが、改善が必要不可欠である程度を評価するためには、競争制限の程度を考慮する必要があることを明確にしている。また、既存の義務的な基準が存在しない場合、ある基準を採用するサステナビリティ協定が、CMO規則第210a条に規定される持続可能性に関する目的の一つを追求するものであれば、適用除外の対象となる可能性があることを明確にしている。


・競争に対する不可欠な制限であることを確認するためのテストを行うこと。

 サステナビリティ協定の当事者は、その協定に基づく競争制限が、持続可能性に関する基準を満たすために不可欠なものかどうかを評価する必要がある。この評価は、①当事者が単独では持続可能性に関する基準を満たすことができない要因を明らかにし、なぜ協定が必要であるかを説明すること、②適切な協定の種類を見極めること(例:価格又は数量に関する協定)、③不可欠な競争制限であるかを判断すること(例:価格に関する合意には、全体的に価格を固定する、最低価格を設定する又は価格プレミアムを設定するものがある。)及び④適切な競争制限の程度(例えば、価格の程度)や継続期間を見極めることの4つの観点を含んでおり、当事者は競争に対する制約が最も少ない方法を選択するものとする。


・事後介入の範囲を明確にすること。

 本ガイドライン案は、欧州委及び各国の競争当局が、競争制限を阻止するために必要な場合又は、EU機能条約第39条に規定される共通農業政策の目的が危うくなると考えられる場合には、サステナビリティ協定の停止又は修正を要求する権利を有することを明確にしている。


今後の予定

 今後、本ガイドライン案に対する関係者のコメントを踏まえ、必要な変更を加え、2023年12月8日までにガイドラインを施行することを目指している。

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