2023年7月

EU

欧州委員会、マイクロソフトのアクティビジョン・ブリザード買収計画を条件付きで承認

2023年5月15日 欧州委員会 公表

原文

【概要】
 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、EU企業結合規則に基づき、マイクロソフトによるアクティビジョン・ブリザード(以下「アクティビジョン」という。)の買収計画を、マイクロソフトが提案した問題解消措置を完全に遵守することを条件として承認した。
(1)欧州委は、EU企業結合規則に基づいてマイクロソフトによるアクティビジョンの買収計画を承認した。この承認は、マイクロソフトが提案した問題解消措置を完全に遵守することを条件としている。この問題解消措置は、欧州委が指摘した競争上の懸念について完全に対処するものであり、クラウドゲームの現在の状況を大きく改善するものである。
 本日(2023年5月15日)の決定は、マイクロソフトによるアクティビジョンの買収計画に関する詳細審査を経たものであり、欧州委は、これまで同様に確実な証拠とEU域内のゲーム開発会社、販売会社やクラウドゲームストリーミングプラットフォームを含む競合他社や顧客からの幅広い情報やフィードバックに基づいて判断している。
 
(2)欧州委の審査
ア  本日の決定は、マイクロソフトによるアクティビジョンの買収計画について、詳細審査を経たものである。両当事会社は、PC、家庭用ゲーム機、モバイル機器向けのゲームを開発・販売し、PC向けのゲームも配信している。また、マイクロソフトは、家庭用ゲーム機向けのゲームも配信しており、PC用OS「Windows」をはじめとする幅広い製品・サービスとともに、Xbox本体を販売している。アクティビジョンのゲームラインナップには、「Call of Duty」、「World of Warcraft」、「Overwatch、Diablo」といった人気タイトルが含まれている。
 欧州委の予備的審査では、マイクロソフトは、(i)家庭用ゲーム機・PC用ゲームの販売(マルチゲーム配信サービスやクラウドゲームストリーミングサービスを含む)、(ii)PC用OSの供給において、競争を阻害するおそれがあるとされた。
 そして、欧州委の詳細な市場調査により、マイクロソフトは競合する家庭用ゲーム機や競合するマルチゲーム配信サービスに悪影響を与えることはできないことが分かった。他方で、マイクロソフトは、クラウドゲームストリーミングサービスを通じたゲームの配信において競争を阻害する可能性があり、PC用OSの市場における地位が強化されることが分かった。
 
イ 具体的には、欧州委は以下のとおり判断した。
(ア)マイクロソフトは、欧州経済領域(EEA)においては同社のXbox本体よりも4倍も売れており、家庭用ゲーム機のリーディングカンパニーであるソニーのプレイステーションに対して、アクティビジョンのゲームの配信を拒否するインセンティブはなく、現実には、マイクロソフトは、アクティビジョンのゲームを、ソニーのプレイステーションのような人気のあるゲーム機で配信し続ける強いインセンティブを持つ可能性が高い。
(イ)仮にマイクロソフトがアクティビジョンのゲームをプレイステーションから引き揚げることを決定したとしても、ゲーム機市場における競争を著しく阻害するものではない。「Call of Duty」が家庭用ゲーム機で多くプレイされているとしても、EEAでは世界の他の地域よりも人気が高くなく、また、EEAでは他の市場と比べて同ジャンルの中での人気も高くはない。したがって、このゲームが配信されなくても、ソニーはその規模、豊富なゲームの種類、市場での地位を使って、同社の競争力を弱めようとする行為をはねのけることができる。
(ウ)本件買収がなかったとしても、アクティビジョンは、個々のゲームの売上げの奪い合いを避けるため、自社のゲームを複数のマルチゲーム配信サービスに利用させることはなかったと考えられる。したがって、マイクロソフトによるアクティビジョンの買収後も、マルチゲーム配信サービスを提供する第三者の状況に変化はないと考えられる。
(エ)本件買収計画は、多くのゲーム利用者のビデオゲームの楽しみ方を変える可能性のあるイノベーティブな市場分野であるクラウドゲームストリーミングサービスによるPC・家庭用ゲームの配信において、競争を阻害する可能性がある。クラウドゲームストリーミングは、その潜在的な可能性にもかかわらず、現在、その利用は極めて限定的である。欧州委は、アクティビジョンのゲームの人気が当該分野を発展させる可能性を持っていると判断した。その代わりに、マイクロソフトがアクティビジョンのゲームを自社のクラウドゲームストリーミングサービスであるGame Pass Ultimate専用とし、競合他社のクラウドゲームストリーミングプロバイダーには配信しないようにすれば、クラウドゲームストリーミングによるゲーム配信の競争が制限される可能性があると判断した。
(オ)マイクロソフトがアクティビジョンのゲームを自社のクラウドゲームストリーミングサービス専用とした場合、マイクロソフトはPC用OS市場におけるWindowsの地位を強化することも可能である。これは、マイクロソフトがWindows以外のOSを使用したPCでのアクティビジョンのゲームのストリーミングを妨げたり、品質を低下させたりした場合に起こり得る。
 
(3)問題解消措置
ア 問題解消措置として、クラウドゲームストリーミングサービスによるPC・家庭用ゲームの配信市場における欧州委が指摘した競争上の懸念に対処するため、マイクロソフトは10年間の期限付きで、次の包括的なライセンス供与の約束をした。
・ 現在及び将来においてアクティビジョンのPC・家庭用ゲームのライセンスを取得するEEAの消費者が選択したどのクラウドゲームストリーミングサービスを通じてもゲームをストリーミングできるようにするための無償ライセンス
・ クラウドゲームストリーミングサービス配信事業者に対する、EEAに所在するゲーム利用者がどのアクティビジョンのPC・家庭用ゲームもストリーミングできるようにするための無償ライセンス
 
イ 現在、アクティビジョンは、クラウドゲームストリーミングサービスにゲームのライセンスを供与しておらず、またゲーム自体のストリーミングも行っていない。これらのライセンスにより、1つ以上のアクティビジョンのPC・家庭用ゲームを購入したゲーム利用者又はアクティビジョンのゲームを含むマルチゲーム配信サービスに加入しているゲーム利用者は、選択したクラウドゲームストリーミングサービスにおいてストリーミングし、どのOSを使用するどのデバイスでも当該ゲームをプレイすることが出来るようになる。また、本件問題解消措置により、ストリーミングで利用できるアクティビジョンのゲームは、従来のダウンロードで利用できるゲームと同じ品質と内容が確保されることになる。
 
ウ  本件問題解消措置は、欧州委が指摘した競争上の懸念に十分に応えるものであり、クラウドゲームストリーミングの現在の状況を大きく改善するものである。これにより、ゲームがEEAのオンラインストアで購入されているか、EEAで利用可能なマルチゲーム配信サービスに含まれていることを前提に、何百万人ものEEAの消費者が、EEAで運営されているあらゆるクラウドゲームサービスを利用して、アクティビジョンのゲームをストリーミングできるようになる。さらに、全てのクラウドゲームストリーミングサービスを通じてアクティビジョンの人気ゲームをストリーミング配信できるようになることは、EEAにおけるこの活溌な技術の発展を促すことになる。そして、最終的には、これらの措置により、アクティビジョンのゲームが、EUの小規模事業者を含む新たなプラットフォームや、より多くのデバイスで利用可能となり、競争と消費者に大きな利益をもたらすことになると考えられる。
 
エ 欧州委は、本件問題解消措置の有効性を慎重に検証し、多くの市場参加者や利害関係者から意見を集めた。特に、クラウドゲームストリーミングサービス配信事業者からは肯定的な意見が寄せられ、ライセンスに関心を示している。これらの事業者の中には、買収完了後、アクティビジョンのゲームをストリーミングするために、提案されたライセンスに基づいて、既にマイクロソフトと契約を締結させていた事業者も存在する。
 
オ 欧州委は、市場からの意見を考慮して提案された問題解消措置によって修正された買収計画は、競争上の懸念をもたらすものではなく、最終的には競争と消費者にとって大きな利益をもたらすものであると判断した。欧州委の承認決定は、本件問題解消措置が完全に遵守されることを条件としており、欧州委の監督の下、独立したトラスティ―がその実施状況を監視することになる。

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