2023年8月

EU

欧州委員会、大韓航空によるアシアナ航空の買収計画について、異議告知書を送付

2023年5月17日 欧州委員会 公表

原文

【概要】
 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、大韓航空に対し、同社によるアシアナ航空の買収計画が、欧州経済領域(以下「EEA」という。)と韓国の間の旅客及び貨物の航空輸送サービス市場における競争を制限する可能性がある旨の予備的見解を通知した。
 大韓航空及びアシアナ航空(以下「当事会社」という。)は、韓国において、それぞれ1番目及び2番目に大きい航空会社である。当事会社は、国内線やアジアの短距離路線のほか、韓国とその他の地域との間の長距離路線を運航している。
 
異議告知書の概要
 欧州委は、2023年2月、大韓航空によるアシアナ航空の買収がEEAと韓国との間の旅客及び貨物の航空輸送サービスの提供における競争を制限する可能性の有無について評価するための詳細審査を開始した。
 欧州委は、買収の潜在的な影響を把握するため、広範な審査を実施した。同審査では、当事会社から提出された内部文書の分析や、競合する航空会社、潜在的な市場参入者、顧客からの情報や意見の収集などを行った。
 欧州委は、詳細審査の結果、本件買収計画について、以下の可能性があることを懸念している。
①    韓国とフランス、ドイツ、イタリア及びスペインとの間の4路線における旅客輸送サービスの提供に係る競争の減殺
②    ヨーロッパ全土と韓国との間の貨物輸送サービスの提供に係る競争の減殺
 
 大韓航空とアシアナ航空は、EEAと韓国との間の旅客及び貨物の輸送について、互角に競争している。当事会社を合わせると、上記経路における圧倒的に最大の旅客及び貨物の運送業者となり、本件買収によって顧客にとっての重要な代替手段が失われる可能性がある。他の競合事業者は、規制などの障壁に直面してサービスを拡大することができず、統合後の当事会社に対し十分な競争圧力をかけることができない可能性がある。したがって、統合は、旅客及び貨物の航空運送サービスの価格上昇及び品質低下を招くおそれがある。
 
当事会社及び商品
 大韓航空は、韓国に本社を置き、国内線及び国際線の旅客運送及び航空貨物運送事業を行うフルサービスキャリア(訳注:LCCではない航空会社)である。同社は、ソウルの仁川空港を主要ハブとして、ハブアンドスポークネットワークを運営している。同社は、スカイチームアライアンスに加盟している。
 アシアナ航空は、韓国に本社を置き、国内線及び国際線の旅客運送及び航空貨物運送事業を行うフルサービスキャリアである。同社は、ソウルの仁川空港を主要ハブとしている。同社は、スターアライアンスに加盟している。
 
背景
 異議告知書は、審査における正式な段階であり、欧州委が当事会社に対し、提起された異議を書面で通知するものである。異議告知書の送付は、審査結果に予断を与えるものではない。現在、大韓航空は、本件異議告知書に対し回答書を提出する、欧州委の事案資料を参照する及び口頭審理を要求する機会を有している。
 本件買収計画は、2023年1月13日に欧州委に届け出られた。欧州委は、2023年2月17日に詳細審査を開始し、2023年8月3日までに最終決定を下す必要がある。

欧州委員会、新たな水平一括適用免除規則及び水平ガイドラインを採択

2023年6月1日 欧州委員会 公表

原文

【概要】
 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、現行規則の精査・見直しを行い、改定された研究開発(R&D)に関する水平一括適用免除規則及び専門化協定に関する水平一括適用免除規則(両者をまとめて以下「HBERs」という。)並びに改定された水平ガイドラインを採択した。改定されたHBERs及び水平ガイドラインは、事業者が水平協定のEU競争法への適合性を評価するのに役立つ、より明確で最新のガイダンスを提供するものである。新しいHBERsは2023年7月1日に、改定された水平ガイドラインはEU官報に掲載された後に発効する。
 
主な改正点
 HBERsは、一定の条件の下で、研究開発及び専門化協定をEU機能条約第101条第1項の禁止行為から除外している。したがって、HBERsは、特定の協定がEU競争法から一括適用免除されるセーフハーバーを提供している。
 本日(2023年5月31日)採択された改正規則は、以下のような変更を行っている。
1  専門化協定に関する一括適用免除規則の適用範囲を拡大し、2者以上の当事者によって締結されるより多くの種類の生産協定を対象とする。さらに、改正規則は、一括適用免除を行うための市場シェアの算出方法について、より柔軟なアプローチを導入し、その適用方法に関する具体的なガイダンスを盛り込んだ。 
2 研究開発に関する一括適用免除規則を適用するための市場シェアの計算に関しては、明確性及び柔軟性を高め、その適用方法に関するガイダンスを盛り込んだ。具体的には、特に、市場シェアの算出が不可能な場合は、イノベーション競争の保護がより重視され、この観点から、個々の問題のあるケースにおいて、欧州委及び加盟国の競争当局が適用免除を行わないこととする権限を有していることを強調している。
3 協調的行為、潜在的競争、目的及び効果による制限、付随的制限などの重要な概念に関する最新の判例を用いて、ガイドラインの序章を更新した。また、序章では、ジョイントベンチャーとその親会社との間の契約へのTFEU第101条の適用に関する新しいガイダンスや、二種類以上の活動(例えば、生産と販売)に関する協定を含む契約へのガイドラインの適用方法に関する拡充されたガイダンスも盛り込んだ。
4 水平ガイドラインの生産協定に関する章の最近の執行事例を反映し、モバイル通信インフラシェアリング契約に関する新しいセクションを設けた。ここでは、当該協定の評価に関連する要素を示し、競争法に違反するリスクを減らすために事業者が遵守しなければならない最低限の条件を列挙している。
5 最近の事例を反映し、水平ガイドラインの購入協定に関する章を拡充・明確化した。この章では、共同購入と購入カルテルの区別を説明しており、買い手が共同で購入条件を交渉するが各買い手が独立して購入する場合も共同購入に該当することを明確にしている。また、上流の供給側における反競争的効果の可能性を一層重視し、一時的な発注停止の活用を含む特定の共同交渉手法についてガイダンスを提供している。
6 水平ガイドラインの販売協定に関する章を拡充し、入札コンソーシアムに関する新しいセクション並びに入札コンソーシアム及び入札談合との区別に関するガイダンスを盛り込んでいる。
7 水平ガイドラインの情報交換に関する章について、最新の判例と執行実績を反映させるために再構築し、拡充した。この章には、①事業上の機微な情報の概念、②目的による競争の制限となり得る情報交換の種類、③データプールの潜在的な競争促進効果、④ハブ&スポーク協定を含む情報交換の間接的な形態、⑤公表による反競争的なシグナリング及び⑥情報交換の範囲の限定、クリーンチーム又は独立したトラスティの活用、公的に距離をとるなど違反を避けるために事業者が採ることができる実務措置などについてのガイダンスが盛り込まれている。
8 水平ガイドラインの標準化協定に関する章について、標準設定プロセスへのオープンな参加に関する要件により柔軟性を持たせる改正を行った。この章では、①標準化協定の当事者による最大累積ロイヤリティ割合の開示が反競争的ではないこと、②協定参加者が関連する知的財産権を開示する必要があるということを明確にした。
9 サステナビリティ協定を対象とする水平ガイドラインの新章は、持続可能な目的を追求する競争者間の協定について、競争法のルールが妨げにならないことを明確にしている。ここでは、国連の持続可能な開発目標に基づく持続可能な目的の幅広い定義が盛り込まれており、一般的にTFEU第101条第1項の適用範囲外となるサステナビリティ協定の多様な例が挙げられている。また、新ガイドラインは、一定の条件を満たすサステナビリティ標準化協定に対して、ソフトセーフハーバーを設け、考慮される可能性のある利益の種類を示すことで、サステナビリティ協定がどのように適用免除になるかを明らかにしている。また、サステナビリティ協定の新章には、TFEU第101条の適用を示す仮想事例も盛り込まれている。そして、サステナビリティ協定の締結を望む事業者に対して、EU競争法の遵守を確実にするため、欧州委に対して、非公式なガイダンスを求めることができる旨を周知している。そのようなガイダンスの提供は、サステナビリティに関する新章で示された一般的な分析の枠組みを補完するものとなり得る。

欧州委員会、グーグルに対し、アドテク分野の市場支配的地位の濫用行為があったと予備的に認め、異議告知書を送付

2023年6月14日 欧州委員会 公表

原文

【概要】
 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、グーグルに対して、同社が広告テクノロジー分野(以下「アドテク分野」という。)において競争を歪めることによりEU競争法に違反した旨の予備的見解を通知した。欧州委は、グーグルが自社のオンラインディスプレイ広告テクノロジーサービスを優遇し、競合する広告テクノロジーサービスのプロバイダー、広告主、オンラインパブリッシャー(以下「パブリッシャー」という。)に不利益を与えていることを問題にしている。
 
 グーグルは米国の多国籍テクノロジー企業であり、主力サービスは検索エンジンのグーグル検索である。グーグルは、動画配信プラットフォームのYouTubeやモバイルOSのAndroidなど、他の人気サービスも運営している。グーグルの主な収益源はオンライン広告であり、①自社のウェブサイトやアプリの広告スペースを販売している。また、②オンラインに広告を掲載したい広告主と、そのようなスペースを提供できるパブリッシャー(例:サードパーティーのウェブサイト及びアプリ)の間を仲介している。
 広告主とパブリッシャーは、新聞のウェブサイトのバナー広告など、検索クエリにリンクされていないリアルタイム広告の配置について、アドテク分野において提供される以下の3つのデジタルツールに依存している。
① パブリッシャーがウェブサイトやアプリの広告スペースを管理するために使用するパブリッシャー向け広告サーバー
② 広告主が自動広告キャンペーンを管理するために使用する広告を購入するツール
③ パブリッシャーと広告主がリアルタイムで、通常はオークションを介して取引し、ディスプレイ広告を売買する広告取引所
 
 グーグルは、ウェブサイト又はモバイルアプリに広告を表示するために広告主とパブリッシャーを仲介するアドテクサービスのうち、以下のサービスを提供している。
① 広告購入ツールである「グーグル Ads」及び「DV 360」
② パブリッシャー向けアドサーバーである「DoubleClick For Publishers(DFP)」
③ 広告取引所(アドエクスチェンジ)である「AdX」  
 
異議告知書の概要
(1) 欧州委は、以下の2つの市場において、グーグルが欧州経済領域全体の市場支配的地位にあると予備的に判断している。
ア  DFPを提供しているパブリッシャー向けアドサーバーに関する市場
イ 「グーグル Ads」及び「DV360」を提供しているオープンウェブの自動広告購入ツールに関する市場
 
(2) 欧州委は、少なくとも2014年以降、グーグルが市場支配的地位を次のように濫用したと予備的に認定した。
ア 自社が市場支配的な地位にあるパブリッシャー向けアドサーバーである「DFP」が実施する広告の選定入札において、自社のアドエクスチェンジである「AdX」を優遇した。例えば、この入札で落札するために、競合他社の最高入札額を事前に「AdX」に知らせるなどしていた。
イ 広告購入ツールである「グーグル Ads」と「DV360」の広告取引の入札において、自社の「AdX」を優遇した。例えば、「グーグル Ads」は競合するアドエクスチェンジを避け、主に「AdX」で入札を行うことで、「AdX」を最も魅力的なアドエクスチェンジとしていた。
 
(3) 欧州委は、グーグルの故意と疑われる行為が、「AdX」に競争上の優位性を与えることを目的とし、競合するアドエクスチェンジを閉め出す可能性があることを懸念している。これにより、アドテクのサプライチェーンにおけるグーグルの「AdX」の中心的な役割と、グーグルが自社サービスの提供に当たって高い料金を課すことができる能力が強化されていると考えている。
 仮に上記の行為が認定された場合、これらの行為は、市場支配的地位の濫用を禁止するEU機能条約(以下「TFEU」という。)第102条に違反することになる。
 
(4) 欧州委は、本件においては、グーグルがこのような自己優遇を継続し、又は新たな自己優遇を行うリスクを防ぐためには、行動的措置は効果的でない可能性が高いと予備的に判断している。グーグルは、パブリッシャーのアドサーバー側と広告購入ツール側の両方の市場で活動し、いずれにおいても圧倒的な地位を占めており、さらに、最大のアドエクスチェンジも運営している。これは、グーグルにとって先天的に利益相反が内在する状況を生じている。したがって、欧州委は、競争上の懸念に対処するためには、強制的にグーグルに対して自社サービスの一部を売却させるしかないと予備的に判断している。
 なお、異議告知書の送付は、調査の結果に予断を生じさせるものではない。

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