2024年2月

EU

欧州委員会、アドビによるフィグマの買収計画に対し異議告知書を送付

2023年11月17日 欧州委員会 公表

原文

【概要】
 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、アドビに対し、同社が計画しているフィグマの買収は、双方向性のある製品設計ツール及びその他の創造的な設計ソフトウェアツールのグローバルな供給市場における競争を制限する可能性があるとの予備的見解を示した異議告知書(Statement of Objections)を送付した。
 アドビは、創造的な設計ソフトウェアツール(イラストレーター、フォトショップ等)、双方向性のある製品設計ツール(アドビXD)等を提供する世界的なソフトウェア企業である。フィグマは、双方向性のある製品設計のためのウェブ上のコラボレーションツール(フィグマデザイン)やホワイトボードツール(訳注:オンライン会議用のホワイトボード)を提供している。
 双方向性のある製品設計ソフトウェアツールは、主にウェブサイト、モバイルアプリケーション、その他のデジタル製品を設計するために使用される。創造的な設計ソフトウェアを使えば、ユーザーは写真(いわゆる「ラスター画像」)、グラフィック・イラスト(いわゆる「ベクター画像」)、動画などのデジタルコンテンツを作成又は編集することができる。
 
1 異議告知書の概要
 2023年8月7日、欧州委は、アドビによるフィグマの買収が、双方向性のある製品設計ツール、ベクター編集ソフトウェア、ラスター編集ソフトウェアの供給市場における競争に影響を及ぼすかどうかを評価するため、詳細審査を開始した。
 この詳細審査の結果、欧州委は、本件買収計画が、以下のとおり、(1)双方向性のある製品設計ツールの供給分野並びに、(2)ベクター編集ツールの供給及びラスター編集ツールの供給における各世界市場において競争を著しく制限する可能性があるとの予備的な結論に達した。
 
(1) フィグマは、双方向性のある製品設計ツールの供給分野において、首位の事業者であることは疑義がなく、アドビは同社の最大の競合相手である。本件買収の実行は、両者の市場における地位を一体化させることを通じて、独占的な事業者を創出する。さらに、アドビ独自の双方向性のある製品設計ツールであるアドビXD及びその後継品の製造が中止されるため、いわゆる「逆キラー買収」となる。
 
(2) アドビは、ベクター編集ツール及びラスター編集ツールの供給分野において、潜在的な競争相手であるフィグマを排除することにより、これらの分野における自社の市場支配力を強化することとなる。フィグマは、アドビのベクター編集ツールであるイラストレーターや、ラスター編集ツールであるフォトショップに対して、既に大きな競争圧力をもたらしている。さらに、本件買収が実行されなければ、フィグマは上記分野に参入し、効果的な競争力を持つ企業に成長する可能性がかなり高い。
 
 欧州委は、本件買収の潜在的な影響を把握するため、広範な審査を実施してきた。この審査には、当事会社から提供された内部文書の分析、競合するソフトウェアプロバイダー及び顧客からの情報及び見解の収集等が含まれる。
 
 欧州委は、初期審査及び詳細審査のいずれにおいても、他の競争当局と緊密に協力しており、詳細審査の残りの期間中もこのような協力を継続する予定である。
 
2 当事会社及びその製品
 アドビは米国の世界的ソフトウェア企業であり、フォトショップ、イラストレーター、プレミアム・プロ、XDといったデジタルコンテンツの作成及び配信が可能な製品を提供している。アドビは、世界各国及び欧州経済領域(EEA)において大規模な事業を展開している。アドビは、多くのツールを単独で提供する他、いわゆるクリエイティブ・クラウド・バンドルといったセット販売でも提供している。
 
 フィグマは、フィグマ・デザイン(コラボレーション設計ソフトウェア)やフィグ・ジャム(ホワイトボードツール)といった双方向性のある製品設計ツールを提供する、世界的な米国のソフトウェア企業である。
 
3 背景
 異議告知書は、欧州委が当事会社に対して提起する異議の内容を書面で通知するもので、審査における正式な手続である。
 異議告知書の送付は、審査の結果を予断するものではない。アドビは現在、欧州委の異議告知書に回答し、口頭審理を要求する機会を与えられている。
 本件買収は、企業結合規則第22条に基づき、16か国から欧州委に移送された後、2023年6月30日に欧州委に届出がなされた。欧州委は2023年8月7日に詳細審査を開始し、2024年2月5日までに最終決定を下す。

欧州委員会、アマゾンによるアイロボットの買収計画に対し異議告知書を送付

2023年11月27日 欧州委員会 公表

原文

【概要】
 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、アマゾンに対し、同社が提案しているアイロボットの買収は、ロボット掃除機市場における競争を制限する可能性があるとの予備的見解を示した異議告知書(Statement of Objections)を送付した。
 
1 当事会社
 アマゾンは、小売業者が商品(ロボット掃除機を含む)を広告し、ユーザーに販売できるオンラインマーケットプレイス(アマゾンストア)を提供している。アマゾンは、アマゾンストアで様々な製品(ロボット掃除機を含む)の小売業者として活動している。アイロボットは、ロボット掃除機を製造・販売し、アマゾンのオンラインマーケットプレイスにおいても販売している。
 
2 異議告知書の概要
 2023年7月6日、欧州委は、アマゾンによるアイロボットの買収が、(i)ロボット掃除機の製造・供給市場における競争を制限する可能性があるかどうか、(ii)サードパーティー販売者に対するオンラインマーケットプレイスのサービス市場(関連広告サービスを含む)及びその他のデータ関連市場におけるアマゾンの地位を強化することになるかを評価するため、詳細審査を開始した。
 この詳細審査の結果、欧州委は、アマゾンが、競合するロボット掃除機メーカーの効果的な競争力を阻害することにより、欧州経済領域(EEA)又は各国のロボット掃除機市場において、競争を制限する可能性があることを懸念している。特に以下の点を指摘している。
 
(1) アマゾンは、競合事業者がアマゾンのオンラインマーケットプレイスにおいてロボット掃除機を販売することを阻害したり、競合事業者のアクセスを低下させたりすることを目的として、以下のような閉鎖戦略を行うことにより、アイロボットの競合事業者を排除する能力及び動機を有している可能性がある。
(ア) 競合事業者の掃除機を検索結果のリストから除外すること。  
(イ) アマゾンのオンラインマーケットプレイスにおける無料検索結果(オーガニック検索)及び有料検索結果(広告付き検索)の両方において、競合事業者のロボット掃除機を目立たなくすること。
(ウ)特定のウィジェット(「こちらもおすすめ」に表示される他の製品リストなど)又は特定の商業的に魅力的な製品ラベル(「Amazon's choice」や「Works With Alexa」など)へのアクセスを制限すること。
(エ)アイロボットの競合事業者がアマゾンのオンラインマーケットプレイスでロボット掃除機を宣伝及び販売するコストを直接的又は間接的に引き上げること。
 
 アマゾンのオンラインマーケットプレイスはフランス、ドイツ、イタリア及びスペインでロボット掃除機を販売するために特に重要なプラットフォームであるため、アマゾンは同プラットフォームからアイロボットの競合事業者を閉め出す能力を持つ可能性がある。これらの国のロボット掃除機のユーザーは、製品を発見することにおいても、最終的な購入決定においても、アマゾンに強く依存している。
 
(2) アマゾンは、経済合理性の観点から、アイロボットの競合事業者を排除するインセンティブを持つ可能性がある。本件買収が実行された場合、当事会社にとっては、アイロボットの競合事業者やその関連商品のアマゾンストアでの販売が減少した場合に失う利益よりも、アイロボットのロボット掃除機を追加で売り上げることから得る利益の方が多いと考えられる。このような利益には、アイロボットのユーザーから収集した情報から得られる利益も含まれる。
 
(3) このような排除戦略が実施されると、ロボット掃除機市場における競争を制限し、価格の上昇、品質の低下及び消費者に利益をもたらすイノベーションの低下を招くおそれがある。
 
 欧州委は、本市場と本件買収による潜在的な影響を理解するため、両当事会社から提供された内部文書の分析、ロボット掃除機その他のスマートホーム機器のサプライヤー、オンライン販売チャネルのプロバイダーなどの市場参加者からの意見募集などを含む広範な審査を実施した。
 欧州委は、初期審査及び詳細審査のいずれにおいても、他の競争当局と緊密に協力しており、詳細審査の残りの期間中もこのような協力を継続する予定である。
 
3 今後の手続
 アマゾンは現在、欧州委の異議告知書に回答し、欧州委の事件資料を参照し、口頭審理を要求する機会を与えられている。本件買収計画は2023年6月1日に欧州委に届出書が提出され、欧州委は2023年7月6日に詳細審査を開始しており、2024年2月14日までに最終決定を下す。

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