2024年9月

EU

欧州委、メタに対し、デジタル市場法違反の予備的な調査結果を通知

2024年7月1日 欧州委員会 公表

原文

【概要】

1 概要

 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、2024年7月1日、メタに対し、同社の「支払か(個人データの収集・組合せへの)同意か」(Pay or Consent)の二者択一的な広告モデルがデジタル市場法(DMA)に準拠していないという予備的な調査結果を通知した。欧州委の予備的見解は、この二者択一的なモデルが、ユーザーに、ユーザーの個人データを組み合わせることへの同意を強いるものであり、よりパーソナライズ度の低いメタのソーシャル・ネットワークの同等のサービスをユーザーに提供することを怠っている、としている。

2 メタの「支払か同意か」モデルに関する予備的調査結果
(1) オンライン・プラットフォームは、オンライン広告サービスを提供するために、自社サービスやサードパーティ・サービスを通じて個人データを収集することが多い。DMAに基づいて指定されたゲートキーパーはデジタル市場における重要な地位を有しているので、ユーザーに対し、膨大な量の個人データを収集することを可能にする大規模なユーザーデータベースの利用条件を課すことができる。これにより、ゲートキーパーは、そのような膨大なデータにアクセスできない競合他社と比較して潜在的な優位性を得て、オンライン広告サービスやソーシャル・ネットワークサービスを提供する上で障壁を高めることができるようになっている。

(2) DMAの下では、ゲートキーパーは、指定されたコア・プラットフォーム・サービスと他のサービスとの間で個人データを組み合わせることについて、ユーザーの同意を求めなければならず(第5条第2項)、ユーザーがそのような同意を拒否した場合、ユーザーが、よりパーソナライズされていないが同等の代替サービスを利用できるようにしなければならない(DMA前文(36)(注))。ゲートキーパーは、ユーザーの同意を条件としてサービスや特定の機能を利用してはならない。
(注)DMA前文 (36)「ゲートキーパーは、コア・プラットフォーム・サービスの競争力を不当に損なわないようにするため、よりパーソナライズされていないが同等の代替手段を提供することで、エンドユーザーがそのようなデータ処理及びサインイン慣行を自由に選択できるようにすべきである。」

(3) DMAの導入に対応して、メタは2023年11月、フェイスブックとインスタグラムのEU域内のユーザーが、(i) 広告のないバージョンのソーシャル・ネットワークに月額料金を支払って加入するか、(ii) パーソナライズされた広告のあるバージョンのソーシャル・ネットワークに無料でアクセスするかのいずれかを選択しなければならない、「支払か同意か」の二者択一モデルを導入した。

(4) 欧州委は、メタの二者択一モデルは、DMA第5条第2項が定める必要条件を満たしておらず、とりわけ以下の2点でDMAに準拠していないとの予備的見解を示している。
 メタのモデルについて、以下の問題を指摘している。
・ ユーザーが、個人データの利用のより少ない「パーソナライズされた広告」ベースのサービスと同等のサービスを選択することができない。
・ ユーザーが、個人データの組合せに(強制されずに)自由に同意することができない。
 DMAの遵守を確実にするためには、同意しないユーザーに対しても、本件の広告のパーソナライズにおいて、個人データの使用が少ない同等のサービスを利用できるようにするべきである。
 欧州委は、本件調査を通して、関係するデータ保護当局と調整してきた。

3 次のステップ
(1) 欧州委はメタに対し予備的調査結果を送付することにより、同社がDMAに違反しているという予備的見解を通知する。これは欧州委の最終的な判断結果に予断を与えるものではない。メタは、欧州委の調査ファイルを精査し、予備調査結果に対して書面で反論することにより、防御権を行使することができる。欧州委は、2024年3月25日の審査開始から12か月以内に本件調査を終了する。

(2) 欧州委の予備的見解が最終的に維持された場合、メタのモデルがDMA第5条第2項違反と認定する決定を採択することになる。欧州委は、効果的なDMA遵守に向けた納得のいく道筋を模索するため、メタとの建設的な関係を続けている。

4 マーガレット・ヴェステアー欧州委副委員長(競争政策担当)のコメント
 我々の調査は、メタのようなゲートキーパーが長年にわたって何百万人ものEU市民の個人データを蓄積してきた市場において、競争可能性を確保することを目的としている。我々の予備的見解では、メタの広告モデルはDMAに準拠していない。そして我々は、市民が自らのデータをコントロールし、よりパーソナライズされていない広告を選択できるようにしたいと考えている。

欧州委、Apple Payに関連する確約案を承認

2024年7月11日 欧州委員会 公表

原文

【概要】

1 概要

 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、EU競争法に基づき、アップルが提示した確約案に対して法的拘束力を付与した。この確約は、店舗でのiPhoneによる非接触型決済に使用される標準技術への競合他社のアクセスをアップルが拒否したことに対する欧州委の競争上の懸念に対処するものである。

2 欧州委の競争法上の懸念について
(1) Apple Payは、アップル独自のモバイルウォレットであり、iPhoneユーザーが店舗やオンライン上でiPhoneを使って支払を行うために使用される。アップルのiPhoneは、アップルのオペレーティングシステム「iOS」のみで動作する。アップルは、モバイルウォレット開発者のアクセス条件を含め、そのエコシステムのあらゆる側面を管理している。
(2) 欧州委は、アップルがスマート携帯端末市場において圧倒的な市場力を持ち、iOS を利用した店舗でのモバイルウォレット市場において市場支配的地位にあると予備的に判断した。アップルがサードパーティのモバイルウォレット開発者にアクセスを認めていないため、Apple Payは、iOS上のNFC(Near-Field-Communication)ハードウェア及びソフトウェア(以下「NFC input」という。)にアクセスし、店舗での支払を行うことができる唯一のモバイルウォレットである。
(3) 欧州委は、調査の結果、アップルがiOS上のNFC inputを競合するモバイルウォレット開発者に提供せず、Apple Payだけにアクセスさせることで、その市場支配的地位を濫用したと予備的に判断した。
(4) 欧州委の予備的な見解によると、アップルのアクセス拒否によりApple Payの競合他社が市場から排除され、イノベーションが減少し、iPhoneのモバイルウォレット利用者の選択肢が狭められた。
(5) このような行為は、市場支配的地位の濫用を禁止しているEU機能条約(TFEU)第102条に違反する可能性がある。

3 確約について
 (1) 欧州委の競争上の懸念に対処するため、アップルは、当初、次のような確約案を申し出た。
・ アップルは、サードパーティのウォレットプロバイダーがApple PayやApple Walletを利用しなくても、iOS端末のNFC inputに無料でアクセスできるようにする。アップルは、HCE(Host Card Emulation)モードでNFCへのアクセスを可能にすること。HCEは、デバイス内のセキュアエレメントに依存することなく、支払認証情報を安全に保存し、NFCを使用して取引を完了することを可能にするものである。
・ サードパーティのモバイルウォレットアプリ開発者にNFCへのアクセスを許可するために、公正、客観的、透明、かつ非差別的な手続と適格基準を適用すること。
・ ユーザーが店舗での支払用のデフォルトアプリとしてHCE決済アプリを簡単に設定でき、Field Detect(ロックされたiPhoneを NFCリーダーにかざすとロックされているユーザーのデフォルトの決済アプリが起動する機能)やDouble-click(端末の側面のボタン又はホームボタンをダブルクリックするとデフォルトの決済アプリが起動する機能)といった関連機能及びTouch ID、Face ID、デバイスパスコードなどの認証ツールを利用できるようにすること。
・ アクセス制限に関するアップルの判断を独立した立場で審査できるよう、監視メカニズムと第三者による紛争解決システムを構築すること。
・ 上記の確約を、欧州経済領域(以下「EEA」という。)で設立された全てのサードパーティのモバイルアプリ開発者及びEEAで登録されたApple IDを持つ全てのiOSユーザーに一時的なEEA外の旅行時も含めて適用すること。
(2) 2024年1月19日から2024年2月19日の間、欧州委は、アップルの確約案についてマーケットテストを行い、全ての利害関係者と協議し、競争上の懸念事項が解消されるかどうかを確認した。このマーケットテストの結果を踏まえ、アップルは当初の提案を修正し、次の確約案を申し出た。
・ 加盟店の携帯電話や端末として使用されるデバイス(いわゆるSoftPOS)など、業界で認定された他の端末でHCE決済アプリを使用して支払を開始できる可能性を拡大すること。
・ アップルは、HCE開発者がHCE決済機能を他のNFC機能や活用方法と組み合わせて使用することを妨げるものではないことを明確に認めること。
・ 開発者が決済サービスプロバイダー(PSP)としてのライセンスを取得すること又は強制力のある取決めをPSPと締結するというNFC inputにアクセスするための要件を削除すること。 
・ 開発者がサードパーティのモバイルウォレットプロバイダー向けに決済アプリを事前構築するためのNFCへのアクセスを許可すること。
・ Apple Payで使用されている業界の標準規格に準拠するようHCEアーキテクチャを更新し、Apple Payで採用されなくなった場合でも、一定の条件下で引き続き標準規格を更新すること。
・ 開発者がユーザーにデフォルトの決済アプリの簡単な設定を促し、デフォルトを設定するページにユーザーを誘導し、数回のクリックでデフォルト設定できるようにすること。
・ HCE決済アプリの開発者と同じ業界標準仕様に準拠し、審査の過程で得られた機密情報を保護すること。
・ 紛争解決の期限を短縮すること。さらに、アップルはモニタリングトラスティ(監査人)に対して、さらなる独立性と手続保障を確保すること。
(3) 欧州委は、アップルの最終的な確約案は、EEAのiOSユーザーによる店舗でのNFC決済へのサードパーティのモバイルウォレット開発者のアクセスを制限したことについての競争上の懸念に対処するものと判断した。そのため、アップルに対して、当該確約案について法的拘束力を付与することを決定した。
 これらの確約は10年間有効であり、EEA全域に適用され、その履行状況は、アップルが任命したモニタリングトラスティが監視し、同期間にわたって欧州委に報告が行われる。
(4) 確約違反があった場合、欧州委は、EU競争法違反を認定することなく、違反企業の年間総売上高の10%を上限とする制裁金を賦課するか、又は、違反企業の日次売上高の5%を履行強制金として違反した日ごとに賦課することができる。

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