2024年10月

EU

欧州司法裁判所、加盟国からIlluminaとGrailの合併審査の要請を受理した欧州委の決定を無効と判決

2024年9月3日 欧州司法裁判所 公表

原文

【概要】

1 欧州司法裁判所(以下「司法裁判所」という。)は、欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、加盟国の競争当局が自国の国内法の下で審査権限を持たない企業結合計画について、当該競争当局に対して、欧州的な側面を持たない(訳注:EU企業結合規則の審査基準を満たさない)企業結合計画の審査を付託するよう促したり、受け入れたりする権限を有していないとの判決を下した。


2 2020年9月21日、がんの早期発見のための血液検査を開発する米国企業のGrail(Grail LLC)及び遺伝子解析ソリューションを専門とする米国企業のIllumina(Illumina Inc.)は、IlluminaによるGrailの単独支配権の取得計画について公表した。Grailは、欧州連合(EU)でも世界の他の地域でも売上高がなかったことを踏まえると、本件企業結合は欧州的な側面がなかったことから、欧州委に届出は行なわれなかった。また、加盟国又は欧州経済領域(EEA)協定の締約国においても、各国の企業結合計画の届出基準に達していなかったため、届出は行なわれなかった。

3 本件企業結合に関する申告を受けた欧州委は、本件企業結合が加盟国間の通商に影響を与え、かつ域内の競争に重大な影響を与えるおそれがあるとして、EU企業結合規則(Council Regulation (EC) No 139/2004 of 20 January 2004 on the control of concentrations between undertakings.)第22条に従い、本件企業結合計画の審査を求める要請書を提出するよう、加盟国に求めた。欧州委は、フランスの競争当局から審査の要請を受け、これにギリシャ、ベルギー、ノルウェー、アイスランド及びオランダの競争当局が加わった。
 欧州一般裁判所(以下「一般裁判所」という。)は、Illumina対欧州委の訴訟の判決(https://www.jftc.go.jp/kokusai/kaigaiugoki/eu/2022eu/202209eu.html)において、欧州委が加盟国からの審査の付託要請を受理した決定及び付託要請への参加を促した決定を争うIlluminaの異議申立てを棄却した。Illumina及びGrailはそれぞれ、この判決に対して上訴した。

4 司法裁判所は、一般裁判所の判決を破棄し、問題となっている欧州委の決定を無効とした。
 司法裁判所は、企業結合規則の文言的、歴史的、文脈的、目的論的な解釈に照らして、欧州委の届出基準に達していない(lacks a European dimension)だけでなく、加盟国の届出基準にも達していないために審査権限を持たない企業結合について、加盟国の当局から、欧州委に当該企業結合を審査するよう要請することができると結論付けた一般裁判所の判断は、誤りだと認定した。特に、EU域内の競争構造に重大な影響を与える全ての企業結合を効果的に規制するための「是正メカニズム」の役割を同規則が果たしているとした点で、一般裁判所の判断は誤りであった。

5 司法裁判所は、一般裁判所の解釈はEU企業結合規則が追求する様々な目的間のバランスを崩す可能性がある、としている。この点に関して、司法裁判所は、企業結合を届け出なければならないか否かを決定するために設定された届出基準は、関係事業者にとって予見可能性及び法的確実性を保証する重要なものであると判断している。企業結合を計画する関係事業者が、提案された企業結合が第一次審査の対象となるかどうか、第一次審査の対象となる場合には、どの当局の、どのような手続要件に従わなければならないかを容易に判断できるようにしなければならない。

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