2024年11月

EU

欧州一般裁判所、グーグルのAdSenseに関する欧州委の決定を取消し

2024年9月18日 欧州一般裁判所 公表

原文

【概要】

1 欧州一般裁判所(以下「一般裁判所」という。)は、グーグルに対する2019年の欧州委員会(以下「欧州委」という。)の調査結果の大部分を認めたが、欧州委の決定で市場支配的地位の濫用に該当するとしたグーグルとパブリッシャーの契約条項(訳注:排他条項などの三つの契約条項)の適用期間の評価において、関連する全ての事情を考慮していなかったことなどを理由に、グーグルに約15億ユーロの制裁金を課した欧州委の決定を取り消した。


2 グーグルは、2003年よりAdSenseと呼ばれる広告プラットフォームを運営しており、特にAdSense for Search(以下「AFS」という。)と呼ばれるオンライン広告仲介サービスを含む、様々なサービスを展開してきた。
 AFSは、検索エンジンを組み込んだウェブサイトを運営するパブリッシャーが、そのウェブサイト上でユーザーが入力したオンライン検索ワードに関連する広告を表示することを可能にするものであった。AFSにより、パブリッシャーは広告の表示によって得られる収益の一部を受け取ることができる。AFSを利用する場合、十分な売上高を上げているパブリッシャーは、グーグルと「グーグルサービス契約」(以下「GSA」という。)について交渉することができたが、GSAにはAFSと競合するサービスからの広告を表示することを制限又は禁止する条項が含まれていた。
 2010年、最初にドイツの事業者がドイツ連邦カルテル庁に申告を行い、その後、欧州委に引き継がれた。2011年から2017年にかけて、マイクロソフト、エクスペディア、ドイツテレコムなどの他の事業者も追加の申告を行った。
 2016年、欧州委は、GSAに含まれる三つの契約条項(訳注:①排他条項(グーグルの競合他社の検索連動広告を検索結果ページに掲載することを禁止。)、②配置条項(検索結果のページの上で最も収益力のあるスペースをあらかじめグーグルのために設定。)、③事前承認条項(グーグルの競合他社の広告を表示する方法を変更する前にグーグルからの書面の事前承認を求める。))に関して審査を開始し、その結果、これらの条項がAFSと競合するサービスを排除する可能性があるとの予備的見解を示したところ(異議告知書の送付)、グーグルは、2016年9月、当該条項を削除又は修正した。
 2019年3月、欧州委は、2006年1月から2016年9月にかけて、グーグルが上記三つの条項により三つの別個の違反行為を行い、それらが一体となって継続的な違反(市場支配的地位の濫用)を構成したと認定し、グーグルに14億9445万9000ユーロの制裁金を課し、そのうち1億3013万5475ユーロは親会社であるアルファベットと連帯して支払うよう命じた。

3 今回の判決で、一般裁判所は、欧州委の調査結果の大部分を認めながらも、当該条項の期間及び当該条項の対象となる2016年当時の市場の評価において誤りがあったと判断した。
 一般裁判所は、三つの条項がそれぞれ市場支配的地位の濫用に該当し、それら三つの条項が一体となってEU機能条約(TFEU)第102条の継続的な違反を構成するという点を欧州委が立証できていないと判断し、欧州委の決定全体を取り消した。
 特に、一般裁判所は、当該条項により、パブリッシャーが、グーグルと競合する広告仲介事業者から広告の提供サービスを受けることを妨げられていたのか、グーグルと競合する広告仲介事業者が欧州経済領域(EEA)におけるオンライン検索広告仲介市場の大部分にアクセスすることを妨げられていたのか、ひいては、当該条項が欧州委の決定で認定された市場閉鎖効果をもたらすものであったのかについて、欧州委は立証できていない、と判断した。
 また、一般裁判所は、欧州委が、これらの条項の適用期間の評価において、本件に関連する全ての事情を考慮していなかったとし、パブリッシャーに適用されていたGSAの多くは、数回にわたって更新又は延長された場合でも、個々のGSAの存続期間は僅か数年であったと指摘した。そして、一般裁判所は、欧州委がその決定において、パブリッシャーに適用されていたGSAの累積期間を考慮することにとどまり、パブリッシャーがこれらのGSAの更新や延長の交渉中に、又はパブリッシャーが当該GSAに関して一方的な解約権を持っていた場合に、グーグルと競合する広告仲介事業者から広告の提供を受ける可能性があったかどうかを確認しなかったことを問題とした。さらに、一般裁判所は、当該条項の対象となる市場に関する欧州委の調査結果の大部分を認めた上で、2016年については、同年に特化したデータがないため、欧州委は、当該条項が市場閉鎖効果をもたらしたものであることを立証していないと判断した。
 以上から、一般裁判所は、①当該条項がイノベーションを阻害したこと、②加盟国内におけるオンライン検索連動広告市場におけるグーグルの市場支配的地位の維持・強化を促したこと、③消費者に損害を与えた可能性があることを欧州委は立証していないと判断した。

4 一般裁判所の判決に対しては、判決から2か月と10日以内であれば、法律上の争点に限り、司法裁判所に上告することができる。

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