2025年1月

EU

欧州委、Teva に4億6260万ユーロの制裁金
-競合の多発性硬化症治療薬の参入遅延目的の特許制度の悪用及び誹謗中傷で-

2024年10月31日 欧州委員会 公表

原文

【概要】

1 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、自社の世界的な大ヒット医薬品である多発性硬化症治療薬コパキソンの競争を遅らせるために支配的地位を濫用したとして、Tevaに4億6260万ユーロの制裁金を課した。欧州委は、競合製品の市場参入及び普及を妨げるため、Teva がコパキソンの特許権による保護期間を人為的に延長し、競合製品に関する疑念を抱かせる情報を組織的に広めたと認定した。


2 違反行為
 Tevaは、欧州経済領域で複数の子会社を通じて事業を展開する世界的な製薬企業である。Tevaの大ヒット医薬品であるコパキソンは、多発性硬化症の治療に広く使用されており、Tevaが2015年まで基本特許を保有していた医薬品の有効成分であるグラチラマー酢酸塩を含有している。
 欧州委は、調査の結果、ベルギー、チェコ、ドイツ、イタリア、オランダ、ポーランド及びスペインにおけるグラチラマー酢酸塩市場において、Tevaが支配的地位を濫用していたことを明らかにした。
 Tevaの濫用行為には、競合する安価なグラチラマー酢酸塩医薬品の市場参入及び普及を妨げることにより、競争を遅らせ、コパキソンの独占を人為的に長引かせるという目的があった。欧州委は特に、Tevaについて以下の点を認定した。
(1) 特許制度の悪用
 Tevaは、自社のグラチラマー酢酸塩を保護する特許権が権利満了で間もなく失効するという時に、欧州特許庁(以下「EPO」という。)の分割特許に関する規則及び手続を悪用して、コパキソンの特許保護を人為的に延長した。分割特許は、先行する「親」特許出願から派生したものであり、類似の内容を共有しているが、発明の異なる側面に焦点を当てている可能性があり、特許権の有効性を評価する際には独立して扱われる。本件では、Tevaは複数の分割特許を時期をずらして出願し、グラチラマー酢酸塩の製造行程及び投与計画に焦点を当てたコパキソン周辺の二次特許網を構築した。競合他社は、市場への道を切り開くために、これらの特許出願に異議を申し立てた。Tevaは、EPOの審査を待つ間、暫定的な差止命令を獲得するために競合他社に対して特許権を行使し始めた。特許が取り消されそうになると、Tevaは他の分割特許がドミノのように崩壊する前例となる可能性がある正式な無効審決が出されるのを回避するために、戦略的に特許出願を取り下げた。そうすることで、Tevaは競合他社に、長期にわたる新たな法的紛争を繰り返させた。この戦術により、Tevaは特許を巡る法的不確実性を人為的に長引かせ、競合する可能性のあるグラチラマー酢酸塩医薬品の参入を妨げた。現在、Tevaの分割特許は全て無効となっている。
(2) 組織的な誹謗中傷キャンペーンの実施
 Tevaは、保健関連当局が競合薬を承認し、その安全性、有効性、コパキソンとの治療上の同等性が確認されているにもかかわらず、競合する多発性硬化症の治療薬であるグラチラマー酢酸塩の安全性、有効性、コパキソンとの治療上の同等性に関して疑念を抱かせる情報を広めることにより、組織的な誹謗中傷キャンペーンを実施した。Tevaの誹謗中傷キャンペーンは、いくつかの加盟国における競合製品の参入の遅延又は阻止を目的として、医師、医薬品の価格設定及び償還に関する国の意思決定者などの主要な利害関係者を対象として行われた。
 本決定では、Tevaの上記2つの濫用行為は相互補完的なものであり、合わせて、支配的地位の濫用を禁止するEU機能条約(TFEU)第102条の単一かつ継続的な侵害に該当すると結論付けている。欧州委がこれら2種類の行為に関して制裁金を課すのは今回が初めてである。
 加盟国によって異なるが、4年から9年続いたTevaの行為は、薬価の低下を妨げ、公共医療予算に悪影響を及ぼした可能性がある。これは、競合製品が市場に参入すると薬価が最大80%低下し、医療制度に大幅な節約をもたらしたという事実によって確認できる。
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3 制裁金
 制裁金は、欧州委の制裁金に関する2006年ガイドラインに基づいて算定された。
 欧州委は、制裁金の水準を算定するにあたり、違反行為の重大性及び期間、期間中のTevaの売上高を考慮した。そして、制裁金総額4億6260万ユーロは相応かつ、抑止効果を得るのに必要な額であると判断した。

4 背景
 欧州委は、2019年10月にTeva の子会社数社の施設に立入検査を実施した後、2021年3月にTeva Pharmaceutical Industries Limited 及び Teva Pharmaceuticals Europe BVに対する正式審査を開始した。欧州委は、2022年10月、関係人に異議告知書を送付した。
 本件は誹謗中傷キャンペーンに関する2度目の欧州委の決定である。欧州委は、2024年7月、製薬会社のVifor が反競争的な疑いある誹謗中傷キャンペーンを行った可能性があるとの 欧州委の予備的懸念に対処するため、同社が提出した確約を承認した。
 EU競争法に違反した事業者に課される制裁金は、EUの一般予算に計上される。これによる収入は特定の費用に充てられることはないが、加盟国の翌年度のEU予算への拠出金は、それに応じて減額される。したがって、制裁金はEUの財政を支え、納税者の負担を軽減する。
 欧州委は、本決定について、コパキソンを保護するための濫用戦略の設計に関与した Tevaの社内弁護士作成の文書にも依拠している。EU法では、社内弁護士のやり取りに秘匿特権はない。

5 マーガレット・ヴェステアー上級副委員長(競争政策担当)(当時)の声明
「本日(2024年10月31日)、欧州委がTeva に対し、誹謗中傷及び特許制度の悪用を理由に競争法違反の制裁金を課す決定を下したことは、欧州委の医薬品分野における競争法執行に対するコミットメントを再確認するものである。欧州委は、本決定により、EUの患者及び各国の医療制度のために、医薬品の価格を手頃なものに維持し、治療の選択肢を確保し、イノベーションを促進することに貢献する。」と述べた。

欧州委、メタに対し約8億ユーロの制裁金を賦課

2024年11月14日 欧州委員会 公表
原文

【概要】

1 概要

 2024年11月14日、欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、個人向けソーシャルネットワークであるFacebookにオンライン・クラシファイド広告サービスであるFacebook Marketplaceを抱き合わせて提供したこと、及び他のオンライン・クラシファイド広告サービス供給事業者に不当な取引条件を課したことがEU機能条約(以下「TFEU」という。)第102条に違反しているとして、Facebookを提供するメタに7億9772万ユーロの制裁金を課した。

2 違反行為
 メタは米国のグローバルテクノロジー企業である。同社の代表的なサービスは個人向けソーシャルネットワークであるFacebookであり、また、同社はFacebook Marketplaceと呼ばれる、ユーザーが同サービスで商品の売買を行うことができるオンライン・クラシファイド広告サービスも提供している。
 欧州委は、メタが、少なくとも欧州経済領域(EEA)における個人向けソーシャルネットワーク・サービス市場及び加盟国のソーシャルメディア上のオンライン・ディスプレイ広告市場において市場支配的な地位を占めていると調査を経て認定した。
 その上で、欧州委は、具体的には、メタが以下の行為によってTFEU第102条に違反してその市場支配的地位を濫用したと判断した。
(1) 同社のオンライン・クラシファイド広告サービスFacebook Marketplaceを、同社の個人向けソーシャルネットワークFacebookと抱き合わせて提供した行為。これにより、Facebookのユーザーは、望むと望まざるとにかかわらず、自動的にFacebook Marketplaceにアクセスすることとなり、定期的にそのコンテンツにさらされるようになる。欧州委は、この抱き合わせにより、Facebook Marketplaceが競合他社には太刀打ちできない流通上の実質的な優位性を獲得し、その競合他社が締め出される可能性があると判断した。
(2) メタの非常に人気の高いソーシャルネットワークであるFacebookとInstagramのプラットフォーム上で広告を出す他のオンライン・クラシドファイド広告の供給事業者に対して一方的に不公正な取引条件を課した行為。この取引条件によって、メタは、他の広告主が生成した広告関連データをFacebook Marketplaceの利益のためだけに使用することが可能になっている。

3 制裁金
 欧州委は、メタに対して、この行為を効果的に取り止めるとともに、今後、同様の違反行為を繰り返すことや、同等の目的や効果を持つ行為を行わないように命じた。
 7億9772万ユーロの制裁金は、欧州委の2006年の制裁金に関するガイドラインに基づいて算定された。
 制裁金の額を算定するにあたり、欧州委は違反行為の期間と重大性、及び違反行為に関連するFacebook Marketplaceの売上高を考慮して制裁金の基本となる額を決定した。加えて、欧州委は、メタのような大きな経営資源を持つ企業に対する十分な抑止効果を確保するため、メタの総売上高も考慮した。

4 背景
 2021年6月、欧州委はFacebookによる反競争的行為の可能性について正式な審査手続を開始した(注1)。2022年12月、欧州委はメタに異議告知書を送付し(注2)、同社は2023年6月にこれに回答した。
 市場支配力自体はEU競争法に違反しないが、支配的企業には、支配力を持つ市場及び別の市場で競争を制限することによって、その強力な市場地位を濫用しないという特別な責任がある。 EU競争法に違反した企業に課される制裁金は、EUの一般予算に計上される。これらの収益は特定の費用に充てられることはないが、加盟国の翌年度のEU予算への拠出金はそれに応じて減額される。したがって、制裁金はEUの財政を支え、納税者の負担を軽減する。
(注1) https://www.jftc.go.jp/kokusai/kaigaiugoki/eu/2021eu/202108eu.html
(注2) https://www.jftc.go.jp/kokusai/kaigaiugoki/eu/2023eu/202303eu.html

5 マーガレット・ヴェステアー上級副委員長(競争政策担当)(当時)の声明
 欧州委は、メタが個人向けソーシャルネットワーク・サービス市場及びソーシャルメディア・プラットフォーム上のオンライン・ディスプレイ広告市場における支配的地位を濫用したとして、本日、7億9772万ユーロの制裁金を課した。メタは、オンライン広告サービスであるFacebook Marketplaceを個人ソーシャルネットワークであるFacebookと抱き合わせ、他のオンライン広告サービスプロバイダーに不公正な取引条件を課した。これは、自社のサービスである、Facebook Marketplaceに利益をもたらすためであり、それによって他のオンライン広告サービスプロバイダーが太刀打ちできないような利点を自社に与えている。これはEU競争法違反であり、メタは今すぐこの行為を止めなければならない。

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