欧州委、アップルに対しDMAの相互運用義務の遵守を明確化するための措置を決定
2025年3月19日 欧州委員会 公表
【概要】
欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、2025年3月19日、デジタル市場法(以下「DMA」という。)に基づき、アップルが相互運用義務を遵守するために講じるべき措置を明確化する2つの決定(specification decisions、以下「明確化決定」という(注1)。後記1(1)及び(2))を採択した旨を公表した。
アップルは、2023年9月5日及び2024年4月29日の欧州委の決定により、iOS及びiPadOSのそれぞれがDMAのコアプラットフォームサービスのゲートキーパーに指定された。DMAの下では、アップルのようなゲートキーパーは、開発者に対し、同社のオペレーティングシステム(以下「OS」という。)と、同社のOSを介して制御される又はアクセスされるハードウェア及びソフトウェアの機能との自由かつ効率的な相互運用性を提供しなければならない。
欧州委は2024年9月19日、アップルがDMAの相互運用義務を遵守しているかどうかについて、2件の明確化手続(どのようにDMAの義務を実施すべきかを定めるための調査)を開始していた(注2)。
(注1) DMAに基づく明確化決定は本件が初めて。
(注2) https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_24_4761
1 明確化決定の概要
相互運用性は、サードパーティ製品とアップルのエコシステムとの、より深い、よりシームレスな統合を可能にし、サードパーティがゲートキーパーに指定されたアップルのプラットフォーム上で、革新的な製品やサービスを創出するための新たな可能性を開く鍵となる。これを通じて、欧州の消費者は、より幅広い選択肢の中から、アップルのデバイスと互換性のある製品を選ぶことができるようになる。
欧州委は、iOSとサードパーティの接続機器との相互運用を可能にするために必要な措置を詳細に定め、また、iPhoneやiPadデバイスとの将来的な相互運用に関するリクエストに対応するためにアップルが導入した手続を合理化することで、アップルによるDMAの遵守をサポートしている。
以下の2つの措置は、アップルからの幅広い協力及びパブリックコメント(注3)で出されたサードパーティからの意見も踏まえて、決定された。
(注3) 2024年12月18日、欧州委はアップルに予備的調査結果を通知し、サードパーティの意見を求める措置案を公表した。
https://digital-markets-act.ec.europa.eu/commission-seeks-feedback-measures-apple-should-take-ensure-interoperability-under-digital-markets-2024-12-19_en
(1) 接続機器に関する明確化
これは、主にスマートウォッチ、ヘッドフォン、テレビなどの接続機器に使用される9つのiOS接続機能に関するものである。この措置により、デバイスメーカーやアプリ開発者は、iPhoneの機能にアクセスし、デバイスと連動する機能(スマートウォッチへの通知表示など)、高速データ転送(P2P Wi-Fi接続、近距離無線通信など)や簡単なデバイス設定(ペアリングなど)を改善することができる。
その結果、あらゆるブランドの接続機器がiPhone上でより良く機能するようになる。デバイスメーカーは、革新的な製品を市場に投入する新たな機会を得て、欧州の消費者のユーザー・エクスペリエンスを向上させることができる。これらの措置により、このイノベーションを、アップルのOSの完全性だけでなく、ユーザーのプライバシーとセキュリティを十分に配慮した形で実現できるようになる。
(2) 相互運用性に関するリクエストに対する効率的な手続に関する明確化
これは、iPhone及びiPadの機能との相互運用を必要とする開発者向けにアップルが考案した手続の透明性及び効率性を改善するものである。具体的な内容として、サードパーティにはまだ公開されていない機能に関する技術文書へのアクセスの改善や、タイムリーなコミュニケーション及びアップデート、相互運用性に関するリクエストの審査に関するより予見可能なスケジュールに関するものなどが含まれている。
アップルにより、相互運用性に関するリクエストが迅速かつ公平に処理されることで、アプリ開発者は利益を受ける。当該決定により、アプリ開発者がiPhoneやiPadと相互運用可能な革新的なサービスやハードウェアを欧州の消費者に幅広い選択肢として提供する能力が加速するだろう。
2 今後のステップなど
(1) 上記2つの明確化決定は法的拘束力を有し、アップルは、この決定の条件に従って、明確化措置を講じる必要がある。また、本件決定では、明確化措置の実施時期とアップルが取るべき手順が定められている。
通常通り、アップルは、本件決定に不服があれば、独立した司法府の精査を求めることができる。(2) 明確化決定は、DMAによってゲートキーパーに課された義務の遵守・実施方法を明確にするものであり、ゲートキーパーがDMAを遵守しているかどうかを評価するものではない。明確化決定と遵守義務違反調査は、欧州委が自由に使える2つの異なる手段であり、その目的も異なる。遵守義務違反のケースとは異なり、明確化決定は、DMA違反の制裁ではなく、どのようにDMA上の義務を果たすべきかを定めるものである。そのため、明確化決定は制裁金の賦課を規定していない。
欧州委、廃車リサイクルに関するカルテルについて制裁金を賦課
2025年4月1日 欧州委員会 公表
【概要】
1 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、2025年4月1日、廃車リサイクルに関するカルテルに関与したとして、日本の自動車メーカーを含む15社及び欧州自動車工業会(以下「ACEA」という。)に対して、総額約4億5800万ユーロ(約740億円)の制裁金を賦課した旨を公表した。メルセデス・ベンツは、リニエンシープログラムに基づき欧州委にカルテルを自主申告したため、制裁金を課されていない。対象となった全ての事業者・事業者団体がカルテルへの関与を認め、当局との和解に応じている。
本件について、欧州委は、英国の競争・市場庁(以下「CMA」という。)と連携して、審査を行ってきた。そして、CMAも本日同様の行為について英国競争法に違反するとして、決定を採択している (注1)。
(注1) 欧州委と連携して同様の審査を行ってきたCMAは、欧州委と同日(2025年3月21日)、自動車メーカー10社(BMW、フォード、ジャガー・ランドローバー、プジョー・シトロエン、三菱自動車、日産、ルノー、トヨタ、ボクスホール、フォルクスワーゲン)及び事業者団体2者(ACEA及び英国自動車工業会)に対して、総額約7800万ポンド(約150億円)の制裁金を課した旨公表した。対象となった全ての事業者・事業者団体がカルテルへの関与を認め、当局との和解に応じている。
https://www.gov.uk/government/news/car-industry-settles-competition-law-case
2 EUの環境目標
「廃車(End-of-Life Vehicle(ELV))」とは、経年劣化、摩耗、損傷などにより使用できなくなった自動車を指す。こうした廃車は解体・処理し、リサイクル・回収・処分することとされている。
廃車リサイクルの目標は、廃棄物を最小限に抑え、金属、プラスチック、ガラスなどの貴重な材料を回収することにある。EUの脱炭素化とリサイクルの追求をさらに促進するため、欧州委は本日、バンを含む新車の2025年から2027年にかけてのCO2排出量目標をメーカーが遵守できるようにするための柔軟性のある措置を提案している (注2)。
また、欧州委は、EUの結束政策(Cohesion Policy)の中期見直しの一環として、充電インフラの導入促進のための資金提供も提案した。さらに、欧州委は、EU競争法に基づき、廃車リサイクル分野における業界の協力強化を支援するため、欧州企業が特定の重要原材料をどのように調達し、リサイクルしているかについての実態調査を開始した (注3)。
(注2) https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_854
(注3) https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_911
3 違反行為の概要
(1) 欧州委の審査の結果、15年以上にわたり、大手自動車メーカー16社(制裁金対象から外れたメルセデス・ベンツを含む。)及びACEAは、反競争的な協定を結び、廃車リサイクルに関する協調行為を行っていたと認定された。具体的には、以下の2つのカルテルを認定。
① 自動車解体業者に廃車リサイクルのためのコストを支払わないことを合意していた。具体的には、廃車リサイクルは十分に利益が上がる事業であるとして、自動車解体業者に当該処理費用を支払わないことを合意していた(いわゆる「Zero-Treatment-Cost」戦略)。また、各社は自動車解体業者との個別の契約に関する商業上機密性の高い情報を共有し、自動車解体業者に対する対応を調整していた(いわゆる買い手カルテル)。
② 廃車のリサイクル、リカバリー、リユースの程度や、リサイクル素材が新車にどの程度使用されているかについて宣伝しないことを合意していた。その目的は、消費者が自動車を選ぶ際にリサイクル情報を考慮することを防ぐことであり、それによって企業が法規制以上のことを行うというプレッシャーを軽減することにあった。
(2) 廃車に関する欧州委の指令(2000/53/EC)の下では、最後の廃車所有者は解体業者による廃車処分を無料でできなければならず、必要な場合は自動車メーカーが同費用を負担する義務がある。さらに、自動車メーカーは、新車のリサイクル性能について消費者に情報を提供する必要がある。
(3) 審査の結果、ACEAがカルテルの調整役を務め、カルテルに関与する自動車メーカー間の数多くの会議や連絡を仕切っていたことが明らかになった。
(4) 欧州委の審査により、欧州経済領域(EEA)において、2002年5月29日から2017年9月4日までの15年以上にわたって単一かつ継続的な違反行為が行われていたことが明らかになった。
4 制裁金
(1) 制裁金は、欧州委の2006年の制裁金に関するガイドラインに基づいて決定された。制裁金の額を決定するにあたり、違反の対象となった自動車の台数、違反の性質、地理的範囲、期間など、様々な要素を考慮した。例えば、ホンダ、マツダ、三菱自及びスズキについては、違反への関与が軽微であったことを考慮して制裁金を決定し、ルノーについては、新車におけるリサイクル素材の使用を宣伝しないという合意の適用除外を明確に求めていたという証拠があったため、制裁金の減額を認めている。
(2) リニエンシープログラムに基づき欧州委に協力した企業は4社あり、メルセデス・ベンツはカルテルを申告したことにより全額免除となり、約3500万ユーロの制裁金を免れた。また、ステランティス(オペルを含む)、三菱自及びフォードは欧州委の審査への協力により制裁金の減額対象となった。減額された額は、欧州委への協力のタイミングとカルテルの存在を証明するために提供された根拠によって決定されるが、3社とも、リニエンシー告示で想定されている、複数の企業がリニエンシーを申請した場合に適用可能な最大限の減額が適用された。
(3) 全ての当事者がカルテルへの関与と責任を認めたため、欧州委は、2008年の和解に関する通達に基づき、全当事者に対し制裁金の10%の減額を適用した。
ACEAへの制裁金は、その調整役としての役割、ACEAの全ての加盟自動車メーカーが個別に制裁金を課された事実を考慮して決定された。

各当事者に課された制裁金の額、違反期間は次のとおりである。