欧州委、ボーイングによるスピリットの買収を条件付きで承認
2025年10月14日 欧州委員会 公表
【概要】
1 概要
欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、EU企業結合規則に基づき、Boeing Company(以下「ボーイング(注1)」という。)による Spirit AeroSystems Holdings, Inc.(以下「スピリット(注2)」という。)の買収計画(注3)について、当事会社が提示したコミットメントを完全に履行することを条件に承認した。
(注1) 米国に本社を置く、民間航空機や防衛・宇宙・安全保障システムを設計、製造及び販売するとともに、関連サービスを全世界に提供する企業。
(注2) 米国に本社を置く、民間航空機や軍用航空機、ビジネスジェット向けの航空機構造部品を製造・販売するとともに、民間航空機や軍用航空機向けのアフターマーケットサービスを全世界に提供する企業。
(注3) ボーイングが、2025年8月26日に欧州委に届出。
2 欧州委による審査
欧州委は、当初の届出内容の下では、本件買収計画が航空機構造部品及び大型民間航空機の世界市場における競争を著しく減少させるおそれがあると懸念した。スピリットは主として大型民間航空機向けの航空機構造部品を製造・販売しており、これらはボーイング及び Airbus SE(以下「エアバス(注4)」という。)等の大型民間航空機の製造販売業者によって使用される。
特に、欧州委の調査により、本件買収の実行後、当事会社(ボーイング及びスピリット)は次のような能力及びインセンティブを有することが明らかとなった。
(1) 特に、エアバスに対し、航空機構造部品の供給を停止、又は供給条件を悪化させることが可能であり、インセンティブも有すること
(2) エアバスに関する商業上の機微な情報にアクセスし、それを自社の利益のために利用し得ること
(注4) オランダに本社を置き、主にフランスで、民間航空機や多様な防衛・宇宙製品を設計、製造及び販売する世界有数の航空宇宙企業。
3 提案されたコミットメント
欧州委の予備的な競争上の懸念に対処するため、ボーイングは次のコミットメントを申し出た。
(1) エアバスに航空機構造部品を供給しているスピリットの全ての事業(必要な資産及び人員を含む。)をエアバスに譲渡すること。
(2) エアバスを含む複数企業に航空機構造部品を供給しているスピリットのマレーシア部門を、Composites Technology Research Malaysia Sdn. Bhd.(以下「CTRM(注5)」という。)に譲渡すること。
(注5) マレーシアに本社を置く、先進航空宇宙向け複合材、特に複合材サブアセンブリを世界の航空宇宙関連サプライヤーに供給する企業。
これらの構造的なコミットメントは、欧州委が確認した競争上の懸念を完全に解消するものである。これにより、エアバスは、自社に航空機構造部品を供給しているスピリットの事業(以下「譲渡対象事業」という。)をエアバス自身の配下に統合し、サプライチェーンの安定性を確保することが可能となる。また、CTRM が新たな競争事業者として航空機構造部品市場に参入することが可能となる。
市場テストにおいて肯定的な意見が寄せられたことを踏まえ、欧州委は、当該コミットメントにより修正された買収計画は、もはや競争上の懸念を生じさせないと結論付けた。
欧州委は本決定において、譲渡対象事業の買手としてエアバス及び CTRM を適格と認定した。特に、欧州委は両社が次の基準を満たすことを確認した。
・ 統合後の事業体から独立し、かつ、関係を有しないこと
・ 譲渡対象事業を存続可能かつ活発な競争主体として維持・発展させるための財務的資源及び関連分野の実証された専門性、インセンティブや能力を有すること
・ 譲渡対象事業の取得後、新たな競争上の問題を生じさせるおそれがなく、また、コミットメントの履行遅延のリスクを生じさせないこと
本決定は、コミットメントの完全な履行を条件とするものである。欧州委による監督の下、独立したトラスティがその履行状況を監視する。
4 テレサ・リベラ上級副委員長による声明
スピリットは、ボーイングやエアバスといった大型民間航空機メーカーにとって重要な航空機構造部品の供給者である。欧州委は、ボーイングがスピリットを買収することにより、競合他社であるエアバスに対する供給を停止又は制限するインセンティブが生じるおそれがあることを懸念した。このような事態は、価格の上昇や大型民間航空機部品の調達が困難になる状況を招き、欧州の旅客がより高い航空運賃を負担することにつながった可能性がある。ボーイングのコミットメントは、この重要な市場における競争を維持し、新たな競争者の参入を可能にするとともに、航空機メーカーが必要な部品を競争的な価格で調達できる状態を確保するものである。
2025年9月19日、エアバスは、ボーイングのコミットメント(エアバスがスピリットの航空機構造部品事業を買収すること)について、フランス競争委員会(以下「仏競争委」という。)に届出した。
仏競争委は、欧州委と連携して本件コミットメントに関する競争への影響を分析した結果、次のとおり結論付けた。
仏競争委は、航空機構造部品供給市場において、水平的効果による競争阻害のおそれはないと判断した。
また、仏競争委は、大型商用航空機製造市場におけるエアバスの事業と、航空機構造部品供給市場におけるスピリットの事業との間の垂直的連携がもたらす競争上のリスクについても検討した。しかし、本件取引(エアバスがスピリットの航空機構造部品事業を買収すること)は、エアバスとスピリットとの間に既に存在している供給関係を、エアバスの事業に統合するものである。さらに、スピリットの譲渡対象事業は、既存のエアバス向け航空機構造部品の製造に特化して構成されている。一方で、航空機構造部品供給市場は長期的な関係が特徴であることから、本件取引は、航空機構造部品供給市場における第三者(既存の供給業者、参入可能性のある供給業者かを問わない。)やエアバスと競合関係にある航空機製造業者に対しても、重大な影響を及ぼさない。
したがって、仏競争委は、垂直的効果による競争阻害のおそれも排除できるとの結論に至った。
(2)商業的に機密性の高い情報が共有されるリスクに関する判断
垂直統合により、統合後の事業体は上流市場(航空機構造部品供給市場)及び下流市場(航空機製造市場)の競合他社の事業に関する商業的に機密性の高い情報にアクセスできる可能性があった。
しかし、スピリットの譲渡対象事業はエアバスのみを供給先としているため、エアバスに移転され得る第三者に関する商業的に機密性の高い情報を保持していない。
さらに、ベルファスト、ウィチタ、プレストウィック及びカサブランカの各拠点における事業については、ボーイングがスピリットの買収の一環として取得する事業と、エアバスがボーイングのコミットメントの一環として取得する事業との間に分離措置が適用される。この分離措置はボーイングが欧州委に対して行ったコミットメントの一部であり、モニタリングトラスティの協力のもと欧州委が監視することにより、ボーイングとエアバスとの間で商業的に機密性の高い情報が共有されないことを確保する。
以上のことから、2025年10月16日、仏競争委は、エアバスによるスピリットの航空機構造部品事業の買収を無条件で承認した。