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海外当局の動き

海外当局の動き

最近の動き(2024年10月更新)

米国

DOJ及び州によるグーグルの総合検索サービスなどにおける独占に関する訴訟の判決

2024年8月5日 米国コロンビア特別区連邦地方裁判所
本稿は、以下のURLを参考に作成した概要である。
 2024年8月5日、米国コロンビア特別区連邦地方裁判所は、2020年10月に司法省(以下「DOJ」という。)及び州司法長官が提訴したグーグルの総合検索サービスなどにおける独占的地位の強化などに関して、DOJなどの訴えを認める判決を出した。

1 訴訟の概要
 2020年10月、DOJと11の州司法長官は、グーグルが、総合検索サービス市場、検索連動型広告市場及び総合検索テキスト広告市場において、以下のような競争を阻害する排他的契約や行為を通じて、違法に独占を維持していたとして、コロンビア特別区連邦地方裁判所に民事提訴した。
(1) 原告(DOJ等)の主張
① Apple製品及びAndroidを搭載したモバイル製品における検索サービスに関する競合事業者の排除(Appleとの間でグーグルをデフォルトの検索エンジンとして設定することを内容とする複数年契約を締結、Androidを搭載したモバイル製品の製造事業者等に対し、グーグルをデフォルトの検索エンジンとして設定するよう要求、競合他社の検索エンジンのプリインストールを禁止等)。
② ブラウザ上の検索サービスに関する競合事業者の排除(Apple、Mozilla等が提供するブラウザにおいて、グーグルをデフォルトの検索エンジンとして設定)。
③ 将来総合検索サービスを利用することになる次世代端末(スマートウォッチ等)を支配し、新規又は既存の競合事業者を排除。

(2) 裁判の経緯
 本件のディスカバリーは2020年12月から始まり、2023年3月に終了した。数百万ページのやりとりが行われ、グーグルはペタバイト(注:1ペタバイトは10億メガバイト・100万ギガバイト)のデータを作成し、世界最大のテックカンパニーの幹部を含む数十人の証人喚問が行われた。裁判(ベンチトライアル)は9週間にわたり、2023年9月から公開で行われた(注1)。複数の専門家を含む数十人の証人からヒアリングを行い、3,500点以上の証拠を採用した。その後、2024年5月に2日間にわたって最終弁論を行った。
(注1)本件とは別の訴訟として、コロラド州など38州の司法長官は、2020年12月17日、Googleがシャーマン法第2条(独占化)に違反する行為を行っていたとして、行為の差止め,構造的措置等を求め、コロンビア特別区連邦地方裁判所に対して民事訴訟を提起した。この訴訟は本件訴訟と統合され審理された。

2 判決のポイント
(1) グーグルは独占企業であり、独占を維持するために独占企業として行動した。それはシャーマン法第2条に違反するものである。
(2) 具体的には、裁判所は①総合検索サービス及び総合検索テキスト広告に関連する製品市場が存在すること、②グーグルはこれらの市場において独占力を有すること、③グーグルの検索エンジンの配信契約は排他的であり(後記3参照。)、反競争的効果を有すること、④グーグルはこれらの契約に関して有効な競争促進効果による正当化事由を示していないこと、を挙げている。重要な点として、裁判所は、グーグルが配信契約で得た独占力を行使して、総合検索テキスト広告の価格として超競争的な価格(supracompetitive price)を設定したと認定した。グーグルはその行為によって独占的利益を得ることができた。

3 判決の概要
(1) グーグルは競合事業者に対してデフォルト配信という目に見えない大きな優位性を有している。ほとんどのユーザーは、ブラウザ(例:AppleのSafari)やモバイル端末にプリインストールされている検索アプリを通じて総合検索エンジンにアクセスする。それらの検索アクセスポイントには「デフォルト」検索エンジンがプリセットされている。デフォルトは非常に大きな財産(real estate)である。多くのユーザーは単にデフォルトで検索するので、グーグルはこれらのアクセスポイントから毎日何十億ものクエリを受け取っている。グーグルはこのような検索から膨大な量のユーザーデータを得ており、そのデータを検索の品質を向上させるために利用している。グーグルはそのようなデータを非常に重視しており、ユーザーによる変更がない限り、検索履歴や行動を18か月にわたり保存している。
(2) ブラウザ・ディベロッパー、モバイル端末メーカー、ワイヤレス通信キャリアなどの間で締結してきた配信契約は、グーグルにとって別の重要な方法でも利益をもたらしてきた。ユーザーが増えれば、広告主も増え、広告主が増えれば収益も増える。グーグルへのクエリが増えるにつれて、広告収入も増えている。2014年、グーグルは470億ドル近くの広告収入を計上したが、2021年までにこの数字は3倍以上の1460億ドルとなっている。それに比べて、Bingは、2022年には120億ドルしか計上していない。
(3) 長年、グーグルは、ブラウザ・ディベロッパー、モバイル端末メーカー、ワイヤレス通信キャリアとの配信契約を通じてデフォルトの地位を堅守してきた。これらのパートナーは、主要な検索アクセスポイントにおいて、箱から出してすぐにユーザーに提供される検索エンジンとしてグーグルをインストールすることに同意している。
(4) グーグルはこれらのデフォルトの地位を守るために巨額の支払を行っている。通常、その金額は、デフォルトの検索アプリとしてグーグルを経由して実行されたクエリから得た広告収入のパーセンテージとして計算される。これは「レベニューシェア」として知られている。2021年、その総額は260億ドルを超えた。これはグーグルの他の検索関連コストを全て合算した額の約4倍になる。レベニューシェアと引換えに、グーグルは主要な検索アクセスポイントにおけるデフォルトの地位だけでなく、取引相手から他の総合検索エンジンを端末にプリロードしない合意も取り付けている。したがって、米国では、ほとんどの端末においてグーグルのみがプリロードされている。このような配信契約により、グーグルの競合事業者はユーザーにリーチするための別の方法を見付けざるを得なくなった。
(5) グーグルの独占は、最終的には反トラスト法執行機関(DOJ及びほとんど全ての州司法長官)の注目を集めるようになった。彼らは、グーグルの配信契約に目を付け、2020年後半、この契約及びその他の行為がシャーマン法第2条に違反するとして、2つの別々の訴訟を提起した((注1)参照。)。訴状によると、グーグルは総合検索市場及び様々なオンライン広告市場において、競争を阻害し、独占を維持するために配信契約を違法に利用したとされる。
(6) 証人の証言と証拠を慎重に検討し、考量した結果、裁判所は「グーグルは独占企業であり、独占を維持するために独占企業として行動した(Google is a monopolist, and it has acted as one to maintain its monopoly.)。それはシャーマン法第2条に違反する。」と結論付けた。
(7) 具体的には、裁判所は①総合検索サービス及び総合検索テキスト広告に関連する製品市場が存在すること(there are relevant product markets for general search services and general search text ads)、②グーグルはこれらの市場において独占力を有すること(Google has monopoly power in those markets)、③グーグルの配信契約は排他的であり、反競争的効果を有すること(Google’s distribution agreements are exclusive and have anticompetitive effects)、④グーグルはこれらの契約に関して有効な競争促進効果による正当化事由を示していないこと(Google has not offered valid procompetitive justifications for those agreements)を挙げている。重要な点として、裁判所はまた、グーグルが、総合検索テキスト広告に対して超競争的な価格を課すことによって独占力を行使してきたと認定した。グーグルはその行為によって独占的利益を得ることができた。
(8) その他の決定はグーグルに対して有利なものである。①検索広告の製品市場は存在するが、グーグルは当該市場において独占力を欠いている(there is a product market for search advertising but that Google lacks monopoly power in that market)、②総合検索広告の製品市場は存在しない(there is no product market for general search advertising)、③グーグルはグーグルの広告プラットフォームであるSA360に関して責任を有しない(Google is not liable for its actions involving its advertising platform, SA360)と判断した。裁判所はまた、グーグルが従業員のチャット・メッセージを保存しなかったことに対して、連邦民事訴訟規則37eに基づく制裁を行わない。

4 DOJによる声明
(1) メリック・ガーランド司法長官
 グーグルに対する今回の勝利は米国民にとって歴史的な勝利である。どれほど大きく、影響力のある会社であっても、法律に勝る会社はない。DOJは反トラスト法の執行を引き続き精力的に行っていく。
(2) ジョナサン・カンター反トラスト局長
 この画期的な判決はグーグルに説明責任を果たさせるものである。これから先の何世代にもわたるイノベーションの可能性を開き、全ての米国人が情報へアクセスできるようにするものである。この勝利は今日の判決をもたらした反トラスト局と州の執行当局の献身的な努力の賜である。

5 2024年8月6日、グーグルのKent Walker渉外担当社長(President, Global Affairs)は、Xにおいて控訴する予定(we plan to appeal.)である旨を表明した。

DOJ及び8州の司法長官、アルゴリズムを用いた価格操作でRealPageを提訴

2024年8月23日 米国司法省 公表

原文

【概要】

1 司法省(以下「DOJ」という。)は、ノースカロライナ州、カリフォルニア州、コロラド州、コネチカット州、ミネソタ州、オレゴン州、テネシー州及びワシントン州の司法長官とともに、RealPage Inc.(テキサス州リチャードソンに本社を置く不動産管理ソフトウェア会社。以下「RealPage」という。)が違法に、賃貸住宅価格設定に関する賃貸人間の競争を減少させ、商業収益管理ソフトウェア(賃貸人が賃貸住宅価格の設定に使用するためにRealPageが提供しているサービス。)の市場を独占したとして、民事反トラスト訴訟を提起した。RealPageの行為は住宅賃貸の条件に関する競争上の利益を賃借人から奪い、何百万人もの米国人に損害を与えるものである。本訴訟は、RealPageの行為がシャーマン法第1条及び第2条違反に該当するとして、ノースカロライナ州中部地区連邦地方裁判所に提起された。

2 訴状によると、RealPageは、同社のアルゴリズム価格設定ソフトウェアを訓練・作動させるために、賃貸住宅の賃貸料やその他賃貸条件に関する非公開の競争上機微な情報をRealPageと共有することに同意した競合する賃貸人と契約を締結しているという。そして、当該ソフトウェアは、賃貸人及びその競争者の競争上機微な情報に基づいて、賃貸住宅の賃貸価格やその他の条件を含む推奨条件を生成している。さらに、自由な市場であれば価格設定、割引、(賃借人への)譲歩、賃貸条件、その他諸条件に基づき、賃借人を惹きつけるために賃貸人間で競争を行っているはずであると主張している。また、RealPageは、このスキームと膨大なデータの蓄積を利用して、商業収益管理ソフトウェアの市場の独占を維持している。この訴状は、同社の違法行為を止めさせ、全米各州の賃借人の利益のための競争を回復することを求めるものである。

3 訴状では、RealPageと賃貸人との内部文書と誓約証言が引用されているが、これらの文書には、賃借人を犠牲にして賃貸価格と利益を最大化するというRealPageと賃貸人の目的が明白に示されている。例えば、
(1) RealPageは、同社のソフトウェアが賃貸人のために価格を最大化することを目的にしていることを認識した上で、同社の製品について「価格を引き上げるためにあらゆる可能な機会を利用する。」、「不況市場での値下げ競争を回避する。」などと言及している。
(2) RealPageの幹部は、同社の製品は、賃貸人が能率競争を避けるのに役立ち、「業界全体を低迷させるような方法で競争するよりも、(賃貸人)全員が成功する方が大きな意味がある。」と指摘した。
(3) RealPageの幹部は、賃貸人が、競合者のデータを利用することで、「その日に10ドルの値上げではなく、50ドルの値上げを行うことができる。」状況を特定することができると説明した。
(4) ある賃貸人はRealPageの製品について「この製品は、他の契約者の独自のデータを使ってアルゴリズムが賃料や条件を提案してくれるので、いつも便利だと思っていた。これは典型的な価格操作だ。」とコメントしていた。

4 訴状では、RealPageの契約や行為が、全米各地の集合住宅の賃貸市場における競争プロセスを阻害していると主張している。競合する賃貸人のデータを手に入れたRealPageは、「自動承諾」機能や賃貸人の遵守状況を監視する価格設定アドバイザーなどを通じて、アルゴリズムの提案に従うよう促している。その結果、RealPageのソフトウェアは、値上げを最大化し、値下げを最小化するとともに、賃貸人の価格決定力を最大化している。また、RealPageは賃貸人に対して、賃借人への譲歩(家賃の無料月間など)やその他割引を抑制するように促していた。さらに、訴状は、賃貸人が賃借人への譲歩を減らす対応をしてきたことを宣伝しているRealPage及び賃貸人の内部文書も引用している。

5 訴状では、別途、RealPageが米国の集合住宅向け商業収益管理ソフトウェアの独占を違法に維持しており、同社の市場シェアが約80%に達しているとしている。賃貸人は、競合者の競争上の機微情報を組み合わせて分析した結果である価格提案や決定を受ける見返りとして、自己の競争上の機微情報をRealPageと共有することに同意している。これにより、自己強化型のフィードバック・ループが形成され、RealPageの市場支配力が強化され、正直な競合者が能率競争で勝負することを難しくしている、としている。

6 DOJメリック・ガーランド長官は、次のように述べた。
「米国人は、ある企業が賃貸人と法律を破る方法を見つけたからといって高い賃料を支払う必要はなく、我々は、RealPageの価格設定アルゴリズムによって、賃貸人が非公開の競争上機微な情報を共有し、家賃を調整することを可能にしていると主張している。ソフトウェアを情報共有メカニズムとして使用しても、シャーマン法の責任から免れることはできない。DOJは、今後も反トラスト法を積極的に執行し、違反者から米国市民を守っていく。」

7 DOJリサ・モナコ副長官は、次のように述べた。
「本日のRealPageに対する提訴は、企業に対する法執行戦略を示すものである。個人であれ企業であれ、最も深刻な違反者を特定し、その責任を追及することに全力を傾ける。RealPageは、AIを搭載した高度なアルゴリズムに機密データを投入することにより、賃貸住宅価格の調整システムを通して、100年の歴史を持つ法律に違反する近代的な手法を発見した。その過程で、RealPageは、競争及び消費者に対する公平性を損なってきた。機械の訓練であっても法律を破ることには変わりなく、本日の提訴は、全ての法的手段を用いて、テクノロジーを用いた反競争的行為に対する説明責任を果たさせる、という我々の姿勢を明確にするものである。」

8 DOJベンジャミン・ミッツァー主席次官は、次のように述べた。
「RealPageの悪質な反競争的行為により、賃貸人は、必要な競争を制限しつつ、公正な価格設定を軽視し、住宅の選択肢を制限することができた。DOJは、消費者を犠牲にして企業の利益を増大させることを目的とした違法な計画や慣行を根絶することに全力を尽くす。」

9 DOJジョナサン・カンター反トラスト局長は、次のように述べた。
「米国人が住宅購入に苦労している中で、RealPageは賃貸人が家賃を値上げするために協調することを容易にしている。我々は、本訴訟により、全米の何百万人もの人々がより手頃な価格で住宅を得られるようにする。米国人が賃貸住宅を借りる際に支払う金額を決めるのは、RealPageによるべきではなく、競争によるべきである。」

EU

欧州司法裁判所、加盟国からIlluminaとGrailの合併審査の要請を受理した欧州委の決定を無効と判決

2024年9月3日 欧州司法裁判所 公表

原文

【概要】
1 欧州司法裁判所(以下「司法裁判所」という。)は、欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、加盟国の競争当局が自国の国内法の下で審査権限を持たない企業結合計画について、当該競争当局に対して、欧州的な側面を持たない(訳注:EU企業結合規則の審査基準を満たさない)企業結合計画の審査を付託するよう促したり、受け入れたりする権限を有していないとの判決を下した。

2 2020年9月21日、がんの早期発見のための血液検査を開発する米国企業のGrail(Grail LLC)及び遺伝子解析ソリューションを専門とする米国企業のIllumina(Illumina Inc.)は、IlluminaによるGrailの単独支配権の取得計画について公表した。Grailは、欧州連合(EU)でも世界の他の地域でも売上高がなかったことを踏まえると、本件企業結合は欧州的な側面がなかったことから、欧州委に届出は行なわれなかった。また、加盟国又は欧州経済領域(EEA)協定の締約国においても、各国の企業結合計画の届出基準に達していなかったため、届出は行なわれなかった。

3 本件企業結合に関する申告を受けた欧州委は、本件企業結合が加盟国間の通商に影響を与え、かつ域内の競争に重大な影響を与えるおそれがあるとして、EU企業結合規則(Council Regulation (EC) No 139/2004 of 20 January 2004 on the control of concentrations between undertakings.)第22条に従い、本件企業結合計画の審査を求める要請書を提出するよう、加盟国に求めた。欧州委は、フランスの競争当局から審査の要請を受け、これにギリシャ、ベルギー、ノルウェー、アイスランド及びオランダの競争当局が加わった。
 欧州一般裁判所(以下「一般裁判所」という。)は、Illumina対欧州委の訴訟の判決(https://www.jftc.go.jp/kokusai/kaigaiugoki/eu/2022eu/202209eu.html)において、欧州委が加盟国からの審査の付託要請を受理した決定及び付託要請への参加を促した決定を争うIlluminaの異議申立てを棄却した。Illumina及びGrailはそれぞれ、この判決に対して上訴した。

4 司法裁判所は、一般裁判所の判決を破棄し、問題となっている欧州委の決定を無効とした。
 司法裁判所は、企業結合規則の文言的、歴史的、文脈的、目的論的な解釈に照らして、欧州委の届出基準に達していない(lacks a European dimension)だけでなく、加盟国の届出基準にも達していないために審査権限を持たない企業結合について、加盟国の当局から、欧州委に当該企業結合を審査するよう要請することができると結論付けた一般裁判所の判断は、誤りだと認定した。特に、EU域内の競争構造に重大な影響を与える全ての企業結合を効果的に規制するための「是正メカニズム」の役割を同規則が果たしているとした点で、一般裁判所の判断は誤りであった。

5 司法裁判所は、一般裁判所の解釈はEU企業結合規則が追求する様々な目的間のバランスを崩す可能性がある、としている。この点に関して、司法裁判所は、企業結合を届け出なければならないか否かを決定するために設定された届出基準は、関係事業者にとって予見可能性及び法的確実性を保証する重要なものであると判断している。企業結合を計画する関係事業者が、提案された企業結合が第一次審査の対象となるかどうか、第一次審査の対象となる場合には、どの当局の、どのような手続要件に従わなければならないかを容易に判断できるようにしなければならない。

その他
英国

CMAは、グーグル及びアップルのアプリストアに関する既存の競争法違反被疑事件審査を終了し、デジタル市場・競争・消費者法で対処へ

2024年8月21日 英国競争・市場庁 公表

【概要】
1 競争・市場庁(CMA)は、本年5月に成立した「2024年デジタル市場・競争・消費者法」(DMCCA:Digital Markets, Competition and Consumers Act)の下、デジタル市場に関する新たな規制体制の導入が予定されている中で、グーグル及びアップルのアプリストアに対する既存の競争法(1998年競争法)による事件審査を終了した。
2 これは、グーグル及びアップルの違反被疑行為によってどのような損害が生じているかについて何ら決定を行ったものではない。CMAは、どのようなデジタル分野の問題に最初に取り組むかについては決定していないが、新しいデジタル市場規制の下での初期の作業は、アプリストアを含むモバイルエコシステムなど、既に調査した分野での経験を基礎にし、それを活用することになると予想している。
3 CMAが既存の競争法に係る事件審査を開始した理由は、グーグル及びアップルが、それぞれのアプリストア(Play Store及びApp Store)を通じた市場における地位を利用して、英国のアプリ開発者にとって不当に、競争と消費者選択を制限し、デジタルコンテンツの価格上昇やアプリユーザーの選択肢の減少につながる可能性が懸念されたためである。
4 事件審査の焦点は、ゲーム等のデジタルコンテンツを提供するアプリ開発者にグーグル及びアップルの独自のアプリ内課金システムの使用が義務付けられている点にあり、アプリ開発者にとっては、支払方法の選択肢が制限されることによって消費者と直接取引することが困難になることが懸念される。
5 このような懸念に対して、グーグルは確約計画(改善措置)を提出したが、CMAはこれを承認しなかった。グーグルの提案では、従来のグーグルの課金システムに代わる支払オプションとして、「開発者専用課金」(DOB:Developer-only Billing)及び「消費者選択課金」(UCB:User Choice Billing)という支払方法を利用できるようにすることが提案されていた。
6 CMAは、アプリ開発者と協議し、そのフィードバックとその他入手可能な証拠を検討した結果、グーグルが提案した改善措置は競争上の懸念に効果的に対処するとは判断しなかった。アプリ開発者からのフィードバックによると、代替支払方法の利用に係るグーグルの提案は不十分であり、実際にはグーグルの従来の支払システムに拘束されたままになるだろうとの意見があった。特に、アプリ開発者は、グーグルに支払うことになる手数料の水準や、消費者が別の支払方法を利用することを躊躇させるような「ポップアップ画面」の存在を懸念した。
7 最近の動向、特に本年5月に成立したDMCCAを踏まえ、CMAは、グーグル及びアップルのアプリストアに関する既存の競争法の事件審査を行政上の優先事項に照らして評価し、この時点でこれらの事件審査を終了することを決定した。
8 DMCCA下において、アップル及びグーグルの一方又は両方が、モバイル分野のデジタル活動に関連して「戦略的市場地位」(strategic market status)を有すると指定された場合、CMAは新たな権限を使用することにより、既存の競争法による事件審査の場合よりも包括的な検討を行うことができ、競争促進のために必要となる介入についても検討することができる。
9 CMAのウィル・ヘイターデジタル市場担当エグゼクティブディレクターは、次のように述べた。
「新たな競争促進の枠組み(DMCCA)が発効すれば、我々は既存の取組を通じて既に特定した懸念事項に対して新たな権限の適用を検討できるようになる。
 アプリ開発者を含む英国のテクノロジー企業が、公正かつ競争力のあるアプリエコシステムにアクセスできるようにすることは、業界の成長、投資の促進、そして英国の消費者にとってより良い結果をもたらすために非常に重要である。これらは全て、新たな規制の下での最初の調査を開始する前に検討している要素である。」
10 その他
(1) DMCCA下において、CMAは、デジタル市場において戦略的市場地位を有するものとして指定された企業の行動に条件を課す権限を持ち、それらの条件に違反した企業に対して多額の制裁金を課すことができるようになる。
(2) CMAは、DMCCA発効後1年以内に、約3~4件の戦略的市場地位に関する調査を開始する予定(2024年後半を目途。)。
(3) CMAは、行政上の優先事項を理由として、本件アプリストアに対する既存の競争法の事件審査を終了したのであって、グーグル及びアップルの行為が既存の競争法に違反したかどうかについてはいかなる決定も下していない。

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