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海外当局の動き

海外当局の動き

最近の動き(2025年8月更新)

米国

FTC、Omnicomによる Interpublicの買収計画を条件付きで承認

2025年6月23日 米国連邦取引委員会 公表

原文

【概要】

1 米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)は、2025年6月23日、Omnicom Group Inc.(以下「Omnicom」という。)がInterpublic Group of Companies, Inc.(以下「Interpublic」という。)を135億ドル(約2兆1600億円)で買収する計画に関する反トラスト法上の懸念を解消するための措置を講じた。

2 FTCは、Omnicomによる反競争的な協調の可能性を排除するための同意命令案を受け入れた。Omnicomは、世界的な広告代理店であり、広告主に代わって、価格、広告掲載場所、スポンサー契約等の条件についてメディア出版社と交渉するほか、広告主による広告キャンペーンの実施やメディア購入(訳注:出版社から広告枠を購入すること)を支援している。

3 Omnicom及びInterpublicは、米国で3番目と4番目に大きなメディア購入を取り扱う広告代理店であり、両社による合併が実現すれば、世界最大のメディア購入を取り扱う広告代理店となる。同意命令案は、Omnicomがメディア出版社の政治的又は思想的な立場に基づいて広告を回避するために共謀や協調行為を禁止する制限を課している。

4 同意命令案は、OmnicomによるInterpublicの買収が米国のメディア購入サービス市場の集中をさらに高めるおそれがあるとするFTCの申立てを解決するものである。同市場のさらなる集中は、過去に協調行為に関与してきた(当事会社以外の)広告代理店間で、メディア購入における協調のリスクを高め、競争を阻害するおそれがある。

5 FTCの申立書によると、広告代理店は、業界団体を通じて、特定のウェブサイトやアプリへの広告掲載を行わない旨の決定について協調してきたことが示されている。広告代理店間の調整により、特定のメディア出版社の広告収入が減少する可能性があり、その結果、メディア出版社は、消費者に提供できるコンテンツの量や自社サイトへの投資額を削減せざるを得なくなるおそれがある。

6 FTC が受け入れた同意命令案の条件には、Omnicomの広告主である顧客からの明確かつ個別の指示がある場合を除き、Omnicomがメディア出版社の政治的又はイデオロギー的な立場を理由に広告出稿を拒否することを不可能にする一連の規定が含まれている。

7 委員会は2対0対1の議決で、本件申立書の発出及び同意命令案について意見募集を行うことを議決した。マーク・R・ミーダー委員は投票を棄権した。アンドリュー・N・ファーガソン委員長は声明を発表した(注1)。 
(注1) https://www.ftc.gov/legal-library/browse/cases-proceedings/public-statements/statement-chairman-andrew-n-ferguson-matter-omnicom-group-interpublic-group-cos

8 一般市民は、同意命令案について、30日間コメントを提出することができる。

9 FTCのダニエル・グアネラ競争局長は、次のように述べた。
 「広告収入に支えられるウェブサイトやその他の出版物は、我が国の商業とコミュニケーションの流れにとって不可欠である。広告代理店間の協調行為により、政治的又は思想的に好まれない出版物への広告支出を抑制することは、広告代理店間の競争を歪めるのみならず、公の議論や討論を歪めるリスクがある。FTCの本件措置は、特定の政治的又は思想的な立場を標的とした違法な協調行為を防止しつつ、個々の広告主が広告の掲載先を選択する可能性を維持するものである。本件合併に関する徹底的な審査を行ったFTCの職員に感謝する。」

10 本件に関するFTCファーガソン委員長による声明の概要
(1) 懸念点 
 広告業界には、政治的・イデオロギー的理由による広告ボイコットや共謀行為の歴史がある。本件合併により、業界大手6社が5社に減少し、市場集中が進むこととなり、その結果として、価格の上昇、生産量の増加や品質の低下、競争者数の減少による共謀リスクの増大等が懸念される(いわゆる「協調効果」)。主要な反トラスト学者もこうした協調効果のある合併はクレイトン法第7条の観点から疑わしいと指摘している。
 
(2) GARM(世界広告主連盟)による活動とFTCによる検閲に対する取組
 Omnicom及びInterpublicは、広告主業界の強力な団体であるGARMの創設メンバーである。GARMは、かつて広告出稿の対象メディアを政治的立場に基づき選別し、特定のメディアを経済的に締め出しており、訴訟や連邦議会による調査を受けて、2024年8月9日に解散した(注2)。 
 なお、FTCの申立書では、GARMは、かつて「有害でセンシティブなコンテンツとは何かについての共通理解」を築こうとし、議論の余地のあるトピックに関する言論を検閲し、ユーザーへのアクセスやサービスを拒否するオンラインプラットフォームの対応に影響を与えた可能性があることを指摘している(注3)。 
 FTCは、GARMの違法性判断はしていないものの、こうした事実は今後の共謀リスクを高める要素になると認識している。
 反トラスト法に違反する検閲慣行の調査及び取締りは、トランプ・バンスFTCの最優先事項であり、FTCは、2025年2月20日にテック・プラットフォームによる検閲(Tech Censorship)についての調査を開始している(注4)。 
(注2) https://wfanet.org/leadership/garm/about-garm
(注3) https://www.ftc.gov/system/files/ftc_gov/pdf/2510049omnicomcomplaint.pdf
(注4) https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2025/06/ftc-prevents-nticompetitive-coordination-global-advertising-merger
 
(3) 合併の影響と問題解消措置
 FTCの審査により、本件合併によって共謀がより容易になる可能性が高いと判断された。
 当事会社は、行動的問題解消措置を提案し、FTCはこれを受け入れた。これにより、Omnicom及びInterpublicは、政治的・イデオロギー的理由による広告排除の合意・実施を行わないことを約束するとともに、FTCへの定期的なコンプライアンス報告や調査協力義務等を負うことになる。

(4) FTCによる本件介入の意義
 本件合併によって、広告業界における広告代理店間の共謀リスクが高まることに強い懸念がみられた。
 政治的に不利な立場にあるメディア出版社に対して、広告代理店が協調して行動することは、品質で競争しないという合意に等しいが、訴訟でそのような判決を得るには、何年もかかる可能性がある。
 FTCによる今般の措置(当事会社との和解)は、費用のかかる訴訟の可能性を排除し、当事会社に反トラスト法を順守させることを確実なものとし、他の全ての広告代理店に対しても同様に順守を促すものである。

その他

豪州

ACCC、デジタルプラットフォーム調査の最終報告書を公表

2025年6月23日 オーストラリア競争・消費者委員会 公表

原文

【概要】

概要
1 オーストラリア競争・消費者委員会(以下「ACCC」という。)のデジタルプラットフォームサービス調査の最終版となる第10次報告書によると、十分な法規制が整備されていないため、オーストラリアの消費者及び事業者は、様々なデジタルプラットフォームサービスにおいて、依然として多くの有害な行為に直面していることが明らかになった。

2 ACCCのゴットリーブ委員長は、次のように述べた。
(1) デジタルプラットフォームサービスは、オーストラリアの消費者及び事業者にとって極めて重要であり、生産性向上の主要な原動力となっている。
(2) デジタルプラットフォームサービスは、多くの利益をもたらしてきた一方で、現行の競争法や消費者保護法では適切に対応できない弊害も生み出している。このため、我々は引き続き、デジタルプラットフォームサービスに対する的を絞った規制が、デジタル市場における競争及びイノベーションを促進し、消費者を保護するために必要であると提言している。
 
3 本最終報告書は、ACCCによる5年間の調査を締めくくるものであり、経済全体を対象とした不公正な取引慣行の禁止、デジタルプラットフォームサービス向けの外部紛争解決機関の設置、新たなデジタル競争制度の導入を含む措置への支持を改めて表明している。

オーストラリアの消費者及び中小企業に広範な被害を与える継続的なリスク
4 ACCCの最終報告書は、デジタルプラットフォームには、消費者及び競争に対する重大な被害のリスクが依然として存在していることを示している。 
 消費者は引き続き、より高額なサブスクリプションや購入オプションに消費者を誘導するユーザーインターフェースなどといったユーザーを巧妙に操る設計手法を含む、デジタル市場における不公正な取引慣行に直面している。

5 ゴットリーブ委員長は、次のように述べた。
(1) ACCCが実施した調査によると、オーストラリアの消費者のうち72%がオンラインショッピング中に誤ってサブスクリプションに加入させられたり、隠れた料金が請求されたりするなど、不公正な取引慣行に遭遇したことがあると報告している。このような手口から消費者を保護するため、オンラインとオフラインの両方で不公正な取引慣行を禁ずるための規制が必要である。
(2) 我々の消費者調査では、回答者のうち82%が、プラットフォームとの間で直接解決できない苦情を申し立てるために、デジタルプラットフォームサービス利用者向けの専門的、かつ、独立した外部紛争解決機関が必要であることに同意していることも明らかになった。
(3) 外部紛争解決機関は、デジタルプラットフォームに依存して顧客にアクセスしているオーストラリアの中小企業にとっても役立つであろう。例えば、検索エンジンやマーケットプレイスに自社に関する偽レビューが投稿された場合や、SNSでアカウントが停止されて顧客へのアクセス手段を失った場合などが挙げられる。

新たなデジタル競争制度はオーストラリア国民に利益をもたらすだろう
6 ACCCは、この5年間の調査の過程で、最も強力なデジタルプラットフォームによる競争プロセスを歪める行為も確認してきた。この行為には、相互運用性の拒否、自己優遇、抱き合わせ販売、排他的契約、切替えの妨害、重要なハードウェア、ソフトウェア、データ入力へのアクセス制限が含まれる。

7 ゴットリーブ委員長は、次のように述べた。
 (1) デジタル市場における競争の欠如は、価格上昇、選択肢の減少、品質の低下、さらには個人データの過剰な収集につながり、最終的にユーザーに影響を及ぼす。
 (2) デジタル市場において反競争的行為が存在し、それに対処する必要があることは、国際的に広く認識されている。既に、EU、英国、ドイツ、日本など、複数の国・地域では、デジタル市場における競争を促進するための規制が導入されている。
 (3) オーストラリアで新たなデジタル競争制度を進展させることは時宜を得たものであり、競争性を高め、これらのプラットフォームへのアクセスに依存してオーストラリアで事業を行う国内外の事業者に利益をもたらし、成長する経済を支えることになる。

新興サービス及び技術には継続的な監視が必要
8 最終報告書では、急速に進化するデジタル市場やクラウドコンピューティング(注1)や生成AI(注2)のような新興技術が、オーストラリアにおける競争及び消費者に対する既存のリスクを悪化させたり、新たなリスクを生じさせたりする可能性があることについても概説されている。 例えば、クラウドコンピューティングは世界的にもオーストラリアにおいても継続的に成長しており、事業者及び消費者に大きな利益をもたらしている。しかし、最終報告書では、クラウドコンピューティング分野における潜在的な競争リスクが複数指摘されている。
(注1)クラウドコンピューティングとは、ネットワーク、サーバー、ストレージ、アプリ、サービスなどのコンピューティングリソースへ、グローバルかつオンデマンドのネットワークアクセスを提供するサービスのこと。クラウドコンピューティングは、組織が自社のITインフラを自社内で設置・維持する従来のオンプレミス型コンピューティングと対比される。
(注2)生成AIとは、ユーザーが入力したプロンプトに応じてテキスト、画像、音声、動画、データなどのコンテンツを生成することができる人工知能(AI)の一種である。生成AIは、極めて大量のデータを分析し、入力と出力の関係を学習することで、新たな出力を生成する仕組み(機械学習)を採用している。

9 ゴットリーブ委員長は、次のように述べた。
 「オーストラリアの主要なクラウドコンピューティングプロバイダーであるアマゾン、マイクロソフト及びグーグルは、クラウド技術スタック(訳注:クラウドサービスにおけるシステム開発に使用するプログラミング言語やフレームワークの組み合わせをいう。)全体で垂直統合された大規模な既存のデジタルプラットフォームである。垂直統合されたクラウドプロバイダーは、競合他社に損害を 与えるような行為(例えば、クラウド技術スタックの異なる層で自社のサービスを反競争的に抱き合わせる行為)を行う動機を持ち得る。」

10 また、最終報告書は、生成AIの開発者及び導入者は、一般的に、製品の改善や展開のために大規模なクラウドコンピューティングリソースへのアクセスを必要としていることを明らかにした。しかし、クラウドプロバイダーは、自社の生成AI製品を競合他社の製品よりも優先する形で、抱き合わせたり、セット化したり、自己優遇を行うなどの反競争的な行為を行うインセンティブを有する可能性がある。

11 ゴットリーブ委員長は、次のように述べた。
(1) 生成AI分野における競争への悪影響は、イノベーションを阻害し、製品・サービスの質を低下させ、オーストラリアの事業者及び消費者が生成AIを利用する際に、本来支払うべき額よりも高い費用を負担させられる可能性がある。
(2) このようなリスクから守るためには、提案されているデジタル競争制度によって、ACCCが過去に調査したサービスの変化や、今後出現する新たな技術を継続的に監視することができるようにすることが不可欠である。 
 
背景
12 ACCCのデジタルプラットフォーム部門は、2020年に財務大臣の指示に従い、オーストラリアにおけるデジタルプラットフォームサービス市場とそれによる競争・消費者への影響について、5年間にわたる調査を実施した。 
 この調査は6か月ごとに政府に報告されるものであり、今回のACCCの第10次報告書は、調査を締めくくるものである。 
 これまでの報告書は、デジタルプラットフォームサービス調査 2020-25のウェブページに掲載されている(注3)。
(注3)https://www.accc.gov.au/inquiries-and-consultations/digital-platform-services-inquiry-2020-25

13 ACCCは、2022年9 月に公表した第5次デジタルプラットフォームサービス調査中間報告書において、デジタル経済における競争を強化し、大手テクノロジー事業者とオーストラリア事業者間の競争条件を公平にし、消費者価格を低下させるための様々な提言を示した。提言には、立法で定められた原則に基づき、特定の「指定デジタルプラットフォーム」を対象としたサービスごとの義務的な行動規範(訳注:競争阻害性のある自己優遇や抱き合わせの禁止、透明性の確保等)の導入や、義務的な行動規範の運用についてACCCに対し新たな権限を付与すること等が含まれている。
 2023年12月、オーストラリア政府はACCCの調査結果を受け入れ、既存の競争関連規定だけでは現在又は将来の潜在的な競争上の弊害を解消するのに十分ではないとの結論を支持するとともに、新たなデジタル競争制度の策定を支持した。2024年12月、同政府はオーストラリアにおける新たなデジタル競争制度の実施に関する意見募集を開始した(注4)。
(注4)同意見募集に関し、アップルが委託したコンサルティング会社マンダラ(Mandala)が2025年7月24日に公表した報告書では、デジタルプラットフォームはオーストラリア経済の生産性やイノベーションを推進するものであり、ACCCが提言するデジタルプラットフォームに対する事前規制がもたらす影響を慎重に検討する必要があるとの主張が展開されている。
 https://mandalapartners.com/reports/digital-platforms-and-competition-in-australia

フランス

フランス競争委員会、従業員引抜禁止協定を締結したとしてIT・エンジニアリング企業4社に対し、総額2950万ユーロ(約50億円)の制裁金を賦課

2025年6月11日 フランス競争委員会 公表
原文

【概要】

概要
 フランス競争委員会(以下「仏競争委」という。)は、Ausy(現Ranstand Digital)とAltenの2社間、ExpleoとBertrandtの2社間で、それぞれ締結された反競争的協定に対して制裁金を課した (注1)。これらの取引慣行は、紳士協定(gentlemen’s agreements)の形をとり、これらの企業が活動する労働市場において不可欠な競争条件である従業員の勧誘・雇用を禁止することを目的としていたものであった。本件は、仏競争委による従業員引抜禁止協定に関する初の処分である。 
 仏競争委は、Ausyが2018年4月に提出したリニエンシー申請書及び同年11月の立入検査を通じて、これらの取引慣行を把握した。 
 仏競争委は、支持された2件の申立てに関して、Alten、Expleo及びBertrandtの3社に総額2950万ユーロ(約50億円)の制裁金を課した。Ausyはリニエンシー申請者であるため、制裁金は全額免除された。
 また、仏競争委は各企業に対し、本決定の概要をソーシャルネットワークのLinkedln並びに仏ル・モンド・インフォマティーク紙の電子版及び紙面で公表するよう命じた。 
(注1) Ausy、Alten、Expleo及びBertrandtはいずれもITエンジニアリングサービスを営むフランス企業。
 
エンジニアリング、技術コンサルティング及びITサービス分野における主要な競争パラメーターである「人材」
 エンジニアリング、技術コンサルティング及びITサービスの各分野の特徴として、これらの分野で事業を展開する企業が提供するサービスの中心に位置する人材の戦略的重要性が挙げられる。これらの分野では従業員の離職率が高く、このことにより、事業運営や、顧客からサービス・プロバイダーに委託された業務に支障を来す可能性がある。

紳士協定の導入
 このような状況の中、今回制裁を受けた企業は、無期限の一般的な紳士協定の形で、従業員引抜禁止協定を導入した。
1 Ausy及びAlten間の協定
 Ausy及びAlten間の反競争的協定の目的は、企業が事業責任者を引き抜く(競合他社からの直接の勧誘)ことや雇用する(自発的な応募)ことを禁止し、移籍が計画された際に企業間で協議することであった。2007年から2016年までの間に締結された当該反競争的協定は、リニエンシー申請者であるAusyによって仏競争委に明らかにされ、調査ファイルの複数の項目によって裏付けられており、これらの項目は、「互いのマネジメントチームを追求しないという紳士協定」の存在に言及していた。当該協定に期限の定めはなく、配属先や勤務先の顧客に関係なく、全事業責任者に適用された。

2 Bertrandt及びExpleo間の協定
 2018年2月から9月にかけて締結されたBertrandt及びExpleo間の従業員引抜禁止協定も同様に、相互の従業員引抜禁止に関する紳士協定の形をとっており、自発的な応募があった場合の採用も対象としていた。立入検査で押収された複数の物証から、この協定の存在が明らかになった。この協定の機能は定期的に再確認(recall)され、両社は「紳士協定に関するメッセージを再確認」するため、特に「採用合戦」を避けるために何度も連絡を取り合っていた。

3 Ausy及びAtos間の協定(申立てを棄却)
  仏競争委審査局(Investigation Services)から申立てされた3件目の申立てについて、仏競争委は、Ausy及びAtos間の人事に関する「競合忌避規定」(non-aggression pact)の証拠が不十分であるとして、同申立てを却下した。

 パートナーシップ契約における勧誘禁止条項(申立てを棄却)
 仏競争委審査局(Investigation Services)は、Bertrandt及びExpleo間の合意並びにAusy及びAtos間の合意について、パートナーシップ契約における勧誘禁止条項という形での反競争的行為について申立てを行った。訴訟ファイルの情報を考慮し、当該条項の内容、経済的及び法的文脈並びに目的を分析した後、仏競争委は、今回のケースでは、当該条項は反競争的な目的を有する制限として認定され得ないと考えた。また、仏競争委は、訴訟ファイルの文書は、これらの合意が反競争的効果をもたらしたことを立証するのに十分ではないと判断した。

背景
1 仏競争委は、本決定を通じて、関係する会社が互いの従業員を勧誘し雇用することを禁止する会社間の一般的な従業員引抜禁止協定は、それ自体が、反競争的な取引慣行であることを改めて指摘している。
2 仏競争委は、よりグローバルな反競争的協定の一部として、そのような取引慣行に対して既に制裁を課しているが(注2)、これらの取引慣行は、単独で考慮されたとしても、特に、適用期間及び適用範囲が広く、不正確な一般的協定の一部として実施される場合には、依然として反競争的であることを改めて表明する。
 (注2) https://www.autoritedelaconcurrence.fr/en/press-release/pre-cast-concrete-products-autorite-sanctions-four-cartels-and-imposes-total-fine  仏競争委が、2024年5月にプレキャストコンクリート製品部門の4件のカルテルに関与したとして、11社に7664万ユーロの制裁金を課した案件。
3 仏競争委は、パートナーシップ契約における勧誘禁止条項についても詳細な分析を行った。今回のケースでは、特に限定された適用期間及び適用範囲並びにその目的から、当該条項は競争を制限するものとは認められないとしたが、この分析は、個々のケースに特有の状況を考慮したものであり、将来的に当該条項そのものが反競争的とみなされる可能性を否定するものではない。

関係企業に対する制裁金賦課
 仏競争委は、(1)水平型反競争的協定は最も深刻な反競争的慣行の一つであること、(2)人材が競争の本質的な基準である部門に関するものであること、(3)この場合、従業員に影響を及ぼし、従業員の移籍の可能性や労働・生活条件の改善の見込みに影響を及ぼした可能性があることを改めて指摘する。
 以上の理由により、当局は総額2950万ユーロ(約50億円)の制裁金を課すことを決定した。事業者ごとの制裁金額は下表のとおりである。
 なお、リニエンシー申請者であるAusy/Randstadは、制裁金の全額免除が認められた。
 /image/08Fr_1.JPG
   さらに、仏競争委は各事業者に対し、本決定の概要をソーシャルネットワークのLinkedln並びにル・モンド・インフォマティーク紙の電子版及び紙面で公表するよう命じた。

韓国

KFTC、エンターテインメント業界における「下請契約書発行」に係る慣行定着のための同意議決を承認

2025年6月24日 韓国公正取引委員会 公表
原文

【概要】

1 韓国公正取引委員会(以下「KFTC」という。)は、2025年6月9日、エンターテインメントサービス業を営む5社(注1) (以下「5社」という。)を対象にした「下請取引の公正化に関する法律」(以下「下請公正法」という。)違反被疑関連の同意議決(注2)案を最終決定した。

(注1)ハイブ、エスエム(SM)エンターテインメント、ワイジー(YG)エンターテインメント、ジェイワイピー(JYP)エンターテインメント及びスターシップエンターテインメントの5社
(注2)下請公正法違反の疑いで調査を受けている事業者が、被害の救済、取引秩序の改善等の自主是正策をKFTCに提出し、利害関係者の意見収れん等を経て、当該是正策が妥当であると認められれば、法違反の有無の判断を留保し、是正策の迅速な履行に焦点を当てて事件を終結するもの(下請公正法第24条の9)

2 KFTCは、2023年7月から、5社が中小事業者にレコード・グッズ(注3)や映像コンテンツの制作、公演関連の役務(注4)等を委託し、事前に契約書面を交付しなかったり、契約書面の発行を遅延したりした行為(注5)に対して、下請公正法違反の有無を調査した。
(注3)特定のアーティストに関連する応援スティック、人形等
(注4)ステージやセットの構築、照明の設置及び操作、音響設備の設置及び操作、特殊効果の実装等
(注5)製造等委託を行う場合、法定事項が記載された書面を、製造等の開始前又は委託業務の開始前に交付しなければならない。

3 5社は、エンターテインメント分野の下請取引秩序を改善し、中小事業者との共生協力に向けた自主是正策を作成し、2024年4月から5月までの間に同意議決を申請した。KFTCは2024年12月2日に同意議決手続の開始を認めた(注6)。
 その後、KFTCは、当該自主是正策の妥当性、適切さを厳密に評価するため、下請公正法に基づき、2025年2月4日から3月21日まで(49日間)、下請事業者及び関係機関(文化体育観光部、中小ベンチャー企業部等8機関)に対する意見収れん手続等を踏んで、最終案を確定した。
(注6)2024年12月2日付けプレスリリースを参照

4 今回の同意議決の主な内容(注7)は、(1)標準契約書及び仮契約書(注8)の作成・配布、(2)電子契約システムの導入と社内契約管理システムの改善、(3)下請取引ガイドのウェブサイト掲載及び内部職員向けの下請公正法に関する教育、(4)協力業者との共生のための総額10億ウォン(約1億円)(各社2億ウォン)規模の共生協力支援策(別添1の3を参照)を含む。
(注7)別添1を参照
(注8)標準契約書とは取引類型(映像制作・グッズ制作等)ごとに模範となる契約書面をいい、仮契約書は主要な取引条件が随時変更される特性を勘案して、仮契約の不履行事由、代金等の主要な契約条件が確定する時点等が記載された契約書面をいう。

5 KFTCは、5社の自主是正策が法違反判断時に予想される制裁水準とのバランスが取れており(注9)、取引秩序の改善・再発防止及び共生協力支援策は、下請取引秩序を回復させ、下請事業者等を保護するのに適切であると判断した。
(注9)代金未払等の他の法令違反に係る疑いがなく、書面の未交付・遅延交付に関する既存の疑義に対する議決例(直近3年間に書面交付義務違反で課徴金を課した場合、平均7281万ウォン(約780万円)を賦課)等に照らし、5社が提案した共生協力支援策の規模は適切であると判断した。

6 エンターテインメント分野は、契約内容が事前に確定しにくく、随時変更される特性(映像制作、公演等の場合、随時シナリオ等が変更され、委託着手時点に契約内容を確定することが困難)により、契約書を事前に交付する文化が定着しておらず、取引の相手方である中小事業者は、常に取引関係の不安定さ、紛争発生(特に契約の解約・変更時)の可能性にさらされていた。

7 このような状況の下、今回の同意議決は、標準契約書及び仮契約書の作成、役職員の教育、契約締結及び管理システムの根本的な改善等を含んでおり、実質的な下請取引秩序の改善を通じた中小事業者の保護に貢献するのみならず、韓国のエンターテイメント業界全般に公正と共生の文化を作り出す契機となることが期待される。
 一方、今回の決定は、2022年7月に下請公正法に同意議決制度が導入されて以来、製造・役務の下請分野に初めて同制度が適用された事例(注10)であり、同意議決の履行過程において、関連業界と協力して標準契約書や仮契約書の締結等の慣行を広める予定である。
 今後、KFTCは、韓国公正取引調停院(注11)と共に、5社が本件同意議決を誠実に履行しているかを綿密に点検し、韓国エンターテインメント業界の公正な取引秩序確保のために、不公正行為を持続的に監視する計画である。
(注10)建設下請分野では、2024年4月にユジン総合建設に対して適用されている。
(注11)不公正な取引行為や下請公正法違反に関する民間紛争を調停するための専門機関

 <別添1>同意議決の主な内容
 KFTCは、5社に対して、取引秩序の積極的な改善、不公正な下請取引行為の再発防止、下請事業者に対する共生協力支援を主な内容とする次の是正策を決定した。
1 標準契約書及び仮契約書の作成・配布、電子契約締結システムの導入、契約管理システムの改善、下請取引ガイドのウェブサイト掲載及び配布
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2 役職員に対する下請公正法に関する教育の実施
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3 下請事業者に対する共生協力支援策
各業者に2億ウォン(総額10億ウォン)規模の共生協力資金を出資し、下請事業者を実質的に支援
08Kr3
(注12)(訳注)正月、お盆等のこと

 <別添2> 下請取引の公正化に関する法律における関連規定

第24条の9(同意議決) 
(1) 公正取引委員会(注:韓国公正取引委員会)の調査や審議を受けている親事業者等(以下、本条において「申請人」という。)は、当該調査や審議の対象となる行為(以下、この条において「当該行為」という。)に基づく不公正取引内容等の自発的解決、下請事業者の被害救済及び取引秩序の改善等のために、第3項に基づく同意議決を行うことを公正取引委員会に申請することができる。ただし、当該行為が次の各号のいずれか一つに該当する場合、公正取引委員会は、同意議決を行わずに、この法に基づく審議手続を進めなければならない。
1 第32条第2項の規定に基づく告発要件に該当する場合
 2 同意議決前に申出人が申請を取り下げた場合
(2) 申請者が第1項の規定に基づく申請を行う場合、次の各号の事項を記載した書面で行わなければならない。
 1 当該行為を特定できる事実関係 
 2 当該行為の中止、原状回復等、競争秩序の回復や下請取引秩序の積極的改善のために必要な是正策
 3 その他下請事業者、他の事業者等の被害を救済し又は予防するために必要な是正措置
(3) 公正取引委員会は、当該行為の事実関係に係る調査を終えた後、第2項第2号及び第3号の規定に基づく是正策(以下「是正策」という。)が次の各号の要件を全て満たすと判断される場合には、当該行為に関連する審議手続を中断し、是正策と同じ趣旨の議決(以下「同意議決」という。)を行うことができる。この場合、是正策は申請者との協議を経て修正することができる。
 1 当該行為がこの法律に違反していると判断された場合に予想される是正措置及びその他の制裁とのバランスをとれること。
 2 公正かつ自由な競争秩序若しくは下請取引秩序を回復させる又は下請事業者等を保護するために適切であると認められること。
(4) 公正取引委員会の同意議決は、当該行為がこの法律に違反すると認めたことを意味するものではなく、何人も、申請者が同意議決を受けた事実を挙げて、当該行為がこの法律に違反すると主張することはできない。

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