最近の動き(2026年10月更新)
米国
FTC、Zillow と Redfin の合意に関する反トラスト法上の懸念を解消するための命令案を承認
【概要】
1 2026年8月24日、米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)は5州と共に、Zillow 及び Redfin に対する訴訟を解決し、賃借人がアパートを探す際や不動産管理会社が賃貸物件を掲載する際に利用するオンライン・プラットフォームにおける競争を回復させる和解命令(stipulated order)案を提出することを裁判所に通知した。
米国
KKR、合併前の事前届出を義務付けている HSR 法に度重なる違反をしていたとして、過去最高額となる2億5000万ドルの民事制裁金の支払に合意
【概要】
1 米国司法省(以下「DOJ」という。)は、2026年8月26日、KKR & Co. GP LLC(注)(以下「KKRという。」)に対し、KKR が事前の企業結合審査手続(antitrust review process)を繰り返し無視したとする申立てを解決するため、2億5000万ドル(約383億6250万円)の民事制裁金を支払うことを求める同意判決案を提出した。
DOJ の訴状によれば、KKR は、1976年ハート・スコット・ロディノ法改正法(以下「HSR法」という。)を遵守しなかったことにより、少なくとも16件の個別の企業結合案件において審査手続(antitrust scrutiny)を回避していた。
(注)ニューヨーク州ニューヨークに本社を置き、運用資産総額が7440億ドル(11兆4218億8800万円)を超える世界最大級の投資会社の一つである。
2 スタンリー・ウッドワード司法次官は、次のように述べた。
「この歴史的な2億5000万ドルの民事制裁金は、DOJ が HSR 法を徹底的に執行することに全力を尽くしているという強力なメッセージを送るものである。当該制裁金の額は DOJ がこれまでに HSR 法に基づき課した民事制裁金の20倍以上に相当する。HSR 法の要件は、DOJ に違法性の疑いのある取引を調査する機会を与えることで、競争を保護するものである。法的義務を無視する企業は、深刻な結果に直面することになるだろう。」
3 HSR 法は、競争を阻害する恐れがある合併や買収を禁止するクレイトン法第7条の執行を競争当局が円滑に行うようにするため、一定規模を超える合併、買収又はその他の企業結合の当事者に対し、DOJ 及び米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)に事前届出を行うよう義務付けている。KKR は、企業買収及び企業売却を事業とする高度な運用を行う未公開株式投資会社(sophisticated private equity firm)として、HSR 法とその要件に精通している。2021年以降、KKR は HSR 法に基づき100件以上の事前届出を行うことが求められていた。
4 DOJ の訴状では、2021年から2022年にかけて、KKR は、少なくとも16件の個別の企業結合について、完全かつ正確な事前届出を行わなかったと主張されている。具体的には、KKR は、これらの企業結合のうち少なくとも8件について HSR 法に基づく届出書類を改ざんし、少なくとも2件について HSR 法に基づく事前届出を一切行わず、さらに、少なくとも10件についてHSR法に基づく事前届出に必要な書類を組織的に省略することにより、HSR 法に違反したとしている。
5 HSR 法は、同法違反に対し、違反行為1件につき1日当たり5万ドル(約771万6500円)を超える民事制裁金を課すことを定めている。求められている2億5000万ドルの民事制裁金は、HSR法違反に対して課された民事制裁金としては過去最大規模である。
EU
欧州委、UPM と Sappi による合弁事業計画に対し異議告知書を送付
1 概要
欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、UPM-Kymmene Corporation(以下「UPM(注1)」という。)及び Sappi Limited(以下「Sappi(注2)」という。)に対し、両社が計画している合弁事業が、雑誌や書籍などの印刷物に使用される各種コミュニケーション用紙(注3)市場における競争を制限するおそれがあるとの予備的見解を通知した。
UPM 及び Sappi は、欧州経済領域(以下「EEA」という。)において、コミュニケーション用紙製品の最大手2社である。本合弁事業は、UPM の欧州及び米国におけるコミュニケーション用紙事業と、Sappi の欧州におけるコミュニケーション用紙事業並びに Sappi の特殊紙事業の一部及びその他の付随的事業を統合することになり、EEA 市場の首位企業が誕生することになる。
特に、欧州委は、本合弁事業により価格引上げが可能となり、その結果、顧客の選択肢が減少することを懸念している。
(注1)フィンランドに本社を置くグローバルな素材ソリューション企業であり、紙製品、パルプ、電力、ラベル用紙、製材、木質パネル製品に加え、生化学製品、バイオマス、合板ソリューションの開発、製造、販売を行っている。
(注2)南アフリカに本社を置く、木材繊維を主原料とする再生可能資源から日常的に使用される素材を製造するグローバル企業である。Sappi は、パルプやバイオマテリアルなどの原材料に加え、通信用紙、特殊紙、包装用紙などの最終製品を供給している。
(注3)雑誌、書籍、販促物などの印刷に用いられる印刷用紙。
2 異議告知書
2026年4月28日、欧州委は、本合弁事業により、UPM 及び Sappi が EEA、英国及びスイスにおける特定のコミュニケーション用紙、具体的には、雑誌用紙及び上質コート紙の市場において競争を制限することになるかどうかを評価するため、詳細審査を開始した。これら2種類の用紙は、雑誌、書籍、販促物等の印刷物に使用されている。
欧州委は、影響を受ける市場及び本合弁事業が及ぼし得る潜在的な影響を把握するため、広範な審査を実施した。この審査には、特に、当事会社から提供された内部文書の分析並びに競争事業者及び顧客からの意見・データの収集が含まれている。
この詳細な審査の結果、欧州委は、UPM と Sappi による合弁事業が市場支配力を獲得し、雑誌用紙の一種である機械パルプコート紙と、上質コート紙の顧客に不利益を与える形で、価格を引き上げ、品質を低下させることが可能となることを懸念している。欧州委は、現時点において、関連する事業を合弁事業に統合することが、コスト削減、環境面での改善又はレジリエンスの向上という点で、潜在的な悪影響を相殺するのに十分な利益をもたらすとは確信できていない。
異議告知書は、審査における正式な手続における段階の一つであり、欧州委が当事会社に対する異議を書面で通知するものである。異議告知書を送付することは、調査の結果を予断するものではない。UPM 及び Sappi は、今後、欧州委の異議告知書に対して回答し、欧州委の事件記録を閲覧し、口頭審理を要請することができる。
3 背景
本合弁事業は、2026年3月19日に欧州委に届出された。欧州委は、2026年4月28日に詳細審査を開始し、2026年11月11日までに最終決定を下すことになっている。
欧州委には、一定の売上高基準を上回る企業が関与する企業結合を審査する義務があり(EU企業結合規制第1条参照)、EEA 又はその相当部分において、有効な競争を著しく阻害することとなる企業結合を防止しなければならない。
届出がされた企業結合の大多数は競争上の問題を生じさせず、通常の審査を経て承認される。欧州委は、企業結合の届出が行われてから、通常、25営業日以内に承認を与えるか(第1次審査)、又は詳細審査(第2次審査)を開始するかを決定する。
欧州委は、本件のほか、現在、第2次審査の企業結合審査を2件継続している。
① MMG による Anglo American のニッケル事業の買収計画
② Saipem と Subsea7 による合併計画