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米国
米国、英国及び欧州の競争当局による生成AIに関する共同声明
2024年7月23日 米国連邦取引委員会、米国司法省、英国競争・市場庁、欧州委員会 公表【概要】
1 概要
(1) 米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)、米国司法省反トラスト局(以下「DOJ」という。)、英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)及び欧州委員会競争総局(以下「欧州委」という。)は、2024年7月23日、生成AI基盤モデル・製品の競争に関する共同声明を公表した。
(2) 共同声明のポイント
・各国競争当局の自由な意思決定の下で法執行は行われるものの、AIに関するリスクは国境を越えた形で行われる可能性が高いため、問題に対する理解を適切に共有し、必要に応じて、各競争当局はそれぞれの権限を行使するように努める。
・AI市場における競争への脅威として、少数の企業が既存の又は新たなAI関連分野全体のボトルネックを利用する格好で、基盤モデルを開発するための特殊なチップ、膨大な計算能力等の将来の開発に対して過大な影響を及ぼす立場に立つ可能性や既存の大企業が過去の主要な技術変革を通じて確立した地位を、拡大又は固定化し、将来の競争を阻害する可能性等がある。
・AIエコシステムにおいて競争を促進しイノベーションを育てるためには、公正な取引、相互運用性等が求められる。
2 生成AI基盤モデル・製品の競争に関する共同声明
・ マーガレット・ヴェステアー上級副委員長(欧州委)
・ サラ・カーデル・チーフエグゼクティブ(CMA)
・ ジョナサン・カンター反トラスト局長(DOJ)
・ リナ・カーン委員長(FTC)
(1) 公正で開かれた競争的市場の利益のための取組
EU、英国及び米国の競争当局として、我々は国民及び経済の利益に対する責務を共有している。我々は、それぞれの法律に基づき、競争の実効性を確保し、消費者や企業が公正かつ誠実な対応を受けられるように努める。これは、公正で開かれた競争力のある市場が、これらの技術によりもたらされる可能性のある機会、成長、イノベーションを引き出すのに貢献するという認識に基づくものである。
(2) 主権に基づく意思決定
我々の法的権限や管轄権の関係は様々であり、最終的には、我々の意思決定は常に主権に基づき独立したものであり続ける。しかし、以下で述べるようなリスクが顕在化した場合、それは国境を越えた形で行われる可能性が高い。そのため、我々は問題に対する理解を適切に共有し、必要に応じて、各競争当局はそれぞれの権限を行使するように努める。
(3) 技術の転換点
我々は、多様な文書やフォーラムを介し、基盤モデルを含む人工知能(AI)の変革的な可能性を認識している。これらの技術は、人々に大きな利益をもたらし、イノベーションを促進し、経済成長を推進する可能性がある。これらの技術の今後の発展について正確に予測することは困難であるが、生成AIは近年急速に進化しており、過去数十年で最も重要な技術的発展の一つとなりつつある。
この技術の転換点は、事業者間の競争、イノベーション、成長の機会をもたらす新たな手段をもたらす。したがって、まさに今、公共の利益が最大化されるよう努める必要がある。そのためには、警戒を怠らず、公正な競争を損なうような企業の行為に対してセーフガードを構築する必要がある。例えば、①企業がAI技術の開発に必要となる重要な要素(インプット)を、他社に対して制限しようとするリスク、②デジタル市場において既存の市場力を有する企業が、フィードバック効果やネットワーク効果を利用して、隣接するAI市場やエコシステム全体でその力を強化又は拡大し、参入障壁を高め競争を害するリスク、③コンテンツクリエーターにとっての買い手が少なくなり、販売先の選択肢が欠如すると、買い手側が独占力を行使することが可能になるリスク、④AIが消費者・起業家・その他の市場参加者に害を与える方法で開発・使用されるリスクなどが考えられる。
AIの発展の速度とダイナミズムを考慮し、デジタル市場での経験から学んだことを活かして、我々はこれらのリスクが固定化したり、回復不可能な害をもたらす前に対処するために有効な権限を活用することを約束する。
(4) 競争への脅威
我々は、AIによって新たなサービスが市場に投入されることにより得られる大きな利益の可能性を認識しつつも、継続的に監視を要するリスクも認識している。これらのリスクを評価する鍵は、新たなAIビジネスモデルがどのように事業者のインセンティブを喚起し、最終的にその行動に影響を与えるかに焦点を当てることである。
① 重要な要素(インプット)の集中管理
基盤モデルを開発するためには、特殊なチップ、膨大な計算能力、大規模なデータ、専門的な技術知識が不可欠である。そのため、少数の企業が既存の又は新たなAI関連分野全体のボトルネックを利用する格好で、これらツールの将来の開発に対して過大な影響を及ぼす立場に立つ可能性がある。このことによって、破壊的イノベーション(disruptive innovation)の範囲が制限されてしまい、あるいは、企業が自社に有利な形でその開発を進めることができるため、公正な競争を損ない、公共及び経済に利益をもたらす機会が減少する可能性がある。
② AI関連市場での市場力の固定化又は拡大
基盤モデルは、既存の大規模なデジタル企業が既に強力かつ累積的な優位性を享受している時期に登場した。例えば、プラットフォームはAI関連分野の複数の段階において、強大な市場力を持つ可能性がある。これらの企業は、AI又はAI対応サービスの人々や企業への流通をコントロールすることを通じて、AI主導の破壊的イノベーションから自社を守り、あるいは、これを自社に有利になるよう行動することができる。。これにより、これらの企業は、過去のデジタル革命を通じて確立した地位を、拡大又は固定化し、将来の競争を阻害する可能性がある。
③ 主要プレイヤー間の取決めがリスクを増幅する可能性
これまで、生成AIの開発に関連する企業間のパートナーシップ、金融投資、その他の協調が広範に行われてきた。これらの取決めは競争に害を与えないこともあるが、場合によっては、これらのパートナーシップや投資は、主要企業によって、競争上の脅威を減じ又は吸収し、そして、自社に有利な市場の結果を導いたりするために利用される可能性があり、このことは公共の利益に反する可能性がある。
(5) AIエコシステムにおける競争保護のための原則
AIに係る競争の問題は具体的状況に依存するものの、関連市場での経験から一般的に言えば、競争を促進しイノベーションを育てるためには共通の原則がある。
① 公正な取引
市場力を有する企業が排他的な戦術を採ると、自社の優位性を強化し、第三者による投資やイノベーションを妨げ、競争を損なう可能性がある。企業が公正な取引を行うほど、AIエコシステムは良いものとなる。
② 相互運用性
AI製品やサービス、そしてその要素(インプット)が相互に運用可能であればあるほど、AIに関する競争及びイノベーションはより活発になる。相互運用性がプライバシーやセキュリティを犠牲にするとの主張については、慎重な精査を要する。
③ 選択肢
AIエコシステムにおいて、競争過程から生まれる多様な製品やビジネスモデルに関して選択肢が生まれることは、企業や消費者の利益となる。企業や人々が他の製品等に関する実質的な選択肢を持つことを妨げる「ロックイン効果」に注意が必要である。また、既存企業と新規参入者間の投資やパートナーシップが、合併規制を回避したり、既存企業に不当な影響力や支配力を与えたりしてしまうことによって競争が委縮しないようにすることも重要である。コンテンツクリエーターにとっては、買い手の選択肢が多ければ多いほど、アイデア市場における情報の自由な流れを害することになる買い手による独占力の行使が抑止されることにつながる。
(6) AIに関連するその他の競争上のリスク
AIが市場で展開される際に生じ得るその他のリスクにも留意している。例えば、アルゴリズムによって、競争者間で競争上重要な情報の共有、価格の固定、その他の条件や事業戦略における共謀が競争法に違反して行われるリスク又は不公正な価格差別や排除行為を通じて競争を弱体化させるリスクがある。我々は、AI技術の更なる発展に伴い生じる可能性のあるこうしたリスクに対して注意を払う。
これらのリスクを踏まえて、我々は、生成AIだけでなく、AIの開発・活用に関連して発生する可能性のあるリスクを監視・対処することとする。
(7) AIに関連する消費者のリスク
AIは、消費者に損害を与える欺瞞的・不公正な慣行を加速させる可能性がある。消費者保護の権限を有するCMA、DOJ及びFTCは、AIの使用・活用からもたらされる可能性のある消費者保護に対する脅威にも注意を払う。
モデルを訓練するために消費者のデータを欺瞞的・不当に用いる企業は、人々のプライバシー、セキュリティ、自主性を損なう可能性がある。また、モデルの訓練のために顧客データを用いる企業は、競争上重要な情報を漏洩する可能性がある。さらに、消費者が購入・利用する製品・サービスにおいて、必要に応じて、消費者に対してAIがいつ、どのように用いられるかという情報が提供されることが重要である。
3 各当局から以下のとおり、公表文が出されている。
DOJ:
https://www.justice.gov/opa/pr/leaders-justice-department-federal-trade-commission-european-commission-and-uk-competition
FTC:
https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2024/07/ftc-doj-international-enforcers-issue-joint-statement-ai-competition-issues
CMA:
https://www.gov.uk/government/news/cma-signs-joint-international-statement-supporting-competition-in-ai
欧州委:
https://competition-policy.ec.europa.eu/about/news/joint-statement-competition-generative-ai-foundation-models-and-ai-products-2024-07-23_en
1 概要
欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、2024年7月1日、メタに対し、同社の「支払か(個人データの収集・組合せへの)同意か」(Pay or Consent)の二者択一的な広告モデルがデジタル市場法(DMA)に準拠していないという予備的な調査結果を通知した。欧州委の予備的見解は、この二者択一的なモデルが、ユーザーに、ユーザーの個人データを組み合わせることへの同意を強いるものであり、よりパーソナライズ度の低いメタのソーシャル・ネットワークの同等のサービスをユーザーに提供することを怠っている、としている。
2 メタの「支払か同意か」モデルに関する予備的調査結果
(1) オンライン・プラットフォームは、オンライン広告サービスを提供するために、自社サービスやサードパーティ・サービスを通じて個人データを収集することが多い。DMAに基づいて指定されたゲートキーパーはデジタル市場における重要な地位を有しているので、ユーザーに対し、膨大な量の個人データを収集することを可能にする大規模なユーザーデータベースの利用条件を課すことができる。これにより、ゲートキーパーは、そのような膨大なデータにアクセスできない競合他社と比較して潜在的な優位性を得て、オンライン広告サービスやソーシャル・ネットワークサービスを提供する上で障壁を高めることができるようになっている。
(2) DMAの下では、ゲートキーパーは、指定されたコア・プラットフォーム・サービスと他のサービスとの間で個人データを組み合わせることについて、ユーザーの同意を求めなければならず(第5条第2項)、ユーザーがそのような同意を拒否した場合、ユーザーが、よりパーソナライズされていないが同等の代替サービスを利用できるようにしなければならない(DMA前文(36)(注))。ゲートキーパーは、ユーザーの同意を条件としてサービスや特定の機能を利用してはならない。
(注)DMA前文 (36)「ゲートキーパーは、コア・プラットフォーム・サービスの競争力を不当に損なわないようにするため、よりパーソナライズされていないが同等の代替手段を提供することで、エンドユーザーがそのようなデータ処理及びサインイン慣行を自由に選択できるようにすべきである。」
(3) DMAの導入に対応して、メタは2023年11月、フェイスブックとインスタグラムのEU域内のユーザーが、(i) 広告のないバージョンのソーシャル・ネットワークに月額料金を支払って加入するか、(ii) パーソナライズされた広告のあるバージョンのソーシャル・ネットワークに無料でアクセスするかのいずれかを選択しなければならない、「支払か同意か」の二者択一モデルを導入した。
(4) 欧州委は、メタの二者択一モデルは、DMA第5条第2項が定める必要条件を満たしておらず、とりわけ以下の2点でDMAに準拠していないとの予備的見解を示している。
メタのモデルについて、以下の問題を指摘している。
・ ユーザーが、個人データの利用のより少ない「パーソナライズされた広告」ベースのサービスと同等のサービスを選択することができない。
・ ユーザーが、個人データの組合せに(強制されずに)自由に同意することができない。
DMAの遵守を確実にするためには、同意しないユーザーに対しても、本件の広告のパーソナライズにおいて、個人データの使用が少ない同等のサービスを利用できるようにするべきである。
欧州委は、本件調査を通して、関係するデータ保護当局と調整してきた。
3 次のステップ
(1) 欧州委はメタに対し予備的調査結果を送付することにより、同社がDMAに違反しているという予備的見解を通知する。これは欧州委の最終的な判断結果に予断を与えるものではない。メタは、欧州委の調査ファイルを精査し、予備調査結果に対して書面で反論することにより、防御権を行使することができる。欧州委は、2024年3月25日の審査開始から12か月以内に本件調査を終了する。
(2) 欧州委の予備的見解が最終的に維持された場合、メタのモデルがDMA第5条第2項違反と認定する決定を採択することになる。欧州委は、効果的なDMA遵守に向けた納得のいく道筋を模索するため、メタとの建設的な関係を続けている。
4 マーガレット・ヴェステアー欧州委副委員長(競争政策担当)のコメント
我々の調査は、メタのようなゲートキーパーが長年にわたって何百万人ものEU市民の個人データを蓄積してきた市場において、競争可能性を確保することを目的としている。我々の予備的見解では、メタの広告モデルはDMAに準拠していない。そして我々は、市民が自らのデータをコントロールし、よりパーソナライズされていない広告を選択できるようにしたいと考えている。
欧州委、Apple Payに関連する確約案を承認
2024年7月11日 欧州委員会 公表【概要】
1 概要
欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、EU競争法に基づき、アップルが提示した確約案に対して法的拘束力を付与した。この確約は、店舗でのiPhoneによる非接触型決済に使用される標準技術への競合他社のアクセスをアップルが拒否したことに対する欧州委の競争上の懸念に対処するものである。
2 欧州委の競争法上の懸念について
(1) Apple Payは、アップル独自のモバイルウォレットであり、iPhoneユーザーが店舗やオンライン上でiPhoneを使って支払を行うために使用される。アップルのiPhoneは、アップルのオペレーティングシステム「iOS」のみで動作する。アップルは、モバイルウォレット開発者のアクセス条件を含め、そのエコシステムのあらゆる側面を管理している。
(2) 欧州委は、アップルがスマート携帯端末市場において圧倒的な市場力を持ち、iOS を利用した店舗でのモバイルウォレット市場において市場支配的地位にあると予備的に判断した。アップルがサードパーティのモバイルウォレット開発者にアクセスを認めていないため、Apple Payは、iOS上のNFC(Near-Field-Communication)ハードウェア及びソフトウェア(以下「NFC input」という。)にアクセスし、店舗での支払を行うことができる唯一のモバイルウォレットである。
(3) 欧州委は、調査の結果、アップルがiOS上のNFC inputを競合するモバイルウォレット開発者に提供せず、Apple Payだけにアクセスさせることで、その市場支配的地位を濫用したと予備的に判断した。
(4) 欧州委の予備的な見解によると、アップルのアクセス拒否によりApple Payの競合他社が市場から排除され、イノベーションが減少し、iPhoneのモバイルウォレット利用者の選択肢が狭められた。
(5) このような行為は、市場支配的地位の濫用を禁止しているEU機能条約(TFEU)第102条に違反する可能性がある。
3 確約について
(1) 欧州委の競争上の懸念に対処するため、アップルは、当初、次のような確約案を申し出た。
・ アップルは、サードパーティのウォレットプロバイダーがApple PayやApple Walletを利用しなくても、iOS端末のNFC inputに無料でアクセスできるようにする。アップルは、HCE(Host Card Emulation)モードでNFCへのアクセスを可能にすること。HCEは、デバイス内のセキュアエレメントに依存することなく、支払認証情報を安全に保存し、NFCを使用して取引を完了することを可能にするものである。
・ サードパーティのモバイルウォレットアプリ開発者にNFCへのアクセスを許可するために、公正、客観的、透明、かつ非差別的な手続と適格基準を適用すること。
・ ユーザーが店舗での支払用のデフォルトアプリとしてHCE決済アプリを簡単に設定でき、Field Detect(ロックされたiPhoneを NFCリーダーにかざすとロックされているユーザーのデフォルトの決済アプリが起動する機能)やDouble-click(端末の側面のボタン又はホームボタンをダブルクリックするとデフォルトの決済アプリが起動する機能)といった関連機能及びTouch ID、Face ID、デバイスパスコードなどの認証ツールを利用できるようにすること。
・ アクセス制限に関するアップルの判断を独立した立場で審査できるよう、監視メカニズムと第三者による紛争解決システムを構築すること。
・ 上記の確約を、欧州経済領域(以下「EEA」という。)で設立された全てのサードパーティのモバイルアプリ開発者及びEEAで登録されたApple IDを持つ全てのiOSユーザーに一時的なEEA外の旅行時も含めて適用すること。
(2) 2024年1月19日から2024年2月19日の間、欧州委は、アップルの確約案についてマーケットテストを行い、全ての利害関係者と協議し、競争上の懸念事項が解消されるかどうかを確認した。このマーケットテストの結果を踏まえ、アップルは当初の提案を修正し、次の確約案を申し出た。
・ 加盟店の携帯電話や端末として使用されるデバイス(いわゆるSoftPOS)など、業界で認定された他の端末でHCE決済アプリを使用して支払を開始できる可能性を拡大すること。
・ アップルは、HCE開発者がHCE決済機能を他のNFC機能や活用方法と組み合わせて使用することを妨げるものではないことを明確に認めること。
・ 開発者が決済サービスプロバイダー(PSP)としてのライセンスを取得すること又は強制力のある取決めをPSPと締結するというNFC inputにアクセスするための要件を削除すること。
・ 開発者がサードパーティのモバイルウォレットプロバイダー向けに決済アプリを事前構築するためのNFCへのアクセスを許可すること。
・ Apple Payで使用されている業界の標準規格に準拠するようHCEアーキテクチャを更新し、Apple Payで採用されなくなった場合でも、一定の条件下で引き続き標準規格を更新すること。
・ 開発者がユーザーにデフォルトの決済アプリの簡単な設定を促し、デフォルトを設定するページにユーザーを誘導し、数回のクリックでデフォルト設定できるようにすること。
・ HCE決済アプリの開発者と同じ業界標準仕様に準拠し、審査の過程で得られた機密情報を保護すること。
・ 紛争解決の期限を短縮すること。さらに、アップルはモニタリングトラスティ(監査人)に対して、さらなる独立性と手続保障を確保すること。
(3) 欧州委は、アップルの最終的な確約案は、EEAのiOSユーザーによる店舗でのNFC決済へのサードパーティのモバイルウォレット開発者のアクセスを制限したことについての競争上の懸念に対処するものと判断した。そのため、アップルに対して、当該確約案について法的拘束力を付与することを決定した。
これらの確約は10年間有効であり、EEA全域に適用され、その履行状況は、アップルが任命したモニタリングトラスティが監視し、同期間にわたって欧州委に報告が行われる。
(4) 確約違反があった場合、欧州委は、EU競争法違反を認定することなく、違反企業の年間総売上高の10%を上限とする制裁金を賦課するか、又は、違反企業の日次売上高の5%を履行強制金として違反した日ごとに賦課することができる。
その他豪州
ACCCによるデジタルプラットフォーム調査の最終報告書は、グローバル規模の発展及び新たな競争・消費者問題に焦点
2024年7月25日 オーストラリア競争・消費者委員会 公表
【概要】
1 オーストラリア競争・消費者委員会(以下「ACCC」という。)は、2025年3月31日までに政府に提出される予定のデジタルプラットフォームサービス調査の最終となる第10次報告書において、デジタルプラットフォーム市場における最近の動向までをカバーし、新たな問題を特定して、また、海外の重要な動向とそれによる消費者及び競争への影響を提示する予定である。ACCCは、潜在的な又は新たな問題の概要を捉えることで、絶えず進化しているデジタル市場について、さらなる検討や監視のための優先事項を明らかにしていくことを目指している。 本日(2024年7月25日)、ACCCは論点ペーパー(注1)を発表し、今後発行する最終報告書における3つの関心分野(①デジタルプラットフォームサービス市場に対する最近の国際的な法令の進展及びそれらによる競争・消費者への影響、②デジタルプラットフォームサービス市場における大幅な発展と主要な動向、③デジタルプラとフォームサービスに関する潜在的及び新たな競争・消費者問題)をまとめ、関係者にこれらについて意見を求めている。
(注1)
accc.gov.au/system/files/dpsi-10-final-report-issues-paper.pdf?ref=0&download=y
2 ACCCのジーナ・キャス・ゴットリーブ委員長は、次のように述べた。
「最終報告書は、グローバルな視点に立ち、世界にどのような課題と可能性が存在するかを確認する機会となる。過去5年間にわたるACCCのデジタルプラットフォームに関する取組は、既に経済に変化をもたらし、消費者に利益をもたらしている。しかし、オーストラリアは、他の国・地域の発展からさらに学び、利益を得ることができる。
現在我々は、最終報告書作成のため、消費者、事業者、その他の人々に、我々が述べた問題点について意見を求めている。」
3 論点ペーパーでは、EU、ドイツ、インド、韓国、日本及び英国における関連法令の著しい進展について概要を述べている。最終報告書では、発行までの更なる進展も含め、これらの国及びその他の国・地域における更なる詳細が記載される。
この点についてジーナ・キャス・ゴットリーブ委員長は、次のように述べた。
「多くの場合、これらの法令は最近制定されたばかりであるため、その全ての影響が明らかでないこともあると認識している。しかし、デジタル市場における競争と消費者保護のバランスを見出すという点では、多くの国・地域における取組が我々の目的と一致している。」
デジタルプラットフォームサービス調査における従前の調査結果の更新
4 最終報告書において、ACCCは、これまでの調査報告書における調査結果の更新情報も含める予定である。2020年9月のオンライン・プライベート・メッセージサービスに関する報告書及び2021年3月のアプリ配信市場に関する報告書は、これまでの調査結果を更新する余地がある分野である。しかし、ACCCは必要に応じて、これ以外にも、これまでの報告書で調査したサービスや市場における大幅な発展や大きな動向について検討する可能性がある。ACCCは、最近の技術的発展の結果も含め、これらのサービスの提供に関する変化を調査する。最終報告書はまた、新規参入の存在がある分野を含めた規模の調整やこれらのサービス分野の主要なサプライヤーの素性を確認する。また、消費者によるサービスの利用方法の変化を確認し、信頼性と品質についての消費者の見方の変化も調査する。
5 ACCCはまた、エピックゲームズが現在オーストラリアでアップル及びグーグルに対して行っている訴訟など、国内外における最近及び現在進行中の訴訟についても、最終報告書に含める可能性がある。エピックゲームズとスマートフォンユーザー及びアプリ開発者の代理をする集団訴訟の弁護士は、アップルとグーグルそれぞれが競争・消費者法の様々な規定に違反していると主張している。
デジタルプラットフォームサービスにおける新たな問題
6 最終報告書においては、オンラインゲームなど、これまで調査されてこなかったデジタルプラットフォームサービスにおける潜在的又は新たな競争及び消費者問題を検討する。オンラインゲームとゲームプラットフォームは、デジタル時代におけるエンターテイメントとソーシャル・ネットワークの一形態として普及しており、約91%の世帯がゲーム端末又はゲーム機器を所有し、2024年の市場規模は42.1億豪ドルに達すると推計されている。ACCCは、これまでオンラインゲーム市場における競争・消費者問題を調査したことはないが、競争及び消費者に関する潜在的な懸念を生じさせる慣行が存在する可能性のある分野であるとして監視している。
7 最終報告書で調査の対象となる可能性のある問題の中には、流通モデルやサブスクリプションモデル、欺瞞的な可能性のあるデザイン要素などがある。
8 ACCCはまた、生成AIに関連する潜在的な競争上の問題を調査することを計画している。これらの問題には、市場への高い参入障壁や巨大なプラットフォーム事業者が大規模言語モデル(LLMs)との統合を通じて、自らのマーケットパワーを拡大・強化する可能性について検討することも含まれる。
9 ジーナ・キャス・ゴットリーブ委員長は、次のように述べた。
「我々は、最近の生成AIの発展を注視している。生成AIは広範に利用され、急速に拡大・発展を続けている。生成AIの製品やサービスは、新たな機会をもたらす可能性がある一方で、我々の任務に大きな影響を与えるような新たな課題もある。」
10 2024年9月に政府に提出される予定の第9次報告書では、一般検索サービスに関する競争・消費者問題を検討しており、これには一般検索サービスに関連する生成AIの潜在的な影響も含まれる。このような現在の調査対象を踏まえ、最終報告書において、一般検索サービスにおける生成AIの潜在的影響をさらに検討することは考えていない。
11 ACCCは、2023年9月の報告書において、拡大するデジタルプラットフォームによるエコシステムの一例として、消費者向けクラウドストレージサービスを調査した。過去のこのような調査を踏まえ、消費者向けクラウドストレージサービスを再調査するつもりはないが、クラウドストレージサービスはクラウドコンピューティングサービスの1つの側面に過ぎないことに留意し、ACCCはビジネスユーザーを中心にネットワークへのアクセス、サーバー、アプリケーション、ストレージなど、他のサービスを重点的に調査する予定である。
背景
12 ACCCのデジタルプラットフォーム部門は、2020年の財務大臣からの指示に従い、デジタルプラットフォームサービス市場とそれによる競争・消費者への影響について、5年間にわたる調査を実施している。この調査は6か月ごとに政府に報告されるもので、様々な形態のデジタルプラットフォームサービス、それらによる広告サービス、データ仲介サービスを調査している。
13 今回の論点ペーパーは、2025年3月31日までに政府に提出される予定の最終報告書に反映される。第9次報告書は、一般検索サービスにおける競争及び検索品質の動向に焦点を当てたもので、2024年9月30日までに財務大臣に提出される予定である。
14 その他の報告書では、オンライン・プライベート・メッセージサービス(第1次:2020年9月)、アプリ配信(第2次:2021年3月)、検索サービスとウェブブラウザにおける市場ダイナミクスと消費者選択画面(第3次:2021年9月)、オンライン小売市場(第4次:2022年3月)、規制改革(第5次:2022年9月)、ソーシャルメディアサービス(第6次:2023年3月)、エコシステムの拡大(第7次:2023年9月)について調査してきた(訳注:データ企業によるデータ製品・サービスの供給(第8次:2024年3月))。これまでの報告書は、デジタルプラットフォームサービス調査2020-25のウェブページ(注2)に掲載されている。
(注2)
https://www.accc.gov.au/inquiries-and-consultations/digital-platform-services-inquiry-2020-25
15 2022年9月に政府に提出された第5次報告書において、ACCCは、デジタルプラットフォームサービスの提供において見られる様々な阻害性に対処するため、新たな競争・消費者保護措置の導入を提言した。2023年12月8日、政府はこれら全ての提言についての基本的な支持を表明し、競争のための措置に関する法的枠組みについて公的に協議を行うとした。
16 ACCCは、産業・科学・資源省における「オーストラリアにおける安全で責任あるAI」協議や、国会の雇用・教育・訓練常任委員会による「オーストラリアの教育制度における生成AIの使用に関する調査」を含め、生成AIの広範な問題に関連する他の政府による活動が現在行われていることに留意する。
韓国
KFTC、AI市場実態調査を開始
2024年8月1日 韓国公正取引委員会 公表【概要】
1 韓国公正取引委員会(以下「KFTC」という。)は、2024年8月1日から人工知能(Artificial Intelligence、以下「AI」という。)分野の国内及び海外の主要事業者を対象に、「AI市場実態調査」に着手する。
2 チャットGPTを筆頭に、生成型AI(注1)の急速な発展が当該産業はもちろん、日常生活全般に大きな影響を及ぼしており、現在、AI市場は、企業間(B2B)、企業・消費者間(B2C)で多様な取引関係を形成しており、今後の経済成長を導く(注2)重要産業になると見込まれている。
(注1)大規模データ等を学習し、既存のデータを活用して新たなテキスト、画像等の新たなコンテンツを生成するAI技術
(注2)生成型AIの導入により、今後10年間、世界中のGDPが7%増大すると予想(ゴールドマンサックス、2023年)
3 しかし、大規模な資本及びコンピューティングインフラが必要なAI技術の特性により、少数企業が競争優位性を確保しており、高い市場集中度、主要生産要素に係る参入障壁の構築の可能性など様々な競争法上の問題も現れている。主要競争当局及び国際機関もAI市場について分析を開始したり、報告書を発表したりするなど、AI分野に高い関心を示している状況である。
(注3)英国・カナダ競争当局のAI関連報告書の 発表(2023年)、欧州委員会の生成型AI市場に係る研究の推進(2024年)、OECDのAI関連報告書の発表(2024年)等
4 このため、KFTCは、国内の生成型AI市場における取引関係及び競争状況を分析し、今後の市場において発生する可能性のある競争・消費者問題を捉えるために、市場研究(Market Study)を目的として、独占規制及び公正取引に関する法律第87条第1項(注4)に基づき実態調査を行う。
(注4)独占規制及び公正取引に関する法律第87条第1項 KFTCは、一定の取引分野の公正な取引秩序の確立のために、当該取引分野に関する書面実態調査を実施し、その調査結果を公表することができる。
5 KFTCは、本格的な実態調査に先立ち、文献調査、学界及び業界懇談会等の意見収れんを通じて、調査対象及び調査項目を選定した。
6 今回の実態調査は、国内顧客にAI分野(ファンデーションモデル(注5)、コンピューティングハードウェア(注6)等)の製品・役務の開発・販売等を行う国内・海外の主要事業者50社以上を対象として実施する予定であり、そのため、KFTCは、書面実態調査票を送付し、必要な範囲で資料の提出を求める予定である。
(注5)膨大なデータを使用して様々な分野の作業を実行できるように学習する巨大AI技術の基礎モデル(Foundation Model)
(注6)生成型AI用に使用されるコンピュータチップなどのハードウェアインフラ
7 主な調査項目は、①事業の概要、②製品及び市場の状況、③AI関連分野別の取引状況、④不公正取引経験の有無等で、事業者間の取引実態及び競争関係、詳細な市場構造に対する総合的な把握に関する内容である。
8 KFTCは、今回の実態調査結果を基に、AI市場のイノベーション及び公正な競争が持続できる競争政策の方向を模索する一方、AI市場参加者の予測可能性を高め、より競争・消費者に優しい市場環境作りのために、学界及び外部専門家の諮問を経て、2024年末までに「AI政策報告書」を公表する予定である。