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海外当局の動き

海外当局の動き

最近の動き(2026年4月更新)

米国

FTCファーガソン委員長、アップルのクックCEOに対し、政治的理由による記事の抑制又は優遇に関して、FTC法違反の疑いで警告書簡を発出

2026年2月12日 米国連邦取引委員会 公表

原文

【概要】

1 米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)のアンドリュー・ファーガソン委員長は、アップルのティム・クックCEO宛てに書簡を発出し、アップルが顧客に対して負っている義務(注1)について注意喚起した。同書簡は、Apple News(注2)が体系的に左派系報道機関を優遇し、右派系報道機関を抑制しているとの報告を受けて発出されたものである。また、同書簡は、アップルがApple Newsにおいて事実を誤認させる表示を行った場合や、利用規約に違反した場合には、FTC法に違反する可能性があると指摘している。
(注1)①不公正又は欺瞞的な行為を行わない義務、②重大な虚偽表示及び重大な不開示を行わない義務、③利用規約どおりにサービスを提供する義務(書簡参照)。
(注2)書簡には、「Apple Newsは、新聞、雑誌、デジタル出版物から記事を集約し、それらの記事を選定及び編集して消費者にデジタルニュースフィードを提供している。」、「Apple Newsは、iPhoneやiPadを含む多くのアップルの端末にプリインストールされており、米国で最も使用されているニュースアプリだと主張している。」旨記載されている。

2 ティム・クックCEO宛の書簡の概要は次のとおり。
(1) FTC法第5条は、不公正又は欺瞞的な行為又は慣行を禁止している。ある表示がFTC法の下で欺瞞的とみなされるのは、表示が重要なものであり、かつ、当該状況下で合理的な消費者を誤解させるおそれが高い場合である。FTC法は、重大な虚偽表示及び重大な不開示の両方を禁止している。行為又は慣行が不公正とされるのは、合理的に回避することができない重大な損害を消費者に与える、又は与えるおそれがあり、かつ、その損害が消費者又は競争によってもたらされる相殺的な利益によって正当化されない場合である。昨年、FTCは、ビッグテック企業やプラットフォームが、言論の内容や所属関係に基づいて、消費者のサービスや情報へのアクセスをどのように拒否又は制限しているか(FTC法第5条に違反するおそれのある行為を含む。)について理解を深めるため、意見募集を実施した(https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2025/02/federal-trade-commission-launches-inquiry-tech-censorship)。
(2) 合衆国憲法修正第1条(注3)は、ビッグテック企業の言論も保護している。しかし、同条は、消費者に対して行われた重大な虚偽表示に対してまで保護を拡大したことはなく、また、たとえ当該行為が言論を伴うものであっても、議会がFTC法の下で不公正とみなした行為について、発言者を免責するものでもない。
(注3)合衆国憲法第1条は、「この憲法で付与された全ての立法権は、合衆国議会に属する。議会は上院及び下院から構成される。」と記載され、個人の権利保障が明記されていなかった。修正第1条は、「政治権力を制限し、個人の自由を保護するため」に採択され、「合衆国議会は、宗教の設立に関する法律、またその自由な行使を禁じる法律を制定してはならない。また、言論や出版の自由を制限する法律、及び人民が平和的に集会する権利や、苦情の是正を政府に請願する権利を制限する法律を制定してはならない。」と記載されている。
(3) ニースアグリゲーター(注4)やフィード(注5)において、記事や出版物の思想的又は政治的見解に基づいてニュース記事を抑制又は優遇するビッグテック企業は、そのような抑制又は優遇が①利用規約に違反する場合、②消費者の合理的な期待に反しており、思想的な偏向の不開示が重大な省略(material omission)となる場合、又は③当該行為が、合理的に回避不可能であり、消費者や競争に対する相殺的利益によって正当化することができない重大な損害を与える場合には、FTC法に違反する可能性がある。
(注4)インターネット上に公開されたニュースを収集し、ユーザーが容易にアクセスできる形式で提供するサービスやアプリのこと。
(注5)「ニュースサイトなどで更新情報が表示される領域」や「SNSの投稿一覧」のこと。
(4) 御承知のとおり、Apple Newsは、既存及び将来の消費者との関係を規定する利用規約及びポリシーを定めている。これらの利用規約及びポリシーは、サイト上のコンテンツ、利用者によるサイト利用、禁止行為、プライバシー及びデータセキュリティ、紛争解決などを含む幅広い事項を扱っている。
(5) 最近、Apple Newsが左派系報道機関のニュース記事を組織的に優遇し、右派系報道機関ニュース記事を抑制しているとの報告があった。複数の調査結果(注6)(注7)によると、ここ数か月、Apple Newsは米国における保守的傾向の報道機関の記事を1本も取り上げていない一方で、リベラルな報道機関の記事を何百本も取り上げてきた。このような報告は、Apple Newsが利用規約及び消費者に対する表明に従って行動しているかどうか、さらに、Apple Newsを利用する何千万人もの米国人が抱く合理的な消費者の期待に沿っているかどうかについて、重大な疑問を提起するものである。
(注6)メディアリサーチセンター(メディアバイアスの追跡に焦点を当てた保守的な監視グループ)は、2026年1月1日から1月31日までの間に、トラフィックの多い朝の時間帯にApple Newsが取り上げた合計620件の記事を分析した。https://nypost.com/2026/02/10/business/apple-news-promotes-left-leaning-media-outlets-as-it-shuts-out-conservative-sites-entirely-study/
(注7)メディアリサーチセンターは、2025年11月にApple Newsのトップ20に掲載された記事や報道源を分析した。https://mrcfreespeechamerica.org/blogs/free-speech/heather-moon/2025/12/08/apple-news-shows-only-1-right-leaning-outlet-out-560
(6) 私(訳注:FTCファーガソン委員長)は、米国民として、思想的な理由でコンテンツを検閲しようとするいかなる試みも嫌悪し、非難する。そのような取組は、外国政府の要請で熱狂的な活動家を懐柔するために行われたものであれ(注8)、単にシリコンバレーのエリート層の政治的見解を推進させるために行われたものであれ、自由な意見交換を抑圧し、公の議論を操作するものであり、米国の価値観と相いれないものである。
(注8)FTCファーガソン委員長が、欧州のデジタルサービス法や英国のオンライン安全法を引き合いに外国勢力の要請に応じて検閲を行ったり、米国民のデータセキュリティを弱体化させたりしないよう企業に警告(2025年8月21日)。https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2025/08/ftc-chairman-ferguson-warns-companies-against-censoring-or-weakening-data-security-americans-behest
(7) FTCは言論を取り締まる機関ではない。我々には、アップルを含むいかなる企業に対しても、特定の政治問題について肯定的な立場を取るよう要求する権限も、ニュースの提供内容を特定の思想に沿って編集することを要求する権限もない。しかし、議会は、消費者に提供される製品又はサービスが言論に関連するものである場合であっても、重大な虚偽表示及び不開示から消費者を保護することを義務付けている。
(8) 私は、FTCの委員長として、FTC法に基づく貴社の義務について通知するため、本書簡をしたためた。アップルの利用規約について包括的に見直しを行い、Apple Newsによる記事の選定及び編集が当該利用規約及び消費者に対する表明と一致するよう確保するとともに、一致していない場合は、速やかに是正措置を講じるよう促す。
 

その他

ドイツ

連邦カルテル庁、アマゾンによる価格管理メカニズムの適用を禁止するとともに、同社に対し5900万ユーロ(約110億円)の経済的利益の返還を命令

2026年2月5日 ドイツ連邦カルテル庁 公表

原文

【概要】

1 2026年2月5日、ドイツ連邦カルテル庁(以下「連邦カルテル庁」という。)は、Amazon.com Inc.(所在地:米国シアトル)及びAmazon EU S.à r.l.(所在地:ルクセンブルク)(以下「アマゾン」と総称する。)に対し、ドイツのアマゾン・マーケットプレイス上で出品者が設定する価格に影響を及ぼす行為を禁止した。今後、アマゾンは、特に過度に高い価格が設定されている場合など、例外的な場合であって、かつ、連邦カルテル庁が定める要件に従ってのみ、出品者の価格を管理する仕組みを用いることができる。

2 アマゾンは、取引プラットフォームであるamazon.de(注1)を含む包括的なデジタル・電子商取引エコシステムを運営しており、同プラットフォームはドイツのオンライン小売売上高のうち約60%を占めている。このプラットフォームにおいて、アマゾンは自社の小売事業である「アマゾン・リテール」を運営するとともに、サードパーティ出品者(マーケットプレイス出品者)が自らの商品を最終消費者に直接販売できるオンライン・マーケットプレイス(アマゾン・マーケットプレイス)を運営している。amazon.deを通じて販売される商品のうち約60%は、アマゾン・リテールではなく独立したサードパーティ出品者によって最終消費者に販売されている。サードパーティ出品者は、アマゾン・マーケットプレイス上で設定する価格に責任を負い、自らの販売活動に伴う経済的リスクを負担している。
(注1)アマゾンが運営するドイツ国内向けの公式オンラインストア。

3 連邦カルテル庁のアンドレアス・ムント長官は、次のように述べた。 「アマゾンは、自社のプラットフォーム上で他のマーケットプレイス出品者と直接競争している。したがって、価格上限の設定を含め競合事業者の価格設定に影響を及ぼすことは、過度に高い価格(excessive pricing)が設定されている場合など、極めて例外的な場合にのみ許容される。これ以外の場合には、アマゾンが自らの考えに基づき取引プラットフォーム上の価格水準を管理し、オンライン小売業界におけるアマゾン以外の事業者との競争において利用するリスクがある。影響を受ける販売業者にとって、アマゾンによる価格設定への干渉は、自らの費用を賄うことができなくなり、マーケットプレイスからの退出を余儀なくされる可能性がある。」

4 アマゾンは、マーケットプレイス出品者の価格を審査するため、様々な価格管理メカニズムを用いている。これらのメカニズムにより出品者の価格が高すぎる(too high)と判断された場合、当該出品はマーケットプレイスから完全に削除されるか、目立つ位置に表示されるBuy Boxに表示されなくなる。このように出品者の出品の可視性が制限されることは、売上の大幅な減少につながり得る。

5 ムント長官は、次のように述べた。
「我々は、最終消費者に可能な限り低価格で提供するというアマゾンの目標自体に対して措置を講じているわけではない。しかしながら、価格管理メカニズムは、この目標を達成するために必要なものではない。アマゾンには、この目標を達成するための他の手段が存在する。例えば、アマゾンは、販売者がアマゾンに対して支払わねばならない手数料や販売手数料を減額することで、適切なインセンティブを提供することが可能となる。他方、アマゾンが、価格が自らの期待に沿わないという理由のみで、マーケットプレイス出品者による合法的な出品の可視性を制限したり、出品を完全に排除したりすることは許されない。」

6 これに加えて、価格管理メカニズムは、不透明なルールや通知に基づいている。価格上限を決定するためにどのようなルールが用いられているか、また、価格上限の水準がどの程度に設定され得るのかについて、マーケットプレイス出品者にとって、十分に明らかではない。出品者は、具体的にどのような状況下で自らの出品がアマゾン・マーケットプレイス上に表示されなくなるのか、又は限定的にしか表示されなくなるのかを、十分な精度で予測することができない。

7 連邦カルテル庁は、このようなアマゾンによるマーケットプレイス出品者の価格設定の自由に対する体系的な介入は、大規模デジタル企業に関する特別規定(ドイツ競争制限禁止法(以下「GWB」という。)第19a条第2項)に基づく濫用に該当するとともに、GWB第19条及びEU機能条約(TFEU)第102条の規定に基づく一般的な濫用規定にも違反すると判断した。このため、既存の価格管理メカニズムの使用を禁止した。今後、アマゾンは、特に過度に高い価格が設定されている場合など、例外的な場合であって、かつ、パラメータ、ルールの設定及び通知に関して連邦カルテル庁が定める要件に従ってのみ、当該メカニズムを用いることができる。

8 さらに、連邦カルテル庁は、アマゾンが反競争的行為により得た経済的利益の返還を命じることを決定した。本件は、2023年の抜本的な制度改正(訳注:GWB第11次改正)以降、連邦カルテル庁が当該権限を行使する初めての事例である。同改正により、連邦カルテル庁は、反競争的行為により得た経済的利益について推定規則(注2)に基づいて算定することが可能となった。本件で認定された競争法違反が現在も継続していることから、連邦カルテル庁は、最初のステップとして、アマゾンに対し、部分的返還額として約5900万ユーロ(約110億円)を設定した。
(注2)GWB第34条第4項の規定に基づき、違反行為に関連する製品又はサービスによってドイツ国内で達成された売上高の少なくとも1%と推定する。この推定は、事業者側から同額の利益を得ていないことを立証した場合にのみ覆すことが可能。

9 本件審査において、連邦カルテル庁は、デジタル分野における公正で競争可能な市場に関するEU規則(デジタル市場法)の執行を所管する欧州委員会と緊密に連携した。また、連邦カルテル庁は、自らの決定において定めた透明性要件については、P2B規則(訳注:プラットフォーム事業者による不公正な取引慣行及び取引条件の透明性確保に関する規則)の執行を所管する連邦ネットワーク庁と調整を行った。

10 連邦カルテル庁の決定は、現時点で確定していない。アマゾンは、当該決定に対して1か月以内に不服申立てを行うことができ、その場合は連邦通常裁判所により審理される(注3)。
(注3)2026年3月27日時点でアマゾンが不服申立てを行ったという情報は得ていない。

マレーシア

デジタル経済エコシステムに関する調査報告書の公表

2026年2月10日 マレーシア競争委員会 公表
原文

報告書

【概要】

 マレーシア競争委員会(以下「MyCC」という。)は、2010年競争法第11条第1項の規定(注1)に基づくデジタル経済エコシステムに関する調査(注2)を実施し、報告書を公表した。 本件調査を通じて、MyCCは、市場や競争、規制に関連する問題を特定するとともに、より競争的で透明性が高く、イノベーション主導型のデジタルエコシステムの形成を促進することを目的とした政策提言を示した。調査報告書の概要は次のとおり。
(注1)MyCCは、自らの判断又は国内取引・生活費大臣からの要請に基づき、市場のいかなる側面又はそれらの組合せが、当該市場における競争を阻害し、制限し、または歪めているかどうかを判断するため、市場調査を行うことができる。
(注2)本件調査の実施主体はMyCCであるものの、MyCCを管轄するマレーシア国内取引・生活費省のイニシアティブが働いている。

1 調査対象分野及び調査範囲
 MyCCは、主な競争当局(注3)が2019年以降に重点調査を実施した分野やデジタル経済分野における世界的な反競争的行為の事例数を考慮して、次の4つの調査対象分野を選定した。
(1) モバイルOS及び決済システム
(2) 電子商取引(小売マーケットプレイス)
(3) デジタル広告サービス
(4) オンライン旅行代理店(以下「OTA」という。)
(注3)日本、英国、インド、シンガポール、ドイツ、豪州、米国及びEUの競争当局が実施した実態調査について例示されている。

2 課題及び政策提言(訳注:競争に関連する項目のみ)
(1) モバイルOS及び決済システム
① 課題
ア OS開発者及びアプリストアに対する高い参入障壁
 マレーシアのOS市場はグーグル及びアップルによる寡占状態にあり、ネットワーク効果や顧客のロックイン等といった複数の参 入障壁が存在する。
イ アプリ開発者に対する制約
 マレーシアにおけるアプリの流通はGoogle Play StoreとApple App Storeに集中しており、主要なストアはアプリ開発者に対して多 大な影響力を有する。アプリ開発者は、OSプロバイダーが設定する技術的・政策的な枠組みの下でアプリを開発する必要があり、 デバイス機能へのアクセスやアプリ配布方法等が制限される。このことはアプリ開発者の自律性やイノベーションを制約する可能性 がある。
ウ アプリストアの決済手段の制限
 アップル及びグーグルは、アプリ内課金について自社の決済システムの利用を義務付けており、15~30%の手数料を徴収してい る。アプリ開発者は代替決済手段への誘導が制限されており、価格設定や決済手段の柔軟性が制約される可能性がある。
エ 自社優遇
 OSプロバイダーは、第三者アプリに対して自社アプリに競争優位性をもたらす可能性がある。具体的には、アプリの可用性(自社アプリを優先)、プリインストール(デバイスにネイティブアプリをデフォルトで組み込む)、データの優位性(ユーザーデータを活用し、自社アプリのパフォーマンスと競争力を向上)が挙げられる。
② 政策提言
ア モバイルOS及び決済システムに関するデジタルプラットフォーム向けガイドラインの策定(注4)
 参入障壁や自社優遇等の課題に対処するため、より透明性のある慣行の導入を支援し、公正な事業活動を促進するため、マレーシアにおける主要なデジタルプラットフォーム向けに明確なガイドラインを策定する。
(注4)マレーシアデジタル省が主導し、MyCCが支援することが想定されている。
イ 決済システムに関する規制対象の拡大
 アプリストアの決済手段の制限について、現在の規制枠組みでは統合型プラットフォームが決済事業者として定義されておらず、マレーシア中央銀行による規制の対象外となっている。こうしたことから決済システムの規制対象を拡大し、統合型アプリストア決済を規制対象に含める。
ウ 協議体の設立
 マレーシアのアプリ開発者がグローバルプラットフォームや規制当局と関わる際の取組を集約し、ガイダンスを提供するとともに、懸念事項について適切な規制当局へ報告するための共通のチャネルを確保することを目的とした協議体を設立する。
(2) 電子商取引(小売マーケットプレイス)
① 課題
ア データを活用した競争優位性の獲得による自社優遇
 プラットフォームが持つ広範な統計データへのアクセスは、競争優位性をもたらし、サードパーティの販売業者に対する潜在的な自社優遇につながる可能性がある。サードパーティの販売業者が入手できるのは標準的なパフォーマンス指標のみである。マーケットプレイスとサードパーティの販売業者との間のデータの非対称性は、マーケットプレイス内での掲載位置やビジネスチャンスにおける不均衡を招きかねない。販売業者からは、こうした情報の非対称性が公正な競争を歪める可能性があるとの懸念が示されている。
イ 配送方法の非表示設定
 マレーシアの3大プラットフォームであるShopee、Lazada及びTikTok Shopは、特定の配送オプションを選択的に表示したり、優先したりすることで、実質的に消費者が希望する配送方法や配送業者を選べないように制限している。また、SPX(Shopeeの物流部門)やLEX(Lazadaの物流部門)といった統合型配送サービスプロバイダーの存在感が高まっていることから、自社優遇が行われる可能性への懸念が生じている。
② 政策提言
ア 販売業者のデータアクセスの改善
     プラットフォームによる自社優遇に対処するため、(プラットフォームに対し、)2010 年個人情報保護法(注5)に準拠しつつ、データや分析結果をサードパーティの販売業者に対してより広く提供するよう促す。
(注5)Personal Data Protection Act 2010 (PDPA)。
 イ 競争監督権限の移管に関する検討
     プラットフォームによる配送方法の非表示設定について、競争規制の重複を回避するため、郵便及び宅配便関連分野における競争監督権限をマレーシア通信マルチメディア委員会(注6)からMyCCに移管することを検討する。
(注6)現在は、2012年郵便サービス法に基づき、マレーシア通信マルチメディア委員会が郵便及び宅配便関連分野における競争を監督・規制している。
(3) デジタル広告サービス
① 課題
ア 既存企業による垂直統合
 垂直統合事業者は、プログラマティック広告(注7)分野において大きな参入障壁を築くことができ、他の事業者が競争することが困難になる。こうした統合は相互運用性やユーザー体験を向上させる一方で、広告主の独立性を制限し、新規参入者を阻むことにもなる。
(注7)リアルタイムで広告枠の入札を自動的に行い、広告を表示する仕組みのこと。
イ 主要なソーシャルメディア、検索エンジン及び動画配信サービスの市場影響力
 強力なネットワーク効果と自社データへの独占的なアクセスに後押しされ、広告活動は少数の主要なソーシャルメディア、検索エンジン及び動画プラットフォームにより一層集中している。この集中化は、広告主の依存を強めると同時に、地域の代替的なパブリッシャーが効果的に競争する能力を制限している。
ウ メカニズムの透明性の欠如
 透明性の欠如は、広告価格設定と配信メカニズムの両方で見られる。広告主やパブリッシャー、特に小規模な事業者は、不透明なアルゴリズムやオークションプロセスにより、デジタル広告の背後にある意思決定プロセスを十分に理解することが困難となっている。
エ データのアクセスや利用の不均衡
 大規模な垂直統合事業者による膨大なユーザーデータの収集は、広告配信対象者の選定やパフォーマンス測定において、これらの事業者に大きな競争優位性をもたらしている。反対に、小規模なプラットフォーム、広告主及びパブリッシャーは、高品質なユーザーデータへのアクセスや、広告配信対象者を効果的に選定したり、キャンペーンの成果を評価したりする能力が制限されている。
オ サードパーティの追跡機能の廃止による競争上の不利
 サードパーティクッキーの廃止はユーザーのプライバシーを強化するものの、広告主による広告配信対象者の選定を妨げ、精度を低下させるとともに、データコストを増加させる。この変化は、グーグルやメタのような大規模な統合プラットフォームに利益をもたらしており、これらの企業が保有する膨大な自社データがその競争優位性を強めている。
カ 特定の広告枠へのアクセス制限
 Google AdsやMeta Audience Networkといった独自のプラットフォームを通じて、YouTubeやFacebook等の需要の高い広告枠へのアクセスを限定することは、広告主がこれらの広告を購入できるチャネルを制限することになり、競争を阻害する。
キ 広告パフォーマンス指標の欠如
 CPM(インプレッション単価)、CPA(獲得単価)、CPV(視聴単価)など、プラットフォームやパブリッシャー間で標準化されたパフォーマンス指標が欠如しているため、プラットフォーム間の比較が困難となり、キャンペーンの最適化が妨げられている。こうした指標の欠如は、中小のプラットフォームやパブリッシャーに不均衡な影響を及ぼしている。
② 政策提言
ア デジタル広告分野に関するガイドラインの策定(注8)
 メカニズムの透明性の欠如や特定の広告枠へのアクセス制限等の課題に対処するため、マレーシアにおける主要なデジタルプラットフォーム向けの明確なガイドラインを策定する。
(注8)マレーシアデジタル省が主導し、MyCCが支援することが想定されている。
イ 国内事業者に対する支援プログラムの提供
 サードパーティクッキーの廃止による競争力の低下に対処するため、助成金、プライバシー重視の広告技術への投資に対する税制優遇措置等といったクッキーレス技術の導入を加速させる。
ウ 広告パフォーマンス指標及び価格の透明性に関する業界基準の確立
  広告パフォーマンス指標の欠如に対処するため、国際基準を用いて指標を統一、匿名化された価格ベンチマークを収集・公表し、デジタル広告における透明性と比較可能性を向上させる。
(4) OTA
① 課題
ア OTAとホテルの契約における価格同等性条項
 ホテルは自社のウェブサイトやその他の販売チャネルと同等の料金をOTAが提供するプラットフォーム上でも示さなければならない。OTAはこれらの取決め(訳注:価格同等性条項)が相互の合意に基づくものであると主張しているものの、OTA経由の売上の割合は極めて大きく、宿泊施設は間接的な圧力を受けることがある。
イ 手数料率がプラットフォーム上の表示に与える影響
 ホテルのランキングは、人気、品質、価格など、様々な要因が組み合わさって決定され、マーケティングキャンペーンやプロモーション活動を通じて露出を更に高めることができる。これには、より高い手数料率や追加のプロモーション費用の支払いが求められるケースが多い。
こうした取組を行ったとしても、資金力の違いから、小規模なホテルは検索結果で望ましい水準の表示が得られるとは限らず、これが不公正な競争環境を生み出している。
ウ メタ検索エンジン(注9)の影響力の拡大
 メタ検索エンジンは、検索トラフィックを特定のOTA又はホテルのウェブサイトへ直接誘導することにより、消費者が宿泊施設を見つけ、比較する方法に大きな影響を及ぼしている。 複数のメタ検索プラットフォームは、大手のOTAを傘下に持つ親会社によって所有されている。自社優遇によって、系列のOTAプラットフォームに不釣り合いなほどの検索トラフィックが誘導され、予約チャネル間の競争が歪められるおそれがある。
(注9)複数の検索エンジンや予約サイトを横断し、結果を一括して比較表示するサービスのこと。
② 政策提言
ア MyCCによる価格同等性条項に関する調査の実施
 特に小規模ホテルの価格設定の柔軟性を促進するため、OTAとホテル間の契約における価格同等性条項について、2010年競争法の観点から調査する。
イ OTAの業務運営の透明性向上
 価格同等性条項や手数料率、メタ検索エンジンによる影響等の課題に対処するため、1992 年観光産業法を改正し、プラットフォームの責任やガバナンス、公平性や透明性、消費者保護等に適用できるようにする。

3 今後のプロセス
(1) 関連する省庁や機関との更なる連携
 本件調査の提言を具体化するため、主要な政府関係者と連携する。これには、役割、責任及びスケジュールを明確化するための詳細な協議に加え、実施に影響を及ぼす可能性のある規制や手続上の課題への対応が含まれる。
(2) ステークホルダーとの協働とアドボカシーの強化
 業界関係者、消費者団体及び規制当局の間で幅広い支持基盤を構築する。積極的な協働により、提言が十分に理解され、正当性が認められるとともに連携が促される。アドボカシーには、知見を実行可能な取組へと転換するためのワークショップや説明会、協議会の開催等が含まれる。
(3) ASEANのカウンターパートとの知見の共有
 本件調査で得られた知見を地域のパートナーに広め、知見交換と地域におけるベストプラクティスの調和を促進する。地域レベルでの知見の共有は提言の信頼性を高めるとともに、ピアラーニング(注10)を促し、必要に応じて協調的な政策アプローチの基盤を提供する。
(注10)仲間同士、対等な関係のもとで知識・スキル・経験を教え合い、学び合う学習方法のこと。

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