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海外当局の動き

海外当局の動き

最近の動き(2024年5月更新)

米国

FTC、DOJ及び保健福祉省、医療分野における企業支配の拡大の影響に関する政府横断的調査を開始

2024年3月5日 米国連邦取引委員会 公表

原文(FTC公表文)

(注)本文は、上記FTCの公表文を基に作成したものであるが、DOJも同日、同趣旨の公表をしている。

(DOJ公表文)

【概要】
1 米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)、米国DOJ反トラスト局及び米国保健福祉省(以下「HHS」という。)の3当局は共同で、プライベート・エクイティ・ファンドやその他の企業による医療分野への支配の拡大傾向について、政府横断的な公開調査を開始した。
 
2 プライベート・エクイティ・ファンド及びその他の企業経営者は、医療ビジネスを対象とした買収に関与することが増えており、時として、それらの買収は、医療の質を犠牲にして利益を最大化することにつながる可能性がある。今回の政府横断的な調査は、このような医療市場における買収が、患者の健康、労働者の安全、医療の質、患者及び納税者のための安価な医療を脅かしながら、どのように医療分野の統合を加速させ、企業に利益をもたらすのかを解明しようとするものである。
 
3 3当局は、医療系の事業者、民間健康保険会社、プライベート・エクイティ・ファンド、その他の資産運用会社による医療機関、医療設備、その付属品・サービス等の買収について、一般に意見を求める情報提供依頼書(Request for Information、以下「RFI」という。)を発出した。このRFIはハート・スコット・ロディノ反トラスト改善法に基づくDOJやFTCへの届出義務のない買収に関する情報も求めている。
 
4 リナ・カーンFTC委員長は、「プライベート・エクイティ・ファンドによる医療機関の買収が人員削減や質を切り捨てるためだけに行われるなら、患者にとって有害である。FTCは、本調査を通じて、プライベート・エクイティ・ファンドによるロールアップ戦術(訳注:同じ業界で多数の事業を相次ぎ買収すること)、ストリップ・アンド・フリップ戦術(訳注:割安な企業を購入し、そこから価値を引き出し、その後すぐに新規株式公開で売却する戦略)、その他、経営陣を富ませるが、米国民に悪影響を与え得る戦術を引き続き精査していく。」と述べた。
 
5 ジョナサン・カンターDOJ反トラスト局長は、「医療サービス等の市場における競争の維持は、米国民の健康及び福祉に重要な影響を与えるものなので、DOJの優先政策事項である。本RFIによって、現代の医療業界の市場実態を正確に理解し、違法な買収に対して強制力をもって法律を執行することにつなげることができる。患者、労働者、市場参加者の意見を聞くことは、医療分野の統合に関する今後の法執行及び政策努力を展開する上で極めて重要である。」と述べた。
 
6 ザビエル・ベセラHHS長官は、「医療サービス等の市場における競争の活性化は、人々により多くの選択肢を与える。つまり、競争により、患者が高品質で低コストの医療を受けられるようになり、医療従事者がより高い報酬を得て、より良い条件の下で働けるようになることにも納税者の税金を守ることにもつながる。我々は、政策立案、規制の策定、法執行に当たり、プライベート・エクイティ・ファンド及び企業による医療分野での買収がもたらす影響をもっと理解するために努力する必要がある。バイデン-ハリス政権は、引き続き、医療分野における透明性及び競争の改善に取り組んでいく。」と述べた。
 
7 医療機関及び医療保険市場における競争は、より質の高い、より低コストの医療を促進し、医療へのアクセスを拡大し、イノベーションを促進し、医療従事者の報酬及び福利厚生を高めることが研究で示されている。このRFIに対して提出された意見は、医療サービス等の市場における競争を促進・保護し、良質で安価な医療製品・サービスへの適切なアクセスを確保することを目的とした規制の検討を含めて、3当局による法執行の優先順位や将来の取組に反映される。
 
8 今回の3当局によるRFIは、メディケア及びメディケイドサービスセンターが最近発表したメディケア・アドバンテージに関するRFI(2024年1月30日)並びに、FTC及びHHSが発表した、医薬品の中間業者グループはどのようにして医薬品不足を引き起こす可能性があるのかに関するRFI(2024年2月14日)に基づいている。本日発表されたRFIは、2023年12月にDOJ、FTC及びHHSが発表した、患者及び医療従事者に利益をもたらす競争を促進しつつ、医療費及び薬剤費を削減するための取組に由来するものである。
 
9 3当局はRFIの発表のほか、本日開催される医療分野におけるプライベート・エクイティ・ファンドの影響を探るバーチャルな公開ワークショップにも参加し、有害な影響に対処するために連邦政府が行っている取組について議論する予定である。
 
10  患者、消費者保護団体、医師、看護師、医療機関又は医療管理者、雇用者、保険会社などの全ての市場参加者は、RFIに対する意見を共有することが期待されている。3当局は、透析クリニック、老人ホーム、ホスピス提供者、プライマリーケア提供者(訳注:かかりつけ医)、病院、在宅医療機関、地域密着型サービス提供者、行動医療提供者、請求・回収代行業などに係る様々な買収に関する意見を求めている。
 
11 一般市民はRegulations.govにおいて、60日以内、2024年5月6日まで意見を提出できる。提出された意見はRegulations.govに掲載される。

DOJ及び16州の司法長官、スマートフォン市場を独占したとしてアップルを提訴

2024年3月21日 米国司法省 公表

原文

【概要】
1 米国司法省(以下「DOJ」という。)及び16州の司法長官は、シャーマン法2条に違反して、スマートフォン市場を独占した又は独占を企てたとして、アップルに対して反トラスト法民事訴訟を提起した。
 
2 ニュージャージー州連邦地方裁判所に提出された訴状によると、アップルは、契約上の制限をディベロッパーに選択的に課し、重要なアクセスポイントからディベロッパーを締め出すことにより、スマートフォンの独占を違法に維持しているとされる。アップルは、ユーザーをiPhoneに依存させないで相互運用性を促進し、消費者とディベロッパーのコストを下げるようなアプリ、製品、サービスを妨害している。アップルはその独占力を行使し、消費者、ディベロッパー、コンテンツ制作者、アーティスト、出版社、中小企業、商業者などからより多くの金銭を搾取している。この訴訟を通じて、DOJと各州司法長官は、米国民を代表して、これらの重要な市場における競争を回復することを求めている。
 
3 メリック・ガーランド司法長官は、「企業が反トラスト法に違反しているために、消費者がより高い価格を支払わされるべきではない。 
 我々は、アップルがスマートフォン市場において独占的な力を維持してきたのは、単に実力で競争上優位に立つのではなく、反トラスト法違反によるものだと主張している。もしこのまま放置すれば、アップルはスマートフォンの独占を強化し続けるだろう。DOJは、価格の上昇と選択の減少から消費者を守るため、反トラスト法を厳正に執行する。それこそがDOJの法的な義務であり、米国民が期待するものである。」と述べた。
 
4 リサ・モナコ司法副長官は、「いかに強力であろうと、いかに普及していようと、いかに人気のある企業であろうと、法の下にある(no company is above the law)。この訴訟を通じて、我々はこの原則に徹底してコミットしてゆく。」と述べた。
 
5 ベンジャミン・マイザー司法長官補代行は、「企業が反競争的な行為を行えば、米国民や我々の経済が被害を受ける。今回のアップルに対する提訴は、競合他者を排除し、イノベーションの阻害を企てる者に対して強いシグナルを送るものである。DOJは、反競争的行為がどこで起きようと、これを根絶させ、経済的正義を前進させるために、利用可能なあらゆる手段を用いることを約束する。」と述べた。
 
6 ジョナサン・カンターDOJ反トラスト局長は、「アップルは長年にわたり、もぐらたたき(Whac-A-Mole)的な契約規則や制限を課すことにより、競争上の脅威に対応してきた。その結果、アップルは消費者やディベロッパー、クリエーターに対してより高い価格を課し、ライバルとなる技術による競争的な代替手段を制限することを可能にしてきた。この訴訟は、こうしたアップルの責任を追求し、他の重要な市場で同様の違反行為を行えなくさせるものである。」と述べた。
 
7 訴状では、アップルはスマートフォン市場及び高性能スマートフォン市場(performance smartphones markets)において独占力を有しており、それを利用して広範かつ持続的な違反行為を行っているとしている。このような反競争的行為は、アップルがその独占力を維持しつつ、可能な限り多くの収益を引き出すことを目的としているとしている。訴状では、アップルが以下の行為を含む、いくつかの反競争的行為を行っており、それは現在も継続しているとしている。
・革新的なスーパーアプリの締め出し(Blocking Innovative Super Apps):消費者が競合するスマートフォンプラットフォーム間の乗換えを容易にするような幅広い機能を持つアプリの成長を阻害してきた。
・モバイル・クラウド・ストリーミングサービスの妨害(Suppressing Mobile Cloud Streaming Services):消費者が高額なスマートフォンのハードウェアを購入することなく、高品質のゲームやその他のクラウド・ベースのアプリを楽しめるようにするクラウド・ストリーミングアプリやサービスの開発を妨害してきた。
・異なるOS間でのメッセージアプリの排除(Excluding Cross-Platform Messaging Apps):消費者がiPhoneを購入し続けなければならなくするため、異なるOS間でのメッセージングの質を低下させ、イノベーションを阻害し、ユーザーにとっての安全性を低下させてきた。
・アップル製以外のスマートウォッチの機能低下(Diminishing the Functionality of Non-Apple Smartwatches):サードパーティのスマートウォッチの機能を制限している。そのため、Apple Watchを購入した消費者は、iPhoneを買い続けなければ多額の自己負担を強いられることになる。
・サードパーティのデジタル・ウォレットの制限(Limiting Third Party Digital Wallets):サードパーティによるアプリがtap-to-pay機能(訳注:クレジットカードのリーダー機能を搭載したスマートフォン端末を用いた決済) を提供することを妨げており、プラットフォーム横断的に使用できるサードパーティ製のデジタル・ウォレットの開発を制限している。
 
8 訴状では、アップルの行為はこれらにとどまらず、ウェブブラウザ、ビデオ通話、ニュース購読、エンターテイメント、自動車運転関連サービス、広告、位置情報サービスなどにも影響を及ぼしていると主張している。アップルには、次世代デバイスやテクノロジーに対する独占力を獲得・維持するために、その行為を拡大するインセンティブがある。

EU

欧州委、音楽ストリーミング・プロバイダーに対する不当なApp Storeルールに関して、アップルに18億ユーロ超の制裁金を賦課

2024年3月4日 欧州委員会 公表
【概要】
 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、アップルが、App Storeを通じてiPhone及びiPadユーザー(以下「iOSユーザー」という。)に音楽ストリーミングアプリを配信する市場における支配的地位を濫用したとして、18億ユーロを超える制裁金を課した。特に、欧州委は、アップルがアプリ開発者に対し、アプリの外で利用できる安価な音楽配信サービスをiOSユーザーに知らせることを妨げる制限(以下「アンチ・ステアリング条項」という。)を適用したことを明らかにし、この行為がEU競争法に違反すると公表した。
 
1 違反行為
 アップルは現在、アプリ開発者が欧州経済領域(以下「EEA」という。)全域のiOSユーザーにアプリを配布できるApp Storeの唯一のプロバイダーである。アップルは、iOSのユーザーエクスペリエンスのあらゆる側面を管理し、アプリ開発者がApp StoreにおいてEEA内のiOSユーザーにアプリを提供するために遵守すべき条件を設定している。
 欧州委による事件審査により、アップルが、音楽ストリーミングアプリの開発者に対し、iOSユーザーに、アプリの外で利用可能なより安価な代替的音楽配信サービスに関する完全な情報を提供すること及び、そのようなサービスに加入する方法に関する情報を提供することを禁止していることが明らかになった。特に、このアンチ・ステアリング条項は、アプリ開発者に対して以下を禁止している。
・アプリ内のiOSユーザーに、アプリ外のインターネット上で利用可能な定期購入価格を知らせること。
 ・アップルのアプリ内課金メカニズム(Apple's in-app purchase mechanism)を通じて販売されるアプリ内定期購入(in-app subscriptions)と、それ以外の場所で入手可能なアプリ内定期購入との価格差について、iOSユーザーにアプリ内で知らせること。
 ・アプリ内に、iOSユーザーをアプリ開発者のウェブサイトへ誘導するリンクを設け、代替的な定期購入を選択できるようにすること。
 ・アプリ開発者自身が新たに獲得したユーザーに対して、例えば電子メールなどを通じて、ユーザーがアカウントを設定した後に代替的な料金の選択肢について知らせること。
 
 本日の決定では、アップルのアンチ・ステアリング条項は、EU機能条約(TFEU)102条(a)に違反する不公正な取引条件に該当すると結論付けている。当該アンチ・ステアリング条項は、アップルのスマートモバイルデバイスのApp Storeに関するアップルの商業的利益を保護するために必要なものでも、相応なものでもなく、iOSユーザーの利益に悪影響を及ぼすものである。当該条項により、iOSユーザーは、自分のデバイスで使用する音楽ストリーミング配信をどこでどのように購入するかについて、十分な情報を得た上で効果的な意思決定を行うことができなくなるからである。
 
 アップルがアプリ開発者に課した高額な手数料は、アップルのApp Storeにおける音楽ストリーミング配信サービスの利用料金の値上げという形で消費者に転嫁されたため、10年近く続いたアップルの本件行為により、多くのiOSユーザーが明らかに高額な音楽ストリーミング配信の利用料金を支払うことになった可能性がある。さらに、アップルのアンチ・ステアリング条項は、ユーザーエクスペリエンスの低下という形で、金銭以外の損害ももたらした。iOSユーザーは、アプリの外で他の音楽ストリーミングサービスを見付けるために面倒な検索をしなければならなかったか、自分で適切なサービスを見付けられなかったため、どのサービスにも加入しなかったのである。
 
2 制裁金
 制裁金は、欧州委の制裁金に関する2006年ガイドライン(注1)(注2)(以下「制裁金ガイドライン」という。)に基づいて算定された。欧州委は制裁金額の算定に当たり、違反行為の期間と重大性、アップルの総売上高及び時価総額を考慮した。また、アップルが行政手続の中で不正確な情報を提出したことも考慮した。
 
(注1)https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/ALL/?uri=CELEX%3A52006XC0901%2801%29
(注2)https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_06_857
 
 さらに、欧州委は、アップルに課される制裁金全体が十分な抑止力となるよう、制裁金の基本額に18億ユーロの追加一時金を加えることを決定した。このような一時金は、違反によって生じた害の大部分が、非金銭的な害によって構成される侵害事案の場合に、制裁金ガイドラインに規定される収益に基づく方法によって算定される制裁金額では適切に評価できない場合に必要とされる。さらに、制裁金は、アップルが同様の違反行為を繰り返すことを抑止し、同規模で同様の経営資源を有する他の企業が同じ又は同様の違反行為を行うことを抑止するのに十分なものでなければならない。
 欧州委は、18億ユーロを超える制裁金の総額は、アップルの世界的な収益に見合ったものであり、抑止力を高めるために必要なものであると結論付けた。
 また、欧州委はアップルに、アンチ・ステアリング条項を削除し、違反行為を繰り返さないこと、及び同等の目的又は効果を持つ行為を今後行わないよう命じた。
 
3 本件審査の経緯
 2020年6月、欧州委は、App Storeを通じたアプリの配信に関するアップルのアプリ開発者向け規則に関する正式審査を開始した。2021年4月、欧州委はアップルに異議告知書を送付し、アップルは2021年9月にこれに回答した。
 2023年2月、欧州委は2021年の異議告知書を、欧州委の異議を明確にする別の異議告知書に差し替え、アップルは2023年5月にこれに回答した。

欧州委、デジタル市場法に基づくゲートキーパーの遵守義務について公表

2024年3月7日 欧州委員会 公表

原文

【概要】
1  欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、2023年9月に指定された6社のゲートキーパーであるアップル、 アルファベット、メタ、アマゾン、マイクロソフト及びバイトダンスが、2024年3月7日以降、デジタル市場法(Digital Markets Act、以下「DMA」という。)の全ての義務を完全に遵守しなければならない旨を公表した。
 
2 DMAは、EUのデジタル市場をより競争的で公正なものにすることを目的としている。検索エンジン、オンラインマーケットプレイス、アプリストア、オンライン広告、メッセージング等といった10の定義されたコアプラットフォームサービスに関する新たなルールを定め、欧州の企業やエンドユーザーに新たな権利を与えるものである。
(1) ゲートキーパーが提供するサービスに依存して顧客にアクセスしているEU域内のビジネスユーザーは、本日から新たなビジネスチャンスを享受することができる。例えば、ビジネスユーザーは次のことが可能になる。
・ゲートキーパーのプラットフォーム上でのゲートキーパーのサービスとの競争において、公平な取扱いと公平な競争環境を享受することができる。
・新しい革新的なサービスを提供するために、ゲートキーパーのサービスとの相互運用性を要求することができる。
・ゲートキーパーのアプリストア以外の方法でもアプリを販売することができる。
・ゲートキーパーのプラットフォーム上での活動によって生成されたデータにアクセスすることができる。
・ゲートキーパーのプラットフォーム外で、プロモーションを行い、顧客と契約を締結することができる。
(2) エンドユーザーは、欧州のデジタル空間において、より多くの選択肢及びイノベーションを享受することができる。具体的には、エンドユーザーは次のことが可能になる。
・ゲートキーパーのデフォルトの選択肢に縛られることなく、選択する権利を取り戻すことができる。例えば、ゲートキーパーが提供するアプリストアやサービスではなく、別のアプリストアやサービスを選択することができる。
・ゲートキーパーがアカウントをリンクさせ、異なるサービス間で個人データを追跡し、組み合わせることができるかどうかを決めることができるようになることで、自分のデータをよりよく管理することができる。
・サービス・アプリ間で簡単にデータを取得、転送、利用ができることにより、シームレスなデータのバックアップや異なるサービス間の移行ができる。
・代替する電子個人認証やアプリ内決済サービスを利用することができる。
 
3 ゲートキーパーは、DMAに対応するための措置を期限に先駆けてテストし始めており、第三者からのフィードバックを喚起している。 
 2024年3月7日より、ゲートキーパーはDMAの効果的な遵守を証明するため、実施した措置の概要をコンプライアンス報告書に記載することが義務付けられている。これらの報告書の公開版は、欧州委のDMA専用ウェブページからアクセスできる。また、指定されたゲートキーパーは、独立した監査を受けた、消費者のプロファイリング分析に使用された技術に関する報告書を、機密性のある情報を含まないバージョンの報告書とともに、欧州委に提出しなければならない。
 
4 欧州委は、今後、コンプライアンス報告書を慎重に分析し、実施された措置が、DMAの下での関連する義務を果たすという目的を達成するために有効であるかどうかを評価する。欧州委の評価は、ゲートキーパーがその措置について説明するコンプライアンス・ワークショップを含め、利害関係者の意見に基づいて行われる。
 欧州委は、DMAを完全に執行するために、あらゆる手段を駆使して、正式な措置を採ることを躊躇しない。
 欧州委は、DMAの義務違反が疑われる場合、違反の可能性を調査するための手続を開始することができる。違反があった場合、欧州委は、その企業の全世界の総売上高の10%まで(繰り返し違反の場合は20%まで)の制裁金を課すことができる。さらに、組織的な違反の場合、欧州委は、ゲートキーパーに事業又はその一部を売却することを義務付けたり、組織的な違反に関連する事業をゲートキーパーが買収することを禁止したりするなどの追加的な措置を採る権限も与えられている。

欧州委、アルファベット、アップル及びメタに対してデジタル市場法に基づくコンプライアンス違反の調査開始

2024年3月25日 欧州委員会 公表

原文

【概要】
1 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は2024年3月25日、デジタル市場法(Digital Markets Act、以下「DMA」という。)に基づき、アルファベットのGoogle Playにおけるステアリング及びGoogle検索における自己優遇に関するルール、アップルのApp Storeにおけるステアリング及びSafariの選択画面に関するルール、メタの「pay or consent」モデルに関するコンプライアンス違反の調査を開始した。
 欧州委は、これらのゲートキーパーが実施している措置が、DMAに基づく義務の効果的な遵守には不十分であるとの疑いを持っている。
 さらに、欧州委は、アップルの代替アプリストアに対する新たな手数料体系と、アマゾンのマーケットプレイスにおけるランキング慣行に関する調査も開始するとともに、ゲートキーパーに対し、その義務の効果的な実施と遵守を監視するため、特定の文書を保全するよう命じた。
 
2 アルファベット及びアップルのステアリングに関するルールについて
 欧州委は、アプリストアに関連する義務に関してアルファベット及びアップルが実施した措置がDMAに違反しているかどうかを評価するための手続を開始した。DMAの第5条第4項では、ゲートキーパーに対し、アプリ開発者がアプリストア外でのオファーに消費者を「誘導」することを無料で許容するよう求めている。
 欧州委は、アルファベット及びアップルの措置が、様々な制限や制約を課しているため、完全に遵守されていない可能性があることを懸念している。特に、様々な手数料を課すなどして、アプリの開発者が自由にオファーを伝え、プロモーションを行い、直接契約することを制限していることを懸念している。
 
3 アルファベットの自己優遇防止策について
 欧州委は、アルファベットによるグーグルの検索結果の表示が、グーグルのバーティカル検索サービス(訳注:バーティカル検索とは、動画、地図、画像等のカテゴリ別に検索結果を表示する検索機能。グーグルのサービスとしては、 Google Shopping、Google Flights、Google Hotelsなどがある。)との関係で、類似の競合サービスに対する自己優遇につながる可能性があるかどうかを判断するため、調査手続を開始した。
 欧州委は、DMAを遵守するためにアルファベットが実施している措置が、DMA第6条第5項で義務付けられているように、グーグルの検索結果ページに表示される第三者のサービスがアルファベットのサービスと比較して公正かつ非差別的に扱われることを担保していない可能性があることを懸念している。
 
4 アップルのユーザー選択に関する義務の遵守について
 欧州委は、アップルに対し、(i) iOSのソフトウェアアプリケーションをエンドユーザーが容易にアンインストールできるようにすること、(ii) iOSのデフォルト設定を容易に変更できるようにすること、及び(iii) iPhoneのブラウザや検索エンジンなどのデフォルトの代替サービスを効果的かつ容易に選択できるようにするための選択画面をユーザーに表示すること、の各義務を遵守するための措置に関して調査手続を開始した。
 欧州委は、ウェブブラウザの選択画面のデザインを含むアップルの措置が、DMA第6条第3項に反して、利用者がアップルのエコシステム内でサービスを自由に選択することを妨げている可能性を懸念している。
 
5 メタの「pay or consent」モデルについて
 さらに、欧州委は、EU域内のユーザーに対して最近導入された「pay or consent」モデルが、異なるコアプラットフォームサービス間でユーザーの個人データを組み合わせたり、相互利用したりする場合にユーザーの同意を得ることをゲートキーパーに対して義務付けているDMA第5条第2項に準拠したものかどうかを調査するための手続を開始した。
 欧州委は、メタの「pay or consent」モデルが課す二者択一は、利用者が同意しない場合の実質的な代替手段を提供していない可能性があり、ゲートキーパーによる個人データの蓄積を防ぐという目的を達成できないことを懸念している。
 
6 その他の調査及び執行手段について
 欧州委は、次の点を明らかにするため、事実及び情報を収集する他の調査手段も講じている。
・アマゾンは、DMA第6条第5項に反して、Amazonストアで自社ブランド製品を優先的に販売している可能性があること
・代替アプリストア及びウェブからのアプリ配信(サイドローディング)に対するアップルの新たな手数料体系及びその他の条件が、DMA第6条第4項に基づく義務の目的を損うものである可能性があること
 また、欧州委は、アルファベット、アマゾン、アップル、メタ及びマイクロソフトに対し、利用可能な証拠を保全し、効果的な執行を確保するため、DMAの義務遵守状況の評価用文書を保全するよう求める5件の保全命令を採択した。
 最後に、欧州委はメタに対し、Facebook Messengerの相互運用義務(DMA第7条)の履行期限の6か月間延長を認めた。この決定は、DMA第7条第6項(訳注:条文を確認の上、原文から修正)の規定に基づくものであり、当該義務以外のDMA上の全ての義務を負うメタの請求に合理的な理由があると認められたことによるものである。
 
7 今後の展開
 欧州委は、本日開始した調査手続を12か月以内に終結させる予定である。調査の結果、必要に応じて、欧州委は関係するゲートキーパーに予備的調査結果を通知し、欧州委の懸念に効果的に対処するために、欧州委が講じることを検討している、あるいはゲートキーパーが講じるべき措置について説明する。

その他
シンガポール

CCCS、環境サステナビリティ協力のためのガイダンスノートを公表

2024年3月1日 シンガポール競争・消費者委員会 公表

原文

【概要】
1 シンガポール競争・消費者委員会(以下「CCCS」という。)は、競争を阻害することなく業務提携を進める方法をより明確にするため、「環境サステナビリティ目標を追求する業務提携に関するガイダンスノート」(以下「ESCGN」という。)を発行した。
 
2 シンガポールは、気候変動の脅威にさらされる中、2050年までに排出量ゼロを達成するため「シンガポール・グリーンプラン2030」(注)を策定し、持続可能な社会の実現に国を挙げて取り組んでいる。CCCSは、この目標を達成するために、事業者が、既存市場、新興市場、さらには新規分野において、競合他社を含む事業者との協力を望む可能性があると考えている。このような協力は、状況によっては効率的であり、必要となる場合もある。例えば、いずれの当事者も単独で活動を行うことができない場合や、新製品や新市場を創出する際の「先行者の不利」を克服するために協力が必要となる場合などである。
 
(注)https://www.greenplan.gov.sg
 
3 ESCGNの目的は、2004年競争法(以下「競争法」という。)違反の懸念に対処するために、CCCSがこのような業務提携を競争法第34条(注) の文脈においてどのように評価するかを明確にすることである。ESCGNの対象として含まれる事例等は以下の通り。
 
(注)競争法第34条は、事業者間の協定、団体による決定又は協調的な行為が反競争的な場合には、それらが除外又は免除されない限り禁止している。
 
(1) 一般的に競争に悪影響を及ぼさないと考えられる環境サステナビリティを目標とした協力の例(注)として、事業者間の競争に影響を及ぼさない協力(供給される商品・サービスに関する価格、数量、品質、選択又はイノベーションに関係しない協力)や、事業者が単独で活動を行うことができない協力などが挙げられる。
 
(注)環境サステナビリティに関する目標とは、気候変動緩和策、大気・水質の改善、天然資源の効率的利用、生物多様性の保全など、負の環境外部性の削減に関する目標を指す。
 
(2) 事業者間の協力により競争上の懸念が生じる可能性が低い場合、及び事業者が協力から生じる可能性のある競争上の懸念を最小限にする場合なども含まれる。
 
(3) CCCSは、反競争的な効果をもたらす可能性のある協力が、競争法に違反しないように純経済的利益 (Net Economic Benefit、以下「NEB」 という。) の除外要件を満たすことができるかどうかに関するCCCSの評価を行う(注)。 CCCSの通常のNEB評価の枠組みでは、協定の影響を受ける市場内で生じる経済的利益のみを考慮するのに対し、環境サステナビリティを追求する協力が社会全体の利益(生産工程から生じる環境負荷の低減など)をもたらし得る場合、CCCSは経済評価においてシンガポール全体に生じる関連する経済的利益を必要に応じて考慮することができる。
 
(注)NEBの除外は、協定から得られる効率性の利益(例えば、コストの削減、品質やサービスの改善、革新的な新製品の生産)が競争に与える害を上回る場合、そのような協定は競争法第34条に違反しないと規定している。
 
4 事業者は、ESCGNを利用して協力関係を自己評価することが推奨される(注)。 より確実な適法性を求める事業者は、CCCSに協力関係を通知し、ガイダンス又は決定を請求できるところ、CCCSは、環境サステナビリティ目標を実現するためのシンガポール国家全体の取組を支援するべく、迅速な評価を提供するための合理的な届出プロセスを導入した。
 
(注)ESCGNは、CCCSの第34条禁止に関するガイド(https://go.gov.sg/cccs12guidelines)及び業務提携に関するガイダンスノート(https://go.gov.sg/bizcollabguidancenote)と合わせて読むべきである。
 
5 ESCGNは、2023年7月20日から2023年9月4日にかけて実施された意見募集の結果を検討した上で策定された。意見募集では、ESCGNの策定に向けたCCCSの取組に対する支持及び、改善のための提案が寄せられた。意見募集から得られた意見に対するCCCSの回答は、意見の概要(注)に記載されている。

(注)https://go.gov.sg/env-sustainability-guidance

6 CCCSのシア・アイ・コー(Sia Aik Kor)チーフエグゼクティブは、「環境への悪影響の防止、軽減、緩和、又は環境サステナビリティの促進を目指す事業者間の協力は、経済的利益をもたらす可能性があり、シンガポールが気候変動という地球存亡の危機に取り組む上で重要である。ESCGNは、一般的に競争を害することのない協力を明確にし、事業者がより自信を持って協力できるよう、CCCSによる迅速な評価のための合理化された届出プロセスを定めている。しかし、事業者は環境サステナビリティ目標を反競争的行為の口実として用いるべきではない。CCCSは、今後も市場の動向を注視し、必要に応じてESCGNを改正していく。」と述べた。


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