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海外当局の動き

海外当局の動き

最近の動き(2024年7月更新)

米国

DOJ、ライブ・コンサート市場を独占したとしてLive Nation及びTicketmasterを提訴

2024年5月23日 米国司法省 公表

原文

【概要】
1 米国司法省(以下「DOJ」という。)及び30州の司法長官は、Live Nation Entertainment Inc.(以下「Live Nation」という。)及びその完全子会社であるTicketmaster LLC (以下「Live Nation-Ticketmaster」という。)に対し、独占及びライブ・エンターテインメント業界全体の市場における競争を阻害するその他の違法行為について、民事反トラスト法訴訟を提起した。本件訴訟には構造的是正の要求も含まれており、ライブ・コンサート業界の競争を回復し、ファンに低価格でより良い選択肢を提供し、現役のミュージシャンその他のパフォーマンスアーティストに会場の扉を開くことを目指している。

2 本日(2024年5月23日)、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に提出された訴状において、DOJは、Live Nation-Ticketmasterがシャーマン法第2条に違反して違法に独占力を行使していると主張している。当該行為の結果、米国の音楽ファンは、他国のファンよりも高額のチケット代を支払っており、チケット販売の新しい技術を使う機会を奪われ、時代遅れの技術を使うことを余儀なくされた。同時に、Live Nation-Ticketmasterは、出演者、会場、独立したプロモーターに対して、競争を阻害するような方法で力を行使している。また、Live Nation-Ticketmasterは、競合他社の参入及び事業拡大を制限する競争障壁を課している。

3 メリック・ガーランド司法長官は、次のように述べた。
「我々は、Live Nationが、ファン、アーティスト、小規模なプロモーター、会場運営者を犠牲にして、米国のライブイベント業界を独占的に支配するため、違法で反競争的な行為を行ってきたと主張している。その結果、ファンはより多くの料金を支払い、アーティストはコンサートを行う機会が少なくなり、小規模なプロモーターは締め出され、会場はチケット販売サービスの現実的な選択肢が少なくなる。Live Nation-Ticketmaster を分割する時が来た。」

4 リサ・モナコ司法副長官は、次のように述べた。
「本日の発表は、事業者の不正行為と戦うためのDOJの最新の取組を反映している。事業者の不正行為に対する我々の戦いは、消費者、労働者、あらゆる種類の事業者に不利益をもたらす反競争的行為に重点を置いている。本訴状は、Live Nation-Ticketmasterが、ライブ・コンサート市場における支配を強化し、業界全体のゲートキーパーとして行動するために反競争的行為を行ったということを主張している。本件措置は、ファン、アーティスト及び彼らを支援する業界にとって、このライブ音楽の時代をより身近なものにするための一歩である。」

5 ベンジャミン・マイザー司法長官補代行は、次のように述べた。
「DOJは、ライブ音楽を含む経済全体での競争に責任を持っている。我々が訴状において主張しているように、Live Nation-Ticketmasterは、全国のファン、会場、アーティストを犠牲にして、コンサートやその他のライブイベント市場を独占している。DOJは、ライブ音楽業界における競争を回復させるために本件訴訟を提起することを誇りに思う。」

6 ジョナサン・カンターDOJ反トラスト局長は、次のように述べた。
「米国のライブ音楽業界が崩壊しているのは、Live Nation-Ticketmasterが違法な独占を行っているためである。我々の反トラスト法訴訟は、Live Nation-Ticketmasterの独占を解消し、ファン及びアーティストの利益のために競争を回復しようとするものである。」

7 訴状によると、Live Nation-Ticketmasterは、いくつかのコンサート・プロモーション及び最初のチケット販売市場において違法に独占を維持し、アリーナや円形劇場を含むライブ・コンサート会場に影響を及ぼすその他の排他的行為(会場と長期独占のチケット販売契約を締結するなど)を行ってきた。訴状はさらに、Live Nation-Ticketmasterの排他的行為は、同社が「フライホイール」(flywheel)と呼んでいる慣行を強化し、保護していると主張している。フライホイールとは、Live Nation-Ticketmasterの自己強化型ビジネスモデルであり、コンサートに来るファンやスポンサーから料金や収益を獲得し、その収益を利用してアーティストを独占プロモーション契約に縛り付け、同社が保有している強力なライブコンテンツを利用して会場と長期独占のチケット販売契約を締結するもので、このサイクルを繰り返すというものである。Live Nation-Ticketmasterの反競争的行為は、競合他社が能率競争を行う(compete on the merits)上で、さらに多くの障壁を生み出す。具体的には、Live Nation-Ticketmasterは、競争を排除し、市場を独占するために以下をはじめとする様々な戦術を実施した。 

・ Oak View Groupとの関係:Live Nation-Ticketmasterは、Oak View Groupとの長年の関係を利用している。Oak View Groupは、自らを「ハンマー」であり、Live Nationの「プロテクター」であると表現してきた、潜在的な競争相手から転身したパートナーである。近年、Oak View Groupは、才能のあるアーティストの獲得に関しLive Nationと競り合うことを避け、会場に対してTicketmasterと独占契約を締結するよう働きかけてきた。例えば、Live Nationは、Oak View Groupが競争しようとしたことを何度も叱責した。ある事例では、Live Nationは、「・・・を(他のアーティスト・エージェント)に所属させるなんて、誰がそんなに愚かなことをするのか。」と尋ね、別の事例では、Live Nationは、「(あのアーティスト・エージェンシー)が我が社と戦わないようにさせよう。」と述べた。

・ 潜在的な参入者に対する報復:Live Nation-Ticketmasterは、ある事業者に対して、その子会社の1社が米国のコンサート・プロモーション市場に参入する足掛かりを得るための競争を止めない限り金銭的報復を行うと脅すことに成功した。

・ 競合他社と協力する会場に対する脅迫及び報復:Live Nation-Ticketmasterのコンサート・プロモーションにおける力とは、全てのライブ・コンサート会場が、別のプロモーター又はチケット販売業者を選択すると、Live Nation-Ticketmasterから反発を受け、コンサート、収益、ファンを失うリスクが伴うことを知っていることである。

・ 排他的な契約による競争の排除:Live Nation-Ticketmasterは、コンサート会場との長期独占契約を維持し、コンサート会場が同社と競合するチケット販売業者を検討又は選択したり、より優れた又はより費用対効果の高いチケット販売技術に切り替えたりできないようにしている。これらの契約により、Live Nation-Ticketmasterは、自社のチケット販売技術及び顧客サービスを改善するという競争圧力から逃れている。

・ 会場が複数のチケット販売業者を利用することを阻止:Live Nation-Ticketmasterの行為及び独占契約により、これまでと異なる新しいプロモーション会社、競合のチケット販売会社、ビジネスモデルの出現が阻止される。Live Nation-Ticketmasterは、会場が複数のチケット販売業者を利用できるようにすることを阻止している。チケット販売業者は、価格、料金、品質、イノベーションの最適な組合せをファンに提供することで競争する。

・ アーティストによる会場の利用を制限:Live Nation-Ticketmasterは、買収、パートナーシップ、契約を通じて、円形劇場を含む主要な会場の更なる支配権を獲得している。Live Nation-Ticketmasterは、アーティストがプロモーションサービスの利用に同意しない限り、アーティストによるこれらの会場の利用を制限している。

・ 競合他社や競争上の脅威の買収:Live Nation-Ticketmasterは、社内で脅威と特定した小規模で地域的なプロモーターを戦略的に多数買収した。これにより、競争が阻害され、アーティストの報酬に影響を与えた。

8  Live Nationは、カリフォルニア州ビバリーヒルズに本社を置くデラウェア州の事業者である。同社は自らを「世界最大のライブ・エンターテインメント企業」、「世界最大のライブ・ミュージック・コンサートのプロデューサー」、「世界をリードするライブ・エンターテインメントのチケット販売及びマーケティング企業」と称している。また、Live Nationは北米で265以上のコンサート会場を所有又は管理しており、その中には米国の円形劇場上位100のうち60以上が含まれている。コンサート事業(プロモーション、会場管理、音楽祭開催など)、チケット販売事業( Ticketmasterの事業)及びスポンサー・広告事業の3つの事業から、世界全体で年間220億ドル以上の収益を上げている。

9 Ticketmaster は、Live Nationの100%出資会社で、ビバリーヒルズに本社を置くヴァージニア州の有限責任会社であり、コンサートチケットが最初に販売される時点でファンにチケットを販売し、購入者が後にチケットを転売できるようにする転売プラットフォームを運営している。同社は、米国で群を抜いて最大のコンサートチケット販売業者であり、最も近い競合他社の数倍の規模である。

EU

欧州委、Bookingをゲートキーパーに指定し、Xに対して市場調査を開始

2024年5月13日 欧州委員会 公表

原文

【概要】
1 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は本日(2024年5月13日)、デジタル市場法(Digital Markets Act、以下「DMA」という。)に基づき、Bookingのオンライン仲介サービスである「Booking.com」をゲートキーパーに指定し、「X Ads」及び「TikTok Ads」をゲートキーパーに指定しないことを決定した。併せて、欧州委は、オンライン・ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)である「X」に関して提出された反論を詳細に検討するため、市場調査を開始した。
 この決定は、2024年3月1日にゲートキーパーに指定される可能性があることについて3社から届出を受け、欧州委が検討を行った結果として出されたものである。

2 定量的基準を満たしているとしてBookingが2024年3月1日に提出した自己評価の届出に基づき、欧州委はこのコアプラットフォームサービスが事業者と消費者の間の重要なゲートウェイを構成していることを立証した。
 これと並行して、欧州委は、SNSである「X」に関して2024年3月1日に提出された反論を詳細に検討するため、市場調査を開始した。この反論では、定量的基準を満たしているにもかかわらず、「X」は事業者と消費者の間の重要なゲートウェイには該当しないと主張している。市場調査は5か月以内に完了することになっている。

3 オンライン広告サービス「X Ads」に関しても反論が提出された。欧州委は、「X Ads」はDMAの定量的基準を満たすものの、重要なゲートウェイには該当しないと判断した。したがって、欧州委は「X Ads」について指定しないことを決定した。
 さらに、欧州委は、ByteDanceのオンライン広告サービスである「TikTok Ads」に関する反論を含む届出を2024年3月1日に受領した。欧州委は、「TikTok Ads」は、DMAの定量的基準を満たすものの、重要なゲートウェイには該当しないと判断した。したがって、欧州委は「TikTok Ads」について指定しないことを決定した。

4 ゲートキーパーとして指定後、Bookingは6カ月以内に、DMAに基づく関連義務を遵守し、エンドユーザーにより多くの選択肢と自由を、ビジネスユーザーにはゲートキーパーのサービスへの公平なアクセスを提供する必要がある。Bookingは、6ヶ月以内に、DMAの各義務をどのように遵守しているかを記載した詳細なコンプライアンスレポートを提出しなければならない。他方で、DMAの義務の中には、例えば、デジタル分野における企業結合の計画を欧州委に報告する義務など、直ちに適用が開始されるものもある。
 欧州委は、これらの義務の効果的な実施と遵守を監視する。ゲートキーパーがDMAの定める義務を遵守しない場合、欧州委は、その企業の全世界の総売上高の10%(繰り返し違反の場合は20%)を上限とする制裁金を課すことができる。また、組織的な違反の場合、欧州委は、ゲートキーパーに事業又はその一部を売却することを義務付けたり、組織的な違反に関連する事業をゲートキーパーが買収することを禁止したりするなどの追加的な措置を採る権限も与えられている。
 将来的には、既にゲートキーパーとして指定されている事業者以外の事業者も、定量的基準について自己評価を行った上で、DMAに基づき欧州委に届出を行う可能性がある。このような観点から、欧州委は全ての関係事業者と建設的な協議を続けている。

その他
英国

マイクロソフトとミストラルAIの提携に関する決定

2024年5月21日 英国競争・市場庁 公表

原文

※この原稿は、CMAが公表した決定全文を要約及び翻訳したものである。

【概要】
 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、マイクロソフトとミストラルAIの提携について、2022年企業法に基づき、以下のとおり(CMAは、現在入手可能な情報に基づくと、本提携を審査する管轄権を有しない旨)、決定した。

1 当事会社
(1)マイクロソフト 
 世界的な技術企業であり、AI分野に関しては、AI基盤モデル(Foundation Model以下「FM」という。)の開発、FM開発者へのクラウドコンピューティングインフラストラクチャの提供、クラウドプラットフォームAzureを通じたFMの配布などを行っている。
(2)ミストラルAI
 2023年に設立されたフランスをベースとするFM開発企業であり、同社の最先端の言語モデルであるMistral Largeは、同社プラットフォームの他、最初の流通パートナーであるマイクロソフトのAzureを通じて配布された(Mistral Largeはその後、AWS BedrockとSnowflakeで利用できるようになった。)。

2 提携の主な内容
(1)計算処理インフラの利用契約(compute commitment)
 Mistralは、 計算処理インフラの利用に関して、複数年間、マイクロソフトのAzureインフラを利用する契約。
(2)流通契約
 ミストラルAIの主要商用モデル及び派生モデルは複数年間、Azureプラットフォーム上で流通する契約。
(3)株式保有
 マイクロソフトは転換社債を通じてミストラルAIに1500万ユーロを投資。
(4)将来の共同研究開発の可能性
 特注の特定業界向けのモデルの訓練や欧州公共部門の業務サポートに関する研究開発の分野での将来の協力の可能性。

3 マイクロソフトのミストラルAIに対する潜在的影響力の検討
 CMAは、両社の提携により、各社が別個の事業主体として区別されなくなったのかどうかを検討した。2以上の企業が共通の所有又は支配の下に置かれた場合、それらの企業は別個のものではなくなる。支配の評価に当たっては、完全な議決権の支配の獲得に限定されず、重要な影響力(material influence)、事実上の支配、支配持分など、完全な議決権の支配には至らない状況も検討する。
 重要な影響力を行使する能力は、2022年企業法で規定する「関連する合併状況」(relevant merger situation)を生じさせる可能性のある最も低いレベルの支配であることから、評価に当たって、CMAは、買収者が買収対象企業の行動に関連する政策に重要な影響を及ぼす能力に焦点を当てる。
 今回の審査でCMAは、マイクロソフトがミストラルAIに対して、以下の(1)から(4)の潜在的な影響力の源泉を通じて、影響力を持つか評価した。

(1)計算処理インフラの利用契約を通じた影響
 計算処理インフラへのアクセスは、高い能力を持つFMを開発するために重要であることから、計算処理インフラの利用契約の内容によっては、重要な影響力を与える可能性がある。当該契約にFM開発者の供給契約をロックインするような独占性を要求しているか、FM開発者の商業的自由を侵害するような条件(例えば、FM開発者の知的財産の商業化を制限する条件)が含まれているか、などが検討対象となる。CMAが調査した結果、以下のことが分った。
① ミストラルAIが契約している計算処理インフラの利用契約のうち、マイクロソフトとの契約が占める割合は低く、他のクラウドサービスプロバイダ(以下「CSP」という。)とも契約を締結している。
② マイクロソフトとの計算処理インフラの利用契約に、ミストラルAIの商業政策に重要な影響を与える条項(マイクロソフトの同意を要求するなど。)はない。 上記を踏まえ、CMAは、他に影響を与える要因がない場合、マイクロソフトとの計算処理インフラの利用契約によって、ミストラルAIの商業政策に重要な影響を与えるほどのマイクロソフトへの依存性を生み出す可能性は低いと評価した。

(2)流通契約を通じた影響
 CSPが提供するFMプラットフォーム(マイクロソフトのAzure Machine Learning Studioなど)を通じたFMの流通は、FM開発者にとって販売の重要なルートになり得る。FM開発者とCSPの流通契約の内容によっては、マイクロソフトがミストラルAIに対する重要な影響力を持つ可能性がある。CMAは、流通契約がCSPへの依存を生み出し、CSPがFM開発者の商業政策に重大な影響を及ぼすことを可能とするような条件であれば、重大な影響を及ぼす可能性があると考える。CMAが調査した結果、以下のことが分った。
① 当該契約は独占的でなく、ミストラルAIのFMは現在、同社のプラットフォームのほか、Amazon Bedrock、Snowflake、Perplexity Proにおいて入手可能であり、将来はその他の事業者を通じても入手できる可能性がある。
② 当該契約には、ミストラルAIの商業政策に重要な影響を与える条項はない。 上記の点を踏まえ、CMAは、他に影響を与える要因がない場合、ミストラルAIの主要商用モデル及び派生モデルをマイクロソフトのAzureプラットフォームで販売する契約によって、マイクロソフトがミストラルAIの商業政策に重要な影響を与えるほどのマイクロソフトへの依存性を生み出す可能性は低いと評価した。

(3)株主保有及び取締役会での影響力
 マイクロソフトのミストラルAIに対する潜在的な株式保有率は1%未満であり(最新の情報によるミストラルAIの企業価値は約20億米ドルであり、マイクロソフトの同社への投資は1600万米ドルである。)、以下のような、その他の要因を組み合わせたとしても、マイクロソフトがミストラルAIの株主総会での議決権行使や取締役会への影響力行使を通じて同社の方針に影響を及ぼすことができるとは考えられない。
① マイクロソフトの投資が株式に転換された場合、マイクロソフトは少数株主として特別決議を阻止する権限を持たないままとなる。また、マイクロソフトの1500万ユーロの転換社債の引受けによるミストラルAIへの投資は、Nvidiaなど他の投資家との間で行われた1億2000万ユーロの債券調達の一部であり、Nvidiaはマイクロソフトより多額の投資を行っている。
② マイクロソフトは、ミストラルAIに重要な影響力を与えられる特別な権利(特別な議決権や拒否権など)を持っていなかった。
③ CMAは、マイクロソフトのミストラルAIの取締役会での影響力についても検討したが、取締役を派遣していない。

(4)将来の共同研究開発の可能性を通じた影響
 CMAは、本件提携により、想定される協力及び開発の機会を通じて、ミストラルAIに重要な影響を与える能力をマイクロソフトに与えたかどうかを検討した。具体的には、本件提携の下での関連の契約において、特定の顧客のための業界向けのモデルの訓練、公共部門の業務支援などが想定されている。 ここでも、CMAは、他に影響を与える要因がない場合、現在の契約に規定された共同研究開発の機会によって、マイクロソフトがミストラルAIの商業政策に重要な影響を及ぼす可能性は低いと評価した。

4 結論
 上記の調査結果に基づき、CMAは、マイクロソフトとミストラルAIが2002年企業法に照らして独立した事業者でなくなったことはなく、その可能性もないと評価した。このため、現在入手可能な情報の範囲では、本提携はCMAによる審査の対象外である。

英国

英国政府による2024年デジタル市場・競争・消費者法の成立について

2024年5月24日 英国ビジネス・貿易省及び英国科学・イノベーション・技術省 公表

原文

【概要】
1 2024年5月24日、国王裁可を経て、「2024年デジタル市場・競争・消費者法」(Digital Markets, Competition and Consumers Act、以下「DMCCA」という。)が成立した。DMCCAは、英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)に対し、「戦略的市場地位」(strategic market status)を有するテック企業がその立場を悪用して競合事業者や消費者に不利益を与えるのを阻止するための手段を与える。
 また、消費者法に違反した事業者に対する罰則を設け、CMAが消費者法を直接執行できるようにする。さらに同法は、消費者にとってサブスクリプションの管理がより容易になるようにするため、偽レビューの禁止、消費者への明確な価格設定の提供、オンライン購入における消費者の管理の強化などを盛り込んでいる。

2 DMCCAは、英国の消費者に権利を与え、オンライン販売に関するコントロール及び明瞭性を高めるための道を開くものである。具体的には、事業者に対し、サブスクリプション契約を結ぶ前に、消費者により明確な情報を提供すること、無料体験や割引価格体験が終了することを消費者に再認識させること、消費者が簡単に契約を終了できるようにすることを義務付けている。

3 やむを得ず発生する隠し料金(hidden fees)については、初期費用に含めるか、購入手続の最初の段階で明示する必要がある。これにより、消費者は契約当初から、何にいくら費やすのかを明確に把握することができる。

4 DMCCAは、CMAに対して、デジタル市場における競争の課題に対処するための新たなツールを与える。これらのツールにより、CMAは、強力なテック企業がユーザーを公平に扱っていない場合、その運営方法を変更するよう求める「行動要件」(conduct requirements)を事業者ごとに設定できるようになる。これらの規制により、消費者が利用するサービスを自由に選択する余地を与えるとともに、消費者が適切な判断を下すために必要な情報を事業者が隠すのを阻止することが可能となる。

5 また、DMCCAは、CMAに対し、競争の促進を目的として、スマートフォンを利用する人々やクラウドサービスに依存する事業者に利益をもたらすためにその行動を変えるよう、事業者に介入し、指示する権限を与える。このほか、自動車燃料価格を綿密にモニタリングし、不正の兆候が認められた際に英国政府に報告する新たな権限を与える。

6 CMAによる調査の結果、「戦略的市場地位」(strategic market status)を有していると判断された場合、この新規則の対象となる。ただし、新規則の対象となるのは、世界的に最も力のあるごく僅かのIT企業のみである(注)。

(注)DMCCAの成立を踏まえ、CMAは、「戦略的市場地位」を有する事業者を特定するための調査や評価手法、行動要件の設定や競争促進を目的とした介入を行う際のアプローチ等を整理した運用案を公表し、2024年7月12日を期限に意見募集を開始した。
https://www.gov.uk/government/consultations/consultation-on-digital-markets-competition-regime-guidance https://assets.publishing.service.gov.uk/media/6650aecfd470e3279dd33258/Digital_markets_competition_regime_draft_guidance_summary.pdf 

7 事業者がCMAの決定に従わない場合、数百億ポンドに達する制裁金を課される可能性がある。これらの制裁金やその他の措置は、厳格なチェック・アンド・バランスによって均衡が保たれる。

韓国

KFTC、カカオ及びカカオエンターテインメントによるSMエンターテインメントの株式取得を条件付きで承認

2024年5月2日 韓国公正取引委員会 公表

原文(韓国語)

【概要】
1 韓国公正取引委員会(以下「KFTC」という。)は、株式会社カカオ及びカカオエンターテインメント(以下「カカオ」という。)が株式会社エスエムエンターテインメント(以下「SM」という。)の株式の39.87%を取得する企業結合が国内の大衆音楽のデジタル音源市場における競争を実質的に制限するおそれがあると判断し、是正措置を採ることを条件に承認することを決定した。
 是正措置は、デジタル音源プラットフォームであるメロン(Melon)を運営する株式会社カカオエンターテインメント(デジタル音源の流通会社)に課される。 本件是正措置は、企業結合審査においてプラットフォームの自社優遇を遮断するために是正措置を課した最初の事例であり、エンターテイメント分野の企業結合に是正措置を課した最初の事例でもある。

2 KFTCは、本件企業結合が、総合コンテンツの販売及びそれのプラットフォームを運営するカカオと、強力なK-POPコンテンツの配信を行うSMとの間の結合であり、韓国内のエンターテインメント産業に及ぼす影響が大きいことを考慮し、利害関係者らの意見を数回にわたって幅広く聴取した上検討を重ねた。

3 本件企業結合は、国内大衆音楽のデジタル音源の企画・制作市場における有力事業者であり、デジタル音源の流通及びそのプラットフォームの両方の市場において、第1位の事業者であるカカオが、デジタル音源の企画・制作市場における第1位の事業者であるSMと結合する垂直型企業結合である。

4 カカオは、所属する大衆歌手のIU、アイブ等のデジタル音源を企画・制作をするとともに、自社及び他社の音源を一緒に流通させており、音源プラットフォームであるメロンも運営している。SMは、所属する大衆歌手のエヌシーティー(NCT)、エスパ(aespa)等のデジタル音源を企画・制作している。
 カカオは、本件企業結合により、SMの強力な人気音源を確保し、デジタル音源の企画・制作市場においても第1位の事業者になると同時に、SMの音源の流通権までも確保し、音源の流通市場における地位も一層強化することとなる。

5 カカオは、本件企業結合前から、デジタル音源の企画-制作-流通-プラットフォーム市場の全バリューチェーンにおいて垂直系列化を成していたが、相対的に脆弱であった音源の企画・制作分野を強化し、流通分野のシェアを拡大することにより、これまでの垂直系列化を更に堅固にすることを目指していた。
 本件企業結合が届出された時点では、カカオのデジタル音源市場におけるシェアは、企画・制作市場 (SMを含む)13.25%、音源流通市場(SMの流通転換を含む)43.02%(サークルチャート20位以内基準では60%)、音源プラットフォーム市場43.6%である。サークルチャートは、韓国音楽コンテンツ協会が運営する音楽チャートである。

6 KFTCは、カカオがSMの強力なデジタル音源を獲得した場合、メロンの競合音源プラットフォームに流通させる音源を適時に供給しないことにより音源プラットフォーム市場における競争を制限したり、メロンにおいて、自社又は系列会社が制作し又は流通させる音源の紹介又は表示を他社より有利にしたりする方法(以下「自社優遇」という。)により、音源の企画・制作又は流通市場の競争を制限するおそれが大きいと判断した。
 利害関係者らも、メロンの競合音源プラットフォームがニッチ市場の攻略等のためにメロンには無い新規料金プランを発売する際、カカオが音源を適時に供給せず、新規料金プランの発売が妨げられる可能性があるという意見や、SM所属の大衆歌手がデビュー又はカムバック(復帰)する時、メロンを通じて自社優遇が行われれば、音源の企画・制作市場の公正な競争が阻害され得るという意見を強く表明した。

7 KFTCは、デジタル音源市場の競争制限のおそれを解消するために、第一に、メロンの競合音源プラットフォームがカカオに音源の供給を要請する場合に、正当な理由なく音源の供給を拒絶したり、供給を中断し又は遅延させる行為を禁止し、第二に、独立した監視機構を設立し、監視機構に、メロンにおける自社優遇の有無を定期的に監視させる是正措置を課すことを決定した。
 監視機構は、カカオから独立した5人以上の外部委員のみで構成され、メロンの最新音源紹介コーナーである「最新音楽」、「スポットライト」、「ハイライジング」を通じた自社優遇の有無を点検することになる。デジタル音源の売上の80%は発売後3か月以内に発生するので、音源の興行面では初期のプロモーションと露出が非常に重要である点を勘案して、最新音源に係る自社優遇の点検措置を課したものである。
(注)
・「最新音楽」は、新発売されたアルバム20枚を表示する常時バナー。
・「スポットライト」は、既存アーティストのカムバック(復帰)アルバムを、「ハイライジング」は、新人アーティストのデビューアルバムをプロモーションするためのイベント性のあるバナー。

8 本件企業結合の場合、デジタル音源プラットフォーム市場において、ユーチューブミュージック、スポティファイ等のグローバル企業らの競争圧力が強まるにつれ、今後、国内のデジタル音源市場の競争環境が再編される可能性を考慮して、行動的是正措置を課すことにした。
 カカオは、3年間、上記の是正措置を遵守しなければならず、ただし、競争制限のおそれが著しく減少するなど市場状況の重大な変化がある場合、是正措置の全部又は一部の取消し又は変更をKFTCに要請することができる。


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