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海外当局の動き

海外当局の動き

最近の動き(2023年12月更新)

EU

欧州委員会、BookingによるeTraveliの買収を禁止

2023年9月25日 欧州委員会 公表

原文

【概要】
 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、EU企業結合規則に基づき、Booking Holdings(以下「Booking」という。)によるFlugo Group Holdings AB(以下「eTraveli」という。)の買収を禁止した。本件買収を実行した場合、Bookingは、欧州経済領域(EEA)におけるホテルのオンライン旅行代理店(以下「OTA」という。)市場における支配的地位を強化することになるが、同社は、こうした懸念に対処する十分な問題解消措置を提示しなかった。
 
1 欧州委の審査
 本日(2023年9月25日)の決定は、市場集中が進んだ分野においてOTAサービスを提供するBookingとeTraveliという大手2社が統合する本件買収計画について、欧州委の詳細審査を経たものである。欧州において、BookingはホテルOTAの大手であり、eTraveliは航空券OTAサービスの主要な供給事業者の1つである。Bookingは、メタサーチ・サービス(以下「MSS」という。)市場でも、価格比較プラットフォームである「KAYAK」を通じて事業を行っている。
 OTAは、宿泊、航空券、レンタカー、アトラクションを含む旅行サービスの需要と供給をマッチングする重要な仲介サービスを提供している。EEA域内に限っても、OTAは年間1000億ユーロ以上の取引を扱っている。ホテルのOTAサービスは、OTA市場の最大かつ最も収益性の高い分野であり、その規模は年間約400億ユーロに達している。
 欧州委は、審査において、ホテルや競合するOTAを含む多くの関係者から意見を聴取した。市場参加者は、本件買収により、EEA域内のホテルOTA市場におけるBookingの支配的地位が強化され、競争を低下させ、ホテルが支払っている手数料や、場合によっては消費者に対する価格が上昇することを懸念していた。
 
2 欧州委の決定
 欧州委は、本件買収はホテルOTA市場におけるBookingの支配的地位を強化し、ホテルのコスト上昇や、場合によっては消費者のコスト上昇につながると判断した。具体的には、欧州委は次のように判断した。
・ Bookingは、EEAにおける支配的なホテルOTAであり、過去10年間一貫して成長を続けており、市場シェアは60%を超えている。その市場には、競争者となり得る事業者は1社しかおらず、その1社の規模ははるかに小さく、主に米国市場に傾注している。競合するOTAはBookingに対して十分な価格競争圧力をかけることができないため、Bookingはホテルに対して主要な競合他社よりも高い手数料を自由に課すことができている。さらに、Bookingは、大規模なホテル提供サービスを展開しているため、ネットワーク効果の恩恵を受け、より多くの消費者を引きつけている。
・本件買収により、Bookingは主要な顧客獲得チャネルを得ることになる。フライトOTAサービスは宿泊施設に次いで2番目に大きなOTA市場であり、Bookingの中核であるホテルOTA事業を最も密接に補完する隣接市場である。フライトOTAサービスは非常に多くの旅客移動を生み出し、旅行計画における最初のステップとなることが多いため、ホテルOTAにとって重要な顧客獲得チャネルとなっている。フライトOTA市場において、eTraveliは業界内で最高クラスのOTAであり、EEAでナンバー2のプレーヤーである。Bookingは、eTraveliの能力を活かして、ヨーロッパで主要なフライトOTAになることができる可能性があった。
・本件買収により、BookingはホテルOTA事業を中心とした旅行サービスのエコシステムを拡大することができる。フライトOTAサービスは、Bookingのプラットフォームに多くの追加的なアクセスをもたらすため、このエコシステムにおける重要な成長手段である。これはとりもなおさず、様々な旅行OTAサービスの中で、フライトが宿泊施設との相互販売(the cross-selling)につながる可能性が最も高いためである。合併によって増加する消費者の相当部分がBookingのプラットフォームに留まるため、Bookingはこうした顧客の慣性的行動の恩恵を受けることができる。したがって、本件買収は、競合他社がホテルOTA市場でBookingの地位を脅かすことをより困難にするものである。
・Bookingのプラットフォームへのアクセスや売上が増加するため、本件買収はネットワーク効果を強化し、参入や拡大の障壁を高め、競合するOTAがホテルOTA事業を維持するための顧客層を発展させることを困難にするものである。買収が実施されれば、現在対等な競争相手となろうとしているOTAが、十分な競争相手になることができなくなる可能性がある。
・Bookingの支配的地位の強化は、ホテルに対する同社の交渉力をさらに高め、割安な販売チャネルからの需要をBookingに振り向けることになる。その結果、ホテルや場合によっては消費者のコストが上昇する可能性がある。
 
3 Bookingが提案した問題解消措置
 Bookingが提案した問題解消措置は、今後も競争が維持されると結論付けることができるものでなかったため、欧州委の競争に関する懸念に十分に対処するものではなかった。Bookingは、航空券購入後に表示されるチェックアウトページで、航空券購入者に選択画面を表示することを提案した。この選択画面では、Bookingは、競合するホテルOTAから顧客への複数のホテルの提案(オファー)を表示し、顧客が表示されたホテルをクリックすると、ホテルOTAのウェブサイトに移動する問題解消措置を提案した。この選択画面には次のような特徴があった。
・BookingのMSSサービスであるKAYAKにより提供される。
・Booking.comブランドのフライトプラットフォーム及びeTraveliブランドのフライトプラットフォームに表示されるものであり、EEA域内のフライト利用者及びEEA域外に在住しEEA域内を旅行するフライト利用者に表示されるものである。
・OTAが提供する4つのホテルの選択肢が表示され、4つのホテルの各オプションの下に表示されるドロップダウンメニューには、同じホテルについて他のホテルOTAが提供する最大4つの追加的なホテルの提案が含まれている。
・最初に表示されるおすすめのOTAは、各ホテルの最低価格を提供するOTAである。KAYAKのアルゴリズムは、①選択画面に表示された4つのホテルを選択し、②それぞれのホテルのドロップダウンメニューに表示された追加のOTAを選択するものである。KAYAKアルゴリズムには入札メカニズムが含まれており、Bookingは選択画面からの参照について競合他社から報酬を得ることになる。
・ホテルOTAは、 ① KAYAKの技術及び品質基準を満たしており、②総収入の少なくとも60%をホテルの客室販売から得ているという基準を満たす場合に表示される。また、Bookingからのホテル提案も表示することができる。
 欧州委は、関連する市場参加者を対象とした実効性の検証を含め、提案された問題解消措置について広範な分析を行った。寄せられた意見によると、提案された問題解消措置は十分に包括的かつ効果的なものではなく、競争上の懸念を完全に払拭するものではなかった。具体的には、
・競合するホテルOTAによるホテルの提案と順位付けについては、Bookingの子会社であるKAYAKがその実施を複数の側面から担っていたため、十分な透明性及び非差別性が認められなかった。
・競合するホテルOTAからのホテルの提案は、フライトのチェックアウトページにのみ表示され、Eメール、通知、ウェブサイトの他のページなど、他の重要な相互販売の機会には表示されなかった。フライトのチェックアウトページは、eTraveliの買収を通じてBookingが獲得できた相互販売の機会のごく一部に過ぎなかった。
・特にKAYAKのアルゴリズムはブラックボックスとなっているため、この措置を効果的に監視することは困難であった。
 これらのことから、欧州委は、Bookingが提案した問題解消措置は、競争上の懸念に対処し、買収による競争への悪影響を防止するには不十分であると判断した。その結果、欧州委は提案されている買収の禁止を決定した。

欧州委員会、IlluminaにGRAILの買収解消を命じる

2023年10月12日 欧州委員会 公表

原文

【概要】
 本日、欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、2022年9月6日の買収禁止決定に続き、Illuminaに対し、EU企業結合規則に基づいて、既に実施されたGRAILの買収を解消するよう求める競争回復命令を採択した。
 この買収は、血液ベースの早期がん検知検査という新興市場において、イノベーションを阻害し、選択肢を減少させるという懸念があったため、欧州委は、2022年9月6日、IlluminaによるGRAILの買収を禁止した。Illumina及びGRAILは、欧州委の詳細な審査(第2次審査)中に、EU企業結合規則に反して違法に買収を完了させた。2023年7月、欧州委は両社に対し、欧州委の承認を得る前に買収を実施したとして制裁金を課した。
 
1 今回の決定
 欧州委は、本日の決定において、Illuminaに対し具体的には以下の措置を求め、GRAILの買収が完了する前の状況に戻すことを要求した。
①IlluminaにGRAILの買収を解消させることを求める売却措置
②Illuminaが買収を解消するまでの間、Illumina及びGRAILが遵守すべき経過措置
 
 売却措置については、以下の原則に基づいて実施されなければならない。
①買収の解消は、IlluminaからのGRAILの独立性を、買収前にGRAILが享受していたものと同じレベルまで回復させなければならない。GRAILの独立性を回復させることにより、IlluminaがGRAILの競合他社を手間取らせたり不利益を与えたりする能力や、インセンティブから生じる競争への悪影響を取り除くことができる。
②売却後もIlluminaの買収前と同様に、GRAILが事業継続でき、競争力を発揮できるようにしなければならない。これにより、GRAILと競合他社とのイノベーション競争が、買収前と同様の条件で継続できるようになる。
③売却は、買収前の状況を速やかに回復できるよう、厳格な期限と十分な確実性をもって実行可能でなければならない。
 
 Illuminaは、上記の原則全てに従うことを条件に、適切な売却方法(例えば、事業譲渡や組織再編)を選択することができる。Illuminaは、GRAILの売却に関する具体的な売却計画を提出し、欧州委の承認を得なければならない。  
 
 経過措置については、以下に基づいて実施されなければならない。
①GRAILがIlluminaの事業に現状以上に統合され、それにより競争への回復不能な損害が生じることを避けるため、買収が解消されるまでIllumina及びGRAILが独立した存在であり続けることを保証する。
②Illuminaには、GRAILが早期がん検知検査Galleriをさらに開発し発売できるように、 GRAILの現金需要に合わせて継続的に資金を提供し続けることで、GRAILの事業継続を維持する義務がある。
③本件経過措置は、欧州委が2022年10月28日に採択し、現在発効している暫定措置に置き換わるものである。
 
 競争回復命令が遵守されなかった場合、欧州委は、EU企業結合規則第15条に基づき、対象事業者の1日当たりの平均総売上高の5%を上限とする履行強制金を定期的に課すことができる。さらに、EU企業結合規則第14条に基づき、競争回復命令を遵守しない事業者に対し、全世界での年間売上高の10%を上限とする制裁金を課すことができる。
 
2 対象事業者及びその製品
 Illuminaは米国に本社を置く世界的なゲノミクス企業で、次世代シーケンシング(NGS)システムの開発、製造、販売を行っている。IlluminaのNGSシステムは、がんの検出やがん患者に対する適切な治療法の選択を可能にする血液ベースの検査を開発・実施するがん領域の顧客を含む、様々な用途で使用される医療機器である。
 
 同じく米国に本社を置くGRAILは、ゲノムシーケシング及びデータサイエンスツールに基づく血液ベースのがん検査を開発するヘルスケア企業である。GRAILの主力製品は「Galleri」と呼ばれる早期多発がん検知検査で、無症状の患者の血液サンプルから約50のがんを検出することを目的としている。2021年4月、GRAILは米国でGalleriの限定的な商品化を開始した。GRAILにはさらに2つの開発中の製品があり、それぞれ(i)症状のある患者のがんの診断を確定するためのがん検査用の診断補助剤、(ii)がん治療後の患者の再発の可能性を検出するための微小残存病変検査である。GRAILは2016年にIlluminaによって設立され、同年末に分社化された。
 
3 IlluminaとGRAILの合併の経緯
 加盟6か国からの移送要請を受け、欧州委員会は2021年4月19日、IlluminaによるGRAILの買収計画の審査を行うこととし、2021年7月22日に詳細な審査を開始した。2022年7月13日、欧州一般裁判所は、同買収に関する欧州委の管轄権を確認した。しかし、欧州委の詳細な審査が続いている間に、IlluminaはGRAILの買収を完了したと公表した。その結果、2021年10月29日、欧州委は、合併審査の結果が出るまで、IlluminaとGRAILの独立を確保する暫定措置を採択した。2022年9月6日、欧州委は、IlluminaによるGRAILの買収を禁止した。この合併は、血液ベースの早期がん検知検査という新興市場において、イノベーションを阻害し、選択の幅を狭めるとの懸念があったためである。禁止決定後、欧州委は2022年10月28日に暫定措置を更新した。
 2022年12月5日、欧州委はIllumina及びGRAILに対し、欧州委が採用する予定の競争回復措置の概要を記した異議告知書を送付した。さらに2023年7月12日、欧州委は、EU企業結合規則に違反して、欧州委の承認前に買収を実施したとして、Illuminaに4億3200万ユーロ、GRAILに1,000ユーロの制裁金を課した。
 
4 手続違反の根拠等
 EU企業結合規則第7条1項に定められている義務により、届出前又は共同体市場との両立性が宣言されるまでは企業結合を実施してはならないこととされている。この停止義務(standstill obligation)は、欧州委の合併審査の結果が出るまでの間、合併による市場への取り返しのつかない悪影響や、合併当事者の不可逆的な統合の可能性を防止するものである。
 この停止義務の遵守は、法的確実性のために不可欠であり、欧州委が合併による市場への影響について正しく分析することを可能にし、合併が市場の競争構造に潜在的に有害な影響を与えることを防止する。このようにして、市場の力は、消費者のために働くのである。停止義務が遵守されず、その後、欧州委が合併の禁止を決定した場合には、合併前の状況を回復させる措置を講じる必要がある。
 EU企業結合規則第8条4項(a)は、企業結合が既に実施され、その企業結合が共同体市場と両立しない旨宣言される場合、欧州委が企業結合実施前の状況を回復するための適切な競争回復措置を採る権限を与えている。

英国

CMA、環境サステナビリティに向けた事業者の取組を支援するガイダンスを公表

2023年10月12日 英国競争・市場庁 公表

原文

グリーン協定ガイダンス

【概要】
 大規模な意見募集手続の結果を踏まえ、本日(2023年10月12日)、英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)が公表した新たな「グリーン協定ガイダンス」(Green Agreements Guidance)は、気候変動や環境サステナビリティに取り組む事業者を支援するため、サプライチェーン中の同じ階層で事業を行う事業者間の環境サステナビリティ協定に競争法がどのように適用されるかを概説している。
 
 グリーン協定ガイダンス(正式には「環境サステナビリティ協定への1998年競争法の適用に関するガイダンス」という。)は、環境サステナビリティに関する取組において他の事業者と協力する際に、事業者がその情報を用いて自らの意思決定を行うために利用できる実践的な事例とともに、適用される主な原則を定めている。CMAは、同ガイダンスに沿った協定に対して競争法を執行することはないと説明している。また、気候変動協定がどのように考慮されるかについて取り上げた章もある。
 グリーン協定ガイダンスは、CMAが2022年3月に英国政府に提出した環境サステナビリティに関する提言に続くものである。同提言内で、CMAは、事業者が環境サステナビリティに関する目標の達成に向けて協力する際に、何が適法で、何が適法でないかがより明確になることを望んでいることを明らかにした。これを受け、今年(2023年)初頭、グリーン協定ガイダンスのドラフトについて意見募集手続を実施し、この最終版には幅広い関係者や事業者から寄せられた有益なコメントが反映されている。
 
 これは、本日、CMAが開始した、動画やロードマップを含むより広範な啓発キャンペーンの一環である。ロードマップは、グリーン協定ガイダンスの全文を読んだり、法的助言を求めたりする前の第一歩として、事業者が検討すべきことがわかるよう、様々なカテゴリーのリスクに焦点を当てている。例えば、ファッション業界において、衣料品に使用するサステナブルな素材の量を徐々に増やす目標を設定することに合意する際に、グリーン協定ガイダンスは、事業者が、合意内容について競争法に沿ったものであることを確信できるよう、どのように合意すべきかについて説明している。
 
 (訳注:それでも自己の企業行動の競争法上の評価如何に)疑問を抱いている事業者のために、CMAは、事業者や事業者団体、非政府組織、慈善団体が、提案された環境サステナビリティに関する取組について、非公式な助言を求めることができるオープンドア・ポリシーを運用している。
 
 カーデルCMAチーフエグゼクティブは、次のように述べた。
「我々(CMA)は、気候変動への取組と環境サステナビリティの促進が重要であり、そのための事業者に対する支援がCMAの優先事項であると認識している。そこで我々は、事業者間の連携を検討している全ての事業者が、法律に違反することなくグリーン目標(green goals)に合意する方法を理解できるよう、グリーン協定ガイダンスを策定した。
 同ガイダンスは以前よりも更に踏み込んだもので、気候変動への対応に真に貢献する協定が競争法の適用除外となる場合について、事業者に対して確実性を与えるものである。我々のオープンドア・ポリシーは、グリーン経済を促進するために事業者がどのように協力できるかについて、CMAが事業者に合わせた非公式のガイダンスを提供するために協力できることを意味する。」
 

CMA、マイクロソフトによるアクティビジョンの買収計画を条件付き承認

2023年10月13日 英国競争・市場庁 公表

原文

【概要】
 マイクロソフトによるアクティビジョンの買収計画について、2023年8月、マイクロソフトは、アクティビジョンのクラウドゲーミング権を仏ユービーアイソフトに譲渡するという譲歩(concession)を行った。この新たな買収計画により、今後15年間に制作されるアクティビジョンのPC及びコンソール向けコンテンツの全てのクラウドストリーミング権(欧州経済領域(EEA)域外でリリースする作品に限る。)が、コンテンツへの新たなアクセス方法を提供する野心的な計画を有する強力で独立した競合事業者の手に渡ることになる。
 
 この譲歩の結果、英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は本件買収計画について改めて審査することに合意し、2023年8月に新たな審査を開始した。本日(2023年10月13日)、CMAは同審査を終了するとともに、本件買収計画を承認した。
 
 この新たな買収計画により、クラウドゲーム市場が急成長する中、マイクロソフトがクラウドゲーム市場における競争を阻害することを阻止し、英国のクラウドゲームの顧客にとって、競争力のある価格及びサービスが維持されることになる。これにより、ユービーアイソフトはアクティビジョンのコンテンツを、マルチゲームのサブスクリプションサービスをはじめとしたあらゆるビジネスモデルにおいて提供できるようになる。また、クラウドゲームサービスプロバイダーがアクティビジョンのコンテンツにウィンドウズ以外のオペレーティングシステム(OS)を使用できるようになり、コスト削減及び効率化が実現する。
 
【決定】
 CMAは当初の審査において、マイクロソフトがクラウドゲームに関して既に強力な地位を占めていると判断し、買収計画を差し止めた。
 
 アクティビジョンのクラウドストリーミング権をユービーアイソフトに譲渡することで、コールオブデューティ(Call of Duty)等を含む重要な人気コンテンツの配信がマイクロソフトの管理下に置かれることを防ぐことができる。修正された買収計画は、当初CMAが抱いていた懸念に実質的に対処するものであった。   
 
 CMAは、新たな買収計画にも限定的な懸念が残っていることを明らかにしていたところ、マイクロソフトは、ユービーアイソフトに対するアクティビジョンのクラウドストリーミング権の譲渡に関する条件がCMAによって執行可能であることを保証する確約を提出した。
 
 CMAは、マイクロソフトによる上記確約について協議した結果、これにより、本件買収が適切に実施されるために必要なセーフティネットが提供されると評価している。
 
 カーデルCMAチーフエグゼクティブは、次のように述べた。
「CMAは、競争を阻害し、消費者及び企業に悪い結果をもたらす合併を断固として阻止する。 我々(CMA)は、政治的な影響を受けることなく判断を下し、企業のロビー活動によって判断が左右されることはない。 
 我々はマイクロソフトに対し、我々の懸念に包括的に対処しない限り、本件買収計画を阻止するという明確なメッセージを伝え、その姿勢を貫いた。
 アクティビジョンのクラウドストリーミング権をユービーアイソフトに売却することで、我々はマイクロソフトがこの重要で急速に発展している市場を掌握できないことを確認した。クラウドゲームが成長するにつれ、この介入によって、人々はより競争力のある価格、優れたサービス、より多くの選択肢を手に入れることができる。我々は、このような結果をもたらした世界唯一の競争当局である。 
 しかし、企業及びそのアドバイザーは、マイクロソフトが採った戦略がCMAと協働する方法ではなかったことを疑う必要はない。 マイクロソフトは、我々の最初の審査中に買収計画の見直しの機会があったにも関わらず、その代わりに、我々が単に上手くいかないと伝えた対策パッケージを主張し続けた。このように手続を引き延ばすことは、時間と金を浪費するだけである。」
 
 コールマンCMA調査グループ長は、次のように述べた。
「クラウドゲームは、ユーザーがゲームにアクセスするための重要な新しい方法であり、本件買収はその潜在的な発展を著しく損なう可能性がある。その点では、我々(CMA)と、欧州委員会や米国連邦取引委員会の見解は完全に一致している。我々が異なるのは、この問題をどのように解決するかという点である。我々は、当初、マイクロソフトから提示された、マイクロソフトの支配力が大きくなりすぎるような是正措置案を拒否した。
 現在、我々は、新旧作品を問わずアクティビジョンのゲームのクラウド配信をマイクロソフトから取り上げ、ゲームへのアクセス拡大に尽力する独立した事業者であるユービーアイソフトの手に委ねるという新たな買収計画を手中に収めている。 それは競争にとっても、消費者にとっても、経済成長にとっても望ましいことである。」

韓国

KFTC、サムスン電子に対し不利益な長期部品供給契約を強制したとしてブロードコムに制裁

2023年9月21日 韓国公正取引委員会 公表

原文(韓国語)

【概要】
 韓国公正取引委員会(以下「KFTC」という。)は、ブロードコム(注)が部品出荷の停止等の不公正な手段を通じて、サムスン電子に、部品供給に係る一方的に不利な長期契約(Long Term Agreement、以下「LTA」という。)の締結を強制して、不利益を与えた行為に対して、是正命令及び課徴金191億ウォン(暫定)を課すことを決定した。
 
(注)ブロードコム・インコーポレーテッド(米国本社)、ブロードコム・コーポレーション(アメリカ)、アバゴ・テクノロジーズ・インターナショナル・セールス・プライベート・リミテッド(シンガポール)及びアバゴ・テクノロジー・スコリア株式会社(韓国支社)を総称したもの。
 
 ブロードコムは、スマートフォン、タブレットPC等のスマート機器に使われる最先端、高性能の無線通信部品において圧倒的な市場シェアを有する半導体事業者である。当時、サムスン電子及びアップルは、プレミアムスマート機器市場において激しく競争している状況であり、サムスン電子らは、高価なプレミアムスマート機器に搭載される最先端、高性能の部品の多くをブロードコムに依存していた。しかし、2018年から一部の部品において競争が始まると、ブロードコムは、サムスン電子が競合事業者と取引することを防げて長期間の売上を確保しようと、事前に緻密な検討を経て、2019年12月、独占的な部品供給状況を利用した長期契約締結戦略を立てた。
 ブロードコムが事実上独占してきた市場の一部で競争が起こり始めた当時、サムスン電子は、部品調達の多元化政策を推進するため、LTA締結の意思を全く有しておらず、機会 費用や深刻な財政面の損失等を理由に、ブロードコムの要求を拒否し続けていた。このため、ブロードコムは、2020年2月から、サムスン電子に対する部品購入注文の承認の停止、出荷停止、技術支援の停止等の不公正な手段により、LTAを締結するよう圧力をかけた。
  サムスン電子は、出荷停止や購入注文の未承認等による深刻な供給障害により、2020年3月27日、①2021年から3年間、ブロードコムの部品を毎年最低7.6億ドル購入し、②実際の購入金額が7.6億ドルに達しない場合に差額を賠償する旨のLTAに署名した。
 ブロードコムは、当時、サムスン電子が部品調達の多元化戦略に沿って競合事業者の部品を一部採用すると、当該競合事業者を自己の「憎らしい競争相手(hated competitor)」(訳注:ブロードコムのCEOがサムスン電子の代表取締役に送った電子メールの中の表現。)と呼んで、サムスン電子に強い不満を表明し、それ以降、LTAが本格的に議論されるなど、本件は競合事業者を排除するために推進された。
 また、ブロードコムは、当時、サムスン電子に対する「購入注文承認の停止、出荷停止」の措置について、自ら「爆弾投下」、「核爆弾」に例え、「企業倫理に反する」サムスン電子に対する「脅迫」と考えるなど、サムスン電子が深刻な状況に直面することを認識していた。
 一方、サムスン電子は、当時、ブロードコムの出荷停止等の措置により、交渉において非常に不利であり、ブロードコムの一方的な要求を受け入れざるを得ない切迫した状況にあった。このようなサムスン電子の状況は、当時の「生産ラインの支障が懸念される」、「手持ちのカードがない」、「ブロードコムは急いではいないから、少しだけ待ってもらうように」旨のメール内容にもよく現れている。
 サムスン電子は、ブロードコムによって強制された本件LTAを履行するために、当初採用した競合他社製品をブロードコムの部品に切り換えた。また、購買対象ではない普及型モデルにまでブロードコムの部品を搭載し、翌年度の購入分を先に購入するなど、可能な手段を総動員して、8億ドルの部品を購入せざるを得なかった。
  これにより、サムスン電子は、2021年に発売したギャラクシーS21に、当初、競合事業者の部品を搭載することに決めていたものの、結局、これを断念してブロードコムの部品を採用せざるを得なくなるなど、部品調達の多元化戦略を持続できず、選択権が制限された。また、ブロードコムの部品は競合事業者のものよりも高価なため、単価の上昇による金銭的な不利益も発生した。
 また、LTAによってサムスン電子の部品選択権が制限されると、ブロードコムの競合事業者は、製品の価格及び性能によって正当に競争する機会を奪われた。また、長期的には、部品メーカーの投資インセンティブがなくなり、イノベーションが阻害され、消費者に被害が及ぶ状況を招いた。
 KFTCは、このようなブロードコムの行為が取引の相手方に対して優越的地位を濫用した行為に該当すると判断した。
  KFTCの今回の措置は、ブロードコムのような半導体分野のリーダー企業が自己の取引上の地位を不当に利用して取引の相手方に不利益を与え、関連市場における競争を制限する行為を禁止することにより、イノベーションの重要な基盤産業である半導体市場における公正な取引秩序を確立し、競争条件を整備した点で意義がある。
 特に、半導体市場は、スマート機器、自動車、ロボット、人工知能(AI)等の川下産業と半導体素材・部品・装備等の川上産業とが緊密に関連しており、隣接市場の状況の影響を受けやすいという点で、当該市場における公正な取引秩序の回復が関連市場にまで波及効果が及び得るという点で、更に意味を持つ。
 KFTCは、今後も、半導体等の重要な基盤産業分野における不公正行為の監視を継続し、違法行為については厳正に法を執行していく。

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