オーストラリア

オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)のシムズ委員長によるデータ・アルゴリズム・デジタルプラットフォームの作業拡大に関するスピーチ抜粋

2018年8月3日 オーストラリア競争・消費者委員会 公表
原文

【概要】

 今年から来年に向け,ACCCは執行活動を更に強化し,データ,アルゴリズム及びデジタルプラットフォームに関する業務を拡大させ,さらに,複雑な企業結合審査に関する証拠を収集するための権限をさらに活用する予定であると,ACCCのロッド・シムズ委員長は,オーストラリア弁護士連合会ビジネス法分科会の年次会合において,同会会員向けに講演した。
 この中でデジタルエコノミーに対する規制に関する記載は以下のとおり(以下,シムズ委員長の発言箇所は○のとおり。)。
 
 ACCCは,デジタルエコノミーに関する規制において,その役割が増大しており,また,政府が推進している消費者のデータに係る権利の確保及びデジタル・プラットフォーム調査も主導している。

 ○ アルゴリズムは,データを最大限活用するための根幹を成しており,消費者が現在入手可能なデータという富から恩恵を受けるために極めて重要な役割を果たしている。しかし,アルゴリズムは,ACCCが懸念する競争上及び消費者保護上の問題を引き起こしている。
 ○ 私たちは,消費者の経験にアルゴリズムが与える影響に関する調査を徐々に始めている。例えば,過去にはGoogleに対する調査を行っており,現在は,比較サイトについて,検索結果が価格及び消費者利益をベースにしているか,又は同サイトが得る手数料収入をベースにしているかを考察するための調査をしている。
 ACCCにおいても,端末製造業者に検索アプリ及びアプリストアのインストールを要求するというGoogleの支配的地位の濫用に対する欧州委員会の決定のように,諸々の「垂直的」事業活動に支配的なプラットフォームが入り込んでいることは承知している。
 ○ ACCCはこうした問題に対して関心を持っている。ハーパーレビュー(注:オーストラリア連邦政府の決定を受けて行った政策レビューのこと)に基づく改革以降実施してきた制度改正によって,私たちは以前は有していなかった,こうした問題に対応するためのツールを有している。
 

台湾

台湾公正交易委員会は,クアルコムとの間で知的財産法院合議廷において訴訟上の和解に達したことを公表

2018年8月10日,11日 台湾公平交易委員会 公表
原文: (10日)
      (11日)

【概要】

 公平交易委員会(以下「TFTC」という。)とQualcomm Incorporated(以下「クアルコム」という。)は,知的財産法院合議廷(以下「知財法院」という)の和解の勧めに応じて, 2017年10月20日付け公処字第106094号処分に係る特許権行使に関する争議案(以下「原処分」という。)について,法に基づき,訴訟上の和解に達した。
 
 和解の条件に基づき,クアルコムは,台湾の携帯電話メーカー及びチップ供給業者に対して以下の行為を確約し,TFTCに対してその実施の状況を報告する義務を負う。また,クアルコムは,既に納付した27億3000万新台湾ドルの制裁金について争わないことに同意したほか,台湾において,期間を5年間とする産業投資計画を行うことを確約した。説明は以下のとおりである。
 
1 クアルコムは,台湾の携帯電話メーカー及び台湾のチップ供給業者に対する移動体通信の標準必須特許(以下「移動体通信SEP」という。)のライセンス供与についての以下の確約を遵守し実施することに同意した。これは,クアルコムの移動体通信SEPのライセンス供与の実務に関する,原処分における競争上の懸念を解消するのに十分である。
 
 (1) ライセンス供与の契約条項について,善意に基づき再協議すること
   ライセンスを受けて携帯電話を製造する台湾のメーカーが,クアルコムとのライセンス供与契約について,強要的であり,かつ,不合理なライセンス供与の条項があると考えるときは,クアルコムは善意に基づき再協議することを確約する。条項の再協議に関する争いについては,ライセンスを受けて携帯電話を製造する台湾のメーカーとクアルコムは,裁判所又は仲裁といったその他の中立的な紛争解決手続を採ることを協議することができる。
 
 (2) 協議期間中はチップの供給を拒まないこと
   再協議又は紛争解決手続の期間において,ライセンスを受けて携帯電話を製造する台湾のメーカーが,供給及びライセンス供与に関する契約上の義務の履行を継続しているとき,又は,善意に基づき再協議を行っているとき,クアルコムは,当該メーカーに対する移動体通信チップの供給を停止し,又は,停止すると脅さないことに同意する。
 
 (3) 移動体通信SEPのライセンス供与について差別的な取扱いをしないこと
   クアルコムは,移動体通信SEPのライセンス供与の方法について,同様の状況にある台湾以外の携帯電話メーカーと比較して,台湾の携帯電話メーカーに対して,差別的な取扱いをしないことを確約する。
 
 (4) 台湾のチップ供給業者に対する取扱い
   クアルコムは,台湾のチップ供給業者からの要求に応じて,契約の記載を与えることに同意する。当該契約においては,クアルコムが,移動体通信SEPの請求について,チップ供給業者に対し,公正,合理的かつ非差別的な(FRAND)ライセンス供与条項を最初に提示しない限り,クアルコムは,当該チップ供給業者に対して,移動体通信SEPの請求に対しいかなる訴訟も提起してはならないことを定める。
 
 (5) 独占取引による割引の契約を再び締結しないこと
   クアルコムは,チップの顧客とのチップ供給契約において,顧客がクアルコムの移動体通信チップを独占的に採用することに同意することを条件としてライセンスフィーの割引を行ういかなる契約も再び締結しないことを確約する。また,当該チップの顧客の全てのチップ購入のうちの一定割合がクアルコムからの購入であることを,契約におけるリベートの提供又はライセンスフィーの割引の定めの条件とはしないことを確約する。
 
 (6) 定期的にTFTCに実施の状況を報告すること
   クアルコムは,5年間,6か月ごとに確約の実施の状況をTFTCに報告すること,また,クアルコムと台湾の携帯電話メーカー又は台湾のチップ供給業者が契約条項を追加,改定したときにも,当該契約の締結後30日以内にTFTCに報告することを確約する。
 
 原処分は,クアルコムに対し,処分後に善意と誠意対等の原則に基づき競合するチップ供給業者及び携帯電話メーカーと協議を行い,また,競争上の懸念のある行為を停止すべきことを求めていたところであるが,クアルコムが訴訟上の和解において提示した確約によって,自由かつ公正な競争を擁護するという原処分の目的は十分に達せられると認められる。
 
2 原処分が課した234億新台湾ドルの制裁金について,クアルコムは,既に分割納付された計27億3000万新台湾ドルの制裁金について争わないことに同意した。また,クアルコムは,5年間の産業投資計画によって,台湾に対する投資協力を行うことを確約した。この投資には,5Gにおける協力,新市場の開拓,創業企業及び大学との協力のほか,台湾運営製造エンジニアリングセンターの設立が含まれる。クアルコムは,TFTC,台湾の経済部,科学技術部等の関係機関と緊密な協力を行い,上記の計画及び投資を着実に実施する。この産業投資計画及びクアルコムが確約した投資は,台湾の半導体,移動体通信及び5G技術の発展などの各方面において,経済的な利益と公共の利益の全体を向上させる助けとなるものであると認められる。
 
 このため,本件について総合的に考慮した結果,TFTCは,2018年8月8日の第1396回委員会議における決議を経て,2018年8月9日に知財法院において,クアルコムとTFTC史上初となる公共の利益に基づく訴訟上の和解に達した。原処分は,和解の内容に代替されることとなる。TFTCは,本件が移動体通信産業の良好な競争環境を有効に作り上げ,台湾の半導体,移動体通信及び5G技術の発展の各方面に良い影響をもたらすことを望む。
 
 なお,本件に対し,TFTCは上記発表文のほかに,翌11日に以下のとおり追加の発表文を公表している。
 
 TFTCとクアルコムによる訴訟の和解の発表後の各界からの多くの反応に対して,記者会見とプレスリリースにおいて既に説明したほか,更に以下のとおり説明する。
 
1 TFTCは競争法の主管機関として,市場競争メカニズムとそれによって促進される経済的な利益について,職権に基づき,総合的に考慮しなければならない。本件の影響は重大であるため,原処分を行った後に派生した議論や影響について,行政訴訟という方法によって解決することは時間を無駄にすることになるかもしれず,また,争訟の過程によって台湾のメーカーや産業が被る損害や影響もまた,回復する方法がないかもしれない。このため,TFTCとクアルコムが訴訟上の和解を進める上での重要な前提は,すなわち,原処分における競争上の懸念を取り除くことであり,これによって初めて和解が進められたものである。そして,和解の内容に基づくと,クアルコムの提出した確約は,原処分が目的としていた水準より低いものではなく,また,クアルコムの提出した5年間の産業投資計画は,台湾のメーカーや産業に良い影響をもたらすものである。本件を総合的に考慮すると,訴訟上の和解によって解決することは,競争メカニズムの正常な運営と,産業の経済的な利益の促進の双方を考慮したものであり,ただ産業の発展のみを考慮した「TFTCの自殺行為である。」という事実は全くない。
 
2 このほか,クアルコムが5年間の産業計画を履行することによって,争訟の過程によって生まれる台湾のメーカーや5G産業,技術の発展に対する不確実性やリスクを取り除くことができるのみならず,投資協力計画に含まれる,5Gの技術協力,台湾メーカーのための新興商品市場の開拓,創業企業及び大学との研究開発協力,台湾運営製造エンジニアリングセンターの設立は,国際市場における台湾の半導体及びITC産業の競争力を高めるものであり,業界が言うところの「5G産業に悪影響が生じる。」といった事実は全くない。
 
3 クアルコムは,27億3000万新台湾ドルを既に確実に納付しており,また,更に台湾において期間を5年間とする産業投資計画を実施し,その投資金額及び派生する経済効果は,原処分の制裁金の金額を明らかに上回るものであり,メディアが言うところの「クアルコムは234億新台湾ドルの罰を逃れた。」という事実は全くない。
 
 TFTCは,本件について,台湾の自由かつ公平な競争メカニズムを擁護すること,台湾の携帯電話メーカー,チップ供給業者及び取引の相手方の利益,そして,半導体,移動体通信及び5G産業の発展を総合的に考慮し,また,最後に全体の公益に鑑み,クアルコムとの訴訟上の和解を決定したということを,最後に改めて表明する。各界の御指導に感謝し,TFTCは今後必ず,クアルコムの本和解案の確約の実施を監督し続け,また,経済部,科学技術部等の関係機関と緊密に協力し,産業計画と投資の着実な実施を促すものである。

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