ドイツ

ドイツ連邦カルテル庁は,Facebookに対して,多様なソースからユーザーデータを統合することを禁止した旨を公表

2019年2月7日 ドイツ連邦カルテル庁 公表

原文

【概要】

 連邦カルテル庁は,Facebookに対して,多様なソースからユーザーデータを統合することを禁止した。

1.2019年2月7日,ドイツ連邦カルテル庁は,Facebookに対して,ユーザーデータの利用に関する広範囲に渡る制限を課した。 
 Facebookの利用規約によれば,これまでのところ,ユーザーがFacebookを利用する際には,同社がFacebook上のサイト以外にインターネットやスマートフォンアプリ上に存在するユーザーデータを収集し,これらのデータをフェイスブックのユーザーアカウントに結び付けることを前提条件としていた。    WhatsApp及びInstagramといったFacebookが所有するサービスや第三者のサイトを通じて,Facebookのサイトに集められた全てのデータは,統合され,Facebookのユーザーアカウントに結び付けられることが可能となっていた。
 今般の決定は,異なるデータソースを対象としている。
①WhatsAppやInstagram等,Facebookが所有するサービスを通じてユーザーのデータを収集することは引き続き容認される。しかしながら,当該データをFacebookのユーザーアカウントに結び付けることは,ユーザーの自発的な同意(voluntary consent)がある場合のみ可能とする。同意が得られない場合は,当該データは,それぞれのサービス内にとどまり,Facebookのデータと統合されて処理されてはならない。
②第三者のサイトからデータを収集し,当該データをFacebookユーザーアカウントに結び付けることもまた,ユーザーの自発的な同意がある場合のみ可能とする。
 Facebookが所有するサービス及び第三者サイトからのデータについて同意が得られない場合には,Facebookは自社のデータの収集及び統合を十分に制限しなければならない。また,Facebookは,この問題に関する是正措置を提案することとしている。
 連邦カルテル庁ムント長官は次のように述べている。「我々は,Facebookのデータ処理の今後の方針について,Facebookのデータを内部的に分離するともいえることを実施している。将来的にFacebookは,Facebook以外のデータを無制限に収集し,Facebookのユーザーアカウントに結び付けることを,ユーザーに強制的に同意させることはもはやできなくなる。Facebookがデータソースを統合することはFacebookが個々のユーザーごとに固有のデータベースを構築し,それによって市場力を獲得することが可能となったという事実に貢献していた。将来的に,消費者は,Facebookが自分のユーザーデータを無制限に収集し利用することを防ぐことができるようになる。Facebookのユーザーアカウント内の全てのデータを事実上無制限に統合してきたこれまでの慣行は,今後はユーザーの自発的な同意を得なければならなくなる。「自発的な同意」とは,ユーザーがFacebookを利用する際に,Facebookが前記の方法でデータを収集・統合することにユーザーが同意することを条件とするものであってはならないことを意味する。ユーザーが同意しない場合であっても,Facebookは当該ユーザーを自社サービスから除外してはならず,また,様々なソースからのデータを収集し,統合することはしてはならない。」

2.Facebookはソーシャルネットワーク市場における支配的地位を有する。
 2018年12月時点で,Facebookは,一日あたりで15.2億人,ひと月あたり23.2億人のアクティブユーザーを有していた。同社はドイツ国内のソーシャルネットワーク市場において市場支配的地位を有しており,一日あたりで2300万人(市場シェアは95%),ひと月あたりで3200万人(市場シェアは80%以上)のアクティブユーザーを有している。他方で,競合事業者であるGoogle+は,最近,2019年4月までに自社のソーシャルネットワークを停止することを発表した。Snapchat,YouTube,Twitterなどのサービスや,LinkedInやXingなどのプロフェッショナルネットワークは,ソーシャルネットワークのサービスの一部しか提供していないため,関連市場には含まれない。仮にこれらのサービスが関連市場に含まれるとしても,子会社であるInstagram及びWhatsAppを含むFacebookグループは,依然として非常に高い市場シェアを獲得しており,独占化のプロセスを示している可能性が非常に高い。
 ムント長官は次のように述べている。「支配的な企業であるFacebookは競争法上の特別な義務を負っている。同社は,自社のビジネスモデルを運営するにあたっては,Facebookユーザーが実質的には他のソーシャルネットワークに切り替えることができないことを考慮しなければならない。Facebookの卓越した市場力(superior market power)を考慮すれば,同社の利用規約の同意欄への「義務的」なチェックを根拠として,前記のような集中的なデータ処理を行うことは適切ではない。ユーザーは,データの包括的な統合を受け入れるか,同社のソーシャルネットワークの利用を控えるかの選択肢しか有していないのである。このような困難な状況におけるユーザーの選択を,自発的な同意と称することはできない。」

3.ユーザーアカウント内のデータの収集,利用及び組み合わせの範囲に基づく市場力の濫用
 Facebookが,自発的な同意を得ることなく,ユーザーアカウント内のデータを収集し,統合し,利用する範囲は,市場支配的地位の濫用を構成する。
 今回の決定は,Facebook自身のウェブサイトを利用して生成されたデータの処理が競争法上どのように評価されるかということに関するものではない。これらのデータは特定のサービスに結び付けられるため,ユーザーは,これらデータが収集され利用されることは一定程度認識している。これは,ソーシャルネットワーク及びそのデータに基づいたビジネスモデルの重要な構成要素である。
 しかし,諸条件の中でも,ネットワークをプライベートに利用する際に,Facebookが第三者ソースからほぼ無制限の量のあらゆる種類のユーザーデータを収集することができ,それらをFacebookアカウントに結び付け,莫大なデータ処理プロセスに利用することができることが条件となっていることについては,多くのユーザーは認識していない。この第三者ソースには,InstagramやWhatsApp等のFacebookが所有するサービスだけではなく,「いいね」や「シェア」ボタンのようなインターフェースが埋め込まれた第三者ウェブサイトも含まれる。そのような目に見えるインターフェースがウェブサイトやアプリに埋め込まれている場合,これらウェブサイトが読み込まれたりこれらアプリがインストールされた時点で,既にFacebookへのデータフローが始まっている。例えば,「いいね」ボタンをスクロールしたり,クリックしたりする必要さえないのである。「いいね」ボタンが埋め込まれたウェブサイトを読み込むと,データフローが始まる。そのようなインターフェースは,ドイツのウェブサイトや,アプリケーション上に何百万と存在している。
 たとえウェブサイトのFacebookのマークが見えなくとも,多くのウェブサイトからFacebookに対してユーザーデータが送信される。これは,例えば,ウェブサイト運営者がユーザー分析を実行するために,バックグラウンドで「Facebook Analytics」サービスを利用している場合に発生する。
 ムント長官は次のように述べている。「自社のウェブサイト,自社所有のサービス及び第三者のサイトの分析から得たデータを統合することで,FacebookはFacebookユーザーの非常に詳細なプロファイルを取得し,彼らがオンラインで何をしているのかを知ることができる。」

4.搾取的濫用を審査するための基準としての欧州のデータ保護規則
 Facebookの利用規約及び同社のユーザーデータの収集の方法及び範囲は欧州のデータ保護規則に違反し,ユーザーに損害を与えている。ドイツ連邦カルテル庁は,関連するデータ保護に係る問題を明らかにするために,主要なデータ保護当局と密接に協力した。
 当局の評価によると,Facebookの行為は,とりわけ,いわゆる搾取的濫用(exploitative abuse)に当たる。支配的な企業は,市場の反対側(本件ではFacebookを利用している消費者)に損害を与える形での搾取的な慣行を用いてはならない。これは,当該搾取的慣行によって,埋蔵された宝物ともいえるような大量のデータを集めることができない競合他社を妨げる場合,とりわけ当てはまる。競争法に基づくこのようなアプローチは新しいものではなく,超価格設定(excessive price)のみならず, 不適切な契約条件も搾取的濫用を構成する, という連邦裁判所の判例に対応するものである(いわゆる搾取的な取引条件)。
 ムント長官は次のように述べている。「今日においてデータは競争における決定的な要素である。Facebookの事例においては,データは,同社が支配的地位を確立するための不可欠な要素となっている。無料でユーザーに提供されるサービスがある一方で,広告スペースの魅力及び価値はユーザーデータの量及び詳細さに応じて高まるものである。したがって,データ収集及びデータ利用の分野において,支配的企業であるFacebookは,ドイツ及び欧州で適用される規則と法律を遵守する必要がある。」
 連邦カルテル庁の決定はまだ最終的に確定したものではない。本決定についてFacebookは,1か月以内にデュッセルドルフ高等裁判所に上訴することができる。

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