その他

オーストラリア

オーストラリア競争・消費者委員会は,デジタル広告サービス調査の中間報告書を発表

2021年1月28日 オーストラリア競争・消費者委員会 公表
原文

【概要】
 オーストラリア競争・消費者委員会(以下「ACCC」という。)は,デジタル広告サービス調査の中間報告書を発表し,デジタル広告技術(以下「アドテク」という。)における競争環境及び透明性の欠如がパブリッシャー(媒体社),広告主及び消費者に影響しており,それらの課題に対処する必要性があることを明らかにした。
 本中間報告書では,オーストラリア国内においてディスプレイ広告を提供するアドテクサプライチェーンを調査した。アドテクサプライチェーンは,ニュース,各種エンターテインメント,その他ウェブサイト及びアプリ上で年間34億ドルにも及ぶディスプレイ広告を一瞬で提供する事業を行っている。デジタル広告の本質は,消費者の関心及びデータをいかに収益化するかという点にある。
 オーストラリア国内には多くのアドテク事業者が存在するものの,Googleは,突出した最大の事業者であり,また,広告インベントリ(訳注:広告枠の広告表示回数情報)も販売する事業者としては,アドテクサプライチェーンで唯一の事業者である。ACCCは,オーストラリア国内で提供される各サービスの収益又は広告分野に占めるGoogleのシェアが,サービスに応じて,下限が50%から60%,上限が90%から100%の範囲であると推定している。
 Googleは,ある程度長期間にわたって一連の買収を行い,アドテクサプライチェーンでの確固たる地位を確立してきた。さらに,Google検索,Google Chrome,Android等の消費者向けの多様なサービスや,サードパーティウェブサイト及びアプリのトラッカー(訳注:どのようなウェブサイトを閲覧したかのアクセス解析に用いられるプログラムの総称)の幅広いネットワークを通じて,消費者のデータへアクセスすることにより,Googleの地位は一層強化されている。
 ACCCのシムズ委員長は,以下のように述べた。
 「アドテクサプライチェーン全体に占めるGoogleの重要な地位に鑑みれば,重要なデータを有する優位性と相まって,Googleが競争に影響を及ぼすような,自社のアドテクサービスを優遇する能力及びそのインセンティブを有する可能性が高い。本中間報告書の調査中には,Google以外のアドテク事業者からGoogleの多岐にわたる役割から派生する潜在的な利益相反への懸念が挙げられていた。その一例としては,Googleがアドテクサプライチェーンの中で,同一の広告販売のためにパブリッシャー(媒体社)及び広告主を代理する立場でありながら,自社の広告インベントリも販売するケースが非常に多いことが挙げられた。」
 Googleが所有するYouTubeの広告インベントリは,Google独自のプラットフォームを通じてのみ販売されている。YouTube広告が広告戦略に不可欠であると考える広告主は,Googleのアドテクサービスを使用してこれらの広告を購入する必要がある。
 また,Googleは,パブリッシャー(媒体社)が運営し,広告主に対してリアルタイムで広告枠を提供するヘッダー入札に参加せず,独自の公開入札オークション方式を開発した。この方式では,Googleのアドテクサービスを使用して広告主からリアルタイムの入札を希望するパブリッシャー(媒体社)は,Googleが保有するパブリッシャー(媒体社)のアドサーバーを使用する必要がある。
 Googleの競合他社からは,Googleが多様な種類のデータへのアクセスの制限を行うことによる競争への効果についても懸念が寄せられている。例えば,DoubleClick IDへのアクセスを制限する動きや,Chromeにおいてサードパーティ・クッキー(注:ユーザーがアクセスしたウェブサイトと異なるドメインが発行したクッキー(Cookie)のこと)を制限する動き等である。
 本中間報告書は,本件調査及び隣接市場の発展にも鑑み,アドテク業界の課題に対処するための一連の提案を示している。
 ACCCは以下を含む提案について意見募集を行う。そして,ACCCは,競争の促進,本件市場での透明性の確保及び消費者のプライバシー保護の観点から寄せられた意見について検討する。

  • 利益相反行為を管理し,アドテクサービスにおける自社サービスの優遇を防ぐためのルール策定に関する点について。ACCCは,英国競争市場庁及び欧州委員会の双方が関連する提案を最近発表したことに言及しつつ,これらの提案のうち,オーストラリア国内においても適切な要素があるかについて意見を募集する。
  • アドテク業界内で,サービスの価格及び品質を評価するためのアドテク事業者の能力を強化する提案について。
  • データの移転可能性(消費者のデータを要求に応じて移動又は共有できるようにすること)及び相互運用性(消費者からの要求がなくても事業者間でデータを共有できるようにすること)を強化することにより,業界での競争を促進する点について。例えば,提案の1つとして,データ保有で大きな優位性を持つ事業者に対して,競合他社間でデータを移転する簡易な方法を消費者に提供することが挙げられる。
  • 競合他社がアドテクサービスの供給市場に参入し,競争することを容易にするため,大規模な既存事業者が保有するデータセットの分割を義務付けることについて。

 

ドイツ

改正ドイツ競争制限禁止法(GWBデジタル化法)の施行

2021年1月19日 ドイツ連邦カルテル庁 公表
原文

【概要】
 ドイツ競争制限禁止法の第10次改正となる「集中的・積極的デジタル法4.0及び他の競争条項改正法(GWBデジタル化法)」(以下「改正GWB法」という。)が,2021年1月19日に施行された。
 
デジタル経済における競争保護に関する重要な変更点
 今般の改正GWB法の重要な変更点は,市場支配的地位の濫用規制の近代化である。ドイツ連邦カルテル庁Mundt長官は,以下のように述べる。「競争当局による市場支配的地位の濫用に対する伝統的な規制方法は,支配的地位にある事業者の反競争的慣行を事後的に排除する又は処罰することを目的としてきた。この規制方法によって,当庁は近年AmazonやFacebookに対する措置を採り,大きな成功を収めてきた。しかし,市場が劇的に変化するデジタル経済及び大規模デジタルプラットフォームの急速な成長を踏まえ,より迅速かつ効果的な行動を採ることが必要となっている。今般の改正GWB法により,大きな一歩を踏み出すことができる。それにより,今後,大規模デジタルプラットフォーム事業者による特定の行為を早い段階で禁止し,市場支配力の抑制に大きく寄与する予防措置を講じることが可能となる。」
 第19a条の新設は,最も重要な改正点である。これにより,特定の大規模デジタルプラットフォーム事業者によって競争が阻害されている場合に,ドイツ連邦カルテル庁が早い段階で介入することが可能となる。例えば,ドイツ連邦カルテル庁は,予防措置として,自社の戦略的地位及び資源獲得のため,市場間競争に重要な影響(paramount significance)を与える事業者による特定の行為を禁止することができる。当該行為には,自社サービスの優遇及び特定のデータへのアクセスを拒否し,第三者の市場参入を妨げる行為等が含まれる。
 また,法的手続を短縮することで,上記第19a条の実効性を確保する。すなわち,ドイツ連邦カルテル庁が第19a条に基づき決定を発出した場合,原告が当該決定に対し取消訴訟を提起する第一審の管轄は,ドイツ連邦最高裁判所となる。ドイツ連邦カルテル庁が発出する他の改正GWB法違反行為の決定に対する取消訴訟の第一審であるデュッセルドルフ高等裁判所への提訴を経ないことにより,訴訟手続に要する時間を大幅に短縮する(訳注:改正GWB法第75条3項)。
 さらに,伝統的な市場支配的地位の濫用規制がより詳細に規定された。具体的には,インターネット特有の基準を追加したほか,市場支配的地位の分析に当たり,依存関係をもたらす可能性のある要素,すなわち競争に関連するデータへのアクセスの有無,プラットフォームが有する仲介力の程度等についても,考慮に入れることとなった。
 加えて,市場支配力が相対的に優越する事業者に対する規制は,保護対象を中小事業者に限定されないこととなった。また,特定の前提条件の下で,ドイツ連邦カルテル庁は,大規模デジタルプラットフォーム事業者に対して,従属的な立場にある事業者にデータへのアクセスを保証させる等,従属的な立場にある事業者に有利な命令を出すことができる。さらに,改正GWB法は,ドイツ連邦カルテル庁に対し,プラットフォーム事業者が市場を歪ませる行為(マーケットティッピング)を行うおそれがある場合にも特別な介入権限を与えている。
 
企業結合規制
 改正GWB法は,企業結合規制の各基準のうち,売上高の届出基準を引き上げ,事業者の実務的・手続的負担を軽減させる。ドイツ国内では,原則として,当事会社らの世界又は国内の売上高が届出基準に達した場合にのみ,ドイツ連邦カルテル庁に対して企業結合計画を届け出る必要があるところ,改正GWB法においては,企業結合が計画段階にある場合には,当事会社のうちの1社がドイツ国内での年間売上高5000万ユーロ(改正前は2500万ユーロ)を,もう1社が年間売上高1750万ユーロ(改正前は500万ユーロ)を超える場合に限り,届出の必要があるとされた。
 Mundt長官は「現在の企業結合審査件数は年間1,200件程度であるが,競争に関わる要素が少ない案件に対しても労力が注がれていたところ,今般の改正GWB法により売上高の届出基準を引き上げたことにより,当該労力を削減できる。また,改正後の届出基準は,従来捕捉できなかった重要案件を審査することを可能とし,より重大な懸念を引き起こし得る案件に対して資源を集中させることを可能とする。」と述べる。
 さらに,ドイツ連邦カルテル庁は,既に市場調査を行った特定の事業分野における事業者に対し,売上高の届出基準にかかわらず,特定の条件によって,企業結合計画の届出を義務付けることが可能となる。
 
ECN+指令の実施
 今般の改正GWB法により,ECN+指令(訳注:EU加盟国の競争当局間の国際協力を促進し,競争法の施行に適用されるそれぞれの異なる基準を調和させることを目的とした取決め)の実施を可能とし,カルテル事案の執行における実効性を確保する。ドイツ連邦カルテル庁が,欧州全体で定めた当該取決めにのっとり,カルテルの被疑事業者及びその従業員に対して,違反行為の立証に向けて,一定程度の協力を求めることが可能となる。
 また,今般の改正GWB法により,行政機関が課す制裁金に関する控訴手続におけるドイツ連邦カルテル庁の地位が強化され,同庁の制裁金賦課決定に対する異議申立ての控訴手続においても,同庁が検察庁と同等の権限で司法手続を担うこととなる。
 
行政手続に関する変更
 ドイツ連邦カルテル庁による暫定措置の発出要件が引き下げられ,迅速かつ効率的な行動を採る権限が与えられた。また,カルテル事案の行政手続においても,口頭審理が可能となるほか,当事者及び第三者による事件記録簿へのアクセスの許可に関して,より詳細に規定することにより,法的明確性を高めている。さらに,従前からの慣行でドイツ連邦カルテル庁が行っていた事業者に対する非公式の助言についても,改正GWB法の中で具体的に規定されている。

 

英国

英国競争・市場庁,Googleが計画しているプライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)について,市場支配的地位の濫用の観点から審査を開始

2021年1月8日 英国競争・市場庁 公表
原文

【概要】
 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は,Googleが計画しているプライバシーサンドボックス(訳注:プライバシー問題を解消するための一連の機能・技術の開発を行うプロジェクト)に対する調査において,Googleの施策が,競合他社の広告費負担と引き換えに,自らのエコシステムを更に強化するものであるかを評価する。また,CMAが,プライバシーサンドボックスが競争を歪めるものでないかを検証することは,反競争的行為の疑いでGoogleに対する審査を求める声に応えることになる。
 現在,サードパーティークッキーは,オンラインプラットフォームやデジタル広告で根幹的な役割を担っている。サードパーティークッキーは,企業が効果的にターゲット広告を掲載し,消費者に無料のコンテンツを提供するのに役立つ。その反面,消費者の行動をウェブサイト全体で追跡できるようになるため,プライバシーの観点から,合法性や利用方法に関する懸念が生じている。
 プライバシーサンドボックスは,ウェブブラウザーであるGoogle Chrome上でサードパーティークッキーを無効にし,ターゲット広告向けの新しいツールに置き換え,消費者のプライバシーを手厚く保護するとされている。プライバシーサンドボックスに関する計画は既に進行しているが,Googleからの最終的な提案は,まだ決定ないし実行されていない。CMAは,オンラインプラットフォーム及びデジタル広告に関する最近の市場調査の最終報告書(訳注:CMAが,2020年7月1日に公表したもの)において,プライバシーサンドボックスが広告主の収益力やデジタル広告市場の競争を弱体化させ,Googleの市場支配力を定着させる可能性があるといった,プライバシーサンドボックスの潜在的な影響に関する多くの懸念を強調した。
 CMAは,情報コミッショナー事務局(以下「ICO」という。)との間で,プライバシーサンドボックスを巡り,デジタル規制協力フォーラムを通じて,競争を歪めることなく,プライバシーに係る懸念に対処するための最適な解決策について議論・検討してきた。また,CMAは,Googleと協力しながら,プライバシーサンドボックスに対する理解を深めている。今回のCMAによる調査は,これらの検討を継続するための枠組みや解決策に関する法的根拠を与えるものである。
 「Marketers for an Open Web」(訳注:新聞社やIT企業等から構成された団体)から, Googleがプライバシーサンドボックスを通じて支配的地位を濫用している旨の申立てを受けて,CMAは,ICO及びGoogleと協力して,プライバシーサンドボックスの重要性及び潜在的な影響を考慮しつつ,その妥当性について既に検討している。そして,申立てを通じて提起された懸念を考慮し,正式審査に移行することとなった。
 CMAは,プライバシーサンドボックスについて,あらゆる可能性を検討しており,現時点で競争法違反かどうかについての結論に達していない。プライバシーサンドボックスが進められる際にプライバシー及び競争の両方の懸念に対処できるように,CMAは,引き続きGoogle及び他の市場参加者と協力していく。


 

英国競争・市場庁は,商用車及びトレーラー部品供給事業者の企業結合に関して事業売却を求める

2021年1月12日 英国競争・市場庁 公表
原文

【概要】
 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は,商用車及びトレーラーの部品市場における競争を保護するため,TVS Europe Distributionに対して,3G Truck&Trailer Parts Ltd(以下「3G」という。)の売却を求める旨の決定を行った。
 第二次審査の結果,CMAは,Universal Components UK Limited(以下「Universal Components」という。)を保有するTVS Europe Distribution Limitedに対し,同社が既に2020年2月に買収を完了していた,Universal Componentsと競争関係にある3Gを売却する必要があると結論付けた。
 CMAが公表した最終報告書によれば,Universal Components及び3G(以下「当事会社2社」という。)は,英国内の各地域の自動車ディーラー向け商用車及びトレーラー用補修部品を供給する市場において緊密な競争関係にあることが明らかとなった。当該自動車ディーラーは,英国内の独立系の自動車整備業者及び修理業者に対して,当該補修部品を販売している。
 本件企業結合の完了によって,幅広い部品を単一の供給事業者から購入しようとする事業者にとって,選択肢が限られているおそれがある。そして,地域の自動車販売業者及び修理業者は,納期の遅延,在庫の種類,品質の低下等,コスト上昇及びサービスの低下に直面する可能性がある。
 CMAは,上記決定を公表するに当たり,当事会社の内部文書,顧客や競合他社からの意見募集等を通じて,当事会社2社がどれほど緊密な競合関係にあるかを示す重要な証拠を収集・分析した。
 当事会社2社の内部文書によれば,当事会社らは事業戦略を決定し,価格を設定する際に,相互に注意深く監視し合っていた。3Gを買収するというUniversal Componentsの決定は,主要な競合他社1社を市場から排除したいという意識が部分的な動機付けとなったことを示す証拠も存在した。
 CMAは,本件企業結合による競争減少に対応する唯一の効果的な方法は,TVS Europe Distribution Limitedに対し,CMAが承認する購入者に3Gを売却するよう求めることであると結論付けた。

 

英国競争・市場庁は,アルゴリズムが悪用された場合のデジタル市場における競争減少及び消費者に対する弊害の程度を示した報告書を公表し,併せて,情報提供を呼びかけ

2021年1月19日 英国競争・市場庁 公表
原文 原文<報告書> 原文<情報募集ページ>

【概要】
 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は,意図の有無に関わらずアルゴリズムが悪用されることで生じる競争及び消費者に対する潜在的な弊害についての報告書を公表し,現在,学識者や産業界の専門家からの情報収集を行っている。また,CMAは将来,調査対象となり得る特定の事業者の特有の論点に関する情報を求めている。本件の調査及び収集した情報は,CMAのアルゴリズム分析プログラム,デジタル市場ユニット(以下「DMU」という。)の活動及びDMUが管轄することになる新たな規制制度を含む,デジタル市場に関するCMAの今後の活動に資することとなる。
 人々は,ニュース,SNS,出会い,食品宅配の注文,旅行の手配など消費生活の多くをオンラインで行っている。このようなオンラインでの生活及びそれを下支えする市場の多くは,多くの場合,人工知能(AI)の形をとるアルゴリズム抜きでは存在し得ず,アルゴリズムにより,効率的かつ効果的に最大限の利益が得られる一方で,アルゴリズムは様々な方法で消費者に負の影響を及ぼすこともあり得る。
 アルゴリズムは,探知が困難な方法で個人への最適化に用いられ,選択肢を減少させ又は消費者の認識を人為的に変化させるために操作された検索結果に誘導することがある。一例として,商品が品薄になっていると示唆するメッセージによって,消費者を誤認させることがある。
 また,事業者は,ウェブサイト上の商品のランキング算出方法を変えるためにアルゴリズムを利用し,その結果,自社商品を優遇し,競争業者を排除することができる。さらに,より複雑なアルゴリズムによって,企業は直接情報を共有せずとも企業間での共謀を助長する。そして,このようなことにより,商品・サービスの高価格のまま維持されることとなる。
 オンライン上で事業者が活用するアルゴリズムの大半は,現時点でほとんど又は全く規制を受けておらず,本報告書の結論として,CMAを含む規制当局には,一層の監視及び執行が求められている。CMAは,従前から,例えば,オンライン旅行代理店による価格設定に係るモニタリング等の調査のように,既にアルゴリズムが競争及び消費者に及ぼす影響について検討している。
 
 報告書のエグゼクティブサマリーは,大要以下のとおり。
 本報告書の公表及びこれに関連する情報収集は,アルゴリズムの分析に関するCMAの新たな取組が立ち上げられたことを示している。その狙いは,CMAが知見を得て,競争及び消費者に対する弊害をより的確に認識し,こうした弊害により適切に対処するための一助とすることにある。本報告書では,アルゴリズムの利用による競争及び消費者に対する潜在的な弊害について検討し,CMA又は他の競争・消費者保護当局による最適な取組に焦点を当てている。
 CMAは,消費者への直接の弊害は,多くの場合,アルゴリズムにより個々の消費者ごとに最適な情報を収集・分析する「個人の最適化」から生じているものであると考える。個人の最適化は,消費者自身により個人情報が提供されたものか否かを探知することが困難であることから危険であるほか,脆弱な消費者をターゲットにしており,不公平な効果をもたらすおそれがあることから,弊害をもたらし得る。こうした弊害は,消費者に認識されないまま,消費者の選択を操作することで生じることが多い。
 次に,本報告書では,アルゴリズムを利用すると,どのようにして競争事業者を排除し,その結果,競争を減じることになるのかについて説明している(例:自社商品の優遇)。CMAは,アルゴリズムによる共謀に係る研究の最近の進展を概説しており,現状より複雑な価格設定のアルゴリズムが広まった場合には,アルゴリズムの共謀によって重大なリスクが徐々に顕在化するだろうと予測している。
 さらに,CMAは,アルゴリズムシステムの分析に使われる技術をまとめている。潜在的に問題のあるシステムは,根本的なアルゴリズム及びデータにアクセスせずとも特定され得る。しかし,アルゴリズムシステムがどのように機能するか,かつ,消費者保護法及び競争法に違反しているかどうかを全て把握するためには,規制当局にアルゴリズムシステムを監査するための適切な手法の整備が求められる。
 最後に,CMAは,規制当局の役割を検討している。規制当局は,倫理的なアプローチ,ガイドライン,ツール及び基本原則の発展を支援すること等により,基準を策定し,そして,アルゴリズムシステムのより適切な説明責任の促進を支援し得る。また,規制当局は,CMAのDMUのような規制当局のテクノロジー部門による臨機応変な事前規制の一環として,阻害性を認識し解消するため,情報収集権限を行使し得る。
 デジタル市場は急速に進化することから,今後も,研究により,当該分野の弊害を評価し,かつ定量化することが求められている。一部の弊害については,特に特定が困難となるおそれがある。例えば,一部の消費者に対し高級商品の提示するといった,より小さい非価格的「ナッジ」の複合的な効果を測ることは困難である。そのような行為は,提示価格をを各個人に応じて変動させるのと同じ効果があり,探知することが困難となるおそれがある。アルゴリズム共謀のような比較的丹念に調査された分野であっても,現実世界への影響を把握するための実証研究が不足しているのが実情である。
 
 CMAは,本報告書において説明した競争及び消費者に対する弊害を調査,緩和及び解消するための手法を開発するに当たり,次の事項について意見を求めている。

  1. 本報告書において明らかにした潜在的な弊害は,CMAのアルゴリズムプログラムを焦点としていることは適切か。他に注意を払うに値するがまだ言及していないものはあるか。
  2. CMAが各弊害に関して報告書案に記載した点に同意するか。CMAが言及した例のほかに,弊害を立証する他の事例。
  3. 現在特定されている弊害が生じ得る程度及び影響を及ぼす程度。そして,今後数年のうちにそれらがどのように進展する可能性があるか。
  4. 弊害が存在するおそれがあり,かつ,消費者法及び競争法に潜在的に違反しているかどうかを検討するために更なる調査をすべき特定の事例の有無。
  5. CMAが特定又は説明している技術以上に進展していると考えられる技術の事例の有無。
  6. 競争当局又は消費者保護当局がアルゴリズムに関して調査すべき事件であるにもかかわらず,本報告書に含まれていないものの有無。
  7. 本報告書において明らかにされた,弊害に対処する取組に対する規制当局の役割が効率的かつ適切か。
  8. CMAが考慮すべき他の考え方及び方法。
 

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