その他

米国,EU,カナダ及び英国

米国連邦取引委員会ほか各国競争当局は,製薬業界における企業結合の分析に係る多国間ワーキンググループの設立を発表

2021年3月16日 米国連邦取引委員会,カナダ競争局,欧州委員会及び英国競争・市場庁 公表
原文(米国連邦取引委員会) 原文(カナダ競争局) 原文(欧州委員会) 原文(英国競争・市場庁) 

【概要】
 米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)の主導の下,カナダ競争局,欧州委員会競争総局,英国競争・市場庁(以下「CMA」という。),米国司法省及び3つの州の司法長官が協力し,製薬業界における企業結合の影響の分析方法をアップデートするための多国間ワーキンググループを設立した。
 その概要は以下のとおり。
 
 本共同プロジェクト(以下「本プロジェクト」という。)は,緊密な協力関係にある各国競争当局及び関連する経験を有する米国国内の他の当局の専門知識を活用して,この重要な市場において,最も効果的な執行を確保することを目指すものである。本プロジェクトの目標は,製薬業界における企業結合分析を検証し,改善するための具体的で実行可能な手順を示すことである。
 本プロジェクトは,各競争当局が,製薬業界における企業結合により引き起こされる,様々な競争上の懸念を詳細に分析し,それに対処していくための新しいアプローチを確保するものである。
 本プロジェクトにおいては,例えば,以下の事項について検討がなされる。
・ 現在の競争制限発生のメカニズム(theories of harm)をどのように拡大,改善していくことができるか。
・ 製薬業界における企業結合がイノベーションに対して及ぼす影響の範囲。
・ 企業結合審査において,価格カルテル,リバース・ペイメント,他の規制の濫用などの製薬業界特有の行為をどのように考慮する必要があるか。
・ 新たな競争制限発生のメカニズムに基づいた場合,企業結合に異議を申し立てるためには,どのような証拠が必要か。
・ 新たな競争制限発生のメカニズムが適用される事案について,どのような問題解消措置が有効か。
・ 問題解消措置において,売却資産を効果的に行うのに適当な買手企業を選定するための,売却資産の範囲及び買手企業の特徴について,競争当局にはどのような知見があるか。
 
 各競争当局のコメントは以下のとおり。
 FTCのRebecca Kelly Slaughter委員長代行は,「近年,医薬品の価格が高騰し,製薬業界における反競争的行為に対する懸念が続く中,製薬会社間の企業結合件数が多いことを踏まえ,製薬業界における企業結合審査のアプローチを再考することが不可欠である。我々は,国内外の執行当局と協力し,製薬業界の反競争的な企業結合に対処するために積極的なアプローチを採るつもりである。」と述べた。
 カナダ競争局のMatthew Boswell長官は,「製薬業界はカナダの保健分野の重要な一部であり,我々は他国の競争当局と緊密に協力して,企業結合及びあらゆる種類の潜在的な反競争的行為に関する新たな課題を引き続き把握していく。」と述べた。
 欧州委員会Margrethe Vestager上級副委員長(競争政策担当)は,「市民のニーズを満たすには,製薬業界が革新的で機能性の高い環境にあることが不可欠である。これまで,欧州委員会は,製薬業界での効果的な競争を確保するために,国際的な製薬会社の企業結合を精査するための新たな取組を採用してきた。我々は,必要な医薬品の公正な価格に貢献し,新たな医薬品の開発を保護してきた。本プロジェクトの取組は,我々にとって最も緊密な世界各国の競争当局の一部が結集して,近年学んだ教訓を検証し,市民の利益のために活発な競争を促進する新たな方法を模索していくものであり,本プロジェクトの取組を心から歓迎する。」と述べた。
 CMAのAndrea Coscelli主席常任委員は,「大手製薬会社は社会で重要な役割を果たしており,その事実は新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延と戦うためのワクチンの急速な展開により,我々一人一人が身をもって知ることとなった。しかし,大手製薬会社が合併したり,革新的競合他社の買収を決定した場合,競争当局が協力して,反競争的な企業結合から消費者を保護することが不可欠である。そのため,海外の競争当局と協力し,製薬会社の企業結合審査へのアプローチを検討できることを非常に嬉しく思う。英国の消費者を保護するために適切なアプローチを採ることが重要である。」と述べた。

 

オーストラリア

オーストラリア競争・消費者委員会は,VISAとの間で,デビットカード決済に関する競争上の懸念に対処する確約案に合意

2021年3月10日 オーストラリア競争・消費者委員会 公表
原文

【概要】
  オーストラリア競争・消費者委員会(以下「ACCC」という。)は,VISAが大手加盟店との取引を通じて,デビットカード決済市場における競争を制限しているおそれがあるという懸念に関して,VISA AP(オーストラリア)及びVisa Worldwide(以下,併せて「VISA」という。)からの法的拘束力のある確約案を受け入れた。
 「ACCCは,VISAがクレジットカード決済市場におけるVISAの市場支配力を利用し,eftpos(訳注:デビットカード決済に関してVISAのネットワークと競合するネットワーク)ではなく,VISAのデュアルネットワークを介したデビットカード決済を選択させることを目的として,大手加盟店に対して,クレジットカード決済を処理するための決済手数料の値下げ(以下「クレジットカード決済手数料の戦略的値下げ」という。)により,デビットカード決済市場の競争を制限しているおそれがあると懸念していた。」とACCCのRod Sims委員長は述べた。
 2017年以降,(訳注:オーストラリアの中央銀行であるオーストラリア準備銀行の取組により)VISAブランドのデュアルネットワークを介したデビットカードを使用して行われた非接触型決済について,加盟店はVISA又はeftposのどちらで処理するかを選択できるようになった。
 確約案の中で,VISAは,ACCCの懸念については認めたものの,一切の競争法違反の事実を認めなかった。
 「本件確約により,VISAは,加盟店がVISAネットワークを介してデビットカード決済を処理することを条件として,加盟店に対してクレジットカード決済手数料の戦略的値下げを提供することは不可能となった。」とSims委員長は述べた。
 また,本件確約により,加盟店は,VISAブランドのデュアルネットワークデビットカードの決済を処理するデビットカードネットワークを決定することができるようになり,その結果としてVISAがVISAクレジットカードの決済処理コストを増加させることはなくなった。
  「オーストラリアの消費者は商品やサービスを購入する際に,日常的にデビットカードを使用しており,新型コロナウイルスの感染拡大によって,現金支払からカード決済への移行が加速している。この状況を踏まえると,カード決済市場での競争は,加盟店と消費者の両方にとって非常に重要である。」とSims委員長は述べた。
 
背景:
 VISAブランドのデビットカード及びクレジットカードは,オーストラリア国内の大多数の加盟店で利用されている。ほとんどのVISAブランドのデビットカードは, VISAデビットカードネットワーク又はオーストラリア国内のデビットカードネットワークであるeftposデビットカードネットワークのいずれかを使用した決済が可能なデュアルネットワークデビットカードである。
 消費者がデビットカード又はクレジットカードを使用して商品又はサービスの支払を行う場合,加盟店である販売者はカード決済を受け付けた結果として,決済手数料を負担する。上記デュアルネットワークを介したデビットカード決済の場合,加盟店が支払う手数料は,決済処理に使用されるデビットカードネットワークによって異なる。
 2017年以来,オーストラリア準備銀行(訳注:オーストラリア中央銀行)は,加盟店が非接触型のデュアルネットワークを介したデビットカード決済を処理するデビットカードネットワークを選択できるよう支援してきた。同行が推進するこの取組は,「加盟店による選択方式」又は「最小コスト方式」と呼ばれ,デビットカード市場での競争を改善し,デビットカード支払の処理に関連するコストを削減することを目的としている。
 また,同行は,小売支払規制の見直しを実施しており,デビットカード市場における競争と効率性及びデュアルネットワークデビットカード支払の処理と最小コスト方式に関する規制の在り方を検討している。

 

マレーシア

マレーシア競争委員会は,一元的な電子通関システム向けオンラインサービス業者のDagang Net Technologyに対して総額1030万リンギットの制裁金を賦課

2021年2月26日 マレーシア競争委員会 公表
原文 原文(決定文)

【概要】
 マレーシア競争委員会(以下「MyCC」という。)は,Dagang Net Technologies(以下「Dagang Net」という。)に対して,排他的取引を行うことにより支配的地位を濫用したとして,総額1030万リンギットの制裁金を賦課した。Dagang Netは,マレーシア政府の一元的な電子通関システム(National Single Window)の下で,(訳注:従来の通関システムである)Sistem Maklumat Kastamに則したオンラインでの貿易円滑化サービスの唯一のサービス提供事業者である。一元的な電子通関システムとは,貿易事業者とマレーシア規制当局の間で,一つの窓口を通じて,通関関連の文書や取引を電子上でやり取りすることができるエコシステムを指す。
 綿密な調査と適正な手続を経て,MyCCは,Dagang Netが2015年10月から2017年11月まで,一元的な電子通関システムの下で,他のソフトウェアプロバイダーに対して排他条項を課すことで排他的取引を行い,2010年競争法第10条1項に違反したとの決定を行った。Dagang Netの反競争的行為は,今後導入が予定されているuCustomsシステム(訳注:Dagang Net以外のサービス提供事業者も参入予定の新しい通関システム)において,ソフトウェア提供事業者が,エンドユーザー(本件では,製造業者,輸入業者,輸出業者,貨物輸送業者及び海運業者)向けの同様のサービスを提供することを妨げる(訳注:ソフトウェア提供事業者に対し,他のサービス提供事業者向けのソフトウェア販売への関与を禁止している)ことにより,市場での競争を阻害している。MyCCは,そのような排他条項を課すことは,関連市場におけるDagang Netの支配的地位の濫用に該当し,これによりDagang Netの競争事業者がuCustoms市場に参入する際に競争上不利な立場に置かれると結論付けた。
 MyCCのDato' Seri Mohd Hishamudin Yunus委員長は,「(訳注:一元的な電子通関システムでの唯一のサービス提供事業者として,特定の事業者に)特権を付与することはマレーシア政府の権限の範囲内である。このような行為は,直接的又は間接的に独占を生じさせるおそれがあるが,そうであるからといって,いかなる濫用的な独占行為も許容されるものではない。」とし,マレーシア経済を妨害する独占企業に対しては,MyCCが厳しい措置を採ると警告した。
 同委員長はまた「MyCCの決定は,競争過程を保護し,それによってグローバルな商取引における事業者の取引コストを下げるというMyCCの目的に沿ったものであり,競争を保護することで,消費者と事業者は,効率性の改善,イノベーション及び起業家精神の恩恵を受けることとなる。」と述べた。
 MyCCは,現在の経済状況に対する影響及び制裁金の減軽又は加重要因を考慮し,また,Dagang Netの口頭及び書面による陳述内容を踏まえ,Dagang Netに対して1030万2475.98リンギットの制裁金を賦課した。同決定において,MyCCは,Dagang Netに対して,オンラインでの貿易円滑化サービスの提供市場における競争を阻害するおそれのある排他的取引を取り止め,今後行わないよう命じた。さらにMyCCは,同社の幹部に対して自己負担で競争法遵守のための研修を受けるよう命じた。

 

英国

英国競争・市場庁は,AppleによるApple Store経由に限りiPhone及びiPadにアプリを頒布できるとするアプリ開発者向けの契約条件について,Apple製携帯端末向けアプリ供給市場における支配的地位の濫用に当たる疑いがあるとして調査を開始

2021年3月4日 英国競争・市場庁 公表
原文 

【概要】
 Apple(Apple (UK),Apple Europe及びApple(米国親会社)を含む企業グループ全体を指す。)は,スマートフォンやタブレットなどの電子機器の設計,製造及び販売に加え,App Storeの運営も行っている。App Storeは,Apple以外の開発者がAppleのiPhone及びiPad上でアプリケーション(以下「アプリ」という。)を頒布するための唯一の手段であり,Apple製品のユーザーがアプリにアクセスするための唯一の手段でもある。
 今回の調査開始は,競争・市場庁(以下「CMA」という。)のデジタル分野における独自の活動に加え,複数の開発者からAppleの取引条件は不公正であり,競争法に違反するおそれがあるとの申立てを受けたことを端緒としている。
 App Storeで販売される全てのアプリは,Appleの承認を受けなければならず,その承認を受けるためには,開発者が一定の契約条件に同意することが必要となっている。開発者からの申立ては,App Store経由に限りiPhoneやiPadにアプリを頒布できるとする契約条件に集中している。また,アプリ内決済,アドオン又はアップグレードを提供する一部の開発者からの申立てでは,Appleの決済システムを使用する必要があり,別の決済システムを使用できないことも目立つ。さらに,Appleは,ユーザーがアプリを購入した際に,開発者に対して,取引価格のうち,最大で30%の販売手数料を課している。
 CMAの調査では,Appleが英国のAppleデバイス上でのアプリの頒布に関して支配的地位を有しているかどうか,また,Appleが,支配的地位を有している場合,App Storeを利用する開発者に対して不公正又は反競争的な契約条件を課しているかどうかを検討し,最終的には,アプリやアドオンに対する,ユーザーの選択肢の減少や価格の上昇につながっているかどうかを調査する。
 なお,今回の調査は開始されたばかりであり,Appleの行為が競争法違反に当たるかについての決定はなされていない。
  CMAのAndrea Coscelli長官は次のように述べた。
 「何百万人もの人が,天気を調べたり,ゲームをしたり,テイクアウトを注文したりと,毎日アプリを利用している。そのため,Appleが市場での地位を利用して,不公正な条件を設定したり,競争や選択肢を制限したりすることで,ユーザーがアプリの購入や使用時に不利益を被るおそれがあるという申立てについて,慎重に調査する必要がある。CMAが継続的に行っているデジタル市場の調査では,既に一部において懸念すべき傾向が明らかになっている。大手IT企業による反競争的な行為が放置されれば,他の事業者や消費者が大きな損害を被るおそれがある。だからこそ,我々は新たなデジタル市場ユニット(Digital Markets Unit)の設立を急ぎ,根拠があればどこでも新たな調査を開始する。」
 本日の発表は,CMAが2020年7月に発表したオンライン・プラットフォームとデジタル広告に関する市場調査の報告書及び同年12月にCMAが政府に対して行ったデジタル市場のための新たな競争促進規制体制の在り方に関する提言に続くものである。CMAは,デジタル市場に関する提言について政府と協力しながら,競争を保護するために既存の権限を最大限に活用し,積極的に進めていく。
 欧州委員会は,Appleに対して,英国のEU脱退の移行期間が終了する前に開始した競争法違反被疑事件として,4件の調査を継続している。この中には,AppleのApp Storeに関する調査が3件含まれている。CMAは,デジタル市場に係る世界的な懸念に対処するために,欧州委員会や他の機関と緊密に連携していく。

 

英国競争・市場庁は,パブリックコメントを経た合併評価ガイドラインの改訂版を公表

2021年3月18日 英国競争・市場庁 公表
原文

【概要】
 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は,パブリックコメントを経て,合併審査に関するガイドラインの改訂版(以下「改訂合併評価ガイドライン」という。)を公表した。従前のCMAの合併評価ガイドラインが2010年に公表されてから,市場は急速なペースで発展・変化しており,これにより合併評価は複雑となることも多くなった。
 このような変化を踏まえ,英国の競争を促進するという職務の実行を確かなものとするためにCMAは合併評価を注意深く行う必要がある。パブリックコメントを踏まえて公表された改訂合併評価ガイドラインは,CMAが合併審査を通して引き続き人々の利益を保護すること,また,事業者等が合併の実施前に,CMAにより競争上の懸念が提起されるおそれがあるかどうかを評価することに資するものである。
 改訂合併評価ガイドラインは,デジタル分野における合併事案にどのようにアプローチすべきかについて論じた 2019年公表のFurman Report及びLear Report(訳注:CMAが委託し,専門家が取りまとめた報告書であり,デジタル市場における過去の合併事案を分析した結果として,合併審査の見直しも提言されている。)の提言を基に作成されている。改訂合併評価ガイドラインは,競争を実質的に減殺することとなるかどうかを評価する際に,将来の競争の可能性に一層の焦点を当て,イノベーションやその他の非価格効果も考慮するとしている。
 CMAのAndrea Coscelli主席常任委員は,「デジタル技術は変化しており,商品やサービスが販売され,配達・配信され,消費される方法は,今後も変化していくだろう。また,事業者の競争方法に大きな影響を受ける。CMAは,消費者の利益に資する効果的な決定を行うために,これらの課題に備える必要がある。本改訂は,効果的な法執行を通じて,競争を弱めることなく,また,将来のイノベーションを損なうことなく,人々が引き続き最良の商品やサービスにアクセスすることに資するものである。そして,本改訂は,事業者に対しても,CMAがどのように合併を評価するかについて,更なる明確性を与えるものとなるだろう。」と述べた。
 
 従前の合併評価ガイドラインからの主要な変更点は,下記のとおり。
・競争の実質的減殺が生じる場合の例の記載
・価格競争及び非価格競争の役割に関する記載の追加
・証拠の評価方法の明確化
・両面プラットフォームの評価に係る記載の詳細化
・潜在的な競争及びイノベーションの評価に係る記載の詳細化
・当事会社による市場閉鎖に係る評価における視点の追加
・対抗的購買力(countervailing buyer power)に関する項の削除
・市場画定の分析方法に関する記載の明確化

 

ページトップへ