最近の動き(2021年7月更新)

英国

英国競争・市場庁は,日本の楽器メーカーであるローランドによる和解の破棄により制裁金を増額するとした競争審判所の判決を歓迎

2021年4月19日 英国競争・市場庁 公表
原文

【概要】
 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は,競争審判所(以下「CAT」という。)が,CMAの賦課した制裁金に対するローランドの提訴を退け,制裁金を約400万ポンドから約500万ポンドに増額するとの判決を下したことを歓迎するとした。
 CMAは,2020年6月,楽器メーカーのローランドが,2011年から2018年にかけてオンライン販売において電子ドラムキットの値引き販売を制限していたとして,同社に対して,約400万ポンドの制裁金を賦課した。このような行為は「再販売価格維持行為」として知られる。
 CMAが賦課した制裁金は,ローランドが違法行為を認め,CMAの調査に協力したことを考慮し,リニエンシー及び和解のプログラムに基づいて減額されていた。その後,ローランドは,非常に異例の行動であるが,和解の条件の一部として支払うことに合意していた制裁金額について,CATに提訴した。
本日の判決において,CATは,満場一致でCMAの決定を全面的に支持し,ローランド側による,自社の行為はこのような高額の制裁金が正当化されるほど重大なものではなく,CMAはより高率の減免措置を与えるべきであったとする主張を棄却した。
 また,CATは,ローランドが制裁金の減額を受けるに当たり,CMAの決定に対して提訴しないことを条件としていたCMAとの和解について,ローランドが提訴したため,和解違反だとするCMAの主張についても支持した。このため,CATは,ローランドが和解による20%の減額の恩恵を受けることができないと判断し,この結果,ローランドの制裁金額は,約100万ポンド増額され,約500万ポンドとなった。
 CMAのMichael Grenfell執行局長は,次のように述べている。
 「これはCATによる重要な判決であり,また,企業が和解を通じて調査を終了することに合意した場合,制裁金を減額される権利を有したまま,問題となっている事案を提訴により再開することはできないという強いメッセージを発信している。本判決は,和解は最終的な結論であるべきだというCMAの見解を強固にするものである。
 また,本判決は,商品の値引きを制限することで高価格を維持しようとすることは,重大な競争法違反であり,多額の制裁金が賦課される可能性があるということを示している。」

英国競争・市場庁及び情報コミッショナー事務局は,デジタル市場における競争促進及び個人情報保護の観点から共同声明を発表

2021年5月19日 英国競争・市場庁 公表
原文

【概要】
 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)及び情報コミッショナー事務局(訳注:プライバシー保護政策を所管する独立行政機関)(以下「ICO」という。)は,デジタル市場における競争促進及び個人情報保護の関係についての共通の見解を示した共同声明(以下「本共同声明」という。)を公表した。
 本共同声明は,世界的にも初の試みであり,競争の促進と個人情報の保護との間に強い関係があることを明らかにしている。革新的な新サービスが普及し,人々がデジタルサービスに信頼を寄せることができる環境を整えるためには,一貫性と透明性のある規制が不可欠である。
 CMAとICOは,競争とデータ保護が対立関係にあるものではなく,相互に補完的な課題であることを確認し,競争とデータ保護を両立させる効果的な規制を模索するために協力していくことを約束した。
 デジタル市場において,健全で活発な競争を確保するためには,一貫性のある的確な規制を導入し,消費者が自分の個人データをより自由にコントロールできるようにすることが重要である。
 CMAとICOは,既にCMAによるGoogleのプライバシーサンドボックスに関する審査やICOによるアドテク分野でのリアルタイム入札(訳注:オンライン広告において,広告表示が発生するたびに広告枠の競争入札を行い,最も高い金額をつけた購入者の広告を配信する仕組み。)に関する調査において連携しているところであるが,今後も本共同声明を実行に移すためのプロジェクトを通して,協力していくことを約束した。
 本共同声明は,情報共有や共同プロジェクトの可能性等を通じて,CMAとICOが今後協力していくことを定めたCMAとICOとの間の協力に関する覚書(MOU)(以下「本覚書」という。)によって,実効性が一層確保される。
 また,本共同声明と本覚書は,CMA,ICO,情報通信庁(Ofcom)及び金融監督機構(FCA)により,デジタル及びオンライン市場に対する規制の整合性を高める目的で設立された「デジタル規制協力フォーラム」(Digital Regulation Cooperation Forum)の作業計画とも密接に関係している。
 国際的な取組として,CMA とICOは,世界中の関連当局と協力して,コンセンサスを形成し,世界的な規制の一貫性と当局間の協力を促進していく。
 
CMAのCoscelli主席常任委員は,次のように述べている。
 「データは,我々が楽しめる新たな音楽や映画を提案し,オンライン検索の際に関連する情報の発見に役立つなど,デジタル経済において重要な役割を果たしている。デジタル市場を十分に機能させるためには,プライバシーを保護し,競争力のあるオンラインサービスを提供し,消費者に力を与える必要がある。
 本共同声明は,強力なデータ保護がデジタル市場における活発な競争を支えることを明確に示しており,デジタル企業は,データ保護を反競争的行動の口実にしてはならない。消費者が自らのデータの用途を決定できるような革新的なデジタル市場の発展を後押しするために,我々(CMA)は,ICOと引き続き協力していきたい。」
   
ICOのDenham委員は,次のように述べている。
 「今の時代に沿ったデータ保護規制は,デジタル経済の発展に欠かせない要素である。適切な規制は,企業が責任を持って個人データを共有し,プライバシーに配慮した方法でイノベーションを引き起こすためのロードマップを提供する。また,人々が自分のデータがどのように使用されるかを管理し,理解することが必要である。これは,デジタル市場の成功を支える社会的信頼の構築に不可欠なものである。
 デジタル化が進むこの世界では,データ保護,競争及び消費者の権利に関する規制がリンクしており,我々(ICO)とCMAの共同作業は重要で時機を得たものである。我々は,人々のデータが保護され,デジタル技術の革新と競争が促進されるよう,CMAとの協力関係を継続していきたい。」 

オーストラリア

オーストラリア競争・消費者委員会は,Country Press AustraliaによるGoogle及びFacebookとの集団交渉を認可

2021年4月29日 オーストラリア競争・消費者委員会 公表
原文

【概要】
 オーストラリア競争・消費者委員会(以下「ACCC」という。)は,事業者団体のCountry Press Australia(以下「CPA」という。)の加盟事業者が,Facebook及びGoogleとの間で,両社のプラットフォーム上に表示されるニュースコンテンツに係る発行者への支払いについて,集団交渉することを認める暫定認可を与えた。
CPAは,オーストラリア国内における独立系の地方紙(regional and local newspapers)の利益を代表する事業者団体である。現在,CPAには,地域のコミュニティ向けの地元ニュースを紙面又はオンラインで提供している81の事業者及び160の地方紙が加盟している。
 本暫定認可の結果,CPAの加盟事業者は,Facebook又はGoogleとの集団交渉,相互間の議論及び当該交渉に係る情報交換をすることができる。ニュースメディア事業者がプラットフォーム事業者と集団交渉をすることを認可なしで認めるニュースメディア・デジタル・プラットフォーム義務的行動規約(以下「ニュースメディア交渉行動規約」という。)の下では,本件認可がなければ本件の集団交渉に係る調整行為は競争法に違反するおそれがあった。
 ACCCのSims委員長は,以下のとおり述べた。
 「ACCCは,CPAの加盟事業者がプラットフォーム事業者と集団交渉できるようにすることは,地方紙の発行者の交渉力を向上させ,その結果,地方紙の発行の継続を支援することになり,ひいては公共の利益に資することにつながると考えている。
 このような公共の利益の増進は,ニュースメディア交渉行動規約の目的に適うものであり,当該規約では集団交渉を容認,推奨している。
 ACCCは,Facebook及びGoogleの両社が,ニュースメディア交渉行動規約の目的に従い,オーストラリアの小規模な事業者を含めたニュース事業者との自発的な交渉に適宜臨もうとしている事実を歓迎する。Facebook及びGoogleは現在,どの規模のニュース事業者とも引き続き誠実に交渉する責務を負っている。」
 本暫定認可に従い,CPAの加盟事業者は集団交渉を開始できる一方,ACCCは最終的な認可をCPAに適用するかどうかについて,パブリックコメントを実施している。


オーストラリア競争・消費者委員会は,日本航空及びQantasとの共同事業の認可を拒否する案について,パブリックコメントを開始

2021年5月6日 オーストラリア競争・消費者委員会 公表
原文

【概要】
 オーストラリア競争・消費者委員会(以下「ACCC」という。)は,Qantas及び日本航空が,5年間の共同事業契約案の下で3年間にわたりオーストラリア-日本間のフライト調整を行うとする申請の認可を拒否することを提案している。
 ACCCのSims委員長は,「主要な競争相手である2社間の調整を図る協定は競争法に違反する。ACCCは,調整による公共の利益が,競争への弊害を上回る場合に限り,本協定を認可できる。しかし,現段階では,Qantas及び日本航空の計画がその判断基準を満たしているとは考えていない。」と述べた。
新型コロナウイルス感染症の拡大前には,Qantas及び日本航空だけが,メルボルン-東京間の直行便を運航する航空会社であり,また,シドニー-東京間の直行便を運航する航空会社3社(全日本空輸を含む。)のうちの2社であった。
 
 Sims委員長は,「航空業界及び観光業界は,新型コロナウイルス感染症の拡大により深刻な影響を受けている。航空業界の競争を保護することは,海外渡航規制が緩和された後の観光業界の確実な復興に欠かせない。本調整案は,海外渡航再開時に,メルボルン-東京便及びシドニー-東京便における活発な競争を取り戻す可能性を弱め,競争を著しく損なうおそれがある。また,本調整案を認可することで,新型コロナウイルス感染症の拡大前のような,Qantas及び日本航空間の,オーストラリア-日本間を往来する搭乗客向けの競争が排除されるおそれがある。こうした競争の排除によって,消費者が犠牲になって,航空会社が利益を上げることとなる。」と述べた。
 
 また,「ACCCは,Qantas及び日本航空の共同事業の結果,他の航空会社によるオーストラリア-日本間のフライト事業への参入が困難となる蓋然性がある。」とした。
 
 さらに,Sims委員長は,以下のとおり述べた。「ACCCは,Qantas及び日本航空が,オーストラリア-日本間のフライトを迅速に再開できるようになるなど,本調整案を通じて,短期的利益が得られる可能性を考慮したものの,現時点の我々の見解では,本調整案が競争に与える深刻な阻害が上記の利益を上回ると言える。
 ACCCは,新型コロナウイルス感染症の拡大によって旅行業界が経済的に深刻な影響を受けていることから,限定的ではあるものの,競争法の適用除外を柔軟に認めてきた。しかし,これが中長期的に競争を著しく阻害する反競争的な協定への道を開くことにならないようにしなければならない。」
 
 ACCCは,2021年5月27日までに本決定案に対する利害関係者からのパブリックコメントを実施しており,寄せられた意見を検討した後に最終決定を下す予定である。

ドイツ

ドイツ連邦カルテル庁は,大規模デジタル事業者に適用される新条項(GWB第19a条)に基づきAmazonに対する審査手続を開始

2021年5月18日 ドイツ連邦カルテル庁 公表
原文

【概要】
 ドイツ連邦カルテル庁は,大規模デジタル事業者に適用される新条項に基づいて,Amazonに対する審査手続を開始した。これは,ドイツ連邦カルテル庁が競争法の新たなツールに基づいて開始した2件目の審査手続である。同様の手続は,改正ドイツ競争制限禁止法(以下「GWB」という。)の施行直後に,Facebookに対して既に開始されている(2021年1月28日付け)。
 ドイツ連邦カルテル庁のMundt長官は,「近年,我々は,複数回にわたりAmazonの事案に対処してきており,Amazonマーケットプレイスの出店者の状況を大幅に改善させてきた。Amazonに対して現在も進行中である他の2件の審査と並行して,今回,濫用行為を規制するために拡張された権限を適用した。今回の審査では,まず,Amazonが多数の市場の競争に重大な影響を与える事業者に該当するか否かを検討している。様々な市場にまたがることを特徴とするデジタルエコシステムは,競合他社が挑戦不可能なほどの経済的地位を構成している。Amazonもオンラインマーケットプレイス等の多くのデジタルサービスを提供していることから,この考え方を当てはめることができる。仮に,ドイツ連邦カルテル庁が,Amazonは上記の地位を有すると判断した場合には,Amazonが行う可能性のある反競争的行為に対して迅速に対処し,禁止することができる。」と述べた。
 2021年1月,ドイツ競争制限禁止法の第10次改正が施行された。GWB第19a条に規定された重要な新条項により,当局は,特に大規模デジタル事業者の行為に対して,より早期に,より効果的に介入することができることとなった。ドイツ連邦カルテル庁は,多数の市場の競争に重大な影響を与える事業者が特定の反競争的行為を行うことを禁止することができる。新条項で禁止される可能性のある行為の例としては,自社サービスの優遇,抱き合わせ戦略など,反競争的手段を用いずに,自社が支配的地位を確立してない市場へ「浸透」する行為や,競争に関連するデータを処理することによる参入障壁の形成及び引上げ等が挙げられる。
 また,ドイツ連邦カルテル庁は,今回のドイツ競争制限禁止法の改正以前から実施されていた濫用行為規制に基づいて,Amazonに対して2件の審査手続を継続している。1件目は,Amazonが価格制御メカニズム及びアルゴリズムを用いて,Amazonマーケットプレイスの出品者の価格設定にどの程度影響を与えているかを審査しているものである。2件目は,Amazonマーケットプレイスにおいて第三者の販売業者による販売を排除する目的で取り決められた,AmazonとAppleなどのメーカーとの間の協定が,競争法違反となるか否かを審査しているものである。

ドイツ連邦カルテル庁は,大規模デジタル事業者に適用される新条項(GWB第19a条)に基づきGoogleに対する審査手続を開始(市場間の競争にとっての重要性及びデータ処理条件に関する二つの調査を開始)

2021年5月25日 ドイツ連邦カルテル庁 公表
原文

【概要】
 ドイツ連邦カルテル庁は,大規模デジタル事業者に適用される新条項に基づいて,Googleのドイツ子会社,アイルランド子会社及び米国に本拠を置くAlphabetに対して2種類の審査手続を開始した。過去数か月の間に,ドイツ連邦カルテル庁はこの新しい競争法ツールである第10次改正ドイツ競争制限禁止法(以下「GWB」という。)に基づいて,Facebook(2021年1月28日付け)及びAmazon(2021年5月18日付け)に対する調査を既に開始している。
 2021年1月,GWBが施行された。重要な新条項(GWB第19a条)により,ドイツ連邦カルテル庁は,特に大規模デジタル事業者の行為に対して,より早期にかつ効果的に介入することができることとなった。ドイツ連邦カルテル庁は,二段階の手続を経て,多数の市場の競争に重大な影響を与える事業者が反競争的行為を行うことを禁止することが可能となる。
 まず,Googleが多数の市場の競争に重大な影響を与える事業者であるかどうかを判断するための手続を開始した。
 ドイツ連邦カルテル庁のMundt長官は,「様々な市場に広がるデジタルエコシステムは,ある事業者が多数の市場の競争に重大な影響を与える地位にあるかどうかを判断するための重要な指標になる。そして,そのような地位にある事業者に対し他社が挑戦することは,非常に困難である。Googleは,検索エンジン,YouTube,Googleマップ,Android OS,検索ブラウザのGoogle Chrome等の多くのデジタルサービスを提供していることから,同社は多数の市場の競争に重大な影響を与える地位にあると考えられる。」と述べた。
 次に,同様に開始された一般的には二段階目とされる手続に基づいて,ドイツ連邦カルテル庁は,Googleのデータ処理条件の詳細な分析を行う予定である。
 Mundt長官は,「Googleのビジネスモデルは,ユーザーに関連するデータ処理に大きく依存している。同社は競争上重要なデータへアクセスできる状態を確立していることから,戦略的優位性を享受している。我々はGoogleのデータ処理条件を詳細に検討する。ここでの重要な問題は,Googleの提供するサービスの利用を希望する消費者が,自身のデータがどのように利用されるかについて選択する権利を十分に保証されているかどうかである。」と述べた。
 GWBの新条項は,ある事業者が,多数の市場の競争に重大な影響を与える事業者に該当する場合に,禁止可能な行為の具体例を定めている。Googleは,ユーザーが同社のサービスを利用するに当たり個人データの利用に対する同意を条件としているものの,個人データの処理の有無,その方法及び目的について十分な選択肢をユーザーに提供しているかどうかを,今後ドイツ連邦カルテル庁は調査していく(GWB第19a条第2項第4号(a))。
 ユーザーはGoogleのサービスを利用するに当たり,常に同社のデータ処理規程の特定の条件に同意する必要がある。Googleは,ユーザーが同社の各サービスを利用するに当たり,Googleアカウントの設定の有無により異なるデータ処理条件を導入しているほか,ユーザーもいわゆるパーソナライズ設定を変更することが可能となっている。ドイツ連邦カルテル庁は,このような条件をもってGoogleがどの程度広範なサービス市場において,個人データの利用を可能なものとしているのかについて調査する。また,Googleが提供する広告サービス等を通じて第三者のウェブサイトやアプリから取得した個人データに関しては,Googleがどのようにデータを処理しているのを明らかにする必要がある。さらに,競争法の適用に当たっては,Googleによる個人データの処理に関して,ユーザーが実際にどのような選択肢を有しているかを調査していくことが重要である。消費者の選択権を保護することは競争法の主要な目的であり,その重要性はGWBによって強調されている。 

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