最近の動き(2021年10月更新)

オーストラリア

ACCC,Country Press Australiaに対し,Google及びFacebookとの団体交渉を認可

2021年8月5日 オーストラリア競争・消費者委員会 公表
原文

【概要】
 オーストラリア競争・消費者委員会(以下「ACCC」という。)は,Country Press Australia(以下「CPA」という。)とその会員に対して,Google及びFacebookに掲載されたニュース・コンテンツに対する支払いについて,両社と団体交渉することを認可した。
 CPAは, 81の報道機関(オーストラリア全国160の地域出版物を通じて,地域社会に現地の独自ニュースを提供している。)を代表する業界団体である。
 本件認可は,ACCCが2021年4月に暫定的な認可を与えたことに続くものであり,有効期間は,10年間である。
 CPAへの参加は任意であり,共同ボイコットには該当しない。
 ACCCは,CPA会員間の競争が減少するかなど,一般大衆への潜在的な不利益を慎重に検討した結果,本件認可は重大な不利益をもたらさないと判断した。

英国

CMA,製薬会社の違法な価格設定に対して異議告知書を発出

2021年8月5日 英国競争・市場庁 公表
原文

【概要】
 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は,証拠を追加で収集し,事実関係を慎重に検討した結果,Pfizer及びFlynnがフェニトインナトリウムカプセル(訳注:てんかん治療薬)について不当に高い価格を設定し,競争法に違反したとして,両社に対して異議告知書(Statement of Objections)を発出した。
 CMAは,両社が2012年9月以前に「Epanutin」として知られていた薬剤のブランドを名乗らないこと(debranding)で,先発薬(branded drug)に適用される価格規制を受けないようにするという抜け道を利用したと暫定的に認定した。Pfizer及びFlynnは,英国で本件医薬品を独占的に供給していたため,NHS(National Health Service:英国の国営医療サービス事業)は,この貴重な医薬品を不当に高い価格で購入しなければならなかった。
 両社による急激な値上げの結果,フェニトインナトリウムカプセルに対するNHSの支出は,2012年の年間約200万ポンドから2013年には約5000万ポンドに増加した。Pfizerの価格は,4年以上にわたって,以前の価格より780%から1,600%も引き上げられた。その後,PfizerはFlynnに本件医薬品を供給しており,Flynnは,以前に販売していた価格より2,300%~2,600%も高い価格で卸売業者や薬局に販売していた。
 2016年12月,CMAは,詳細調査の結果,フェニトインナトリウムカプセルについて不当に高い販売価格を設定し,競争法に違反したとして,Pfizer及びFlynnに制裁金を賦課した。
 両社は,競争法に違反したとするCMAの決定及び制裁金を不服として,競争審判所(以下「CAT」という。)に提訴した。2018年6月,CATは,市場画定と両社の支配的地位に関するCMAの決定を支持する一方,両社が設定した販売価格が支配的地位を「濫用」した違法なものであるとしたCMAの決定については,CMAに差し戻し,再検討を求める判決を下した。
 その後,CMAとFlynnは控訴裁判所に控訴した。2020年3月,同裁判所は,Flynnの訴えを全面的に棄却するとともに,CMAが主張した不当な価格設定に関するリーガルテスト(legal test for unfair pricing)の実施を支持する判決を下した。この判決を受けて,CMAは,CATから差し戻された事項について再調査することを決定し,同年6月から本件調査を行っていた。
 CMAの決定は,現段階では暫定的なものである。Pfizer及びFlynnには,異議告知書に記載された暫定的な調査結果に対して回答する機会が与えられており,CMAはその回答を慎重に検討した上で,彼らが競争法に違反したかどうかを判断することとなる。
 CMAは,引き続き,製薬会社によるNHSへの過大請求などの違法行為に対して厳正に対処する。CMAは,最近,ヒドロコルチゾン錠の供給に関する競争法違反に対して2億6000万ポンド,リオチロニン錠の供給に関する競争法違反に対して1億ポンドの制裁金を賦課した。他にも多くのCMAの調査が継続して行われている。

CMA,FacebookによるGiphyの買収について競争上の懸念を表明

2021年8月12日 英国競争・市場庁 公表
原文
 

【概要】
 CMAは,FacebookによるGiphyの買収について,ソーシャル・メディア・プラットフォーム間の競争に悪影響を及ぼすとともに,ディスプレイ広告分野における潜在的な競争者を排除するおそれがあるとの暫定的な見解を公表した。
Facebookは,英国で最大のソーシャル・メディア運営事業者かつディスプレイ広告事業者であり,Giphyは,英国で最大のGIFアニメーション・プロバイダーである(訳注:「GIF」とは,簡易的なアニメーションの表示に用いられる画像形式の一種であり,GiphyのようなGIFアニメーション・プロバイダーは,GIFを作成・共有・検索できるウェブサイトを運営している。Giphyは各SNSとAPI〔訳注:Application Programming Interface の略であり,「他のシステムの機能やデータを安全に利用するための接続方式」を指す。〕連携しており,ユーザーはGiphyに掲載されているGIFをSNSに投稿することが可能となっている)。
 CMAの懸念を解消できない場合,Facebookは最終的に買収を断念し,Giphyを売却する必要が生じる可能性がある。
 
ソーシャル・メディア・プラットフォームへの影響
 詳細な調査の結果,CMAは,FacebookによるGiphyの買収によって,ソーシャル・メディア・プラットフォーム間の競争に悪影響を及ぼすと暫定的に判断した。
 ソーシャル・メディアでは,日々,GIFを含めて数百万もの投稿が行われている。GIFに関する選択肢の減少や品質の低下は,人々がソーシャル・メディアをどのように利用するかという点や他のプラットフォームに乗り換えるか否かという点に重要な影響を及ぼし得るものである。Facebookと競争関係にある主要なソーシャル・メディア・サイトではGiphyが使われており,また,Giphy以外の有力なGIFプロバイダーとしてはGoogleのTenorしか存在しないため,ソーシャル・メディア・サイトにとっては選択肢が極めて限られている。
 CMAの暫定的な見解によると,FacebookがGiphyを買収することで,Facebookが,他のソーシャル・メディアとGiphyとの取引を拒絶するおそれ,又はFacebookが,TikTok,Twitter,SnapchatといったGiphyの取引先に対して,現在の契約内容を変更し,Giphyとの取引継続のためにユーザー・データをより多く提供するよう要求するおそれがある。こうした行為は,Facebookが既に有している顕著な市場力をより一層強化し得るものである。CMAの分析によると,人々がソーシャル・メディアに費やす時間のうち70%以上は,Facebookの運営するプラットフォーム(Facebook,WhatsApp及びInstagram)が占めており,全てのインターネット・ユーザーのうち80%が,少なくとも月に1回以上これらのプラットフォームにアクセスしている。
 
ディスプレイ広告への影響
 本件買収前,Giphyは米国において革新的なディスプレイ広告を提供しており,Facebookが提供するディスプレイ広告と潜在的な競争関係にあった。Giphyのディスプレイ広告によって,Dunkin’DonutsやPepsiといった広告主は,視覚的な映像やGIFを使ったブランドの販売促進を行っていた。
 CMAによると,Giphyは本件買収前に,英国を含む他国にもディスプレイ広告サービスを拡大することを検討していた。このことは,広告市場に新たなプレイヤーないしFacebookに対する潜在的な競争者が参入することを意味していた。また,Giphyのディスプレイ広告サービスの拡大は,ソーシャル・メディアや広告の市場において,更なるイノベーションを促進し得るものでもあった。しかしながら,Facebookは,本件買収により,Giphyが今まで締結していたディスプレイ広告契約を消滅させ,これにより,将来的な競争にとって重要な競争資源が失われることとなってしまった。
 このことは,ディスプレイ広告市場におけるFacebookが既に有している市場力との関係で特に懸念される点であり,CMAによると,Facebookは,55億ポンドにも及ぶ英国のディスプレイ広告市場において約50%のシェアを有している。

 

ドイツ

ドイツ連邦カルテル庁,楽器メーカー及び小売業者に対して制裁金を賦課

2021年8月5日 ドイツ連邦カルテル庁 公表
原文

【概要】
 ドイツ連邦カルテル庁(以下「カルテル庁」という。)は,楽器メーカー3社及び楽器小売業者2社並びにそれぞれの担当者に対して,総額約2100万ユーロの制裁金を賦課した。当該メーカーと小売業者は再販売価格維持を行っていたほか,小売業者は水平的価格カルテルも行っていた。
 問題とされたメーカー(それぞれの小売業者を含む)は,Yamaha Music Europe Gmbh(以下「ヤマハ」という。),Roland Germany Gmbh(以下「ローランド」という。)及びFender Musical Instruments Gmbh(以下「フェンダー」という。)であり,小売業者は,Thomann GmbH(以下「トーマン」という。)及びMUSIC STORE professional GmbH(以下「ミュージックストア」という。)である。
 本件は,業界関係者からの申告に基づき,2018年4月の立入検査により開始された。
 メーカー及び小売業者は,メーカーが設定した最低販売価格を小売業者が遵守することに合意していた。当該最低販売価格が守られない場合,ヤマハ,ローランド及びフェンダーの担当者がトーマン及びミュージックストアの担当者に連絡をとり,販売価格の遵守を何度も求めていた。また,ヤマハ及びローランドは,価格追跡ソフトウェアを使って,消費者向け販売価格を監視していた。メーカーが小売業者を脅したり,供給停止や取引条件の悪化などの制裁を課したりすることもあったが,製品によっては,要求された最低販売価格の遵守や監視が行われていなかったり,散発的にしか行われていなかったりしていた。小売業者は,要求に従わなかったり,複数の製品を抱き合わせて価格設定し,要求を回避したりすることなどにより,要求を遵守しないことがたびたびあった。一方,トーマン及びミュージックストアは,ヤマハ,ローランド及びフェンダーに対して,他の楽器専門店の最低販売価格についての監視を要求していた。これは自分たちの販売価格が低過ぎるという不満の表れでもあった。
 このほか,再販売価格維持に関する審査手続の過程で,トーマン及ミュージックストアの間で,水平的価格カルテルの合意があったことが明らかになった。2014年12月21日から2018年4月27日の間に,両社は13件の事案で個々の楽器又は付属品の値上げに合意していた。
 カルテル庁は,制裁金の算定に当たり,ヤマハ,ローランド,フェンダー,トーマン及びミュージックストアが本件合意について明らかにし,カルテル庁の審査に広く協力したこと(ミュージックストアは再販売価格維持についてのみ)並びに和解が成立したことを考慮した。制裁金賦課命令は最終的なものである。 

インド

CCI,マルチ・スズキがディーラーによる値引きを制限したとして,20億ルピーの制裁金支払命令を発出

2021年8月23日 インド競争委員会 公表
原文

【概要】
 インド競争委員会(以下「CCI」という。)は,Maruti Suzuki India Limited(訳注:日本の自動車メーカーであるスズキのインドにおける乗用車生産販売子会社。以下「マルチ・スズキ」という。)が,ディーラーに対する値引き制限方針を実施することにより,乗用車市場において反競争的行為である再販売価格維持を行っていたとして,マルチ・スズキに対し,20億ルピーの制裁金を課すとともに,排除措置命令を下した。
 CCIの調査により,マルチ・スズキがディーラーとの間で,消費者に対してマルチ・スズキが定めた以上の値引きを行うことを禁止する契約を結んでいたことが明らかになった。マルチ・スズキはディーラーに対して「ディスカウント・コントロール・ポリシー」(Discount Control Policy)を定めており,ディーラーが消費者に対してマルチ・スズキが許可した以上の値引きや景品提供などを行わせないようにしていた。ディーラーが限度額を超える値引きを行う場合は,マルチ・スズキの事前承認が必要であった。このようなディスカウント・コントロール・ポリシーに違反した場合には,マルチ・スズキから,ディーラーだけでなく,販売担当者,地域担当者,ショールーム担当者及びチームリーダーなどの個人にも罰則が課せられると脅されていた。
 マルチ・スズキは,ディスカウント・コントロール・ポリシーの実効性を確保するために,「ミステリー・ショッピング・エージェンシー」(Mystery Shopping Agencies。以下「MSA」という。)を任命し,消費者を装ってディーラーに出向き,消費者に対して,マルチ・スズキが定めた限度額を超える値引きが行われていないかどうかを調べさせていた。そして,限度額を超える値引きが行われていることが判明した場合には,MSAはマルチ・スズキの経営陣に証拠(オーディオ/ビデオ録画)を添えて報告しており,同経営陣は問題のあるディーラーに対して,当該ディーラーが追加的な値引きを申し出たという事実を示した「ミステリー・ショッピング・オーディット・レポート」(Mystery Shopping Audit Report)を添えて電子メールを送り,これに対する説明を求めていた。ディーラーから納得する説明がなされない場合には,マルチ・スズキはディーラーとその従業員にペナルティを課し,場合によっては商品の供給を停止すると脅していた。加えて,マルチ・スズキは,ディーラーに対して罰金をどこに預けるべきかを指示するとともに,罰金額の使途はマルチ・スズキの絶対的な命令(diktat)に従って決められていた。
 CCIは,マルチ・スズキがディーラーにディスカウント・コントロール・ポリシーを定めるだけでなく,MSAを通じてディーラーを監視し,ペナルティを課し,供給停止やペナルティの徴収などの厳しい措置を採ると脅すことで,ディスカウント・コントロール・ポリシーの監視・実効性確保を行っていたと認定した。そして,インド国内の競争に著しく不利な影響を与えたマルチ・スズキの当該行為は競争法第3条第1項と第3条第4項(e)の規定に違反していると判断されたものである。 

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