その他
英国
CMA、Elite Sportsほか2社に対し、レンジャーズFC関連商品の販売価格を操作したとして、制裁金を賦課
2022年9月27日 英国競争・市場庁 公表
原文
【概要】
英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、Elite Sports及びJD Sportsが、2018年9月から2019年7月にかけて、多数のレンジャーズFC(訳注:スコットランドのグラスゴーを本拠地とするサッカークラブ)のブランドのレプリカキットやその他のウェア類の販売価格を操作していたことを明らかにした。また、レンジャーズFCも、2018年9月から同年11月中旬にかけて、Elite Sports及びJD Sportsと共謀して、成人用半袖レプリカシャツの販売価格の操作に加わっていた。これらの行為は、いずれも1998年競争法に違反するものである。上記3社(以下「3社」という。)は、JD Sportsがオンラインストアでレプリカシャツを値引きして販売することを阻止するために共謀していた。
Elite Sportsには45万9000ポンド、JD Sportsには148万5000ポンド、レンジャーズFCには22万5000ポンドの制裁金が賦課された。当該制裁金額には、これら3社が違法行為を認め、CMAの審査が円滑に進むよう協力し、結果的にCMAのリソースの節約に貢献したことによるCMAとの和解に基づく減額(settlement discount)が反映されている。また、Elite Sports及びJD Sportsの制裁金額には、これら2社が違法行為に関与していた旨をCMAに対して報告し、CMAの審査に協力したことによるCMAのリニエンシープログラムに基づく減額も反映されている。
マイケル・グレンフェル(Michael Grenfell)CMA執行局長は、以下のように述べた。
「多くの人々が生活費の上昇を懸念している昨今において、サッカーファンが競争的な価格の商品の恩恵を受けられることは重要である。それにもかかわらず、Elite Sports、JD Sports、そして全てには加担していないもののレンジャーズFCは、販売価格を高値で維持するために共謀していた。本日のCMAによる決定は、違法な反競争的共謀は許されるものではないというサッカークラブや他の事業者に対する明確なメッセージである。」
違法行為の期間中、Elite Sportsはレンジャーズブランドのスポーツウェアやグッズを製造し、オンラインストア(Gers Online Store)やグラスゴー及びベルファストの実店舗で販売していた。そのとき、これらのスポーツウェア等を英国全土で販売していたのはJD Sportsのみであった。
CMAの調査により、JD Sportsが2018年から2019年のシーズンにかけてレンジャーズブランドのレプリカユニフォームを当時レンジャーズ・フットボール・クラブの小売パートナーであったElite Sportsより安値で販売していたことについて、レンジャーズFCが懸念を有していたことが判明した。こうした懸念が、JD Sportsが成人用半袖レプリカシャツの販売価格を55ポンドから60ポンドへと10%近く引き上げ、Elite Sportsによるオンライン販売価格と揃えるという当事者間の共通理解(understanding)へとつながった。
また、CMAは、Elite Sports及びJD Sportsが、トレーニングウェアやレプリカキットを含むレンジャーズブランドのウェア類の販売価格を、より長期間にわたって操作するために共謀していたことを明らかにした。これには、2019年のサッカーシーズン終了に向けて値引きのレベルやタイミングを揃え、両社間の競争を回避し、利益率を確保することも含まれていた。
CMA、世界最大規模の衛星通信サービス事業者であるViasat及び同業のInmarsatの合併計画について、航空機内Wi-Fiサービスの価格上昇及び品質低下をもたらすなどの競争上の懸念があることを公表
2022年10月6日 英国競争・市場庁 公表
原文
【概要】
競争市場庁(以下、「CMA」という)は、Viasat及びInmarsatの合併計画が実行されれば、航空会社が機内Wi-Fiサービスのコスト上昇につながると認定した。
• 本件合併計画が実行されれば、航空会社は機内料金の上昇及び品質低下に直面するおそれがある。
• 本件合併計画が実行されれば、重要な競合他社が市場から排除されるおそれがある。
Viasat及びInmarsatは、世界最大規模の衛星通信サービス事業者であり、インターネット、電子メール、ビデオ通話等のサービスを可能にするモバイル接続を世界中の事業者に提供している。当事会社は、2021年11月、買収総額73億ドルで合意した。
データ集約型アプリケーションの利用拡大など、事業者及び消費者によるインターネットの利用がますます増加していることが大きな要因となり、衛星通信サービスに対する需要が急増している。当事会社は、提供するサービスを大幅に拡大し、より多くの衛星を宇宙へと打ち上げ、新たなビジネスチャンスを求めて積極的に競争している。また、Starlink(訳注:米国の衛星通信サービス事業者であるSpaceXが運営。)、OneWeb、Telesat等、他の衛星通信サービス事業者も新世代の衛星を携えて、衛星通信サービス分野に参入している。
CMAの審査により、航空分野の衛星通信サービス、特に乗客用の機内Wi-Fiの提供面で、Viasat及びInmarsatが緊密に競合していることが判明した。現在、機内接続サービスを提供しているのは一部の航空会社のみであるが、今後、利用可能なサービスが大幅に増加することが予想される。
本件合併計画は、他に有力な競合事業者がほとんど存在しない衛星通信サービス市場において、有力な事業者である2社が統合することになる。Starlink、OneWeb、Telesat等の 新しい衛星通信サービス事業者が航空分野をターゲットにしているが、この分野は衛星通信サービス事業者にとって最も参入が困難な分野の一つである。CMAの第1次審査では、新しい衛星通信サービス事業者が、いつ統合後の当事会社と効果的に競争できる立場になるのかについて、大きな不確実性が存在することが判明している。
また、CMAの第1次審査では、航空会社が接続ソリューションを導入(訳注:ネットワークの構築)した後に取引先プロバイダーを変更することが非常に困難であることも判明した。したがって、CMAは、新興の衛星通信サービス事業者が競争できるようになる前に、統合後の当事会社が事実上、顧客基盤の大半を囲い込む(lock in)おそれがあることを懸念している。
CMAは、本件合併によってもたらされる競争の喪失が、英国の事業者や消費者に悪影響を及ぼすことを懸念している。航空会社は、価格の上昇に直面し、低品質の接続ソリューションを提供され、最終的には航空旅客サービスのコスト、品質、及び利用可能性に影響を及ぼすおそれがある。
コリン・ラフティ(Colin Raftery)CMAシニアディレクターは、次のように述べた。
「衛星通信サービス市場は発展途上であるが、当事会社は現時点で、同市場における主要な2社であり、次世代の衛星通信サービス事業者が当事会社に対して効果的に競争できるかどうかは、まだ不明である。
最終的には、本件合併によって航空会社は、より悪い取引に直面する可能性があり、機内接続サービスが普及するにつれて、英国の消費者に打撃を与えるおそれがある。」
当事会社は、5営業日以内にCMAが表明する競争上の懸念に対する問題解消措置案を提出することができる。問題解消措置案が提出された場合、CMAは、提出から5営業日以内に、当該問題解消措置案を承認するか、第2次審査に移行するかを検討する。
インド
CCI、アンドロイド携帯端末に関して反競争的行為を行っていたとして、グーグルに対して133億7760万ルピーの制裁金を賦課
2022年10月20日 インド競争委員会 公表
原文
【概要】
1 インド競争委員会(以下「CCI」という。)は、アンドロイド携帯端末のエコシステムの複数の市場において支配的地位を濫用したとして、グーグルに対し、排除措置命令を発出するとともに、133億7760万ルピー(227億5529万7600円)の制裁金を賦課した。また、CCIは、グーグルに対し、排除措置命令で規定された期限内に行為を是正するよう命じた。
2 スマート携帯端末は、アプリケーションやプログラムを実行するためのオペレーティングシステム(OS)を必要とする。アンドロイドは、2005年にグーグルが買収した携帯用OSである。CCIは、アンドロイドOS(以下「アンドロイド」という。)及びグーグルの様々な携帯アプリケーション(例:Play Store、Google Search、Google Chrome、YouTube等)のライセンスに関する様々な行為を審査した。
3 CCIは、本件審査を行うに当たり、以下の5つの関連市場を画定した。
(1)インドにおけるスマート携帯端末向けにライセンスが可能なOS市場
(2)インドにおけるアンドロイドスマート携帯端末のOS向けアプリストア市場
(3)インドにおける総合ネット検索サービス市場
(4)インドにおけるOSに依存しない特定携帯端末のブラウザ市場
(5)インドの動画共有プラットフォーム(online video hosting platform)市場
4 グーグルは、審査の過程で、アップルによる競争上の制約について主張した。CCIは、グーグルのアンドロイドエコシステム及びアップルのiOSエコシステム間の競合関係を検討するために、事業上の判断を行う際のインセンティブに影響を与える2つのエコシステムのビジネスモデルの違いに注目した。アップルの事業は、最先端のソフトウェアコンポーネントを搭載した高級スマート端末の販売に重点を置く垂直統合型の携帯端末エコシステムを主な基盤としている。一方、グーグルの事業は、同社の収益源であるオンライン広告サービスに直接影響を与える、オンライン検索のユーザーを増加させることを最終目的としていることが判明した。
5 さらに、CCIは、アプリストアに対する需要が以下の3つの異なる需要者層から生じることに着目した。
① スマート端末を商業的に成功させ、販売可能性を高めるためにアプリストアをインストールしたいと考えるスマート端末のOEM事業者
② エンドユーザーに対してサービスを提供したいと考えるアプリ開発者
③ コンテンツへのアクセスやその他のサービスを利用するためにアプリストアにアクセスすることを望むエンドユーザー
CCIは、アンドロイド向けのアプリストアであるGoogle Play StoreとアップルのiOS向けのアプリストアであるApp Storeの間の代替性について、3つの需要の要素の全てを検討し、Google Play StoreとApp Storeの間には代替性がないことを明らかにした。さらに、CCIは、アンドロイド及びアップルの両モバイルエコシステムの間には、ある程度の競争があるかもしれないが、どの端末を購入するかを決定する時点では限定的であると指摘した。CCIは、どの端末を購入するかを決定する時点におけるエンドユーザーにとって最も重要な要素は、ハードウェアの仕様と端末の価格であると認定した。
6 審査の結果、CCIは、上記の全ての関連市場においてグーグルが支配的であると認定した。
7 グーグルは、アンドロイド及び独自のアプリケーションのライセンスを運営・管理しており、OEM事業者は、アンドロイドとグーグルのアプリケーションを携帯端末に使用している。このため、グーグルとOEM事業者は、携帯アプリ流通合意(Mobile Application Distribution Agreement)、反フラグメンテーション合意(Anti-fragmentation Agreement)、アンドロイド互換性コミットメント合意(Android Compatibility Commitment Agreement)、収益分配合意(Revenue Sharing Agreement)等、権利と義務を規定する複数の合意を締結している。
8 携帯アプリ流通合意により、search app、widget、Chrome browser等の極めて重要な検索機能がアンドロイド端末にプリインストールされ、グーグルの検索サービスが競合他社に対して大きな競争力を持つことが確認された。さらに、グーグルは、アンドロイド端末におけるもう一つの収益源となるアプリであるYouTubeに関しても、競合他社に対する大きな競争力を持っている。同種のサービスを提供する競合他社は、グーグルが携帯アプリ流通合意を通じて確保したものと同レベルの市場へのアクセスをすることはできなかった。ネットワーク効果は、現状維持のバイアスと相まって、グーグルの競合他社が当該市場に参入し、活動するための大きな参入障壁を生み出している。
9 反フラグメンテーション合意及びアンドロイド互換性コミットメント合意は、OEM事業者がアンドロイドフォーク(訳注:グーグルから承認されていないアンドロイドの改変版)を搭載する端末の提供を禁止することによって、競合する検索サービスの流通経路が完全に排除されることを確実にした。両合意により、OEM事業者はグーグルの管理外のフォークを搭載する端末を開発、提供できなくなった。このような制限がなければ、競合する検索サービスは、OEM事業者と提携して十分な流通経路を利用し、フォークに基づく端末を提供することができたはずである。同様に、アンドロイドフォークの開発者も、ほとんど全てのOEM事業者がグーグルと提携していたため、フォークの流通経路を見つけることができなかった。
10 同時に、収益分配合意は、グーグルが検索サービスにおいて競合他社の完全な排除に役立った。これらの合意の組合せにより、携帯ユーザーの検索クエリへの継続的なアクセスが保証され、広告収入を確保できるだけでなく、競合他社を排除し、サービスの継続的改善を通じて、ネットワーク効果を享受することを可能にした。競合他社は、これらの合意により、グーグルと効果的に競争する機会を得られず、最終的には市場から排除され、ユーザーの選択肢が奪われる結果となった。
11 CCIは、市場における実力による競争が行われるべきであり、支配的事業者(本件ではグーグル)には、その行為が能率競争を損なわないようにする責任があるとの見解を示した。グーグルは、前記合意により、ユーザーが携帯端末で同社の検索サービスを引き続き利用することを確保し、グーグルの広告収入が途切れることなく増加することを促進させた。さらに、前記合意により、グーグルは、競合他社を排除して自社のサービスへの投資を増加し、向上させた。
このように、グーグルが前記合意を通じて様々な制限を課した最終目的は、総合検索サービスにおける支配的地位を維持・強化し、検索広告による収入を確保することであった。
12 CCIは以下のように結論付けた。
(1)グーグルが携帯アプリ流通合意により、Google Mobile Suite(GMS)全体のプリインストールを義務付け(アンインストールするオプションはない)、それを目立つように配置させることは、端末メーカーに不当な条件を課すことになり、インド競争法(以下「法」という。)第4条第2項(a)(i)の規定に違反する。また、上記の行為は、グーグルがOEM事業者に対して、契約の本質等と無関係な補足的な義務を課すという性質を持っているため、法第4条第2項(d)の規定にも違反する。
(2)グーグルは、法第4条第2項(c)に違反して、オンライン検索市場における支配的地位を永続させ、競合する検索アプリの市場アクセスを阻害している。
(3)グーグルは、法第4条第2項第1号に違反して、オンライン総合検索における自らの地位を維持するためにアンドロイド向けアプリストア市場における支配的地位を利用してきた。
(4)グーグルは、法第4条第2項第5号に違反して、Google Chromeアプリを通じてOSに依存しない特定のブラウザ市場に参入し、その地位を維持するために、アンドロイド向けアプリストア市場における支配的地位を利用してきた。
(5)グーグルは、法第4条第2項第5号に違反して、YouTubeを通じて動画共有プラットフォーム市場に参入し、その地位を確保するために、アンドロイド向けアプリストア市場における支配的地位を利用してきた。
(6)グーグルは、法第4条第2項第2号の規定に違反して、端末メーカーが製造、流通、販売する全てのアンドロイド端末について、反フラグメンテーション合意及びアンドロイド互換性コミットメント合意の締結を条件にグーグル独自のアプリ(特にGoogle Play Store)をプリインストールすることにより、端末メーカーがアンドロイドの代替品であるアンドロイドフォークで稼働する端末を開発し販売する能力及びインセンティブを低減させ、それによって技術又は科学の発展を制限し、消費者を害している。
13 したがって、CCIは、法第27条の規定に基づき、グーグルに対し、法第4条の規定に違反する反競争的行為を行っているとして、制裁金を賦課するとともに、排除措置命令を発出した。CCIによる当該措置の概要は、以下のとおりである。
① OEM事業者に対し、(a)プリインストールするアプリケーションをグーグル独自のものの中から選択することを制限してはならず、アプリケーションをプリインストールすることを強制してはならない、(b) 携帯端末にプリインストールされたアプリケーションの配置を制限してはならない。
② OEM事業者に対し、Play Store(Google Playサービスを含む)のライセンス供与を、Google searchサービス、Chrome browser、YouTube、Google Maps、Gmail又はその他のグーグルのアプリケーションのプリインストールの条件としてはならない。
③ グーグル は、OEM事業者、アプリ開発者、既存又は潜在的な競合他社に不利になるように、Play Servicesの API (Application Programming Interface )へのアクセスを拒否してはならない。これにより、アンドロイドフォークとアンドロイド間のアプリの相互運用性が確保される。アプリ開発者は、当該問題解消措置により、自己のアプリをアンドロイドフォークに容易にインストールすることができるようになる。
④ グーグル は、検索サービスの独占権を確保するために、OEM事業者に対して金銭的又はその他のインセンティブを提供したり、OEM事業者 と何らかの取り決めを結んだりしてはならない。
⑤ グーグルは、現在反フラグメンテーション合意及びアンドロイド互換性コミットメント合意で行われているような、反フラグメンテーション義務をOEM事業者に課してはならない。グーグル独自のアプリケーションがプリインストールされていない端末については、グーグルはOEM事業者にアンドロイドフォークを搭載した携帯端末を自社で製造・開発することを許可しなければならない。
⑥ グーグルは、アンドロイドフォークを搭載した携帯端末を販売しないよう、OEM事業者にインセンティブを与えたり、その他の義務を負わせたりしてはならない。
⑦ グーグルは、ユーザーがプリインストールされたアプリをアンインストールすることを制限してはならない。
⑧ グーグルは、端末の初期設定時に、全ての検索機能の中からデフォルトの検索エンジンを選択することをユーザーに許可しなければならない。可能な限り最小限の手順で、ユーザーが端末のデフォルト設定を簡単に設定し、また簡単に変更できる柔軟性を持つことができるようにするべきである。
⑨ グーグルは、アプリ開発者がPlay Storeを通じてアプリを配布することを許可しなければならない。
⑩ グーグル は、いかなる方法によっても、アプリ開発者がサイドローディング(訳注:端末間のデータの転送)を通じてアプリを配布する能力を制限してはならない。
14 CCIは、制裁金の算定に関して、グーグルにより提示された様々な収益データには明らかな矛盾と広範な否認事項があることを指摘した。しかし、CCIは、公益及び必要な市場の是正を早期に確保するため、グーグルが提示したデータに基づいて暫定的な制裁金を算定した。その結果、CCIは、グーグルに対し、法第4条に違反したとして、暫定的に133億7760万ルピーの制裁金を賦課した。グーグルは、必要な財務情報及び証拠書類を30日以内に提出しなければならない。