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英国

CMA、マイクロソフトによるアクティビジョンの買収計画に係る競争上の懸念を表明

2023年2月8日 英国競争・市場庁 公表

原文

【概要】

 マイクロソフトによるアクティビジョンの買収計画について、英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、2022年9月から実施していた第2次審査の結果、英国内のゲームユーザーの購入費用を増加させ、選択肢を狭め、イノベーションを阻害すると暫定的に結論付けた。
 この審査には、マイクロソフトとアクティビジョンのビジネスリーダーから直接話を聞くための企業訪問やヒアリング、両社の市場に関する見解について理解するための300万以上の内部文書の分析、英国のゲームユーザーに対する個別調査、他のゲーム機プロバイダー、ゲーム出版社、クラウドゲームサービスプロバイダーからの情報収集が含まれている。
 
 CMAは、クラウドゲームプロバイダーにとって、人気ゲームを提供できることは、市場が成長していく中でゲームユーザーを惹きつけるために重要であると暫定的に結論付けた。CMAが入手した証拠から、マイクロソフトは、アクティビジョンのゲームを自社のクラウドゲーミングサービスでのみ利用可能とする(又は実質的に悪い条件の下で他のサービスで利用可能にする)ことが商業的に有益であると判断していることが判明した。マイクロソフトは、既に世界のクラウドゲームサービスの60~70%を占めている他、Xbox、パソコン用OSでシェア首位のWindows、グローバルなクラウドコンピューティングインフラ(Azure及びXbox Cloud Gaming)を所有していることから、クラウドゲームにおいて重要な優位性を有している。
 CMAは、世界で最も重要なゲームパブリッシャーのうちの1つを買収することは、この強力な地位を強化し、マイクロソフトが英国のクラウドゲーム市場で直面する競争を著しく減少させると暫定的に判断した。これは、ゲームの未来を変え、英国のゲームユーザー、特に高価なゲーム機を購入できない、あるいは購入を望んでいない人々に害を及ぼす可能性がある。
 CMAは、アクティビジョンの主力ゲームであるコールオブデューティ(Call of Duty)を含む少数の主力ゲームが、ゲーム機間の競争を促進する上で重要な役割を担っていると暫定的に結論付けた。マイクロソフトが通常の業務において顧客の価値をどのように測定しているかについてのデータ等のCMAが入手した証拠から、マイクロソフトは、アクティビジョンのゲームを自社のゲーム機でのみ利用可能とする(又はプレイステーションでは実質的に悪い条件でのみ利用可能とする)ことが商業的に有益であると判断していることが判明した。また、ゲームスタジオ(訳注:ゲーム開発会社)を買収し、そのコンテンツをマイクロソフトのプラットフォーム専用とするという経営戦略は、マイクロソフトが過去に数回他のゲームスタジオを買収した際にも実行している。
 CMAは、他のプラットフォームがアクティビジョンのゲームにアクセスすることを制限することによって競争を弱めることは、英国におけるXboxとプレイステーションとの間の競争を実質的に制限し、ひいては英国のゲームユーザーに損害を与えるおそれがあると暫定的に判断している。
 現在、Xboxとプレイステーションは互いに密接に競争しており、コールオブデューティのような最も重要なコンテンツへのアクセスは、その競争の重要な部分である。マイクロソフトとソニーとの間の競争が減じられると、全てのゲームユーザーは、ゲーム機の価格上昇、品揃えの減少、品質やサービスの低下に直面にすることになる。
 CMAの暫定的見解に対し、2023年3月1日を期限として、利害関係者から意見を募集する。また、当事会社に対しては、2023年2月22日を期限として是正措置の提出を求める。
 
 本第2次審査を実施したマーチン・コールマンCMA審査グループ長は、次のように述べた。
 「英国には約4500万人のゲームユーザーがいると推定され、英国の人々は、音楽、映画、テレビ、書籍等、他のどのエンターテインメントよりもゲームに金銭を費やしている。Xboxとプレイステーションとの間の熾烈な競争は、過去20年間、ゲーム機市場を形成していた。クラウドゲームというエキサイティングな新開発商品により、ゲームユーザーに更に多くの選択肢を提供している。
 我々の仕事は、英国のゲームユーザーが、やがて競争にダメージを与え、価格の上昇や選択肢の減少、イノベーションの低下を招き得るこのグローバルな買収の影響に巻き込まれることがないようにすることである。我々は、本件買収計画がそうしたケースに該当すると暫定的に結論付けた。
 本日、我々の懸念がどのように解決されるかについての説明を当事会社に送付し、当事会社の見解及び希望する代替案の提出を求めた。」

韓国

KFTC、ドイツの乗用車メーカーの排出ガス低減技術に係るカルテルを行っていたとして、メルセデス・ベンツグループ、BMW、アウディ及びフォルクスワーゲンの4社に是正及び課徴金納付を命令

2023年2月9日 韓国公正取引委員会 公表

原文(韓国語)

【概要】

 韓国公正取引委員会(以下「KFTC」という。)は、ドイツのディーゼル乗用車メーカー(メルセデス・ベンツグループAG、BMW AG、アウディAG及びフォルクスワーゲンAG(以下「AG」を省略)。合わせて以下「4社」という。)が排出ガス低減技術である選択的触媒還元(Selective Catalytic Reduction、以下「SCR」)システムを開発する際、尿素水の噴射量を減少させるソフトウェアを導入することを合意した行為に対して、是正命令とともに、総額423億ウォン(暫定) の課徴金を賦課した。
 
1 窒素酸化物とSCRシステム
(1) 自動車排出ガスと窒素酸化物(以下「NOx」)
 NOxは、自動車エンジンが燃料を燃焼する過程で主に形成される毒性ガスであり、オゾン、酸性雨等の原因であり、喘息、呼吸器異常、肺機能低下、肺疾患等を誘発することが知られており、これに対する規制が強化されていく傾向である。
 
(2) SCRシステム
 SCRシステムは、排出ガスに尿素水を供給してNOxを水と窒素に浄化する装置(NOxの排出を最大90%まで減少可能)であり、尿素水タンク、噴射制御装置、触媒転換器等から構成されている。噴射される尿素水の量によってNOxの排出量が変わるという点で、尿素水の噴射戦略を構成することがSCRシステムの重要な技術とされている。
 
(3) 尿素水の噴射戦略(単一噴射と二重噴射)
 単一噴射(single dosing)戦略は、NOxを最大限に低減するために、フィルレベル制御(Fill-level mode)を使用して尿素水の噴射量を算定する。通常の走行条件で、フィルレベル制御時に尿素水の噴射量が常に最大値となり、NOx低減効果が高い。
 二重噴射(dual dosing、switching)戦略は、NOx転換効率を達成できる量だけ尿素水を噴射する方式であり、フィルレベル制御とフィードフォワード制御(Feed-forward mode)が交互に動作しながら尿素水の噴射量を算定する。通常の走行条件で、フィードフォワード制御時には、尿素水の噴射量が減少し、NOx低減効果が低い。
 
2 カルテルの背景
 EUは、2014年9月に施行されたEuro6bを通じて、前の段階(Euro5:0.18g/km)よりNOx規制を2倍以上強化し、韓国も2014年1月に施行されたNOx排出許容基準により、以前(0.18g/km)より2倍以上NOx規制を強化した。
 4社は、当時、業界で使用していた排出ガス再循環装置とNOx捕集装置では強化される規制を満たせず、SCR等のNOx後処理装置を使用しなければ規制を満たせないと判断した。
その過程において、4社は、尿素水の消費量の減少させることに関する共通認識を形成した。4社は、尿素水を補充することなく車両が走行できる距離を一定水準に確保するために、NOxが過剰排出されるという問題点があるにもかかわらず、尿素水の消費量を減らす必要があると認識した。
 
3 行為事実
<合意の成立>
 4社は、2006年6月、ドイツのシュトゥットガルトで開催されたソフトウェア機能会議(4社又は4社とSCRソフトウェアベンダーが参加)等を通じて、SCRソフトウェアの尿素水噴射戦略を共同で議論する際、「NOxを常に最大限に低減させる必要はない」との共通認識を形成した。
 4社は、2006年9月、ドイツのシュトゥットガルトで会合を開き、尿素水の噴射量を減らすために、NOx低減効果が高い反面、尿素水を大量に使用する単一噴射方式ではなく、二重噴射方式を採用し、このために、フィルレベル制御からフィードフォワード制御に切り替わる条件(触媒転換器の温度、排出ガスの質量及び流量、NOxの質量及び流量、並びにDPF再生)を合意した。
  その後、4社は、2006年12月の電話会議において、フィードフォワード制御への切替え条件を追加(エンジン温度、気圧及び吸気温度)することで合意した。
 
<合意の実行>
 4社は、合意内容(フィードフォワード制御への切替え及びその切替え条件を基本機能として搭載)が反映されたSCRソフトウェアを搭載した、ディーゼル乗用車を製造・販売した。その結果、NOx低減効果を最大化できる尿素水噴射戦略を研究・開発できる可能性を自ら遮断した。
 
4 違法性の判断と措置の内容
 4社の行為は、より優れたNOx低減性能を発揮できるディーゼル乗用車の開発と発売を妨げた競争制限的な合意である。
 商品の種類、規格も競争の一要素であるという点において、市場の自由な競争によって決定されることが原則であり、事業者らが共同で商品の種類、規格を決定することは、事業者のイノベーションに対するインセンティブを減少させるだけでなく、消費者の選択権を制限する。
 4社が合意したフィードフォワード制御への切替えは、尿素水の消費量(噴射量)の減少を目的とすることにより、NOx低減性能を犠牲にする結果をもたらしたところ、これにより、4社は、単一噴射戦略の長所(NOx排出の最小化)は維持して欠点を克服できる、環境に優しいイノベーション技術の開発競争を共同で回避し、その結果、国内消費者がNOx低減性能に優れたエコカーを選択する機会が制限された。
 
 (適用法条) 旧「独占規制及び公正取引に関する法律」第19条第1項第6号(商品又は役務の生産・取引時にその商品又は役務の種類・規格を制限する行為 )
 
(措置内容)KFTCは、4社に是正命令(行為禁止指令)とともに、課徴金計423億ウォンを課すことを決定した。
 
<事業者別課徴金賦課内訳(暫定)>
(単位:百万ウォン)

 事業者名  メルセデス・
ベンツグループ
 BMW
 アウディ 
フォルクス
ワーゲン
 合計
 課徴金額
     20,743
 15,656
 5,973  
   ー 
 42,372
                                 
5 意義及び今後の計画
 本件措置は、乗用車の排出ガス低減技術の研究開発に関連する事業者らの合意をカルテルとして制裁した最初の事例であり、価格・数量だけでなく環境への優しさも競争の重要要素(Key competition parameter)として認めて、環境に優しい商品に対する消費者の選択権を拡大したという点に、その意義がある。
  特に、KFTCは、本件措置において、研究開発に関する合意を通じて、環境に優しいイノベーション技術の開発競争を回避する行為も公正取引法において禁止している競争制限的な合意になり得ることを明らかにした。
 
 一方、KFTCは、ドイツ語、英語で表記された証拠資料の解釈及びSCR技術に関する理解が求められる本件の特殊性を勘案し、事件の初期段階から本件を専担する事件担当者を指定して、長期間にわたって調査を進めた。
 KFTCは、3年半の期間中、約4万3千ページに及ぶ膨大な証拠資料を検討し、トルコ等の海外競争当局とも8回にわたる電話会議を実施する一方、環境省、国立環境科学院、自動車産業協会等の関連機関との積極的な協力により、外国事業者のカルテルが国内市場に及ぼす影響を成功裏に分析し、その違法性を立証した。
 今後、KFTCは、国内の消費者と企業に被害を与える国際カルテルに対する監視を強化し、摘発時には厳罰原則により厳重に措置する計画である。

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