2023年8月

その他

英国

CMA、日立レールによるタレスの陸上交通 (GTS) 事業の買収計画は、幹線鉄道及び都市鉄道向けのデジタル信号機システムの供給における競争を実質的に減殺するおそれがあると暫定的に認定

2023年6月8日 英国競争・市場庁 公表

原文

【概要】
 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、日立レール(以下「日立」という。)が提案する、仏タレスの陸上交通事業の17億ユーロでの買収計画は、幹線鉄道及び都市鉄道向けのデジタル信号機システムの供給における競争を実質的に減殺するおそれがあると暫定的に結論付けた。
 
 信号機システムは、鉄道インフラの中核をなすものであり、列車の動きを制御することで乗客の安全を維持し、鉄道網の容量を最大化することに貢献している。日立とタレスの陸上交通事業は、シーメンス及びアルストムと並んで、幹線鉄道及び都市鉄道網向けの信号機システムを供給する世界有数のサプライヤーである。
 
 英国の幹線鉄道向け信号機システムの主要な顧客であるネットワークレール(Network Rail)は、今後10年間で同国の鉄道信号機システムの大部分をアップグレードし、新しいデジタル技術を導入する予定である。また、英国最大の都市鉄道であるロンドン地下鉄を管理するロンドン交通局(TfL)も、同時期にロンドンの主要な地下鉄2路線の信号機システムの交換を開始する予定である。歴史的に、英国ではごく少数のサプライヤーが幹線鉄道と都市鉄道の両方の信号機システムの提供を支配してきた。
 
 CMAの独立した審査グループは、本件買収が幹線鉄道向け信号機システムに与える影響について検討し、タレスと日立が英国の幹線鉄道向け信号機プロジェクトを巡って競争するのに十分な地位を有していると暫定的に判断した。本件買収が実現すれば、幹線鉄道向けデジタル信号機システムの入札に参加する信頼できる入札者が少なくなるので、ネットワークレールのコストが上昇し、英国の鉄道網のデジタル化に悪影響を及ぼす可能性がある。
 
 また、 CMAは、非常に複雑なロンドン地下鉄の信号機システムに係る競争に対する影響も評価した。審査グループは、本件買収により、ロンドン地下鉄に信号機システムを提供している主要なプロバイダーであるタレスに対抗できる能力のある世界的なサプライヤーの数が限定的となり、英国、特にロンドンにおける将来の都市鉄道向け信号機システムに係る入札における競争が減殺される可能性があると暫定的に判断した。
 
 審査グループは、総合的に勘案し、本件買収が、競争相手が極めて少ない市場において、選択肢やオプションを狭め、競争を減殺する可能性が高く、ネットワークレールとロンドン地下鉄にとってより悪い結果をもたらし、ひいては乗客や納税者に不利益な影響をもたらす可能性があると暫定的に結論付けた。
 
 ステュアート・マッキントッシュCMA審査グループ長は、次のように述べた。
「英国の鉄道網は、交通網の円滑な運営と乗客の安全を確保する信号機システムの保守とアップグレードに毎年数百万ポンドを費やしている。当該市場における健全な競争は、イノベーションを支え、コストを抑えるために不可欠である。
 我々(CMA)は、本件買収が実施された場合、既に集中度が高い市場において、信号機システムのサプライヤーの数が減少し、その結果、競争が失われ、交通網と乗客がより悪い状況に陥る可能性があることを暫定的に明らかにした。
 乗客を保護し、より信頼性のある、効率的で近代的な鉄道を運営するという英国政府の目標を実現するため、我々の調査結果や、当事会社(日立及びタレス)が我々の懸念にどのように対処すべきかについて、意見募集を行う。」
 
 今後、CMAは、暫定的な審査結果と、英国における幹線鉄道及び都市鉄道の両方の信号機システムの供給において競争が確保されるためにあり得る今後の是正措置について意見募集を行う。この是正措置には、日立又はタレスが既存事業の一部を売却することを求めるものから、本件買収を全面的に禁止するものまで様々な可能性がある。

ドイツ

ドイツ連邦カルテル庁、グーグルが市場における重要な地位を占める非検索型オンライン広告に関する市場調査の最終報告書を発表

2023年5月31日 ドイツ連邦カルテル庁 公表

原文

原文(報告書の英語サマリー)

【概要】
 ドイツ連邦カルテル庁(以下「カルテル庁」という。)は、本日(2023年5月31日)、非検索型オンライン広告に関する市場調査の最終報告書を発表した。
 
 カルテル庁のアンドレアス・ムント長官は、次のように述べた。
「非検索型オンライン広告は、インターネット経済における多くのオンラインサービスプロバイダーにとって重要な収入源である。我々の市場調査は、オンライン広告枠の自動取引の非常に複雑なシステム及びその競争上の意義について、事実を明らかにし、情報を提供する上で重要な役割を果たすものである。」
 
 本市場調査は、非検索型オンライン広告枠の市場状況及び機能メカニズムに焦点を当てており、検索エンジンのクエリに応答して表示される広告 (検索連動型広告) は、対象ではない。
 
 非検索型オンライン広告の技術設計により、広告枠の非常に複雑な自動取引と、それに続く広告の表示及び検証 (プログラム広告) が可能になる。特にグーグルを有するアルファベットは、このシステム全体において重要な地位を占めている。アルファベットは、非検索型オンライン広告のバリューチェーンのほぼ全ての段階の事業を行っており、実質的に全ての関連サービス市場において非常に強力な地位を有している。アルファベットは、グーグル検索エンジンに基づく検索型オンライン広告市場でも重要な地位を占めているため、オンライン広告市場全体でも突出した地位を占めている。
 
 本市場調査により、プログラム広告の透明性が十分でないことも判明した。多くの市場関係者は、広告実績の有効性に関する情報を全く得られないため、広告がどの程度成功しているかを観察し評価することができないと不満を述べている。
 
 また、本市場は、ユーザーの視点から見ても不透明な状況である。ユーザーのデータは、プログラム広告の最も重要な基盤となっている。しかし、ユーザーが自らのデータに何が起こったのか、誰がデータを受け取り、どのように使用しているのかを評価することは、ほとんどできない。データ収集及び広告目的でのデータ使用を制限するために、いくつかの法的な政策提案がなされている。カルテル庁は、競争法の観点からこの問題を調査した。
 
 アンドレアス・ムント長官は、次のように述べた。
「我々は、特定の製品やサービスを購入するというだけの理由で、事実上情報が筒抜けのインターネットユーザーであることを維持したいのか、真剣に自問すべきである。競争の観点から見て特に問題と思われるのは、非常に少数の事業者だけが、様々な最新の直接的なユーザーデータにアクセスできることである。カルテル庁が介入するに当たっては、常にこのような不均衡について考慮しなければならない。本市場調査により、カルテル庁は、現在及び将来の事件審査に使用することができる貴重な見識を得た。今後、特に注目するのは、オンライン広告市場において重要な役割を果たす大規模デジタル事業者である。我々は、特に、アップルのApp Tracking Transparencyイニシアチブ及びアルファベットのデータを結合する行為が、ドイツ競争法 (GWB) 第19a条に基づき適用範囲が拡大された市場支配的地位の濫用防止規定に合致するものかどうかを現在検討している。」
 
 本日発表した最終報告書は、2022年8月に発表した意見募集のための報告書に続くものであり (2022年8月29日のプレスリリースを参照)、カルテル庁による市場関係者へのヒアリングや意見募集を通じて寄せられたコメントに基づき得られた見解を取りまとめている。また、最終報告書では、非検索型オンライン広告市場におけるいくつかの新しい展開についても議論している。



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