2023年9月

その他

フランス

フランス競争委員会、クラウド分野の競争に関する市場調査の最終報告書を公表

2023年6月29日 フランス競争委員会 公表(*)

原文(プレスリリース要約版)

原文(プレスリリース本文)

【概要】
 フランス競争委員会は、クラウドコンピューティング分野(以下「クラウド分野」という。)の競争状況に関する市場調査について、2022年1月27日に職権調査を開始し、2022年夏の中間報告書の発表後、様々な利害関係者からの意見に基づき協議してきたところ、本日(2023年6月29日)、最終報告書を発表した。
 クラウド分野は、経済のデジタル化の中心となる技術開発の一つであり、事業者の生産性向上と経済の価値創造の源である。
 
 最終報告書は、特にビジネスクライアント向けのITインフラストラクチャー(Infrastructure-as-a-Service:IaaS) (注1)及びプラットフォームサービス(Platform-as-a-Service:PaaS) (注2)に関連するクラウドのレイヤー(階層)に焦点を当てて調査している。また、報告書は、ソフトウェアサービス(Software-as-a-service:SaaS) (注3)を含むクラウド分野のバリューチェーン全体についても競争分析を行っている。
 
(注1)IaaSは、クラウド運営事業者がサーバーやストレージなどのITインフラストラクチャーをユーザーに提供する、最もアウトソーシングの少ないモデルである。
(注2)PaaSは、IaaSと後述のSaaSとの中間的なモデルであり、関連するインフラストラクチャーやプラットフォームを作成又は保守することなく、アプリケーションを開発するためのソフトウェアやツールのメリットをユーザーが享受できる環境を提供する。
(注3)SaaSは、最もアウトソーシングが多いモデルであり、ユーザーは、接続されている任意のデバイスから、クラウド運営事業者によって完全に管理されているアプリケーションに直接アクセスできる。
 
 このクラウド分野は、Amazon Web Services (AWS) 、Google Cloud及びMicrosoft Azureの3つのハイパースケーラー(注4)に支配されており、2021年のフランスの一般向けクラウドのインフラ及びアプリケーションへの支出の増加分の80%を占めている。アマゾン及びマイクロソフトは、2021年にIaaS及びPaaSからの収入のうち46%と17%をそれぞれ占めた。これらのハイパースケーラーの財務能力及び強大なデジタルエコシステムを勘案すると、これらの事業者は競争の発展を妨げる地位を有していると言える。
 
(注4)ハイパースケーラーは、一般的に他のデジタル市場で既に十分に業績のある、近年クラウドサービスを開発し始めた事業者である。豊富な資金力を有し、規模の経済の強さから恩恵を受けている。
 
 フランス競争委員会は、クラウド分野における潜在的な関連市場を分析する方法を提案するとともに、競争を制限する可能性のある既存の商慣行又は、この分野で実行される可能性のある多様な商慣行を分析している。
 
 例えば、クラウドクレジット(注5)及びエグレス料金(注6)などの特定のリスクは、クラウド分野の競争全体に影響を与えるものである。一方、事業者が新規にクラウドに移行する時、クラウドから直接自社のITシステムを構築する時、クラウドサービスプロバイダーを変更する時など特定のシナリオに当てはまるリスクもある。フランス競争委員会は、ハイパースケーラーの競合事業者の事業拡大を妨げる障壁に関連するリスクについても調査している。
 
(注5)クラウドクレジットとは、クラウドサービスプロバイダーの提供する融資サービスであり、多くの事業者、特にスタートアップ事業者にとっては、開発を妨げる可能性のある多額の投資を避けることができる。また、クラウドサービスプロバイダーにとっても、自社の技術を普及・採用の促進することができるもの。
(注6)エグレス料金とは、一部のクラウドサービスプロバイダー、特にハイパースケーラーが、別のプロバイダー(社内インフラストラクチャーやエンドユーザー)へのデータ転送に対してクライアントに請求する料金である。
 
 これらのリスクに対処するために、フランス競争委員会は、競争を保護する支配的地位の濫用、カルテル、経済的従属状態の濫用に係る規定や合併規制などの多様な規制手段を迅速かつ効果的に用いて、競争を保護することとしている。競争制限的な商慣習に関するフランスの規定も、このような問題に適切に対応するためのものである。
 さらに、フランス競争委員会は、欧州のデータ法案やフランスのデジタル規制法案などの策定議論中の法案で対応される可能性のある市場の失敗についても指摘している。
 
 フランス競争委員会は、将来、いくつかの進化がクラウド分野の競争に影響を与える可能性があると予測している。ここで言う進化とは、ChatGPTなどの大規模言語モデル(Large Language Models:LLM)、エッジコンピューティング、クラウドゲーム、サイバーセキュリティ、重要性が高まっている環境フットプリント(訳注:システムの稼働などで生じる環境負荷の見える化)などが挙げられる。競争当局は、大規模事業者がこれらの技術を開発している中小又は新規事業者の成長を妨げないように監視する必要がある。
 
(*)本件記事は、フランス競争委員会のプレスリリース要約版を訳したものであり、記事の中の各注の記載については、プレスリリース本体及び本件の関連発表文の該当部分を訳している。

ドイツ

ドイツ連邦カルテル庁、グーグルが同社の様々な車載サービスとグーグルマップを抱き合わせて販売していたとして、異議告知書を送付

2023年6月21日 ドイツ連邦カルテル庁 公表

原文

【概要】
 ドイツ連邦カルテル庁(以下「カルテル庁」という。)は、グーグル自動車サービス(Google Automotive Services (以下、「GAS」という。)) に関連するグーグルの行為に関する予備的な法的評価を米国・マウンテンビューに所在するアルファベット及びドイツ・ハンブルグに所在するグーグル・ドイツに送付した。カルテル庁は、審査手続の現段階においては、大規模デジタル事業者に対する新たな条項であるドイツ競争法 (以下「GWB」という。) 第19a条を適用することにより、グーグルの様々な反競争的行為を禁止する意向である。
 
 カルテル庁のアンドレアス・ムント長官は、次のように述べた。
「グーグルは、車載用インフォテインメントシステム(訳注:ナビゲーション情報及び娯楽情報を提供する車載用システム)向けサービスのライセンス供与に関して、現在の我々の見解では、GWBの新条項である第19a条に適合しない多くの商慣行を採用している。特に、グーグルが、インフォテインメントシステム向けサービスを抱き合わせのみで提供していることについては、競合他社が競合サービスを個別のサービスとして販売する機会を減少させているとして批判的に見ている。」
 
 GASは、グーグルが自動車メーカーにライセンスするサービスの集合体であり、地図サービスであるグーグルマップ、アプリストアであるグーグルプレイ及び音声アシスタントであるグーグルアシスタントで構成されている。GASは、グーグルが開発したアンドロイド版のAndroid Automotive Operating System (AAOS) 上で作動する。3つのサービス及びAAOS (GASインフォテインメント・プラットフォーム) を組み合わせることで、自動車向けの完全なインフォテインメントシステムが本質的に提供される。GASインフォテインメント・プラットフォームは、ドライバーをナビゲートし、メディアコンテンツへのアクセスを提供し、音声電話とメッセンジャーサービスの使用を可能にし、音声による自動車の機能の制御を可能にする。グーグルは、標準的な商慣行として、自動車メーカーに3つのサービスを抱き合わせでのみ提供し、ドライバーが他のサービスよりも3つのサービスを好むように、インフォテインメントシステムにおけるサービスの提供方法を定めている。
 
 カルテル庁の予備的評価によると、グーグルの行為は、GWBの新条項である第19a条の複数の要件を満たしている。カルテル庁は、同条に基づき、問題となっている行為が客観的に正当化されない限り、関係人に当該行為の取りやめを義務付けることができる。
 
 本件の場合、サービスの抱き合わせ行為は、競争に大きなリスクをもたらす可能性がある。なぜなら、グーグルは、当該行為をまだ競争的な市場において、自らの地位を拡大するために利用する可能性があるからである。
 また、グーグルが、グーグルアシスタントをGASインフォテインメント・プラットフォームにインストールする唯一の音声アシスタントとすることを条件に、グーグルアシスタントの使用によって発生する広告収入を共有する契約を一部の自動車メーカーと締結したことで、さらなる問題が発生する可能性がある。
 さらに、カルテル庁の予備的評価によると、GASのライセンス保持者は、グーグルが課した契約条項により、グーグルのサービスをデフォルトに設定するか、他のアプリケーションを表示する前にグーグル独自のサービスを表示することを義務付けられているため、競合他社の市場へのアクセスの障害となる可能性がある。このようなデフォルト設定は、代替サービスがほとんど認知されず、その結果、ほとんど使用されないリスクを伴う。グーグルは、既にモバイルデバイスにおいて、このような市場の地位を拡大し確保する行為を成功させている。
 最後に、カルテル庁の予備的評価によると、グーグルは、GASインフォテインメント・プラットフォーム上の同社のサービスとサードパーティーのサービスとの相互運用を妨害又は拒否することができる。その結果、グーグルマップのナビゲーションを制御する音声アシスタントなど、グーグルの競合他社が提供するサービスの機能の使用が制限されたり、全く使用できないことにもなる。
 
 現在、グーグルは、異議告知書に対して、事実及び法的な観点から意見書を提出することができる。
 
 一方、カルテル庁は、グーグルが定めたグーグルマップ・プラットフォームの利用規約が、GWB第19a条第2項の禁止規定にどの程度該当しているかについて審査を継続する (2022年6月21日のプレスリリースを参照) 。カルテル庁は、予備的評価に基づき、グーグルに、グーグルマップ・プラットフォームの地図サービスとサードパーティーの地図サービスの組み合わせの制限の禁止を命じることを検討している。これらの制限は、例えば、物流、輸送及び配送サービス事業者によって使用される地図サービスに関連するアプリケーション間の競争を妨げる可能性がある。また、これらの制限は、地図サービスプロバイダーが、グーグルマップの効果的な代替商品を開発することをより困難にするため、車載用インフォテインメントシステムに関するサービス間の競争に悪影響を及ぼす可能性がある。カルテル庁は、本件審査手続の当事者から意見を聴取し、現在、提供された意見を評価している。
 
 カルテル庁は、本件審査手続において、欧州委員会と緊密に協力している。欧州委員会は、現在、デジタル市場法 (DMA) を運用している。この法律は、2023年5月初めに施行され、大規模なオンラインプラットフォームを特別な濫用規制の対象としている。 

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