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英国

CMA、AI基盤モデルに関する調査報告書等を公表

2023年9月18日 英国競争・市場庁 公表

原文

【概要】
 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、本日(2023年9月18日)、AI基盤モデルの調査に基づく調査報告書を公表し、消費者保護及び健全な競争を確保することをAI基盤モデルの責任ある開発及び利用の中心にすることを目的とした原則案を提案した。
 
 AI基盤モデルは、広範な機能を持つAIシステムであり、より具体的で様々な目的に適合させることができる。最近のAI基盤モデルの開発と、いくつかのアプリケーション(ChatGPT及びOffice 365 Copilot(訳注:マイクロソフトが2023年3月に公表した書類やデータを自動的に作成・整理するAIソフト)等)の急速な調和は、AI基盤モデルがイノベーション及び経済成長に拍車をかける可能性を浮き彫りにしている。AI基盤モデルは、我々の生活や働き方のみならず、様々な産業を変革する可能性を秘めている。こうした変化は迅速に生じ、個人や企業、英国経済に大きな影響を与える可能性がある。
 
 CMAの報告書は、AI基盤モデルの開発及び利用が円滑に進めば、人々や企業がどのような利益を得ることができるかを強調している。それは、新しく優れた製品やサービス、情報への容易なアクセス、科学的で健全な革新、価格低下等を通じて行われ得る。また、AI基盤モデルがもたらす影響によって、より幅広い企業が競争を勝ち抜き、既存のマーケットリーダーに挑戦することができるようになるかもしれない。このような活発な競争及びイノベーションは、経済全体に利益をもたらし、生産性の向上及び経済成長をもたらすであろう。
 また、CMAが公表した報告書は、競争が弱かったり、(AI基盤モデルの)開発業者が消費者保護法を遵守しなかったりした場合、人々や企業が損害を被る可能性があると警告している。例えば、人々や企業は数多くの場面で虚偽情報やAIを利用した詐欺に晒されるかもしれない。長期的には、一握りの企業がAI基盤モデルを利用して市場支配力を得たり、その地位を強化したりすることによって、最良の製品やサービスが提供されなかったり、高い価格が請求されたりする可能性がある。
 著作権や知的財産権、オンライン上の安全性、データ保護、セキュリティなど、AI基盤モデルが提起する重要な問題は他にもあるが、これらは、競争及び消費者保護上の懸念に焦点を当てたCMAの調査範囲には含まれていない。
 
 本日、CMAが公表した7つの原則案は、AI基盤モデルの継続的な開発及び利用の指針を示し、AI基盤モデルがもたらすイノベーション及び成長の恩恵を、人々、企業及び経済が十分に享受できるようにすることを目的としている。また、これらの原則は、他のテクノロジー市場の発展から得た教訓と、それがAI基盤モデルの発展にどのように適用されるかを示している。
 原則案の具体的な内容は次のとおりである。
 
(1)説明責任
 AI基盤モデルの開発者及び普及担当者は、消費者に提供される成果物について説明責任を負うこと。
(2)アクセス
 不必要な制限を設けることなく、主要なインプットに継続的にアクセスできるようにすること。
(3)多様性
 オープン、クローズドを含むビジネスモデルの多様性を維持すること。
(4)選択肢
 事業者がAI基盤モデルの利用方法を決定できるよう、十分な選択肢を提供すること。
(5)柔軟性
 必要に応じて複数のAI基盤モデルを切替え、又は利用できる柔軟性を有すること。
(6)公正な取引
 反競争的な自己優遇、抱き合わせ、拘束条件付取引(bundling)などの反競争的行為を行わないこと。
(7)透明性
 AIが生成するコンテンツのリスクと限界に関する情報を消費者及び事業者に与え、十分な情報を得た上で選択することができるようにすること。
 
 今後数か月間、CMAは、英国内外の幅広い利害関係者が参加できる重要なプログラムを実施し、これらの原則をさらに発展させ、人々、企業及び経済の利益のために効果的な競争と消費者保護を促進するように、これらの極めて重要な市場の積極的な発展を支援するために協力する。
 
 カーデルCMAチーフエグゼクティブは、次のように述べた。
「AIが人々や企業の日常生活の一部となるスピードは劇的である。このテクノロジーは、生産性を飛躍的に向上させ、何百万もの日常業務を容易にする真の可能性を秘めている。しかし、明るい未来が当然来るとは言い切れず、AIの利用が、消費者の信頼を損なうような形で発展したり、市場支配力を行使する少数のプレーヤーによって支配されたりすることによって、経済全体に十分な恩恵が及ばないという現実的なリスクが残っている。
 CMAの役割は、強力な競争及び効果的な消費者保護を促進し、英国全土の人々及び企業に最良の結果をもたらす方法で、こうした市場の形成を支援することである。このような急速に発展している市場においては、問題の発生を待って是正措置を講じるのではなく、我々自身がその最前線に立つことが重要である。
 だからこそ、我々は本日、この新しい原則を提案し、AI基盤モデルの開発及び利用が競争を促進し、消費者を保護する形で確実に発展するよう、幅広い参加を求めるプログラムを開始したのである。我々の参加型のアプローチが、この新たな技術(AI基盤モデル)の可能性を最大限に引き出す一助となることを期待しているが、必要な場合には介入する用意がある。」
 原則がどのように受け止められ、適用されたのかを含め、CMAの考え方に関するアップデートは、2024年初めに公表される予定である。
 

CMA、マイクロソフトによるアクティビジョンの新たな買収計画を暫定的に承認

2023年9月22日 英国競争・市場庁 公表

原文

【概要】
 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、マイクロソフトによるアクティビジョンの新たな買収計画に関して、以前から残存する限定的な懸念事項を指摘してきたところ、マイクロソフトは、暫定的にこれらの問題に対処すると結論づけられる是正措置案(アクティビジョンによる仏ユービーアイソフト・エンターテインメントSA(以下「ユービーアイソフト」という。)へのクラウドゲーミングの権利売却)を提案した。CMAは、本日(2023年9月22日)、上記是正措置案はこれまでのCMAの懸念に実質的に対処するものであり、本件買収計画が承認される道が開かれた旨発表した。
 CMAは現在、最終決定を下す前に是正措置案について意見募集を行っている。
 
【新たな買収計画】
 CMAは、2023年4月、英国のクラウドストリーミング市場における競争を阻害するおそれがあるとして、マイクロソフトによるアクティビジョンの買収計画を差し止めた。その後、マイクロソフトは本年8月、修正した買収計画をCMAに届出した。
 新たな買収計画では、マイクロソフトはアクティビジョンが保有するクラウドストリーミング権を購入せず、代わりに独立した第三者であるユービーアイソフトに譲渡し、買収を完了するとされている。
 
 クラウドストリーミング権を先に譲渡することで、ユービーアイソフトはクラウドゲーミングサービスにコンテンツを提供する重要なサプライヤーとしての地位を確立し、アクティビジョンが独立したプレーヤーとして市場で果たしていた役割を再現することになる。
 
 当初の買収計画とは対照的に、マイクロソフトは、もはやアクティビジョンのコンテンツのクラウドストリーミング権を支配することはないため、アクティビジョンの主要コンテンツへのアクセスを自社のクラウドゲーミングサービスに制限したり、競合事業者がそれらのクラウドゲームにアクセスするのを排除したりする立場にはない。CMAが以前却下した是正措置とは異なり、ユービーアイソフトはアクティビジョンのゲームを消費者に直接提供することも、全てのクラウドゲームサービスプロバイダーに提供することも自由にできる。また、ユービーアイソフトとの契約では、マイクロソフトに対し、アクティビジョンのゲームをウィンドウズ以外のOSに移植すること、要望があればゲームエミュレータに適合させることを求めており、従来の是正措置のもう一つの主要な欠点に対処している。
 
【本日のCMAの決定】
 CMAは、修正した買収計画は、当初の買収計画に関して2023年4月にCMAが示した競争上の懸念に実質的に対処する重要な変更をもたらしたと考えている。
 特に、アクティビジョンのクラウドストリーミング権がユービーアイソフトに譲渡されることで、「コール オブ デューティ」、「オーバーウォッチ」、「ワールド オブ ウォークラフト」等のゲームを含むこの重要なコンテンツが、クラウドゲームに関してマイクロソフトの管理下に置かれることを防ぐことができる。従来、CMAは、マイクロソフトがクラウドゲームサービスにおいて強力な地位を築いており、アクティビジョンのコンテンツに対する支配力を利用して競争を阻害し、この地位を強化することができたと判断していた。しかし、新しい買収計画では、アクティビジョンのゲームのクラウドストリーミング権が独立したプレーヤーであるユービーアイソフトに譲渡され、クラウドゲーミング市場が今後数年間にわたり発展していく中で、オープンな競争が維持されることになる。
 
 以前の買収計画とは大きく異なり、修正された買収計画は、(CMAが示していた)大半の懸念に実質的に対処しているものの、ユービーアイソフトへのクラウドストリーミング権の譲渡における特定の条項が回避されたり、解除されたり、執行されない可能性があるとの懸念が限定的に残っている。
 これらの懸念に対処するため、マイクロソフトは、ユービーアイソフトに対するアクティビジョンのクラウドストリーミング権の譲渡に関する条件がCMAによって執行可能である旨を保証する是正措置案を提出した。CMAは、この追加的対策により、残る懸念が解消される見込みがあると暫定的に結論付けた。
 現在、CMAは、マイクロソフトが提案した是正措置案について10月6日までの意見募集を開始している。
 
 ラフティーCMAシニアディレクター(企業結合規制担当)は、次のように述べた。
「本件買収計画は、重要なゲームのクラウド上での配信に係る権利をマイクロソフトの管理下に置くのではなく、有力な独立したサプライヤーであるユービーアイソフトの手中に委ねるという、これまでとは大幅に異なる計画である。
 本件買収が適切に実施されるよう追加的対策が講じられることで、市場の構造が維持され、オープンな競争が今後もクラウドゲーミングの発展を形作ることを可能とし、英国のゲームユーザーはクラウドベースのマルチゲーム配信サービスなど、様々な方法でアクティビジョンのゲームにアクセスする機会を得ることができる。」
 
 カーデルCMAチーフエグゼクティブは、次のように述べた。
「CMAの立場は終始一貫しており、クラウドゲーミングにおける競争、イノベーション、選択肢が維持される場合にのみ、この買収計画を進めることができる。我々(CMA)の当初の差止めに対して、マイクロソフトは現在、当初示された懸念に対処するために必要な措置を講じ、買収計画を大幅に見直した。
 しかし、マイクロソフトが我々の最初の審査中にこの修正された買収計画を提示していれば、はるかに良かったであろう。今回のケースは、信頼できる効果的な是正措置案に関するオプションが存在するにもかかわらず、適切なタイミングでテーブルに乗せられなかった場合、当事会社が被る可能性のあるコスト、不確実性や遅れを物語っている。」

ニュージーランド

ニュージーランド政府、オンライン・ニュース・コンテンツの公正な取引を支援する法案を議会に提出

2023年8月31日 ニュージーランド政府 公表

原文

【概要】
 ニュージーランド政府は、ニュージーランドのニュース・メディアがニュース・コンテンツをオンラインで共有する際に、大手オンライン・テクノロジー企業から公正な扱いを受けるための支援制度を導入する。
 ウィリー・ジャクソン放送・メディア大臣は、次のように述べた。
「2022年12月に政府が法制化する意向を表明した後、デジタル・ニュース・メディアの公正な交渉法案を提出することができ、嬉しく思う。これは、ニュージーランドの自由で独立したニュース・メディアのエコシステムを支援するという我々の重要なコミットメントの一部である。
 本法案は、公正性を保証し、規模に関係なく、全てのニュース・メディアがその仕事に対して公正な対価を受け取れるようにするためのものであり、また、ニュージーランドのニュース・メディアが、重要な新しい収入源を確保するために、世界的なハイテク企業と対等な立場で交渉できるよう支援するものである。
 我々は、ニュージーランドのニュース・メディアがデジタルの未来において自立できるよう、公正な取引及び補償を望んでいる。ニュージーランドのニュース・メディアは現在、オンラインが主流であり、かつてない市場支配力を持つグローバル企業が支配する業界で事業を展開しているため、地元紙の未来が脅かされている。ニュース・メディアがこうしたプラットフォームと公正な商業的話合いをすることはますます難しくなっている。
 グーグルやメタのようなオンライン企業は、広告やその他のサービスを通じて収益を上げているが、ニュース作成者にはオンライン上のコンテンツ使用料を支払っていない。ニュース・メディア各社がニュース・コンテンツの対価をめぐって交渉しようとしても上手くいかないことが多い。」
 
 本法案は、ニュージーランドのニュース・メディアと、往々にして多国籍の大企業となっているオンライン・プラットフォームとの自主的な商業協定を締結することを奨励するものである。
 
 自主的な協定の締結に至らない場合、本法案は、企業間の合意を実現する公正な交渉プロセスの後ろ盾となる。
 
「成立している取引もある一方、地方、農村、マオリ、太平洋諸島、その他の小規模な出版社やニュース・メディアは、取引ができない可能性が高い。本法案は、コンテンツ制作に係る公正な取引を大手企業に交渉させることで、地元紙やラジオ局を支援するものである。」
 
「本法案は、ニュージーランドの全てのメディア関係者に取引を奨励し、ニュース・コンテンツをサイトで使用するオンライン・プラットフォームが、ニュース・メディアの規模に関わらず、交渉の場に参加することを保証することを目的としている。これらの大企業は、ニュージーランドの視聴者から何百万ドルもの利益を得ているので、ニュージーランドの事業者との交渉の場に参加し、公正な負担分を支払う時が来ている。」

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