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英国

CMA、環境サステナビリティに向けた事業者の取組を支援するガイダンスを公表

2023年10月12日 英国競争・市場庁 公表

原文

グリーン協定ガイダンス

【概要】
 大規模な意見募集手続の結果を踏まえ、本日(2023年10月12日)、英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)が公表した新たな「グリーン協定ガイダンス」(Green Agreements Guidance)は、気候変動や環境サステナビリティに取り組む事業者を支援するため、サプライチェーン中の同じ階層で事業を行う事業者間の環境サステナビリティ協定に競争法がどのように適用されるかを概説している。
 
 グリーン協定ガイダンス(正式には「環境サステナビリティ協定への1998年競争法の適用に関するガイダンス」という。)は、環境サステナビリティに関する取組において他の事業者と協力する際に、事業者がその情報を用いて自らの意思決定を行うために利用できる実践的な事例とともに、適用される主な原則を定めている。CMAは、同ガイダンスに沿った協定に対して競争法を執行することはないと説明している。また、気候変動協定がどのように考慮されるかについて取り上げた章もある。
 グリーン協定ガイダンスは、CMAが2022年3月に英国政府に提出した環境サステナビリティに関する提言に続くものである。同提言内で、CMAは、事業者が環境サステナビリティに関する目標の達成に向けて協力する際に、何が適法で、何が適法でないかがより明確になることを望んでいることを明らかにした。これを受け、今年(2023年)初頭、グリーン協定ガイダンスのドラフトについて意見募集手続を実施し、この最終版には幅広い関係者や事業者から寄せられた有益なコメントが反映されている。
 
 これは、本日、CMAが開始した、動画やロードマップを含むより広範な啓発キャンペーンの一環である。ロードマップは、グリーン協定ガイダンスの全文を読んだり、法的助言を求めたりする前の第一歩として、事業者が検討すべきことがわかるよう、様々なカテゴリーのリスクに焦点を当てている。例えば、ファッション業界において、衣料品に使用するサステナブルな素材の量を徐々に増やす目標を設定することに合意する際に、グリーン協定ガイダンスは、事業者が、合意内容について競争法に沿ったものであることを確信できるよう、どのように合意すべきかについて説明している。
 
 (訳注:それでも自己の企業行動の競争法上の評価如何に)疑問を抱いている事業者のために、CMAは、事業者や事業者団体、非政府組織、慈善団体が、提案された環境サステナビリティに関する取組について、非公式な助言を求めることができるオープンドア・ポリシーを運用している。
 
 カーデルCMAチーフエグゼクティブは、次のように述べた。
「我々(CMA)は、気候変動への取組と環境サステナビリティの促進が重要であり、そのための事業者に対する支援がCMAの優先事項であると認識している。そこで我々は、事業者間の連携を検討している全ての事業者が、法律に違反することなくグリーン目標(green goals)に合意する方法を理解できるよう、グリーン協定ガイダンスを策定した。
 同ガイダンスは以前よりも更に踏み込んだもので、気候変動への対応に真に貢献する協定が競争法の適用除外となる場合について、事業者に対して確実性を与えるものである。我々のオープンドア・ポリシーは、グリーン経済を促進するために事業者がどのように協力できるかについて、CMAが事業者に合わせた非公式のガイダンスを提供するために協力できることを意味する。」
 

CMA、マイクロソフトによるアクティビジョンの買収計画を条件付き承認

2023年10月13日 英国競争・市場庁 公表

原文

【概要】
 マイクロソフトによるアクティビジョンの買収計画について、2023年8月、マイクロソフトは、アクティビジョンのクラウドゲーミング権を仏ユービーアイソフトに譲渡するという譲歩(concession)を行った。この新たな買収計画により、今後15年間に制作されるアクティビジョンのPC及びコンソール向けコンテンツの全てのクラウドストリーミング権(欧州経済領域(EEA)域外でリリースする作品に限る。)が、コンテンツへの新たなアクセス方法を提供する野心的な計画を有する強力で独立した競合事業者の手に渡ることになる。
 
 この譲歩の結果、英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は本件買収計画について改めて審査することに合意し、2023年8月に新たな審査を開始した。本日(2023年10月13日)、CMAは同審査を終了するとともに、本件買収計画を承認した。
 
 この新たな買収計画により、クラウドゲーム市場が急成長する中、マイクロソフトがクラウドゲーム市場における競争を阻害することを阻止し、英国のクラウドゲームの顧客にとって、競争力のある価格及びサービスが維持されることになる。これにより、ユービーアイソフトはアクティビジョンのコンテンツを、マルチゲームのサブスクリプションサービスをはじめとしたあらゆるビジネスモデルにおいて提供できるようになる。また、クラウドゲームサービスプロバイダーがアクティビジョンのコンテンツにウィンドウズ以外のオペレーティングシステム(OS)を使用できるようになり、コスト削減及び効率化が実現する。
 
【決定】
 CMAは当初の審査において、マイクロソフトがクラウドゲームに関して既に強力な地位を占めていると判断し、買収計画を差し止めた。
 
 アクティビジョンのクラウドストリーミング権をユービーアイソフトに譲渡することで、コールオブデューティ(Call of Duty)等を含む重要な人気コンテンツの配信がマイクロソフトの管理下に置かれることを防ぐことができる。修正された買収計画は、当初CMAが抱いていた懸念に実質的に対処するものであった。   
 
 CMAは、新たな買収計画にも限定的な懸念が残っていることを明らかにしていたところ、マイクロソフトは、ユービーアイソフトに対するアクティビジョンのクラウドストリーミング権の譲渡に関する条件がCMAによって執行可能であることを保証する確約を提出した。
 
 CMAは、マイクロソフトによる上記確約について協議した結果、これにより、本件買収が適切に実施されるために必要なセーフティネットが提供されると評価している。
 
 カーデルCMAチーフエグゼクティブは、次のように述べた。
「CMAは、競争を阻害し、消費者及び企業に悪い結果をもたらす合併を断固として阻止する。 我々(CMA)は、政治的な影響を受けることなく判断を下し、企業のロビー活動によって判断が左右されることはない。 
 我々はマイクロソフトに対し、我々の懸念に包括的に対処しない限り、本件買収計画を阻止するという明確なメッセージを伝え、その姿勢を貫いた。
 アクティビジョンのクラウドストリーミング権をユービーアイソフトに売却することで、我々はマイクロソフトがこの重要で急速に発展している市場を掌握できないことを確認した。クラウドゲームが成長するにつれ、この介入によって、人々はより競争力のある価格、優れたサービス、より多くの選択肢を手に入れることができる。我々は、このような結果をもたらした世界唯一の競争当局である。 
 しかし、企業及びそのアドバイザーは、マイクロソフトが採った戦略がCMAと協働する方法ではなかったことを疑う必要はない。 マイクロソフトは、我々の最初の審査中に買収計画の見直しの機会があったにも関わらず、その代わりに、我々が単に上手くいかないと伝えた対策パッケージを主張し続けた。このように手続を引き延ばすことは、時間と金を浪費するだけである。」
 
 コールマンCMA調査グループ長は、次のように述べた。
「クラウドゲームは、ユーザーがゲームにアクセスするための重要な新しい方法であり、本件買収はその潜在的な発展を著しく損なう可能性がある。その点では、我々(CMA)と、欧州委員会や米国連邦取引委員会の見解は完全に一致している。我々が異なるのは、この問題をどのように解決するかという点である。我々は、当初、マイクロソフトから提示された、マイクロソフトの支配力が大きくなりすぎるような是正措置案を拒否した。
 現在、我々は、新旧作品を問わずアクティビジョンのゲームのクラウド配信をマイクロソフトから取り上げ、ゲームへのアクセス拡大に尽力する独立した事業者であるユービーアイソフトの手に委ねるという新たな買収計画を手中に収めている。 それは競争にとっても、消費者にとっても、経済成長にとっても望ましいことである。」

韓国

KFTC、サムスン電子に対し不利益な長期部品供給契約を強制したとしてブロードコムに制裁

2023年9月21日 韓国公正取引委員会 公表

原文(韓国語)

【概要】
 韓国公正取引委員会(以下「KFTC」という。)は、ブロードコム(注)が部品出荷の停止等の不公正な手段を通じて、サムスン電子に、部品供給に係る一方的に不利な長期契約(Long Term Agreement、以下「LTA」という。)の締結を強制して、不利益を与えた行為に対して、是正命令及び課徴金191億ウォン(暫定)を課すことを決定した。
 
(注)ブロードコム・インコーポレーテッド(米国本社)、ブロードコム・コーポレーション(アメリカ)、アバゴ・テクノロジーズ・インターナショナル・セールス・プライベート・リミテッド(シンガポール)及びアバゴ・テクノロジー・スコリア株式会社(韓国支社)を総称したもの。
 
 ブロードコムは、スマートフォン、タブレットPC等のスマート機器に使われる最先端、高性能の無線通信部品において圧倒的な市場シェアを有する半導体事業者である。当時、サムスン電子及びアップルは、プレミアムスマート機器市場において激しく競争している状況であり、サムスン電子らは、高価なプレミアムスマート機器に搭載される最先端、高性能の部品の多くをブロードコムに依存していた。しかし、2018年から一部の部品において競争が始まると、ブロードコムは、サムスン電子が競合事業者と取引することを防げて長期間の売上を確保しようと、事前に緻密な検討を経て、2019年12月、独占的な部品供給状況を利用した長期契約締結戦略を立てた。
 ブロードコムが事実上独占してきた市場の一部で競争が起こり始めた当時、サムスン電子は、部品調達の多元化政策を推進するため、LTA締結の意思を全く有しておらず、機会 費用や深刻な財政面の損失等を理由に、ブロードコムの要求を拒否し続けていた。このため、ブロードコムは、2020年2月から、サムスン電子に対する部品購入注文の承認の停止、出荷停止、技術支援の停止等の不公正な手段により、LTAを締結するよう圧力をかけた。
  サムスン電子は、出荷停止や購入注文の未承認等による深刻な供給障害により、2020年3月27日、①2021年から3年間、ブロードコムの部品を毎年最低7.6億ドル購入し、②実際の購入金額が7.6億ドルに達しない場合に差額を賠償する旨のLTAに署名した。
 ブロードコムは、当時、サムスン電子が部品調達の多元化戦略に沿って競合事業者の部品を一部採用すると、当該競合事業者を自己の「憎らしい競争相手(hated competitor)」(訳注:ブロードコムのCEOがサムスン電子の代表取締役に送った電子メールの中の表現。)と呼んで、サムスン電子に強い不満を表明し、それ以降、LTAが本格的に議論されるなど、本件は競合事業者を排除するために推進された。
 また、ブロードコムは、当時、サムスン電子に対する「購入注文承認の停止、出荷停止」の措置について、自ら「爆弾投下」、「核爆弾」に例え、「企業倫理に反する」サムスン電子に対する「脅迫」と考えるなど、サムスン電子が深刻な状況に直面することを認識していた。
 一方、サムスン電子は、当時、ブロードコムの出荷停止等の措置により、交渉において非常に不利であり、ブロードコムの一方的な要求を受け入れざるを得ない切迫した状況にあった。このようなサムスン電子の状況は、当時の「生産ラインの支障が懸念される」、「手持ちのカードがない」、「ブロードコムは急いではいないから、少しだけ待ってもらうように」旨のメール内容にもよく現れている。
 サムスン電子は、ブロードコムによって強制された本件LTAを履行するために、当初採用した競合他社製品をブロードコムの部品に切り換えた。また、購買対象ではない普及型モデルにまでブロードコムの部品を搭載し、翌年度の購入分を先に購入するなど、可能な手段を総動員して、8億ドルの部品を購入せざるを得なかった。
  これにより、サムスン電子は、2021年に発売したギャラクシーS21に、当初、競合事業者の部品を搭載することに決めていたものの、結局、これを断念してブロードコムの部品を採用せざるを得なくなるなど、部品調達の多元化戦略を持続できず、選択権が制限された。また、ブロードコムの部品は競合事業者のものよりも高価なため、単価の上昇による金銭的な不利益も発生した。
 また、LTAによってサムスン電子の部品選択権が制限されると、ブロードコムの競合事業者は、製品の価格及び性能によって正当に競争する機会を奪われた。また、長期的には、部品メーカーの投資インセンティブがなくなり、イノベーションが阻害され、消費者に被害が及ぶ状況を招いた。
 KFTCは、このようなブロードコムの行為が取引の相手方に対して優越的地位を濫用した行為に該当すると判断した。
  KFTCの今回の措置は、ブロードコムのような半導体分野のリーダー企業が自己の取引上の地位を不当に利用して取引の相手方に不利益を与え、関連市場における競争を制限する行為を禁止することにより、イノベーションの重要な基盤産業である半導体市場における公正な取引秩序を確立し、競争条件を整備した点で意義がある。
 特に、半導体市場は、スマート機器、自動車、ロボット、人工知能(AI)等の川下産業と半導体素材・部品・装備等の川上産業とが緊密に関連しており、隣接市場の状況の影響を受けやすいという点で、当該市場における公正な取引秩序の回復が関連市場にまで波及効果が及び得るという点で、更に意味を持つ。
 KFTCは、今後も、半導体等の重要な基盤産業分野における不公正行為の監視を継続し、違法行為については厳正に法を執行していく。

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