その他英国
マイクロソフトによるインフレクションAIの元従業員の雇用及び関連取決めに関する決定
2024年9月4日 英国競争・市場庁 公表【概要】1 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、マイクロソフトによるインフレクションAI(以下「インフレクション」という。)の一部資産の取得を含む後記の取引(インフレクションの従業員の雇用やライセンス契約の締結など)を審査した結果、CMAの企業結合審査の対象となる企業結合状態(relevant merger situation)であるものの、水平型企業結合における単独行動による競争制限効果(horizontal unilateral effects、以下「水平単独効果」という。)の結果として、競争の実質的減殺(substantial lessening of competition、以下「SLC」という。)の現実的可能性を生じさせるものではないと判断した。
2 2024年3月19日、マイクロソフトはインフレクションの元従業員数名を雇用したと発表したが、CMAは、この雇用は共同設立者2名を含むインフレクションのチームのほぼ全員であると把握していた。また、マイクロソフトは、この中核チームの雇用に加え、様々な手段により、インフレクションの知的財産を利用するための非独占的ライセンス契約など、一連の取決めをインフレクションと締結した。CMAは、このような様々な取引を「本件取引」と総称する。
3 CMAは、マイクロソフトを「取得者」(Acquirer)、本件取引の結果としてマイクロソフトが取得した資産を「取得対象」(Target Enterprise)とした。取得者と取得対象を合わせて「当事会社」とする。
【当事会社及びその製品・サービス】4 マイクロソフトは世界的なテクノロジー企業であり、人工知能(AI)について、基盤モデル(Foundation Model, 以下「FM」という。)の開発やチャットボットといった下流におけるAIアプリなど、様々なAI関連事業を行っている。また、マイクロソフトはOpenAIと長期のパートナーシップを結んでいる。本決定において示されている企業結合審査の対象範囲及びその実質的な分析のために、CMAはChatGPTなどのOpenAIの製品もマイクロソフトの事業活動に含まれるものとして扱った。これは、2019年のマイクロソフトによる最初のOpenAIへの投資によってマイクロソフトはOpenAIの方針に重大な影響を与えることが可能となったことに根拠を置いている(注1)。(注1)マイクロソフトとOpenAIの提携については、現在CMAによる審査中である。CMAは、当該提携がCMAの企業結合審査の対象となるかどうか及び英国における競争上の懸念を生じさせるかどうかについて、いかなる結論にも達していない。
5 本件取引以前、取得対象もFMを開発し、2023年5月から同社の主力製品であるAI搭載チャットボット「Pi」を英国で供給していた。また取得対象は、企業向けの「AIスタジオ事業」も行っていた。
6 CMAが詳細に調査した製品は以下のとおりである。① FM:幅広いタスクを実行するめに膨大なデータに基づき訓練された技術の一種 ② 消費者向けチャットボット:FMの上に構築され、ユーザーのプロンプト(入力、指示、質問)に対してテキスト、音声、画像又はコードで反応するもの
【本件企業結合を審査した理由】7 上記のマイクロソフト及び取得対象の重複する事業について検討した結果、本件においては、企業結合状態が発生したため、CMAは、本件取引が企業結合審査の対象となると結論付けた。審査対象となるかを評価するにあたり、CMAは以下の標準的な法的枠組みを適用した。
8 2002年企業法に基づく企業結合状態(relevant merger situation)の定義は、様々な取引や取決めを含んでいるところ、以下の3つの基準を満たすことを条件としている。① 2以上の「enterprise」(後記パラ9参照)が一体化する(cease to be distinct)こと② 英国における売上高テスト又は供給シェアテストのいずれかの基準を満たすこと③ 既に完了した企業結合の場合、(第二次審査に進むかどうかを決定する時点において)企業結合の実施又は重要な事実の通知のいずれか遅い方から4か月以内であること
9 上記8①の基準の評価において、CMAは、何が「enterprise」を構成するかを評価するため、標準的な枠組みを適用した。ここでいう「enterprise」とは、独立した法主体(legal entity)を意味するのではなく、事業活動又はその一部(the activity, or part of the activities of a business)を意味する。CMAは、本件において「enterprise」が一体となったかどうかを判断するため、マイクロソフトが本件取引を通じて取得した資産が、本件取引前におけるインフレクションの事業活動の少なくとも一部を構成しているかどうかを検討した。評価における重要な点は、関連する資産の組合せにより、本件取引前の取得対象の事業活動が、ある程度の経済的継続性を可能にするかどうかである。
10 「enterprise」を構成するためにあらかじめ決まった特定の資産の組合せはない。CMAのガイダンスに示されているように、特定の事業活動の継続を可能にする場合には、従業員グループとそのノウハウが含まれる可能性がある。
11 本件取引後、インフレクションのAIチームの大半はマイクロソフトに雇用され、マイクロソフトは、本件取引以前のインフレクションの事業活動に関するチーム全体のノウハウを取得し、マイクロソフトのAI事業をサポートし、成長させた。この分野のいかなる技術も、継続的な開発がなければすぐに陳腐化してしまうことを踏まえ、CMAはFMとチャットボットの開発及び供給における専門知識の重要性を指摘している。それ故、開発を担当するチームは、FMやチャットボットの開発を目指す事業の中核となっている。この観点から、CMAは、関連するノウハウを持つチームを取得することは、たとえそれ以外の資産がないとしても、CMAの企業結合審査の対象となる可能性があると考える。
12 マイクロソフトは、旧インフレクションの中核チームの雇用に加え、インフレクションの知的財産へのアクセスを含む追加資産も取得した。マイクロソフトは、コアチーム及び関連資産の取得を組み合わせることで、旧インフレクションチームが本件取引前の消費者向けAI製品の開発のためのインフレクション計画を、マイクロソフト内で継続することを可能としたため、これらを組み合わせたことが、本件取引価値の重要な鍵となった。
13 上記に基づき、CMAは、マイクロソフトがインフレクションの本件取引前のFM及びチャットボット開発能力を実質的に取得したと判断している。従って、CMAは、本件取引前のインフレクションの事業活動の少なくとも一部がマイクロソフトの支配下に入り、その結果、2つの「enterprises」が一体化し、本件取引はCMAの企業結合審査の対象となると判断した。
14 上記8②の基準を評価する際、CMAは、英国及び世界におけるマイクロソフト及び取得対象によるチャットボットの供給の重複する部分を基に、供給シェアテストの基準を満たすかどうかを検討した。2024年2月の英国における、マイクロソフトと取得対象の供給シェアは25%以上で、増分は0-5%であると考えられるため、CMA は供給シェアテストの基準は満たされていると考えている。
15 上記8③の基準に関しても、法定期限である 2024年9月20日の前に本件決定を行ったのでこれを満たす。
【本件取引による競争への影響】16 CMAは、本件取引が①消費者向けチャットボットの開発及び供給(世界市場)、②FMの開発及び供給(世界市場)における競争の実質的減殺につながるおそれがあるかを検討した。
〇 競争制限効果(theory of harm)1:消費者向けチャットボットの開発及び供給における競争の減少から生じる水平単独効果17 上記のとおり、マイクロソフト及び取得対象は、両者とも本件取引前から消費者向けチャットボットの開発及び供給を行っていた。CMAの評価の重要な部分は、①取得対象の供給する製品の長所と短所、②取得対象の計画及び製品開発プロセス(product development pipeline)の二つの側面で、当事会社がどの程度緊密な競争者であったかである。
18 CMAは、本件取引前、インフレクションが英国におけるチャットボット及び会話が可能なAIツールについて、非常に小さなシェアしか有していなかったと認めた。証拠によれば、Piは本件取引時、多くの競争事業者と同等の性能及び精度を有しており、感情的知性(EQ)に焦点を当てることにより差別化されていたにもかかわらず、マイクロソフトにより直接開発されたCopilot、又はオープンAIとの提携によるChatGPT、又はその他の競争事業者に対して、重要な競争上の制約となっていなかった。これらの競争事業者は、EQやその他の革新的な商品開発に関するインフレクションの能力を重大な競争上の制約とは考えていなかった。これは、取得対象が開発していた機能の多くは、消費者に評価される程度には競争事業者が容易に複製できるためであり、このことは取得対象が現在又は将来において重大な競争上の制約を及ぼす可能性のある革新的な商品開発の重要な源泉ではないことを示している他の証拠とも一致していた。加えて、CMAは、取得対象が競合他社から顧客を獲得し、また、その開発目標を実現するには、大きな課題に直面する可能性があったと考えた。
19 これらに基づき、CMAは、本件取引が消費者向けチャットボットの開発及び供給における競争の減少から生じる水平単独効果の結果として、競争の実質的減殺の現実的可能性を生じさせるものではないと判断した。
〇 競争制限効果(Theory of Harm)2:FMの開発及び供給における競争の減少から生じる水平単独効果20 CMAは、取得対象による企業向けAIスタジオ事業についての計画は初期段階であり、また、それは顧客企業の要求に応じたユースケース(use-case)基準を満たすために追加調整が可能なFMの開発及び供給を含む可能性があったと認識している。
21 取得対象による企業向けFMの開発及び供給は、消費者向けFMとほとんど同様に行われ、同じFM及び旧インフレクションチームにより開発された事後トレーニングFMを活用している。インフレクションの製品を利用する可能性のある潜在的顧客の中に、既存の競争事業者の製品より魅力的な機能があるとした者はいなかった。その上、企業向けに特化したFMを既に確立している事業者を含む取得対象の競争事業者は、積極的に開発中又は顧客の要望や嗜好に応じてFMを開発する能力を有している。このように、CMAは、取得対象のFM製品がマイクロソフトや他の企業向けFMの供給事業者にとって、競争上の制約となっていないと判断した。
22 これらに基づき、CMAは、本件取引がFMの開発及び供給における競争の減少から生じる水平単独効果の結果として、競争の実質的減殺の現実的可能性を生じさせるものではないと判断した。
1 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、マイクロソフトによるインフレクションAI(以下「インフレクション」という。)の一部資産の取得を含む後記の取引(インフレクションの従業員の雇用やライセンス契約の締結など)を審査した結果、CMAの企業結合審査の対象となる企業結合状態(relevant merger situation)であるものの、水平型企業結合における単独行動による競争制限効果(horizontal unilateral effects、以下「水平単独効果」という。)の結果として、競争の実質的減殺(substantial lessening of competition、以下「SLC」という。)の現実的可能性を生じさせるものではないと判断した。
CMA、グーグルのアドテク慣行は競争法違反の疑いがあるとして異議告知書を送付
2024年9月6日 英国競争・市場庁 公表【概要】1 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、9月6日、グーグルが自らのウェブサイトで広告スペースを提供するパブリッシャー向けの広告サーバー及び広告スペースを購入する広告主向け購入ツールの両方の運用を通じて支配的地位を濫用し、英国における競争を制限したと暫定的に認定し、同社に対し、異議告知書を送付した(注1)。これは、グーグルがどのように自身のアド・エクスチェンジを自己優遇し、競争環境を、ひいては広告主やパブリッシャーを害したか、に関するものである。CMAが現在行っている調査(注2)は、同様の懸念を調査している米国及びEUの当局と並行して行われている。
(注1)異議告知書は、1998年競争法の禁止事項に基づく侵害決定案を名宛人(本件の場合はグーグル)に通知するものである。名宛人は、異議告知書に記載された事項に関して意見を提出する機会が与えられ、当該意見提出は、最終決定が下される前にCMAによって検討される。(注2)本件は、英国内の取引に影響を及ぼす可能性のある支配的地位の濫用を禁止する1998年競争法第2章に関するものである。
2 CMAは、ウェブサイトにデジタル広告を掲載する際、大半のパブリッシャーと広告主が広告スペースの入札と販売のためにグーグルのアドテク・サービスを利用していることを暫定的に認定した。CMAは、グーグルがこの分野での優位性を積極的に利用して、自社のサービスを優遇していることを懸念している。グーグルは競合他社に不利益を与え、パブリッシャーや広告主のビジネスの成長をサポートする、より優れた、より競争力のあるサービスを提供するために、競合他社が同じ土俵で競争することを妨げているおそれがある。
3 CMAは、デジタル広告に関する2019年の市場調査で、広告主がアプリやウェブサイトを通じて英国の消費者に商品やサービスを販売するオープンディスプレイ広告に年間約18億ポンドを費やしていることを明らかにした。
4 CMAのジュリエット・エンサー暫定法執行局長(Interim Executive Director of Enforcement)は、次のように述べた。「我々は、人々がウェブサイトで見る広告に関して、グーグルがその市場力を利用して競争を妨げていることを暫定的に認定した。多くの企業は、オンライン広告を利用して収益を上げることで、デジタルコンテンツを無料又は安価で掲載している。こうしたウェブサイトやアプリの広告は、英国中の何百万という人々の目に触れるもので、商品やサービスの売買を助けている。だからこそ、この無料コンテンツを可能にするパブリッシャーや広告主が、デジタル広告枠の売買において、効果的な競争から利益を得て、公正な取引を行うことが非常に重要なのである。」
5 米国司法省と欧州委員会もそれぞれ、本件同様のアドテク分野におけるグーグルの慣行について調査をしているところである。
【オープンディスプレイ広告の「アドテク・スタック」とCMAの懸念について】6 一般に「アドテク・スタック」と呼ばれるデジタル広告テクノロジー分野は、「売り手」(パブリッシャー)と「買い手」(広告主)の間で、ウェブサイトやモバイルアプリ上のオンライン・オープンディスプレイ広告枠の販売に関わる様々な仲介業者から構成されている。
7 ユーザーがウェブサイトやアプリを開くと、ページ上にコンテンツがロードされる間、そのウェブページやアプリで、どの広告がそのユーザーに表示されるかを決定するために、ほぼ瞬時に一連のオークションと取引が行われる。このプロセスでは、入札のリクエストを送信し、それに応じて広告主の入札が様々な仲介業者の連鎖を通じて送信され、ウェブページ上のスペースと、そのスペースに最も高い額を支払う意思のある広告主がマッチングされる。
8 アドテク業界は、「アドテク・スタック」を形成する以下のような数多くのデジタルツールを提供している。① パブリッシャーアドサーバー(DFP)- パブリッシャーがウェブサイトやアプリの広告枠を管理するために使用。② 広告購入ツール(Google Ads及びDV360)- 広告主やメディアエージェンシーがディスプレイ広告を購入するために使用。③ アド・エクスチェンジ(AdX)- パブリッシャーと広告主がディスプレイ広告を売買するために、通常オークションを通じてリアルタイムで取引する場所。
9 オンライン・ディスプレイ広告の在庫は、主にプログラマティックに(自動化されたシステムやプロセスを通じて)販売されているが、少数ながら(アドテク・スタックの利用がより限定される)パブリッシャーと広告主との直接取引を通じて販売されているものもある。CMAの暫定的な調査結果は、プログラマティック取引に関するものである。
10 CMAの調査は、このプロセスの三つの重要な部分における仲介者としてのグーグルの役割に焦点を当てている。広告主向けには、グーグルは「Google Ads」と「DV360」として知られる二つの広告購入ツールを運営している。パブリッシャー向けには、「DoubleClick For Publishers」(DFP)として知られるパブリッシャー向けアドサーバーを運営している。アドテク・スタックの中心では、グーグルは「AdX」として知られるアド・エクスチェンジ(広告取引所)を運営している。アド・エクスチェンジは通常、パブリッシャーからの入札要求と広告主からの応札を受け、この両者をマッチングさせるオークションを行う。AdXは、グーグルがアドテク・スタックの中で最も高い手数料(入札額の約20%)を請求する場所である。
11 CMAの暫定調査結果は、グーグルによる反競争的な「自己優遇」に関するものである。CMAは、少なくとも2015年以降、グーグルがAdXの市場の地位を強化し、他の取引所との競争からAdXを保護するために、広告購入ツールとパブリッシャーアドサーバーの両方の運用を通じて支配的地位を濫用してきたと暫定的に認定した。さらに、グーグルのアドテク事業は高度に統合されているため、CMAは、グーグルの行為により、競合他社のパブリッシャー広告サーバーがDFPと効果的に競争することを妨げられ、この市場の競争が阻害されていると暫定的に認定した。
12 グーグルは、AdXに競争上の優位性を与え、グーグルの競合他社に不利益を与え、広告主やパブリッシャーの顧客の利益に反する様々な慣行を通じて、このような市場支配的地位の濫用行為を行ってきた。これらの慣行は、時間の経過とともに進化しており、以下を含む。① Google Adsのプラットフォームを利用する広告主に、AdXへの独占的又は優先的なアクセスを提供する。② 広告主の入札を操作し、AdXのオークションに参加した場合の方が、ライバル取引所のオークションに参加した場合よりも、入札額が高くなるようにする。③ DFPによって実施されるオンライン広告枠のオークションにおいて、AdXが最初に入札できるようにし、事実上AdXに「優先交渉権」を与える一方、競合他社は入札する機会が全くなくなる可能性がある。
13 CMAは、この反競争的行為が現在も継続中であることを暫定的に認定した。そのためCMAは、グーグルが反競争的行為を中止し、今後同様の行為を行わないようにするために何が必要かを検討している。CMAは今後、最終決定を下す前にグーグルからの意見を慎重に検討する。
14 CMAは、1998年競争法第2章(支配的地位の濫用の禁止)に違反したと認定された事業者に対して、全世界のグループ年間売上高の10%を上限とする制裁金を課すことができる。CMAは、違反の重大性、関連市場における売上高、緩和要因・加重要因など多くの要因を考慮し、制裁金額を算定する。CMAはまた、違反行為をやめさせるために法的拘束力のある命令を出すこともできる。
ドイツ
1 英国競争・市場庁(以下「CMA」という。)は、9月6日、グーグルが自らのウェブサイトで広告スペースを提供するパブリッシャー向けの広告サーバー及び広告スペースを購入する広告主向け購入ツールの両方の運用を通じて支配的地位を濫用し、英国における競争を制限したと暫定的に認定し、同社に対し、異議告知書を送付した(注1)。これは、グーグルがどのように自身のアド・エクスチェンジを自己優遇し、競争環境を、ひいては広告主やパブリッシャーを害したか、に関するものである。CMAが現在行っている調査(注2)は、同様の懸念を調査している米国及びEUの当局と並行して行われている。
ドイツ連邦カルテル庁、ドイツ競争法第19a条に基づく濫用規制の対象にマイクロソフトも指定
2024年9月30日 ドイツ連邦カルテル庁 公表
【概要】1 ドイツ連邦取引委員会(以下「カルテル庁」という。)は、米国レドモンドに本社を置くマイクロソフトが、ドイツ競争法(GWB)第19a条に基づく「市場全体の競争に卓越した重要性を持つ事業者」(paramount significance for competition across markets)であると認定した。したがって、マイクロソフト及びその子会社は、ドイツ競争法(GWB)第19a条の適用対象となる。カルテル庁は、この規定に基づき、そのような地位を持つ事業者が反競争的行為に関与することを禁止することができる。
2 アンドレアス・ムントカルテル庁長官は、次のように述べた。「マイクロソフトの多くの製品は、企業、当局、一般家庭に広く普及しており、不可欠なものとなっている。マイクロソフトの歴史はWindowsオペレーティング・システムから始まり、長年にわたって支配的な地位を築いてきた。これに加えて、Officeアプリケーションやその他多くのソフトウェア製品が、様々な方法で相互接続されている。今日、マイクロソフトのエコシステムは、かつてないほど強固で、密接に相互接続している。マイクロソフトの全ての活動を包括しているのはクラウド及びAI分野の利用増大であり、マイクロソフトはこの分野における自社製品の開発と協力関係の締結によって、確固たる地位を築いている。 我々の決定は、マイクロソフトの個々のサービスや製品だけでなく、同社の事業全体に適用される。マイクロソフトは、デジタル市場法(DMA)の下でゲートキーパーに適用されるEUの規定の対象にもなっているが、現段階では、欧州委員会が執行する規定は、Windowsオペレーティング・システム及びLinkedInネットワークのみに適用される。今回の決定によって、我々は、DMAの対象とならない反競争的行為も阻止することができる。」
3 マイクロソフトによって作成されたデジタル・エコシステムの中核は、特に多く方法で相互接続されている企業顧客向けの包括的で市場横断的な製品ポートフォリオ(cross-market portfolio)である。このポートフォリオは、顧客のニーズの大部分をカバーし、長年にわたり世界市場の標準となってきた多くの製品を含んでいる。マイクロソフトは、長年にわたり、Windowsオペレーティング・システムでPCオペレーティング・システム市場を独占してきた。さらにマイクロソフトは、サーバー・オペレーティング・システム(Windows server)や生産性ソフトウェア(Office製品、Microsoft 365)でも非常に強力な市場地位を確立している。当初、マイクロソフトはPCとサーバーからなるインフラに合わせた製品を提供していたが、現在はクラウドへの移行が進み、マイクロソフトは、AzureでAmazon Web Services(AWS)と並んで主導的な役割を果たしている。
4 マイクロソフトは、買収、自社開発、定評のある主力製品への新機能追加を通じて、継続的に自社の製品ポートフォリオを拡大してきた。マイクロソフトはまた、サードパーティの提供するサービスを統合することで、その一般的にオープンなシステムをさらに魅力的なものにしている。マイクロソフトは、様々な補完的製品を提供することにより、個別のサブマーケット(訳注:主力製品を補完する製品の市場など)のみで活動している競合他社に対して大きな優位性を持っている上、マイクロソフトのエコシステム内の製品間は技術的に相互接続されている。
5 マイクロソフトは、確立された強力な地位を基盤にして、新規市場への参入だけでなく、迅速に強力な市場地位を築くことにも常に成功してきた。その一例が、ビデオ会議や同僚との共同作業のためのソフトウェアであるTeamsの成功である。マイクロソフトはまた、ゲーム(Xbox)やプロフェッショナルネットワーキング(LinkedIn)といった新たな事業分野にも活動を拡大し、その資金力と他のリソースへのアクセスを駆使して、そこで強力な地位を確立し業績を上げ、世界で最も価値のある企業の一つとなっている。
6 マイクロソフトの主導的地位は、人工知能(AI)の分野にも及んでいる。AIアシスタント「Copilot」は、マイクロソフトのエコシステムの多くの部分で使用されている。マイクロソフトは、クラウド分野での強力な地位により、非常に革新的なサプライヤーとパートナーシップを結び、そのAIモデルをAzure上のサービスとして提供したり、自社製品に統合したりすることもできる。例えば、マイクロソフトはAIプログラム「ChatGPT」を開発したOpenAIと協力している(注1)。(注1)マイクロソフトとOpenAIの協力は合併規制の対象とはならないとした2023年11月15日付けカルテル庁プレスリリース参照。 https://www.bundeskartellamt.de/SharedDocs/Meldung/EN/Pressemitteilungen/2023/15_11_2023_Microsoft_OpenAI.html?nn=48916
7 今日、マイクロソフトの製品は、ドイツ、ヨーロッパ、その他の世界各地の主要なアプリケーションの分野において、企業、行政、個人ユーザー向けの標準を形成している。マイクロソフトは、企業が使用するITインフラの不可欠な部分を広く提供しており、これらはビジネスソフトウェア分野の他のアプリケーションの基礎も形成している。つまり、これらの分野のソフトウェア開発業者は、成功する製品を生み出すために、マイクロソフトのエコシステムと可能な限り最高の互換性を持たせて、マイクロソフトが設定したフレームワーク条件に沿った開発を行わなければならない。多くの場合、マイクロソフトは、サードパーティ製品開発者のためにフレームワーク条件を設定するだけでなく、サードパーティ製品開発者と競合するという二重の役割を担っている。
8 カルテル庁の決定の有効期限は、法令の規定に従って5年間に制限されている。マイクロソフトは、この期間中、GWB第19a条第2項に規定されるカルテル庁によるドイツ国内における特別な濫用規制の対象となる。マイクロソフトの特定の行為を調査するための手続の開始については、まだ決定されていない。
【背景】9 2021年1月、GWBの第10次改正(GWBデジタル化法)が施行された。新条項(GWB第19a条)により、カルテル庁は、特に大手デジタル企業の行為に対して、迅速かつより効果的に介入することができるようになった。本日のマイクロソフトに対する指定に先立ち、カルテル庁は既に、アルファベット(グーグル)、メタ(フェイスブック)、アマゾン、アップルを市場全体の競争に卓越した重要性を持つ事業者と指定する決定を行っている。アルファベット、メタ、アマゾンの指定については、カルテル庁の決定は既に確定している。アップルの指定については、連邦司法裁判所に上訴中である。また、カルテル庁は、指定事業者による具体的な行為に対して、幾つか審査を開始した案件があり、中には既に終了した案件もある(注2)。(注2)GWB第19a条に基づく係属中及び終了した訴訟の概要は以下のリンク参照。https://www.bundeskartellamt.de/SharedDocs/Publikation/EN/Downloads/List_proceedings_digital_companies.html?nn=48916
【概要】
1 ドイツ連邦取引委員会(以下「カルテル庁」という。)は、米国レドモンドに本社を置くマイクロソフトが、ドイツ競争法(GWB)第19a条に基づく「市場全体の競争に卓越した重要性を持つ事業者」(paramount significance for competition across markets)であると認定した。したがって、マイクロソフト及びその子会社は、ドイツ競争法(GWB)第19a条の適用対象となる。カルテル庁は、この規定に基づき、そのような地位を持つ事業者が反競争的行為に関与することを禁止することができる。