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ブラジル
ブラジル経済擁護行政委員会、労働分野において反競争的行為が行われた疑いで31社に対し、審査手続を開始
2024年10月8日 ブラジル経済擁護行政委員会
【概要】
2024年10月8日、ブラジル経済擁護行政委員会(以下「CADE」という。)の総監督局(SG)は、労働市場における反競争的行為を行った疑いで、バイエル、コカ・コーラなどの大企業及び日本企業を含む主に消費財メーカー31社に対して法律に基づく正式な審査手続を開始すると発表した。CADEが公表した審査開始の決定に係る調査内容を示した報告書(以下「報告書」という。)によると、今回の調査は、リニエンシー及びCADEのヒアリングにより行われた。CADEは、リニエンシーの署名者が提示した文書及び報告書(①各事業者の参加の度合い、②参加の特徴(積極性、一貫性、同時性)、③違反被疑行為への最近の関与を証明する文書など。)の分析を行い、反競争的行為に関与した疑いのある事業者31社(以下「関係事業者」という。)のリスト(バイエル、ネスレ、コカ・コーラ、コルゲート、ダノン、ヘンケル、日の出グループ、ニベア、ペプシコ、ユニリーバなどを含む。)を作成した。関係事業者は、競争上機微な情報の交換などを行い、ブラジルの労働市場における競争を阻害した疑いが持たれている。関係事業者は、30日以内に反証を提出することができる。
【報告書の概要】
1 本件調査では、主に消費財メーカーが行った労働市場に反競争的な影響を与える行為を対象としているが、この分野に限られるものではない。反競争的被疑行為は、遅くとも1994年から2021年初めまで続いたと見られている。
2 反競争的行為と疑われる競争上機微な情報の交換には、賃金、無料の食料クーポン、医療保険、生命保険、私的年金、各種ボーナス、将来の賃上げ計画などに関する情報の交換が含まれていると見られている。
3 関係事業者は、「消費財企業グループ」(Grupo de Empresas de Consumo(以下「GECON」という。))という団体を通じて、定期的な対面会議、オンライン会議、電子メール、WhatsAppグループなどにより、ブラジルの雇用分野の競争上機微な情報を体系的に交換した疑いが持たれており、これにより対象事業者の雇用分野の競争を阻害するおそれがある。
4 関係事業者による反競争的被疑行為は、ブラジルの労働市場における雇用者間の労働力の維持又は獲得の競争を制限し、妨げる効果を持つ可能性があり、特に全国規模の消費財メーカーなどが雇用する労働力の獲得競争に影響を及ぼす可能性がある。
5 ブラジル競争法は、憲法が定める自由な競争及び経済力の濫用の防止の規定に基づき、市場の競争力を確保し、ひいては消費者の価格を引き下げ、製品の多様性及び品質を向上させ、イノベーションを促進することを目的として、経済秩序に対する違反の防止及び処罰を規定している。労働市場にも同じ論理が当てはまる。企業が消費者に製品を購入させるために競争するのと同様に、企業は従業員を雇用又は維持するためにも競争する。この意味で、製品をめぐる競争が消費者により良い条件を提供するのと同様に、従業員の獲得・維持をめぐる雇用者間の競争は、より良い賃金条件と労働給付、そしてより大きな雇用機会につながる。
6 消費者のための競争は製品の販売競争であるが、被雇用者のための競争は、例えば原材料の購入競争と同じように、労働力の購入競争である。独占又は寡占という販売における市場支配力の行使が製品価格の上昇を引き起こし、消費者厚生を低下させる可能性があるのと同様に、雇用者は賃金コストを削減することによって増収を図るインセンティブがあり、買い手独占又は買い手寡占に当たる労働力の購入における市場支配力の行使もまた、労働者の労働条件及び賃金を人為的に制限する可能性がある。
7 競争法は伝統的に製品の販売市場により多く適用されてきたが、購入者も反競争的行為を行う可能性があるため、競争法は投入財の購入市場にも同様に適用される。このような考えの下、各国競争当局においても、労働市場における反競争的行為に対して調査の開始や法的措置が採られている事例も見られる。しかし、まだ、製品市場における競争法の適用と労働市場における競争法の適用の間には不均衡がみられる。
8 労働市場における買い手独占の力の行使は、場合によっては製品市場の消費者にも害を及ぼす。例えば、企業が製品市場と労働市場の両方で市場力を有している場合、労働市場での力の行使は、製品市場における生産量の低下につながる。さらに、企業が同じ製品市場で競争していなくても、消費者厚生の低下が続く可能性がある。
9 競争法は一般法であり労働市場にも適用され得るが、これまで製品市場における事例が多く、労働市場への適用に関する学説や判例の積み重ねが少ない。これは、憂慮すべき点である。なぜなら、競争法の適用を製品市場に集中する場合、利益最大化のために合理的な行動をとる企業は、労働市場も含めたその他の市場において収入の増大を図ろうとするからである。
10 各国当局の動き(ガイドラインの策定や審査の開始)を見ると、労働分野での買い手独占に対する懸念に、競争法の観点からも、もっと強く対処すべきとの認識が高まっている。
・米国では、司法省が2016年に「人事担当者のための反トラスト法ガイダンス」を公表し考え方を示している。
・日本では、公正取引委員会が2018年に競争政策研究センターから「人材と競争政策に関する検討会」報告書を公表している。
・英国では、2023年に競争・市場庁が「反競争的行為の回避のための雇用主に対する助言ガイダンス」を公表している。
・香港では、2018年に競争委員会が「雇用分野の競争上の問題」を公表している。
・ポルトガルでは、2021年に競争当局が「労働市場協定及び競争政策に関するイシューペーパー」を公表している。
・カナダでは、2023年に競争局が「賃金協定に関する執行ガイドライン」を公表している。
・OECDでは、2020年に事務局ペーパーとして「労働市場における競争上の懸念」を公表している。
11 ブラジルの労働市場では、労働者は賃金が低くても転職しにくい環境があり、雇用者が市場力を行使し、賃金やその他の労働条件を引き下げることが労働者を失うことなく容易にできる環境がある。ブラジルの労働市場で、多くの労働者は低スキル、低賃金で働いており、雇用者による市場力の行使に影響を受けやすい。
12 労働市場における水平合意(共謀のタイプ)は、以下の3つに分類できる。
①賃金取決め合意
②雇用しないことを取り決める合意
③競争のパラメーターとなる雇用条件を調整するための情報交換
報告書では、上記3つのタイプの共謀について、学説やOECDの報告書などの国際的議論についてまとめている。
ドイツ
ドイツ連邦カルテル庁、フェイスブックに対する調査を終結
2024年10月10日 ドイツ連邦カルテル庁 公表
【概要】
【概要】
1 ドイツ連邦カルテル庁(以下「カルテル庁」という。)は、フェイスブックに関する調査を終了した。この調査の結果、ソーシャルネットワークである「フェイスブック」のユーザーに対し、データの統合に関する選択肢を大幅に改善する措置が講じられた。
2 カルテル庁は、2019年2月、メタ(旧フェイスブック)が、ユーザーの同意なしに外部からのユーザーの個人情報を統合することを禁止した。メタはこの決定を不服として控訴した。数年にわたる法的手続が行われた間(2020年にドイツ連邦通常裁判所(注1)及び2023年の欧州司法裁判所は原則的な事項に関してカルテル庁の立場を容認。)、メタとカルテル庁もカルテル庁の決定を実施するための具体的な措置について集中的に交渉した。メタの是正措置は、現在、カルテル庁が本件を終結させるのに十分効果的なものであると判断されている。それを受けてメタは、デュッセルドルフ高等裁判所で係属中のカルテル庁の決定に対する控訴を取り下げた。この決定は最終的なものである。
(注1)https://www.jftc.go.jp/kokusai/kaigaiugoki/sonota/2020others/202008others.html
3 アンドレアス・ムントカルテル庁長官は、次のように述べた。
「我々の2019年のフェイスブックに対する決定は、今日でも画期的と言える。我々の決定の結果、メタはユーザーデータの取扱方法について非常に大きな変更を行った。主な変更点は、フェイスブックのサービスを利用する際に、フェイスブックの利用中に生成されたデータでなくても、メタが無制限にデータを収集し、そのデータをユーザーアカウントにリンクすることにユーザーが同意させられること、がなくなったことである。これは、インスタグラム等のメタが提供するサービスや、サードパーティのウェブサイトやアプリなどにも適用される。つまり、ユーザーは、自分のデータがどのように統合されるかについて、よりよくコントロールできるようになったのである。このような非常に具体的な改善に加え、カルテル庁の決定は、欧州司法裁判所による重要な画期的判決(注2)につながり、国内及び欧州レベルでの立法構想に影響を与えた。このことはまた、この分野における法的な明確性と、我々が介入できる手段という点で、現在の状況が5年前とは大きく異なっていることを意味している。」
(注2)https://curia.europa.eu/jcms/jcms/p1_4029629/en/
4 カルテル庁の決定以前は、フェイスブックが外部のサービスからもユーザーに関するデータを収集し、そのデータを関連するフェイスブックのアカウントにリンクさせることが許可されている場合にのみ、ソーシャルネットワークのフェイスブックを使用することができた。これには、メタが提供する他のサービス(インスタグラムなど)のデータや、サードパーティのアプリやサードパーティのウェブサイトから収集されたデータも含まれる。ユーザーには、ほぼ無制限に統合されるデータに同意するか、ソーシャルネットワークを全く利用しないかの選択肢しかなかった。カルテル庁は、これらの利用規約を禁止し、ユーザーの明確な同意がある場合にのみデータの統合が可能であると決定したが、同意をフェイスブックの利用条件とすることはできないとした(注3)。
(注3)
https://www.jftc.go.jp/kokusai/kaigaiugoki/sonota/2019others/201903others.html
5 今回、調査を終了する前に、メタとカルテル庁との間で集中的な協議が行われ、その間にメタはカルテル庁の決定を実施するために以下の措置を徐々に講じた、又は講じることに合意した。
(1) アカウントセンターを導入し、メタが提供するその他のサービスから収集したデータを分離(注4)
アカウントセンターでは、メタが提供するどのサービス(フェイスブック、インスタグラム等)に接続するかをユーザー自身が決めることができ、広告目的でもこれらのサービス間でデータを共有することをユーザー自身が許可できる。各サービスを個別に利用する場合でも、ユーザーエクスペリエンスの品質が大きく損なわれることはない。
(注4)
https://www.bundeskartellamt.de/SharedDocs/Meldung/EN/Pressemitteilungen/2023/07_06_2023_Meta_Daten.html
(2) フェイスブックのデータを他のデータから分離できる「クッキー」設定の導入
フェイスブックの「クッキー」設定では、自分のフェイスブックのデータについて、いわゆるビジネスツールを使ってメタがサードパーティのウェブサイトやアプリから収集したデータと統合することを許可するかどうかを、ユーザーが決めることができるようになった。これはインスタグラムにも適用される。
(3) フェイスブックログインに関する特別な例外
フェイスブックのデータを他のウェブサイトやアプリの使用中に収集されたデータと統合させないことを選択したユーザーは、フェイスブックログインの例外を設定することができ、その場合、サードパーティのアプリやサードパーティのウェブサイトでも、ユーザーはフェイスブックログインを引き続き使用できる。これまでユーザーは、フェイスブックログインを使用したい場合、全てのユーザーデータをサードパーティのアプリやウェブサイトのデータと統合することをメタに許可する必要があった。
(4) 簡潔で分かりやすいユーザー通知
メタのユーザーが関連する設定をすぐに見つけて、メタによる望ましくないデータの統合を防ぐために、過去にデータの統合に同意したことのあるユーザーには、フェイスブックにアクセスする際に目立つ通知が表示される。この通知には、新たに設計された同意オプションへの直接リンクが含まれている。
(5) ユーザーナビゲーション
メタは、データポリシーの冒頭に、ユーザーの選択肢を知らせる目立つ通知を追加した(注5)。これには簡単な説明と、アカウントセンター及び「クッキー」設定へのリンクが含まれている。
(注5)「私たちが使用する情報を管理する方法」
https://en-gb.facebook.com/privacy/policy/?entry_point=facebook_page_footer
(6) セキュリティ目的でのデータ統合の制限
フェイスブック又はインスタグラムにおけるユーザーの設定にかかわらず、メタはセキュリティ目的で利用データを保存し、統合することができるが、これは一時的なものであり、事前に定義された標準化された期間を超えないこととする。
6 ムント長官は、次のように述べた。
「これらのツールを総合すると、ユーザーは、他のメタが提供するサービス、サードパーティのアプリやウェブサイトから収集された個人データが自分のフェイスブックアカウントにリンクされる範囲について、よりよくコントロールができるようになる。」
7 上記の措置は既に実施されているか、今後数週間以内に実施される予定である。
8 今回、カルテル庁が調査を終了したという事実は、全ての競争法上の懸念が完全に排除されたことを意味するものではない。カルテル庁が調査を終了したのは、メタの措置がカルテル庁が裁量でメタに対する本件調査を終了するのに十分に適切な内容であると判断されたからである。また、必要に応じて他の当局が、EUにおけるメタのサービスの利用者のために更なる改善を達成するための効果的かつ適切な手段を自由に使えるからである。従って、上述の一連の是正措置に伴う今回の調査の終了は、メタがこれらの是正措置から生じる義務を遵守しているかどうかについての認定を意味するものではない。例えば、欧州委員会は現在、ユーザーが有効な同意を与えていない場合、いわゆるゲートキーパーの様々なサービス間でのデータの統合に対して法的措置を講じる権限を有している。これは、カルテル庁のフェイスブックに対する決定の基礎となった問題を利用したデジタル市場法の第5条第2項に規定されている。また、一般データ保護規則(General Data Protection Regulation、以下「GDPR」という。)を適用する際、データ保護当局は、実際に同意がどの程度自由に与えられているか、また、個々のサービス内を含むデータ処理が過剰でないかどうかをチェックすることができる。また、メタがユーザーのために利用規約をどのように設計するかについては、消費者保護規則も適用し得る。
9 競争法及びデータ保護法が提起する問題には、ある程度の類似性があるため、本件調査中、カルテル庁はデータ保護当局と定期的に意見交換を行った。さらに、カルテル庁は連邦情報セキュリティ庁(Bundesamt fur Sicherheit in der Informationstechnik、BSI)の技術的なサポートを受けた。ドイツ消費者団体連盟(Verbraucherzentrale Bundesverband、VZBV)も第三者として調査に関与した。
10 背景
(1) カルテル庁は、2019年2月6日、メタ(旧フェイスブック)に対し、ユーザーの同意なしに外部のソースからのユーザーデータを統合することを禁止する決定を下した。メタは、この決定を不服としてデュッセルドルフ高等裁判所に控訴した。2019年8月26日、同裁判所はメタの求めに応じ、決定の効力の中断を命じた。2020年6月23日、連邦通常裁判所はカルテル庁の求めに応じ同裁判所の決定を破棄し、カルテル庁の決定の効力中断を命じるメタの要請を却下した。2021年3月24日、デュッセルドルフ高等裁判所は特定の問題を欧州司法裁判所に付託し、同裁判所の決定が出るまで手続を一時停止した。欧州司法裁判所は、競争法に基づく決定において利害を比較検討する際に、カルテル庁もGDPRの規定を解釈することができるかどうかを明らかにすることになっていたところ、2023年7月4日の判決において、これを支持する判決を下した。当事者間の協議の結果、デュッセルドルフ高等裁判所における訴訟手続は、もはや積極的に進められることはなく、メタが控訴を取り下げることで終了した。
(2) ユーザーが広告なしでフェイスブックやインスタグラムを有料で利用することができるメタの「支払か、(個人データの収集・統合への)同意か」の(二者択一的な)モデルの合法性が現在議論されている。欧州の複数の消費者団体が各国のデータ保護当局に苦情を申し立てている。欧州データ保護委員会も2024年4月17日の声明で、このようなモデルを批判している。欧州委員会は、2024年3月7日から施行されているデジタル市場法にメタの「支払か同意か」モデルが準拠していない可能性が高いと判断し、2024年7月1日に予備的な調査結果をメタに通知した(注6)。
(注6)https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_24_3582