2014年10月

米国

連邦取引委員会,Pay-for-delay合意を行っていたとして,製薬会社アッヴィ及びベシンを提訴

2014年9月8日 連邦取引委員会 公表
原文

【概要】

 連邦取引委員会(以下「FTC」という。)は,米国の医療市場における競争を確保するための最新の措置として,ベストセラー新薬であるAndroGelのジェネリック薬への米国民のアクセスを違法に妨害したとして大手製薬会社らを連邦地方裁判所に提訴した旨公表した。
 訴状によれば,AbbVie Inc.(以下「アッヴィ」という。)及びその提携先であるBesins Healthcare Inc.(以下「ベシン」という。)は,テストステロン補充療法ジェル薬であるAndroGelのジェネリック薬の参入を遅らせるために,ジェネリック薬を製造する潜在的な競争事業者に対し,根拠のない特許侵害訴訟を提起した。当該訴訟の係属中に,アッヴィは,ジェネリック薬との競争を更に遅らせるため,Teva Pharmaceuticals USA, Inc.(以下「テバ」という。)と反競争的なpay-for-delay合意を締結した。
 FTCは,被告人の行為がFTC法に違反しているとの宣告,被告人に対する不当利得返還命令,被告人による同様の反競争的行為についての将来にわたる禁止についての判決を求めている。
 AndroGelは,テストステロン値の低い男性に対して用いられるテストステロン補充療法ジェル薬として認可された話題の医療用ジェルであり,米国における年間売上高は10億ドル以上である。
 FTCの提訴の主要点は,次の2つの反競争的行為の疑いである。
 [1] アッヴィ及びベシンは,AndroGelのジェネリック薬のFDA(米国食品医薬品局)による承認を遅らせ,ブランド薬である自社の製品に係る独占的な利益を拡大するために,ジェネリック薬を製造するテバ及びペリゴ社に対する根拠のない特許侵害訴訟を提起した。これはアッヴィ及びベシンによる独占化を図る行為である。
 [2] テバは,アッヴィ及びベシンに反訴を提起して当該訴訟は根拠がないと主張した後,反訴を取り下げ,テストステロン補充療法ジェル薬市場に参入しない見返りに,アッヴィから違法な支払を受けた。これはアッヴィ及びテバによる不当な取引制限行為である。
 本件偽装特許侵害訴訟で問題となっているのは,ブランド薬AndroGelのミリスチル酸イソプロピル(以下「IPM」という。)という成分である。IPMは,皮ふや血流を通じて薬の有効成分であるテストステロンの循環を促進させることから,「浸透促進剤」として知られている。FTCの訴状によれば,ブランド薬AndroGelの特許は,IPMを浸透促進剤として使用するという製法に係る製剤特許に過ぎない。
 テバ及びペリゴ社は,AndroGelで用いられるIPMとは別の浸透促進剤を使用したIPMを含まないテストステロン補充療法ジェル薬を開発したにもかかわらず,両社に対して,アッヴィ及びベシンが特許侵害訴訟を提起した。テバ及びペリゴ社のテストステロン補充療法ジェル薬市場への参入を認可するFDAの権限は,当該訴訟が提起されたことにより,連邦法に基づき,特許侵害訴訟請求の内容のいかんにかかわらず30か月の自動停止となった。
 テバ及びペリゴ社の浸透促進剤はIPMと同等のものであり,限定的なAndroGelの製剤特許に抵触しているとのアッヴィ及びベシンの主張は,合理的根拠がない旨FTCは主張している。事実として,アッヴィ及びベシンは,特許商標庁からAndroGelの特許承認を得る際に,それらの浸透促進剤に対する主張を放棄していた。
 アッヴィの前身である事業者は,ペリゴ社がFDAにAndroGelのジェネリック薬の承認を申請するちょうど2年前に,ペリゴ社に対し本件と同様の訴訟を提起しないことを公表した。アッヴィ及びベシンがテバを提訴した際,テバは,反トラスト法に基づき反訴を提起して当該訴訟は根拠がないと主張したが,その後,テバは,競争するよりもアッヴィと合意してAndroGelの独占による利益を分け合った方が利益になることに気が付いた。テバは,当該合意に基づいて,反訴を取り下げ,指定期日までAndroGelのジェネリック薬の市場に参入しないことに同意した。アッヴィは,その見返りに,AndroGelとは無関係の製品(2011年の米国における売上が10億ドル以上であったTricorと称するコレステロール薬)を包括的に販売する権利を認めるという形でテバに利益を与えた。
 全体的に見れば,本件反競争的行為は,自社のブランド薬AndroGelと,テバ及びペリゴ社によるジェネリック薬との競争を回避し,アッヴィ及びベシンの独占による利益を長期にわたって維持するものであった。

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