米国
米国司法省,米国の半導体製造装置の製造販売業者ラム・リサーチ・コーポレーションと米国の半導体計測・検査装置の製造販売業者ケーエルエー・テンコール・コーポレーションが,同省が競争上の懸念を指摘したことを受け,企業結合計画を断念した旨を公表
2016年10月5日 米国司法省 公表
原文
【概要】
ラム・リサーチ・コーポレーション及びケーエルエー・テンコール・コーポレーションは,司法省から両社の企業結合計画について競争を侵害するおそれがあると深刻に懸念している旨指摘されたことを受け,当該計画を断念した。
司法省ヘッセ反トラスト局長は,「半導体産業におけるイノベーションはアメリカ経済にとって極めて重要であり,提案された企業結合計画が実現されれば,結合後の企業が,競争事業者による先進的なエッジ製造装置や半導体プロセス技術のタイムリーな開発を妨げることができるようになるおそれがある。」と述べている。
本件企業結合計画は,半導体製造装置の主要な供給事業者と半導体計測・検査装置の主要な供給事業者が統合するものである。
計測・検査技術は,半導体製造装置やプロセス技術の開発において,その重要性を増してきている。(したがって)ケーエルエー・テンコールが複数の計測・検査市場において主要な地位を占めていることを踏まえれば,ラム・リサーチ・コーポレーションが,ケーエルエー・テンコールの設備や関連サービスのタイムリーな利用を制限することで,競争事業者の事業活動を排除することが可能となる。
本件調査にあたり,司法省反トラスト局は韓国公正取引委員会,日本の公正取引委員会及び中国商務部と連携した。
連邦取引委員会,パテント・アサーション・エンティティ(PAEs)の活動に関する調査報告書を公表,特許訴訟の改革を勧告
2016年10月6日 連邦取引委員会 公表
原文
【概要】
連邦取引委員会(以下「FTC」という。)が公表した新たな報告書では,第三者から特許を取得し,侵害の疑いがある者との間でライセンス契約を結ぶか,又はその者に対して訴訟を起こすことによって利益を上げるパテント・アサーション・エンティティ(以下「PAEs」という。)の事業活動に焦点を当てている。
FTCのラミレス委員長は「この報告書はPAEsに対する理解を深める上で大きな前進で,今後の政策論に対して実証的な基盤を提供するものである。また,本報告書で示される勧告は,特許保有者のニーズと嫌がらせ目的の訴訟(nuisance litigation)の削減という二つの目標のバランスを図ることを目的としている。」と述べた。
報告書は,22件のPAEs,327件のPAE関連会社及び2100件の特許保有主体(特許権を主張しなかった主体)に関して,連邦取引委員会法6条(b)の権限を用いて取得した,2009年から2014年の間の非公開情報データを精査している。
報告書は,明らかに異なるビジネスモデルを用いる二つのタイプのPAEsを確認した。一つ目のタイプは,報告書で「ポートフォリオ型PAEs」と呼ばれるもので,多額の資本を有し,特許を現金で購入する。そして,100万ドルを上回る膨大な規模の特許ポートフォリオを背景として,様々なライセンス交渉を行っている。
二つ目の,より一般的なタイプのものは,本報告書で「訴訟型PAEs」と呼ばれるもので,(特許の元の所有者と)収益分配契約を結ぶことで特許を取得するケースが多い。このタイプのPAEsは,ライセンスを保全する前に侵害訴訟を起こすケースが圧倒的に多く,かつ,その場合,価値の低い,少数の特許に関するものの場合が一般的である。
報告書は,調査対象PAEsのうち,訴訟型のものが全ての特許侵害訴訟の96パーセントを占めるものの,報告されたPAEの全収益の約20パーセントを占めるにすぎない。また,報告書は,訴訟型PAEsと結ばれたライセンス契約の93パーセントは侵害訴訟の結果であるのに対し,ポートフォリオ型PAEsではそれが29パーセントにとどまるとしている。
報告書では,一般的に訴訟型PAEがライセンスを通じて得たライセンス料は訴訟に要する初期費用を下回るとしている。この数字は,被告側の会社が,実際に侵害している可能性より訴訟費用を考えて和解を決めることを意味し,迷惑侵害訴訟の場合と一致する。
報告書は,FTCは,侵害訴訟が特許権を保護する上で重要な役割を果たしており,また,堅牢な司法制度は特許法の尊重を促進するものであるとの認識を明記する一方,迷惑侵害訴訟は司法資源に重い負担をかけ,(当事者の)関心を生産的な事業活動からそらせることになるとする。そして,これらのバランスを踏まえ,FTCは報告書で以下の改革を提案している。
・ 侵害訴訟における原告PAEと被告の間における,ディスカバリーに要する費用のアンバランスを解消する。
・ 侵害訴訟を提起する原告に関する詳細な情報を裁判所と被告に提供する。
・ 被告に提起された複数の訴訟がいずれも同じ侵害理由(theory of infringement)に基づくものである場合にはそれらを併合する。
・ 裁判所が,特許訴訟において更に詳細な訴答を引き続き求める場合においては,上記の侵害理由についての十分な告知を行う。
報告書は,PAEsによって保有される特許の種類を検討したところ,88パーセントは情報通信技術分野のものであり,また,75パーセント以上は,ソフトウェア関連特許であったとしている。
報告書はまた,いわゆる大量の「警告状」(demand letters)を送付する行為が利益を生んでいるか検討したところ,低収益でライセンスを行うPAEsについては,大量の「警告状」を送付する行為を行ってはいない事実が認められた。
PAEsの活動と特許を主張する他の企業の活動がどのように異なるのか比較し,理解を深めるため,報告書では,無線チップセットセクターにおけるPAEsの活動を,一般のメーカー及び技術の開発と移転を主としている非訴訟型(以下「NPEs」という。)の活動と比較している。なお,このためにFTCはメーカー8社及びNPE5件から非公開情報の提供を得た。
無線チップセット分野のケーススタディによれば,訴訟型PAEとメーカーとでは特許訴訟について異なる振舞いが認められた。研究によれば,訴訟型PAEが提起した侵害訴訟の件数は,メーカー,NPEs,ポートフォリオPAEsの件数を合算したもののおおむね2.5倍であった。また,訴訟型PAEの場合には,ライセンスは一括払いの制限のない単純なものが一般的なのに対して,メーカーの場合には,特許の利用分野制限,クロスライセンス,複雑な支払い条件などを伴うものが多かった。
新しい報告書は,2003年の報告書で始まり,2011年の報告書で引き継がれた特許政策に対する委員会の関与を更に推し進めるものである。
米国司法省及び連邦取引委員会,人事担当者向けに,人材の雇用と補償に対する反トラスト法の適用についての指針を公表
2016年10月20日 米国司法省及び連邦取引委員会 公表
原文
米国司法省
連邦取引委員会
【概要】
本指針は競争制限行為からの労働者の保護の助けとなることを目的としたものであるとともに,あからさまな賃金協定や引き抜き禁止協定に対して,司法省は刑事訴追することを企業に周知している。
本日,司法省反トラスト局及び連邦取引委員会は,雇用や報酬決定に関与する人事担当者等のための指針を公表した。人事担当者は,自社の雇用慣行が法律に準拠していることを確認するために最適な立場にあることが多い。本指針は,そのような担当者に,反トラスト法が雇用の分野にどのように適用されるかを周知するものである。労働者は,自らの雇用に関して競争的な市場の恩恵を受ける権利を有する。通常,従業員の募集や雇用面で競合する企業が,賃金その他の雇用条件についての調整に合意し,又はいわゆる「引き抜き禁止協定」を締結し,相手方の従業員に対するリクルートをしない旨を取り決めれば,従業員は不利益を被る。
今後,司法省は,雇用者間の合法的な協定と関係しない又は必要とされない,あからさまな「相互引き抜き禁止」協定や賃金カルテルに対しては刑事事件として捜査を進めるものとする。この種類の合意は,商品の価格や顧客への販売の制限に係る合意と同様,競争を排除する,損害の回復が難しいハードコアカルテルであり,従来から刑事事件として捜査,訴追されてきている。これらの合意が仮に犯罪行為を構成しなくても,両当局が所管する法令の下で,行政上の責任を問われる可能性がある。
本指針は,競合する雇用者との間で,給与に関する情報などの機微にわたる情報を,直接又は第三者を介して共有することに関する企業の意思決定について,どのように反トラスト法が適用されるかについても論じている。情報共有を行う場合は,競争を阻害しないような慎重な配慮を行わない限り,反トラスト法に違反する可能性がある。
今回の両当局共同での指針は,人事担当者が日常業務で直面する可能性のある様々な状況に反トラスト法がどのように適用されるか解説している。両当局は,人事担当者などの反トラスト法に違反するおそれのある情報に接する立場にある者に対し,司法省反トラスト局市民申告センター又は連邦取引委員会競争局とコンタクトを取るよう促している。
両当局は,指針の内容を要約したクイックリファレンスカードも公表している。このカードには,人事担当者が日々の業務で参照できるよう,反トラスト法上注意すべき行為がまとめられている。そこに記されたものが網羅的というわけではないし,また,直ちに違反と判断されるものではないが,カードに記載されたシナリオに当てはまる場合は,特に注意して対応すべきである。そうすることで,人事担当者は従業員と消費者を保護し,競争的な雇用市場を保障するため重要な役割を担うことができる。