米国

連邦取引委員会オールハウゼン委員長代理,「市場参加者によるコンピュータアルゴリズムを用いた意思決定の自動化」とのテーマで講演

2017年5月23日 連邦取引委員会 公表
原文

【概要】

 連邦取引委員会のモーリーン・オールハウゼン委員長代理は,2017年3月17日に,英国オックスフォード大学競争法センターで,アルゴリズムを用いた価格設定と反トラスト法の問題について講演を行った。概要は以下のとおり。

 競争法の執行機関は,新たな形の反競争行為に対して常に注意を払わなければならないが,アルゴリズムに対する懸念は若干杞憂に過ぎると思われる。アルゴリズムの使用が拡大することは反トラスト法の観点からよく知られた問題を提起する。反トラスト法の分析枠組みは十分に柔軟で頑強であることから,アルゴリズムの広範な使用に関する懸念に十分対応できることを以下で説明する。

単独企業のアルゴリズムの利用

 単独の企業が,複雑なアルゴリズムを使用し,様々な市場の状況を観察,対応し,即座に価格を設定するという,最も簡単な問題から説明する。
 市場参加者にとって,競合他社が看板に提示する価格を裸眼で見ることが困難な場合,その価格を快適なオフィスで読み取るために双眼鏡を購入するかもしれない。双眼鏡は,市場参加者が市場の状況をより迅速に把握し,それに対応することを容易にする。双眼鏡が市場の透明性を高め,それによって暗黙の協調が日常的かつ容易に行えることは間違いない。しかし,企業が市場の状況を理解し,価格を最適化するからといって,その能力を執行機関が反トラスト法を用いて規制することはない。
 私たちは,双眼鏡が競合他社の行動の理解を容易にすることを認識し,その事実を,将来この区域における合併を評価する際の考慮要素にする可能性はある。しかし,私たちは双眼鏡の使用が意識的並行行為を容易にするからといって,その使用を禁止はしない。(市場参加者が)市場の状況をよりよく理解し,それに対して単独で取り組む努力は,経済が良好に機能するために重要なことであり,少なくとも,(アルゴリズムという)新たなツールに対応するために,反トラスト法に新たなルールが必要となるわけではない。

複数の企業によるアルゴリズムの使用

 (1) 共謀手段としてのアルゴリズムの利用
 競合する複数の企業(競争企業)がアルゴリズムを利用して価格を決める場合,少なくとも表面的には,少し話が面白くなる。理論上,これらのシステムを用いることで,競争企業は執行機関にとって発見が困難な方法で情報交換をすることが可能となる。
 このシナリオでは,アルゴリズムがある種のシグナルを市場に発するようにプログラムされ,同様のアルゴリズムを用いる競争企業だけがそのシグナルを検出することができる。このシグナルを用いることで,競争企業は価格や生産水準に関して合意を形成する。経営者は依然として意思の連絡を行っているが,アルゴリズムを用いて(執行機関の)レーダーをかい潜る(fly under the radar)ため,違法な合意が執行機関によって発見されるのを免れることができる。
 このシナリオは,最初こそ風変わりで驚かれたが,実際は反トラスト法上のよく知られた問題である。競争企業が意思の連絡のために用いる技術の種類は,法的な分析には無関係だからである。それが電話であっても,テキストメッセージ,アルゴリズム又はモールス信号であっても背景にある法的なルールは同じであり,競争企業同士が価格を拘束する行為は常に違法である。

 (2)共謀のハブとしてのアルゴリズム
 アルゴリズムが,(1)のような明らかに不正な方法で用いられるのではなく,価格に関する機密情報の仲介手段として用いられる場合はどうなるのか。競争企業が,同じ外部エージェント(ベンダー)に自社製品の価格決定を委託する場合を考える。このベンダーは,アルゴリズムを用いて価格を設定するサービスを提供している。各企業は自社の価格戦略をこのベンダーに伝え,このベンダーは委託元の企業の価格戦略を踏まえてアルゴリズムをプログラムする。しかし,このベンダーは,各競争企業の価格設定戦略に関する機密情報を持っているため,産業全体で価格を最大化するようにアルゴリズムをプログラムすることができる。実際には,競争企業が,直接,それぞれの価格戦略を共有することはない。しかし,依然として価格戦略に関する情報は共有されることとなり,市場全体の価格を最大化するためにそれらの戦略が使用されることになる。
 これは,ハブアンドスポーク型の共謀という古臭い名前で呼ばれる,反トラスト法の法律家には非常によく知られた問題である。反トラスト法は,競争企業が競争上の機密情報を直接交換し,業界の価格を安定させたり管理することを認めないのと同様に,仲介機関を使用して機密情報の交換を容易にすることも禁止している。

結 論

 市場におけるオンラインの利用が進むにつれ,市場の透明性が高まることは事実である。
 ここで説明したとおり,市場の透明性が高まることは,広い意味での市場のダイナミズムに応じて,消費者にとって良くも悪くもなる。しかし,市場に参入するのに先立ち,市場を取り巻く状況を慎重に判断するためにアルゴリズムを使用することは何の疑いを招くものでもない。
 そういうわけで,自分は,これまで違法とされてきた行為がアルゴリズムを使ったからといって,魔法のように合法になるものではないと考えている。同様に,反トラスト法の従来のルールに反しない方法でアルゴリズムが使用される限り,それが違法と判断される可能性は低いと考えている。
 執行機関は,新たな市場ダイナミズムに対して常に注意を払う必要があり,この問題についても同様に注意を払うべきである。

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