米国
米国司法省は,世界最大の鉄道機器供給業者の2社であるKnorr及び Wabtecが,従業員の引き抜きを禁止する取決めを違法に締結していたとして,両社を民事提訴するとともに和解案を提出
2018年4月3日 米国司法省 公表
原文
【概要】
米国司法省(以下「DOJ」という。)は,世界最大の鉄道機器供給業者の2社であるKnorr-Bremse AG及びWestinghouse Air Brake Technologies Corporation(以下「Wabtec」という。)が,長年にわたり,お互いの従業員の引き抜きを禁止する取決め(no-poach agreements)(以下「引き抜き禁止協定」という。)を違法に締結してきたとして,両社をコロンビア特別区連邦地方裁判所に民事提訴するとともに和解案を提出した。この和解案が裁判所に承認されれば,競争上の懸念は解消され,従業員の引き抜きに関する競争は修復され,米国に利益をもたらすことになる。本件訴訟では,両社が鉄道機器供給業者Faiveley(2016年11月にWabtecが買収)との間で締結していた,同様の引き抜き禁止協定についても問題としている。
また,DOJは,和解案の一部として,Knorr及びWabtecが本日の提訴以前にDOJに開示した他の引き抜き禁止協定については,民事提訴も刑事訴追も行わないことに合意した。
DOJが提出した訴状によれば,Knorr及びWabtecは,プロジェクトマネージャー,エンジニア等の多様な技術を有する従業員の雇用に関しお互いに競争関係にある。訴状によれば,
・ 遅くとも2009年の初めには,Knorr及びWabtecは,事前の承認無しには勧誘活動を行わず,承認が得られない場合はお互いの従業員を引き抜くことはしないとする合意を締結していた。具体的な例として,2009年1月28日付けの文書において,Knorr Brake Company(Knorrの完全子会社)の幹部はWabtec本社の幹部に対して「我々は,お互いの社員を勧誘しないという慣習は両社にとって賢明な理由があると合意した。正しくあなたが述べたとおり,我々は市場においては競争する。」と宛てていた。
・ 遅くとも2011年の初めには,Knorr Brake Company及びFaiveley Transport North America(FaiveleyがWabtecに買収される以前のFaiveleyの米国子会社)は,お互いの従業員を勧誘する前に相手方の了承を得ることに合意した。例えば,2011年10月にKnorr Brake Companyの幹部はFaiveleyの米国子会社の幹部と議論し,「両社の間でお互いの従業員を引き抜かないことを合意するに至った。我々は求職しようとする者がいる場合には話し合うことに合意した。」と説明していた。
・ 遅くとも2014年の初めには,Wabtec Passenger Transit(Wabtecの事業部門)及びFaiveley Transport North Americaは,同様に,事前の承認無しにはお互いの従業員を勧誘しないことに合意していた。例えば,Wabtec Passenger Transitの幹部は,同僚に宛てた電子メールにおいて,「求人に応募してきた者は素晴らしい人物であるが,(Faiveley Transport North Americaとの)合意を破りたくはない。」と説明していた。
訴状によれば,Knorr,Wabtec及びFaiveleyとの間の引き抜き禁止協定は,鉄道産業の労働者に関する競争を制限していた。すなわち,こうした労働者がより良い雇用機会にアクセスすることを制限し,彼らの流動性を制限し,彼らが雇用に関してより良い条件で交渉することに用いることができたであろう,競争上重要な情報を奪っていたのである。
反トラスト法の下では,引き抜き禁止協定は,製品価格を拘束したり,顧客を分割したりといった,伝統的に刑事上の問題として調査され,ハードコアカルテルとして訴追されるような行為と同様,取り返しのつかない方法で競争を減殺するものである。2016年10月初めに,DOJは引き抜き禁止協定を締結している企業及び個人に対して重大犯罪として刑事訴追を行う意図がある旨を複数回公表してきた。DOJは,刑事訴追の裁量権の行使において,当該公表が為される前に形成かつ終結された引き抜き禁止協定は,民事手続によって提訴する方針である。Knorr及びWabtecの引き抜き禁止については,DOJが発見し,2016年10月以前に当事者は取りやめていた。このことから,DOJは民事手続を通じて競争上の懸念を解決することにした。
提案された和解案の下では,Wabtec及びKnorrは,限定された例外を除いて,他の企業と引き抜き禁止協定を締結・維持・実行することが禁じられている。また,和解案では,Knorr及びWabtecは,将来的に反競争的なこのような行為を行わないようにするために,コンプライアンス措置を実施し,厳格に周知することが求められている。
和解案には,法令の有効性及びDOJの将来の執行能力を向上させるための,複数の新しい対策が含まれている。例えば,両社は,今後命令違反の疑いが生じたときは,当該被疑行為に対しては低い立証水準が適用されること,アメリカの納税者に対して法令違反の調査・執行に係る費用を返金することに合意している。