2018年12月

米国

メキシコシティにおける,米国司法省デラヒム反トラスト局長によるデジタル経済における3つの課題に関するスピーチ

2018年11月7日 司法省反トラスト局 公表
原文

【概要】

 2018年11月7日,米国司法省デラヒム反トラスト局長が,デジタル経済における反トラスト法の課題についてメキシコシティにおいて講演を行ったところ,概要は以下のとおり。
 
  デジタル経済は電気通信産業及び他の産業に変化を生じさせた。我々はテクノロジー及び消費者の選択に関する急速なイノベーション及びダイナミックな競争が進化し続けているのを見てきた。こうした変化は,企業が開かれた新規の市場においてどのように競争するかに影響を与える。競争当局は,次々に現れる市場の新たな現実に遅れずに付いていくようにしなければならない。
 デジタル経済の発展は消費者に多くの恩恵をもたらした一方で,この発展によって反トラスト法の執行に新たな課題が生ずることとなった。
 
 デジタル経済によって生じた反トラスト法の執行の第一の課題は,カルテルである。テクノロジーによって,企業は新たな方法でカルテルを行い,そのことを執行当局から隠蔽することが可能となった。1985年に,巡回裁判所判事で反トラスト局長も務めたダグラス・ギンズバーグ氏は,「水平的な競争に影響する制限行為は当然違法であり,それに対する刑事訴追は,反トラスト局における最重要な執行活動であり,またそうであるべきだ。」と述べている。取引の水平的制限を捜査し刑事訴追することは,現在においても反トラスト局の最も優先度の高い活動のひとつである。
 米国において,水平的制限に対する反トラスト法の執行に関して優先度の高い位置にある理由は,当該制限による損失を埋め合わせることができないからである。価格カルテル,入札談合及び市場分割は,消費者から広く金銭を盗ったのと同じである。
 当然のことながら,違反を発見したときにだけ反トラスト法の執行をすることができる。デジタル経済は新しい通信方法及び革新的テクノロジーを投じることによって消費者に恩恵を与えている一方で,共謀者にも新しいカルテルの方法を与えている。カルテルの実行者はチャットルーム,暗号化されたメッセージアプリ,ソーシャルメディアプラットフォームを使って値上げを調整し,来たる入札を話し合い,消費者を割り当てている。煙草の煙いっぱいの部屋でカルテルが行われるというのは今や仮想のことかもしれないが,消費者への被害は現実にある。
 テクノロジーの最先端であり続けることは挑戦であるが,法執行のコミュニティにいても挑戦することが重要である。
 司法省連邦捜査局(FBI)及び他の連邦政府の法執行機関とともに機能することで,反トラスト局は,反トラスト法に違反する新たなテクノロジーの使用を捜査し,中断させ,対抗するために,自らの調査手法をコンスタントに再評価し,再適応させている。
 1年余り前のことになるが,2017年8月,司法省は,リストバンドやストラップといった,顧客に応じて作成する販促品のオンライン販売価格を維持するカルテルについて2件の有罪答弁を得た。本件の審査では,カルテルの実行者は,当該合意の形成・遂行のために,ソーシャルメディアのプラットフォームを利用し,メッセージアプリを暗号化していたことが明らかとなった。
 関連する課題として,反トラスト法上のカルテルを遂行するために,アルゴリズムや人工知能(AI)のような新たなテクノロジーが使用されていることである。例えば,反トラスト局は,Amazonマーケットプレイスで販売されるポスターの価格維持を行うために,アルゴリズムを使用するなどしたカルテルを調査した。現在までに,反トラスト局は2人の会社幹部及び1社を共謀で訴追している。
 Amazonマーケットプレイスにおいて,小売業者は自分が出品した商品の価格を自分で設定する。消費者が特定の商品を検索すると,Amazonマーケットプレイスは最も関連する商品を表示する。一般に表示されるのは最低価格で出品されている商品である。小売業者は,検索クエリの最初に現れることが有利になることを理解して,商品の値決めのためにアルゴリズムを使っている。
 本件カルテルでは,ポスター販売業者2社が価格維持のためにアルゴリズムを使うこと等を合意していた。そのうちの1つの業者は,特定のポスターについてカルテルに参加しない競争者が提示した最低価格を調査するためのアルゴリズムをプログラムしていた。このアルゴリズムでは,カルテルに参加しない競争者の価格を下回る価格を設定するようにしていた。
 その際,カルテルに参加したもう一方の販売業者は,先に述べた業者の価格にマッチするようにアルゴリズムをプログラムしていた。これによって,カルテルの参加者の商品は,お互いに競争する必要なく,検索クエリの上部に現れるようになった。カルテルに参加した業者は,アルゴリズムを別々にプログラムしていたが,いずれも価格維持及び競争忌避のためにアルゴリズムを用いていた。
 厄介なことに,アルゴリズムが一度プログラムされたら,カルテルはほとんど自動に遂行され,当該行為を捜査することがより難しくなってしまう。
 価格維持を行い易くするためにアルゴリズムが使われる場合に,アルゴリズムそれ自体は反競争的ではないことに留意することが重要である。実際のところ,アルゴリズムはデジタル経済の重要な一部となっており,消費者に卓越した効率性という利益をもたらしている。私たちは,競争政策にとってのアルゴリズムの意義を研究し続け,そして,違法な合意に対し,反トラスト法を精力的に執行していきたい。
 また,テクノロジーが合意形成及び合意の実行に使われたとしても,反トラスト局はあらゆる違法な合意を捜査し訴追するためのツールを有することを保証するために活動している。
 
 世界中の競争当局にとっての第二の課題は,デジタル経済における市場支配力と参入障壁をどのように評価するかである。
 市場支配力があれば,企業は競争価格よりも高い額を設定したり,競争事業者を排除することができる。市場支配力を適切に評価することは反トラスト法の執行にとって不可欠である。なぜなら,被告が市場支配力を有していれば,無害な行為であっても違法になってしまう可能性があるからである。
 市場支配力が重大な影響をもたらすこと及び市場支配力が自由市場経済において投資を動機付ける要素になることを踏まえれば,私たちは市場支配力がその企業のものと考える前に,現実世界の競争のダイナミクスを注意深く分析すべきである。特に,急激に変化している革新的な市場に注意深くあるべきである。
 市場支配力を評価するに当たり,まずはじめに市場シェアを使うことが多い。しかしながら,これはデジタル経済ではうまくいかないときがある。
 オンラインプラットフォームは,新しく,かつ今までと異なる方法で互いに競争している。商品及びサービスカテゴリは迅速にかつ容易に形を変えていく。市場のリーダーは全般かつカテゴリ内で取って代わられることも多い。特にプラットフォームが一方の消費者群に対する売上から補償して,もう一方の消費者群に対して無償でサービスを供給する場合には,さらにその分析が複雑となる。伝統的な市場シェアの算出方法は,こうした事案では用いることができないかもしれない。
 関連市場を画定し,シェアを算定することでは,調査は終わらない。なぜならば,高い市場シェアは,市場支配力と必ずしも同じではないからである。状況次第では,高い市場シェアを有する事業者は値上げしたり競争者を排除する能力に乏しいこともある。
 高い市場シェアは,特にダイナミックな市場ではつかの間に消えるかもしれない。高い市場シェア及び高い粗利は「先行者」になることによって生じた優位を反映している。高い利益によって,企業は,埋没費用を埋合せることができ,イノベーションに内在するリスクを引き受けるインセンティブを持つようになる。
 また,高価格を維持することはイノベーションの原動力であり,新規の競争者による参入や破壊さえももたらす。現在のデジタル経済では,高い市場シェアを有する人気企業が新しい革新的競争者によって早々に取って代わられることも十分にあり得る。イノベーションに失敗した企業が後塵を拝することも多い。
 参入障壁の低いダイナミックな市場では,高い市場シェアによって競争価格を上回る価格を課したり,競争者を排除できるとは言えないだろう。競争法の執行当局にとっての懸念は,企業が永続的に市場支配力を有するかどうかである。こうした調査では,市場,関連する競争圧力,参入障壁を,証拠に基づいて注意深く評価することが求められる。
 明らかなことは,市場支配力それ自体が反トラスト法に違反するものではない。注意深い分析を通じて市場支配力が立証された場合には,行為をより綿密に調査する。企業が競争を阻害し又は排除するために市場支配力を行使した場合には,適時かつ精力的な執行が必要となる。自由かつ開かれた市場にするために,反トラスト局は,大企業が革新的な新規参入者を潰したり阻止するために市場支配力を使うことを防がなければならない。しかし,私たちは誤ってイノベーションを阻害しないような方法で,これを行わなければならない。
 
 参入障壁の評価ももう一つの課題である。広い意味で,障壁には主に2つのタイプがある。第一のタイプは,市場に自然と存在し,又は市場の参加者によって作られた障壁である。第二のタイプは,政府によって作られた障壁である。これら2つのタイプは根本的に違うものであり,競争当局はそれぞれ異なる対応が求められる。
 優れた製品やより効率的なコスト構造等,市場の力によって作られた参入障壁に対しては,通常は反トラスト局は介入しない。
 競争者は,破壊的なイノベーションを通じて高い参入障壁を克服し,同時に消費者の利に適う新製品及び新しいサービスを創造することが可能である。私たちはこれを「ダイナミックな競争」と呼んでいる。電気通信における近年の発展の歴史はこの特徴を描いている。電気通信産業は高い固定費並びに埋没費用,規模と範囲の経済及びネットワーク効果によって特徴付けられていた。それにも関わらず,テクノロジーのイノベーションによって,ケーブル,ワイヤレス,衛星配信等,新規参入による競争が生じていた。
 そうした障壁が単に存在するだけでは,通常は執行活動を行うことはないが反トラスト局は,支配的な企業が革新的な競争者を閉め出すために参入障壁を構築し利用するための行動を採っていないか,絶えず警戒している。当然のことながら,反トラスト局は,20世紀に競争を作り出すために,支配的な通信企業であるAT&Tに対して多数の反トラスト法の訴訟を提起した。
 しかし,(第二のタイプである)規制による参入障壁は(第一のタイプとして)先に述べてきた参入障壁とは原理的に異なる。規制による障壁は,市場の力では撤廃することはできないことから,競争にとって大きな害を持ち得る。新規参入は競争を増加させ,価格を低くし,消費者の選択肢を増やす可能性があるが,規制は,時として,こうした新規参入を締め出す,参入障壁として機能する。
 価格規制,価格のキャップ制及び共有の強制も参入を抑止する可能性がある。企業が生み出す総利益を限定したり,成功した企業に対して自社の資産を競争者と共有するよう求めた場合,政府は新規参入を促すのに必要なインセンティブを取り除いてしまうかもしれない。高利益を生み出す可能性は,たとえ短命であっても,競争とイノベーションにとって重要な推進力になる。
 既存の企業は多くの場合規制を望んでいると聞いても驚くことではないだろう。規制は現状を保護し,新興企業から競争を妨げるだろう。また,規制市場で市場力を有する企業は,熾烈で破壊的な競争によって退出させられることは無いため,競争にとって大きな脅威を引き起こす。
 そのため,重要なことは,既存企業による革新的参入者の妨害という不幸な産物となる規制の障壁と,合理的な懸念により正当化される規制の障壁とを区別することである。事案によっては,競争当局は,規制の障壁を除去するための普及啓発を行い,新興企業に市場を開放する必要がある。
 政府の規制は柔軟性に欠けており,緩慢である,すなわち,市場の状況とテクノロジーの変化に立ち遅れがちであるため,流動性の高い産業において問題となりうる。この「規制の(タイム)ラグ」は,参入,市場の拡大及びイノベーションを遅滞させる。競争当局は,投資家でも技術の専門家でもない。市場を自由な状態にすることがが競争当局の仕事である。自由で競争のある市場は,技術が消費者及び経済のために機能するための最良の手段である。
 イノベーションと競争を最もよく促進するために,政府は,イノベーションへの過程を明確にし,企業が新たなテクノロジーを試みることができ,消費者に代替可能性を示すようにすべきである。また,政府は,許認可制を可能な限り取り除くなり簡略化するなりし,適用可能な限り許認可及び権利を得るための複雑な手続を簡単にすべきである。
 幸いにも,米国及びメキシコの両国では,電気通信産業における規制緩和が進んでいる。つまり,消費者及び経済に恩恵をもたらす新規参入者及び新たなテクノロジーに対して市場が開放されている。
米国では直近2年間に実施した規制緩和によって,数百の規制を取り除かれ,その結果,230億ドルの規制に係る費用を減じることができた。
 規制緩和と競争法の執行は互いに関連して進めなければならない。市場を開放したときに,競争当局は反競争的な行動を調査し止めさせるための準備をしなければならない。
 
 デジタル経済による反トラスト法の執行の第三の課題は,特に電気通信産業において,テクノロジーの発展が,企業結合審査をどのように特徴づけるかを決めることである。
 企業結合審査は私が今まで話した違反行為の審査とは異なる。企業結合審査は,事前審査だからである。企業結合計画を審査する際,事業者に尋ねることは,企業結合による効果が競争を減らしたり独占を生んだりしないか,ということである。その答えが「イエス」であれば,当該企業結合は違法である。
 事前審査のアプローチによって反トラスト局は問題が生じる前に行動することができる。また,反トラスト局が,既往の事案においては必ずしもカバーできない問題に対応することができる。例えば,独占を形成するための企業結合は違法である。反トラスト局はそのような企業結合を阻止するために告訴する。しかし,こうした企業結合を除けば,反トラスト局は適法に実現した独占を止めさせることは求めない。
 米国連邦最高裁は,画期的な判例となったTrinko事件において,「独占力を単に保持すること及びそれに付随して独占価格を課すことは適法であるだけでなく,自由主義市場システムの重要な要素である。」と明示的に認めている。
 デジタル経済の成長,そして今後ますます重要となってくる電気通信産業におけるインターネット及び技術の進歩は,企業結合に対する考え方に影響を与える。事実は,反トラスト法の執行において極めて重要である。法と根底にある原則は変わらない一方で,デジタル経済は事実を頻繁に変える。そして,こうした事実を常に考慮しなければならない。
 メディアの世界において変わった事実の一つとして,新たなテクノロジーの発展及びNetflix,Amazon,Hulu並びにYouTube等の新規参入者の存在がある。前に述べたとおり,非従来型の番組は,消費者の視聴習慣を変化させ,新たなビジネスモデルを可能にした。こうした変化によって視聴者が入手できる新たなコンテンツは急増した。
 このコンテンツが激増したという観点から,最近反トラスト局で審査したDisneyとFoxとの企業結合においては,過去にあった競争上の懸念がほとんど生じなかった。
 反トラスト局は,ある種の企業結合に対しては同じ理由から懸念を持たなくなったが,他のことに懸念を持つようになっている。例えば,主要コンテンツ制作企業と主要コンテンツ配信企業との企業結合は,(水平的な競争業者に対する)締め出しという側面を生じさせる。結合するそれぞれの企業は,それ自体では,水平的な競争業者を害するインセンティブはあっても,実際に害を与えることはできない。状況次第ではあるが,結合後企業は一体となることで,双方の水平的競争業者を害するインセンティブを持ち,実害をもたらすことが可能となる。それは究極的には消費者に損害を与えることになる。
 配信システムへのアクセスからの完全な締め出しと同じく,競争上の懸念は劇的なものである。すなわち,競争状態よりも巧妙に値上げがなされている可能性があるからである。同様に,承継された配信システムが,企業結合をした法人のコンテンツにアクセスすることを制限することにより,他の流通業者に損害を与えることもあり得る。
 こうした懸念は,電気通信産業のこととなると,現実に起こり得る。反トラスト局は,2011年のComcastによるNBCUniversalの買収計画において,この種の問題に直面した。この問題は,前オバマ政権下であったが,反トラスト局は,電気通信産業の規制当局である連邦通信委員会とともに,高度な規制上の行動的措置を含む同意命令によって,懸念を解消し,競争を確保することを求めた。
 より最近では,反トラスト局は,AT&Tとタイムワーナーとの企業結合計画においてこの問題に直面した。この問題は係争中であり,12月6日に口頭弁論が予定されている。この件についてこれ以上は言わないが,来月には問題がより明確になるだろう。
 
 もう一つの潜在的な問題は,垂直的に統合されたコンテンツ配信業者が他の配信業者を統合しようとする場合である。こうした問題に対する分析は特定の事実次第であるが,結合後のコンテンツ配信業者が消費者へのブロードバンド接続に依存するインターネットをベースとしたサービスにとってのゲートキーパーとなる可能性が存在する。統合後企業は,インターネットを主な事業とするとする揺籃期の競争者を抑圧するインセンティブを有する可能性がある。繰り返しになるが,厳密に言えば,この懸念は仮説ではない。私の任期以前のことだが,2015年のComcastによるTimeWarnerCableの買収計画について,反トラスト局はこうした問題に直面していた。この事案においては,当事者は反トラスト局が懸念を表明した後に企業結合計画を取り止めた。
 デジタル経済においてインターネットが重要であることを踏まれえれば,反トラスト局は,電気通信産業の企業結合から生ずるゲートキーパーやボトルネックの問題に特に焦点を絞っている。そうした問題は,後になれば解決しがたくなるので,企業結合審査プロセスの間に解消されることが最善である。
 私たちが,計画中の企業結合の影響が「競争を潜在的に減じる可能性がある」と判断すれば,次の問題は,それについて何をすべきかということである。電気通信産業においても,他の産業と同様に,反トラスト局は構造的措置を強く望んでいる。構造的措置を採ることが出来ない場合には,ごく稀な状況を除き,反トラスト局は違法な企業結合を阻止することを求める。
 反トラスト局は,行動的措置による解消よりも構造的措置による解消を強く望んでいる。行動的措置には,大きく3つの問題がある。第一に,行動的措置は規制的な性質を有する,すなわち,行動的措置は,好ましい自由市場を生み出す重要な意思決定に取って代わることになるからである。
 第二の理由は,第一の理由に極めて関係している。つまり,反トラスト局は法の執行者であり,規制が適切な場合であっても,継続的な規制当局であるための素地がないのである。
 行動的措置が問題である第三の理由は,行動的措置を求める命令は,継続する問題を一時的にしか解消できないことである。同意命令の期間が終了した後,その期間が5年,7年,10年であっても,その措置で課した条件はなくなってしまうが,企業結合及びあらゆる継続する反競争的な影響は残存する。対照的に,より効率的かつ永続的な構造的措置は,企業結合から生ずる競争上の問題を解消するのである。
 
 今日のデジタル経済において直面する課題は,メキシコや米国だけが直面しているものではない。技術的な収れんについては先ほど話したが,反トラスト法上の原則及び協力に関しても以前よりも大きな国際的収れんが見られる。米国及びメキシコの両国は,地域的かつ国際的な競争政策上の協力及び対話から恩恵を得ている。
 実体上の基準及び協力への収れんに関連し,同様に重要なことは,競争法の調査及び執行に関する確かで公平な手続への収れんである。最近公表した,USMCAという名称の米国,メキシコ及びカナダによる協定において,当該3か国は強固な手続上の公正さに関する一連の条項を導入した。当該協定では,非差別性,透明性,調査のタイミング,意見聴取の権利,証拠調べ,弁護士による代理,秘密情報や秘匿特権に関する情報の保護及び当局の決定に対する司法審査等,重大なトピックスをカバーしている。
 USMCAは公正な手続を保証するための大きなステップである。つまり,USMCAは,我々の意思決定の質を改善し,競争法の執行というミッションの正統性を支持すると同時に,執行当局間での更なる協力を促進するのである。
 

米国司法省は,テレビ放送事業者6社に対して,競争上の機密情報を違法に共有していたとして民事提訴するとともに,和解案を提出

2018年11月13日 司法省反トラスト局 公表
原文

【概要】

 米国司法省は、競合他社と非公開の競争上の機密情報を違法に共有していたとして,テレビ放送事業を営む6社-Sinclair Broadcast Group Inc.,Raycom Media Inc., Tribune Media Company,Meredith Corporation,Griffin Communications及びDreamcatcher Broadcasting LLC.をコロンビア特別区連邦地方裁判所に民事提訴するとともに,和解案を提出した。
 同省反トラスト局のマカン・デラヒム局長は,「競争上の機密情報が違法に共有されることで,テレビ放送事業者6社は全米のスポット広告市場において正常な競争を阻害した。広告主は,テレビ放送事業者間で競争が行われることで,妥当な料金で広告することができる。しかし,本件の違法な情報共有により競争が減殺された結果,これら6社を利用する各地の事業主及び消費者は不利益を被っていた。」と述べた。
 訴状によれば,被告6社は,米国内の多くの都市圏において,各社の収益に関するペーシング(pacing)情報を共有することで合意するとともに,一部の被告においては,特定の都市圏における売上高に関する非公開情報も共有していた。ペーシング情報とは,一定期間に計上された放送局の収入を前年同期の収入と比較した数字で,同地域の広告需要に対する同放送局の広告実績を示すものであり,これによって同期末において各放送局が持つスポット広告の余力を把握することできる。
 ペーシング情報を共有することで,被告6社は、競合他社がスポット広告の価格を引き上げるか,維持するか又は引き下げるかをより正確に予想でき,それを同局による広告料の戦略や広告主との交渉に役立てていた。その結果,同情報が交換されることで,広告料をめぐる競争が阻害された。
 提案された和解案では,競争上の機密情報の直接又は間接の共有を禁じている。当局は、当該行為を禁止することで、被疑行為の結果生じた反トラスト法上の懸念が解消されると判断した。 加えて,提案された和解案では,現在,進めている調査への協力、反トラスト法の厳格な遵守及び類似の競争制限行為を未然に防止するための方策の当局への報告を被告に求めている。和解は7年を期間として,他の事業者に取得された場合でも,被告が現在保有している放送局に対して引き続き適用される。
 

連邦取引委員会は,米国最大のコンタクトレンズのオンライン小売業者1-800 Contacts及び他の同業者との間で検索連動型広告を利用しない旨の合意を締結していたとする委員会意見及び命令を採決

2018年11月14日 連邦取引委員会 公表
原文

【概要】

  連邦取引委員会は,米国最大のコンタクトレンズのオンライン販売業者である1-800Contactsが競合するコンタクトレンズのオンライン小売業者と反競争的な協定を違法に締結していたと認定した。
 Joseph.J.Simons委員長による委員会意見では,1-800Contactsと14のコンタクトレンズのオンライン小売業者との協定が,FTC法第5条違反である不公正な競争方法に該当すると認定された。当該協定では,コンタクトレンズのオンライン小売業者が,検索連動型広告(search engine result ads)の入札に参加することを禁止していた。検索連動型広告は,消費者に対してより安い価格で入手可能な同一製品の情報を提供するものである。委員会意見では,当該協定によって,消費者に提供される検索エンジン結果の質が低下するとともに,1-800自らが支払うべき価格を人為的に減額した結果,検索エンジンのキーワードのための入札に関する競争を阻害したと示した。委員会意見は,コンタクトレンズ向けの検索連動型広告に関する制限を直接解消するものであるが,オンライン広告を通じた競争を維持するための広範な考え方を示すものである。
 委員会の命令では,1-800Contactsに対して,現行の協定上の違法な条項を実施すること及び将来にわたり同様の協定を合意することを取り止めるよう求めている。さらに,1-800Contactsが他のコンタクトレンズ小売業者と合意し,検索連動型広告を制限する,すなわち,検索連動型広告のオークションへの参加を制限することを禁止している。
 今回の委員会意見は,2016年の8月に行われた審判開始の申立てに端を発する。委員会意見は,2017年10月に当該協定が不公正な競争方法であると認定した行政法判事の仮決定を支持するものである。
 委員会意見及び最終命令の承認に関する委員会の評決は3-1-1であった。Noah Joshua Phillips委員は反対し,Christine S Wilson委員は参加しなかった。Rebecca Kelly Slaughter委員は同意声明を,Phillips委員は反対声明を発表している。
 1-800Contactsは委員会意見及び最終命令について巡回控訴裁判所に上訴することができる。

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