米国

米国司法省のMakan Delrahim反トラスト局長による,プラットフォームによる無料の経済活動及び反トラスト法の執行に関するスピーチ(於:コロラド大学ロースクール)

2019年2月11日 米国司法省 公表
原文

【概要】

 無料(Zero-Price)で商品又はサービスを提供する企業の大半は,それとは別の製品,消費者又は時点で収益を上げている。デジタルプラットフォームが無料でサービスを提供することは,それが利益の最大化のための事業戦略であることに留意しなければならない。
 デジタルエコノミーにおけるゼロプライス戦略への注目が高まるなか,大規模なデジタルプラットフォームが同戦略を用いて財・サービスを提供する場合に,競争当局はどのように対応すべきか多くの議論がある。一方では,無料の商品及びサービスは,消費者及び競争に悪影響を与えるものではなく,競争法の適用から除外されるべきという主張がある。他方では,研究者や海外当局の担当者の中には,無料サービスを提供するデジタルプラットフォームに対してより積極的に法執行するよう求め,消費者厚生基準を放棄し,新たな規制を課すべきと提案する者さえいる。ゼロプライス戦略の長い歴史を踏まえれば,これらの極端な見解はいずれもが見当違いである。
 第一に,ゼロプライス戦略を用いた事業モデルを競争法の調査の対象外とすべきではない。米国の反トラスト法は無料の商品及びサービスにも完全に適用される。また,ゼロプライス戦略の長い歴史を踏まえれば,競争上の懸念に対処するために競争法を大幅に改定する必要はない。米国反トラスト法やその原則は,デジタル経済の課題に非常に柔軟に適応しているところ,無料の経済活動が行われることを理由に消費者厚生基準を性急に捨て去るべきではない。消費者厚生基準では,価格への影響のみが考慮されるのではなく,数量,品質,消費者選択及び技術革新への影響も考慮される。無料製品の場合,このような非価格要因に焦点を当てると共に,実質的な対価を支払う消費者に焦点を当てることが重要になる。我々は,法執行の事案ごとに証拠に基づいて綿密に検討し,慎重な分析を行う必要がある。
 第二に,無料の製品だけなく,それに付随して収益を上げる製品も検討する必要がある。そうすることで,関連する消費者が明らかになる。
 第三に,非価格競争を見ることが特に重要である。価格は競争の一面に過ぎず,無料市場の企業は,品質,選択及びイノベーションの面で互いに競争し続けている。
 第四に,企業が競争圧力により制約されている場合,自由市場は反トラスト法の執行無しに,自己修正することができる。消費者は,企業が価格を上げ,品質を下げ,損をしたと経験すれば,他の企業に切り換えることができる。
 最近のハーバードビジネスレビューの記事によれば,ネットワーク効果を特徴とする市場でさえも,デジタルプラットフォームの成功には多くの制約があるとされている。ネットワーク効果の強度は劇的に変わり,時間の経過とともに変化する可能性があることが指摘されている。
 プラットフォームの成否には,さまざまな要因が関係する。競争法の執行当局としては,競争の促進に資するビジネスモデルを規制しないよう,競争がもたらす牽制力に細心の注意を払う必要がある。また,新規参入企業が能率競争を行うことを不当に制限されないよう警戒する必要がある。反トラスト法を執行する際には,プラットフォームの大きさではなく,プラットフォームが競争を侵害しているかどうかを検討すべきである。
 今日の大規模デジタルプラットフォームの多くは,消費者が好んで使いたいと思う革新的で破壊的なサービスを提供することで成長している。成功した企業が苦労の見返りとしての恩恵を受けられることは,次世代の革新的な起業家を後押しし,消費者にとって最も有益でダイナミックな競争をもたらす。
デジタルエコノミーの下でゼロプライス戦略が採用されるケースが増えていることは消費者に多くの利益をもたらしている。競争当局の役割は,消費者が市場で自由に商品及びサービスを選択できるよう,共謀や排除行為が自由な市場を歪めるのを防ぐことにある。

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