最近の動き(2021年9月更新)

米国

FTC,重点的な法執行対象とする特定分野の調査について承認

2021年7月1日 米国連邦取引委員会 公表
原文


【概要】
 米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)は,今後10年間にわたって,特定分野を重点的に調査するとの一連の改革案について承認した。具体的には,改革案では,FTCの調査官に対して,重点分野の調査を実施するに当たり,召喚状(subpoena)などの「強制手続」を使用するよう指示している。重点的な調査の対象とする分野は,違反歴のある事業者(テクノロジー企業及びデジタルプラットフォーム事業者)並びにヘルスケア事業者(製薬会社,薬局給付管理者,病院等)である。また,FTCは,労働者や中小企業に対する被害,新型コロナウイルス感染拡大に関連する被害についても優先的に調査する。さらに,FTCは,昨今,合併の届出が急増していることから,合併審査中の案件から審査が終了した案件に至るまで,違法な合併に対する執行を強化している。
 強制手続とは,民事調査請求(civil investigative demand)や召喚状を用いた文書や証言の要求のことを指す。FTC法は,FTCが調査において強制手続を用いることを認めている。強制手続は,関係人に情報の提出を請求するものであり,裁判手続によって執行できるものである。FTCは,これまでにも様々な場面で,強制手続を用いてきた。これらの強制手続の多くは,自動車産業や高等教育産業のような特定の産業を対象としているが,プライバシー関連分野や高齢者を対象とする分野など,業界横断的な商行為を対象とするものもある。
 今回の措置により,FTCの活動が最も影響を与え得る重要分野の調査において,FTCの調査官の証拠収集能力が向上すると見込まれる。今回の措置は,FTC法に違反する競争上又は消費者保護上の行為に対する調査権限を与えるものである。また,今回の措置は,審査中の合併案件や審査が終了した合併案件を調査するため,FTCの調査官が強制権限を行使することを可能とするものである。ただし,FTCの各委員は,強制権限の発動前に権限行使に係る文書に署名することが従来どおり求められる。これらの措置が実施されれば,FTCは限られたリソースを有効活用して,弱者を食い物にする悪質な企業が急速に市場力を増す市場構造の是正を本格的に進めることができる。  

米国37州の司法長官,Googleがアプリストアの独占を違法に維持し,反トラスト法に違反しているとして民事訴訟を提起

2021年7月7日 ユタ州司法長官 公表
原文

【概要】
 ユタ州司法長官は,他の36州の司法長官とともに,カリフォルニア州において,Googleに対して訴訟を提起した。ユタ州及びその他の州(以下「ユタ州等37州」という。)は,Android向けのGoogle Play Storeでの競争事業者に対する排除行為を問題としている。本件訴訟では,大手デジタル企業に対する最新の措置であり,反競争的又は不公正なビジネス慣行を問題としている。ユタ州等37州の司法長官は,Googleがその優位性を利用してGoogle Play Storeでの競争を不当に制限し,消費者の選択肢を狭め,アプリケーション(以下「アプリ」という。)の価格を上昇させ,消費者に損害を与えたと主張している。本件訴訟は,ユタ州,ニューヨーク州,テネシー州,ノースカロライナ州等の司法長官が共同して提訴している。
 訴状によると,本件の中心となる問題点は,Googleが競合するアプリ配信チャネルを実質的に排除している点である。また,Googleは,Google Play Storeを通じてアプリを提供するアプリ開発者に対して,課金システムとしてGoogle Billingの利用を要求している。当該契約により,課金システムとアプリ配信チャネルを抱き合わせることにより,アプリの消費者は,Google Play Storeを通じてデジタルコンテンツを購入する場合,Googleに最大30%の手数料を支払うことを余儀なくされている。この手数料は,仮に消費者がGoogleの競争事業者を選択できる場合に支払うべき手数料よりもはるかに高いものである。本件訴状は,Googleが市場における競争を阻害又は回避しており,米国連邦及び各州の反トラスト法に違反していると主張している。Googleは,以前,アプリ開発者や端末メーカーに対して,開発者が互換性のあるアプリを作り,制限なく配信できるように,オペレーションシステムであるAndroidを「オープンソース」とすると約束していたが,本件訴状では,Googleがその約束を遵守していないとしている。

バイデン大統領,「アメリカ経済における競争促進に向けた大統領令」を発出

2021年7月9日 米国ホワイトハウス 公表

原文

【概要】
 バイデン大統領は,7月9日,「アメリカ経済における競争促進に向けた大統領令」(Executive Order on Promoting Competition in the American Economy)に署名し,同大統領令を発出した。
 同大統領令の概要等は,以下のとおりである。
1.背景
○ バイデン大統領のリーダーシップの下,経済は急成長している。大統領就任以降,300万人分以上の雇用が創出されたが,これは近現代の歴史において,大統領就任後5か月間に創出された雇用として最も大きい数字である。本日,大統領は「アメリカ経済における競争促進に向けた大統領令」に署名することで,経済推進力を立て直すこととなる。本大統領令は,各家庭に支出低下を,労働者に賃金上昇を,それぞれもたらすほか,イノベーションを促進し,経済成長を更に加速させるものである。
○ 過去数十年間にわたって,企業の統合が加速してきた。米国産業のうち75%以上の業界において,20年前と比べて,少数の大企業が市場を支配するようになっている。これは,ヘルスケア,金融サービス,農業の分野などに当てはまる。
○ 競争の欠如は,消費者に価格上昇をもたらすこととなる。より少数の大企業が市場の大部分を支配するようになったため,マークアップ(コストに上乗せされる企業の利潤)は3倍となり,各家庭では,処方薬や補聴器,インターネットサービスといった必需品により高い金銭を支払っている。
○ また,競争の欠如は,労働者の賃金低下をももたらすこととなる。町に雇用主がわずかしか存在しない場合,労働者は,高い賃金を求めて雇用主と交渉したり,職場における尊厳や尊重を雇用主に求めたりする機会が減少してしまう。実際,企業の統合によって,広告に掲載される賃金が17%も減少したとする調査も存在する。建設業や小売業を含む各業界で働く数千万人の米国民が,仕事を得るための条件として競業避止義務契約(non-compete agreement)に署名することを求められており,当該協定は彼らがより高賃金の仕事に転職することを困難にしている。
○ 全体として,競争の欠如による価格上昇と賃金低下は,現在,米国の中間層に年間5,000ドルの負担をもたらしていると推定されている。
○ 不十分な競争は,経済成長やイノベーションを妨げることにもなる。巨大企業が素晴らしいビジネスアイデアを持つ米国民の市場参入を困難にしているため,新規企業の創出割合は1970年代と比べて約50%も減っている。また,既存の独立した中小企業が市場にアクセスしたり適正な収益を得たりする機会は減少しつつある。競争が減少するにつれて,生産性が下がり,投資やイノベーションが減退し,収入や富,人種間の不均衡が拡大すると指摘する経済学者もいる。
○ 過去の大統領は,企業の力の拡大による同様の脅威に直面した際,大胆な行動をとってきた。1900年代初頭,セオドア・ルーズベルト政権は,力の弱い事業者に市場で競争する力を与えるため,経済を支配していたスタンダード・オイル(Standard Oil)やJPモルガン鉄道(J.P.Morgan’s railroads)といったトラストを解体した。1930年代には,フランクリン・ルーズベルト政権が反トラスト法の執行を著しく強化し,執行件数をわずか2年間で8倍に増やした。このような積極的な反トラスト法の執行活動は,消費者に対して,今日の価値で数十億ドルに相当する恩恵をもたらすとともに,何十年にも及ぶ持続的かつ包括的な経済成長の一助となった。
2.大統領令の概要
○ バイデン大統領は,企業統合の流れを減速させ,競争を促進し,米国の消費者,労働者,農業従事者及び中小企業に確固たる利益をもたらすため,断固とした行動をとることとした。本大統領令は,アメリカ経済における競争を促進するため,政府全体で取組を進めるものである。本大統領令は,アメリカ経済において最も競争を抑制していると思われる諸課題に迅速に対応するため,12以上の連邦政府機関による72の施策から成り立っている。本大統領令がひとたび実施されれば,これらの施策は国民の生活を明確に改善することとなる。
○ 大統領令による効果として,

・ 経済的流動性を阻害する競業避止義務契約や煩雑な業務独占資格(occupational licensing requirement)を禁止又は制限をすることにより,転職や賃金上昇が容易になる。
・ カナダから安全でより安価な医薬品を輸入する州政府や部族政府(tribal)の取組を支援することにより,処方薬の価格が引き下げられる。
・ 薬局の店頭で補聴器を販売することを認めることにより,難聴の米国民が数千ドルの損失を被ることを防ぐ。
・ 過剰な早期解約手数料を禁止すること,比較購買を促進するためにインターネットのプラン費用を明確に開示するよう求めること及び借主が利用できるインターネットサービスの選択肢を一つに限定する排他的な貸主との契約(landlord exclusivity agreements)を終結させることにより,米国民が支払うインターネット料金を抑制する。
・ 追加料金に関して明確な事前開示を求めることにより,人々が航空券の購入に際して,航空会社に返金を求めたり比較購買を行ったりすることが容易になる。
・ 製造業者に対して,購入者自ら又は製造業者以外の第三者が修理を行うことを妨害する行為を制限することにより,購入者が自ら保有する製品の修理を容易かつより安価に行えるようになる。
・ 銀行に対して,顧客が他の銀行に金融取引データを移転させることを許容するよう求めることにより,取引先銀行の変更を容易かつより安価に行えるようになる。
・ 食肉加工業者の濫用行為をやめさせるための農務省の権限を強化することにより,農家に取引上の力を与え,彼らの収入を増やす。
・ 全ての連邦政府機関に対して,調達決定においてより競争が促進されるよう指示することにより,中小企業の取引機会が増える。

○ 本大統領令は,主要な競争当局に対して,重要な市場における執行を強化するよう求めているほか,企業統合に係る現在進行中の他の当局の対応を調整するものである。
○ 具体的には,本大統領令では,

・ 主要な競争当局である司法省及び連邦取引委員会に対して積極的に競争法を執行するよう求めているほか,競争法は,合併審査時点で過去の政権が訴訟を提起しなかった問題のある過去の合併について,競争当局が改めて訴訟を提起することを許容していると整理している。
・ 執行活動は,労働分野,農業分野,ヘルスケア分野(処方薬,病院合併及び保険を含む)及びテクノロジー分野という特定の市場に焦点を合わせるべきであるとしている。
・ 大統領令に記載された施策の完結に向けて進捗状況を監視するとともに,大企業の市場力の上昇に対する連邦政府機関の対応を調整するため,国家経済会議議長(the director of the National Economic Council)の下に「ホワイトハウス競争評議会」(White House Competition Council)を設置するとしている。

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