2021年11月

最近の動き(2021年11月更新)

米国

米国ホワイトハウス競争評議会が初会合を開催

2021年9月10日 米国ホワイトハウス 公表
原文
【概要】
 9月10日午前,米国ホワイトハウス競争評議会(White House Competition Council。以下「競争評議会」という。)の初会合が開催された。初会合には,8人の閣僚と7人の独立機関の長を含む競争評議会構成員が出席し,競争の促進により米国の家庭に価格の低下をもたらすことを目指して各機関が取り組んでいる現在の活動について議論し,今後数か月間における優先事項に関する計画を立てた。
 競争評議会は,2021年7月9日に発出された「米国経済における競争促進に向けた大統領令」(Executive Order on Promoting Competition in the American Economy。以下「大統領令」という。)により,競争促進のための政府全体の取組を推進するために設立された。競争評議会の任務には,大統領令で特定された72件の取組を実行すること,経済全体にわたる差し迫った競争上の問題に取り組むこと並びに米国の消費者,労働者,農家及び中小企業に具体的な利益をもたらす新たな方法を見出すことが含まれる。初会合開催時点で,各機関は,大統領令に定められた各期限を遵守している。
 競争評議会の構成員は,主要な産業における競争を促進するための取組について,米国保健社会福祉省,米国司法省(以下「DOJ」という。),米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)及び米国農務省から説明を受けた。
 ブライアン・ディーズ国家経済会議(NEC)委員長(競争評議会議長)は,競争を米国資本主義の中心に取り戻し,米国の家庭に具体的な利益をもたらすために,競争評議会が今後数か月,数年にわたりどのように活動していくかを説明するとともに,次回会合に向けて,大統領令に記載されている取組以外の,競争を促進するための新たな取組についても検討するよう,各機関に対して要請した。

FTC,2020年垂直合併ガイドライン及びコンメンタリーを撤回

2021年9月15日 FTC 公表
原文

【概要】
 FTCは,2020年にDOJと共同で発出した垂直合併ガイドライン(以下「2020年垂直合併GL」という。)及びFTCによる2020年垂直合併GLのコンメンタリー(以下,単に「コンメンタリー」という。)を撤回することを議決した。
 2020年垂直合併GLは,法律又は市場の実態に基づかない,不確かな経済理論を含んでいる。FTCは,産業界や司法が不適切な議論に依拠することを避けるため,2020年垂直合併GLの承認を撤回する。承認撤回の議決に当たって,FTCは,2020年垂直合併GLの見直し及び更新に関して,DOJと緊密に連携していくことを再確認した。
 撤回された2020年垂直合併GLは非水平合併に関する分析手法と執行方針を示したものであり,コメンタリーは主として2020年垂直合併GLの枠組みを活用した数々の従前の合併審査について要約したものであった。2020年垂直合併GLでは,垂直合併が競争を阻害する過程を複数示しており,FTCの多数派が出した声明(以下「多数派声明」という。)では,2020年垂直合併GLが有益な分析を行っていたと認めている。
 一方,多数派声明は,2020年垂直合併GLが,効率性に関する考え方について,クレイトン法の文に反しており,その考え方は,同法上,違法な合併の正当化事由として認められているものではないと指摘している。また,多数派声明は,2020年垂直合併GLが,法律又は市場の実態に基づかないにもかかわらず,合併の競争促進効果と称するものに関して,取り分け欠陥のある経済理論を採用しているとしている。さらに,多数派声明は,2020年垂直合併GLが2020年に採択されたばかりであることからその影響はまだ大きくないこと,また,司法が欠陥のある議論に依拠することを防ぐために迅速に行動することが最も重要であると指摘している。
 今後,FTCは,2020年垂直合併GLについて,市場の実態を適切に反映したものに改訂するため,DOJと連携していく予定である。多数派声明では,見直しに当たって考慮すべき点をいくつか提示している。1点目として,FTCは,違法となり得る合併の特徴について明確な指針を示すことを模索していく予定である。2点目として,FTCは,過去に採られた問題解消措置に対する評価や,過去の問題解消措置が競争を十分に回復しなかったというあらゆる証拠に基づいて,有効とはいえない問題解消措置について明確な指針の提示を模索していく予定である。最後に,FTCは,デジタル市場を含む現代的な企業(modern firms)の様々な特徴や,労働市場において合併がもたらす影響を考慮するため,2020年垂直合併GLで特定された弊害を更に詳述することに目を向けていく予定である。
 委員会の合議における2020年垂直合併GL撤回の投票結果は,賛成3,反対2であり,多数派が声明(訳注:上記の多数派声明)を公表するとともに,ノア・ジョシュア・フィリップス委員及びクリスティン・S・ウィルソン委員が反対声明を公表した。

FTCは,Alphabet/Google,Apple,Amazon,Facebook及びMicrosoftの大手IT5社の,過去約10年間に届出対象とならなかった企業結合に関する調査結果を公表

2021年9月15日 FTC 公表
原文

【概要】
 2021年9月15日に開催されたFTCの公開会議において,FTCのスタッフは,FTC及びDOJへの届出が必要とされていなかった,大手テクノロジー・プラットフォーム事業者による過去の買収についての調査結果を報告した。
 2020年2月に開始された本件調査では,2010年1月1日から2019年12月31日までの間に,Alphabet Inc.(訳注:Google LLCの持株会社),Amazon.com, Inc.,Apple Inc.,Facebook, Inc.及びMicrosoft Corp.が行った,ハート・スコット・ロディーノ(Hart-Scott-Rodino)法(以下「HSR法」という。)及びFTCの届出要件に基づき届出が免除された企業結合の条件,範囲,構造及び目的を分析した。これらの企業は,米国の時価総額上位5社を占める。
 HSR法に基づき,FTCとDOJは,米国内における商取引に影響を与え,所定の規模の基準以上の価値がある企業結合計画のほとんどを審査する。いずれの当局も,競争を低下させる(lessen competition)又は独占を生み出す傾向がある(tend to create a monopoly)と思われるあらゆる商業分野の企業結合(deals in any line of commerce)を差し止めるために法的措置を採ることができる。
 本件調査では,HSR法上の届出基準に係る金額(売上高又は総資産等)が100万ドル以上と評価される616件の企業結合計画(雇用イベント〔訳注:1年以内に,ある企業の25%以上の従業員を雇用する形式の企業結合計画〕と特許取得を除く。)を対象とした。その結果,以下のことが判明した。
○ 616件の企業結合計画のうち,94件がHSR法の企業結合の届出基準を超えていた(基準額を超える企業結合計画のほとんどは届出が必要であるが,他の基準を満たしていたり,法令又は規制上,届出免除が適用されたりする場合,当事会社が届出をする必要がない場合もある。)。
○ 企業結合計画の36%において,買収側は債務又は負債を引き受けていた。対象企業の購入価格にこのような負債を加えると,3件の企業結合計画の購入額がHSR法の届出の基準額を超えることになった。つまり,既にHSR法の届出基準を超えている94件の企業結合計画に,更に3件が追加される。
○ 79%超の企業結合計画において,創業者や主要な従業員に対する繰延報酬(訳注:1会計年度内ではなく,将来受け取ることとした報酬)や成功報酬が採用されており,これは,調査対象5社の間でおおむね共通していた。高額な企業結合計画であるほど,繰延報酬や成功報酬を採用する傾向がみられた。報告された企業結合計画のうち,購入価格に繰延報酬や成功報酬を加えると,企業結合完了時に,(既にHSR法の届出基準基準を超えている94件の企業結合計画に加えて)更に9件の企業結合計画がHSR法の届出基準を超えていたことになる。
○ 75%超の企業結合計画で,被買収企業の創業者や主要従業員に対する競業避止条項が盛り込まれており,調査対象5社の間で,競業避止条項を盛り込んだ企業結合の割合にはほとんど差がなかった。高額の企業結合計画であるほど,競業避止条項を使用する傾向がみられた。
○ 企業結合計画の規模別(100万ドルから500万ドルの間に始まり,5000万ドルからHSR法上の届出基準の間まで計5段階の幅がある。)の企業結合件数は,2010年から2019年の間に変動はあったものの,各規模ともおおむね増加傾向にあった。616件の企業結合計画のうち,65%は100万ドルから2500万ドルの間であった。
○ 議決権付証券の支配権取引や,非法人持分の支配権取引など,資産及び支配権取引が最も多く見られた。500万ドルを超える企業結合計画では,大半が支配権取引に関わる企業結合計画であった。更に,金額が大きい企業結合計画ほど,支配権取得の割合が高くなっていた。
○ 企業結合計画の大半は国内企業に対するものであり,被買収企業の約3分の2は国内企業であった。
○ 被買収企業の設立年数が確認できた企業結合計画のうち,少なくとも39.3%は,企業結合完了時点で設立から5年未満の企業であった。
○ 調査対象企業から,被買収企業の非営業部門のフルタイム従業員の数について回答を得ることができた企業結合計画のうち,半数以上は,フルタイム従業員数が1人から10人の間であった。従業員数は,企業結合計画の規模と正の相関がみられる。
○ 調査対象5社の暦年ごとの企業結合計画数は,最も少ない年の43件(2012年)から最も多い年の79件(2014年)まで幅があり,2010年から2013年(43件から63件)よりも2015年から2019年(63件から74件)の方が相対的に高い水準で推移した。
 
 本件調査を行うために,FTCは調査対象の企業に特別に命令を発出し,HSR法に基づいて反トラスト当局に報告されていなかった過去の買収に関する情報を提供するよう求めた。当該命令は,特定の法執行の目的を持たない,広範な調査を行う権限をFTCに与える,FTC法第6条(b)に基づいて発出されたものである。
 FTCは,賛成5,反対0で本報告書の公表を決議した。リナ・カーン委員長,ロヒット・チョプラ委員及びレベッカ・ケリー・スローター委員は,それぞれ個別に声明を公表した。

 

ページトップへ