米国

DOJ,ペンギン・ランダムハウスによる競合出版社のサイモン&シュスターの買収計画を阻止するために民事提訴

2021年11月2日 米国司法省 公表
原文 
【概要】
 米国司法省(以下「DOJ」という。)は2021年11月2日,ペンギン・ランダムハウス(Penguin Random House)による,互角の競合他社であるサイモン&シュスター(Simon & Schuster)の買収計画を阻止するため,反トラスト民事訴訟を提起した。コロンビア特別区連邦地方裁判所に提出された訴状によると,本件買収計画により,既に世界最大の書籍出版社であるペンギン・ランダムハウスは,米国内で出版される書籍の種類及び作家に支払われる報酬額について,桁外れの影響力を持つことになる。
 訴状において述べられているように,出版社は,原稿獲得のために競争し,編集,装丁して市場で流通させ,書籍として販売している。出版社は,作家に書籍を出版する権利の対価として前金を支払う。ほとんどの場合,前金は作家の仕事に対する報酬の総額となる。
 また,訴状に詳述するように,出版業界では既に寡占が見られる。「ビッグファイブ」と呼ばれる,僅か5社の出版社が,高額の前金,広範なマーケティング及び編集のサポートを安定して提供することができ,トップセラーの書籍を出版したい作家にとっては最良の選択肢となっている。ほとんどの作家は,次なるベストセラーの執筆を熱望しており,ビッグファイブに書籍を出版する権利を売ることは,そのための最高の機会となる。
 小規模な出版社は,トップセラーが見込まれる書籍の出版権を獲得することはあっても,高額な前金を安定して支払い,期待どおりの売上げを達成できなかった場合の損失に耐えられるだけの資金力を持たない。現在,世界最大の出版社であるペンギン・ランダムハウスと,米国第4位の出版社であるサイモン&シュスターは,より高額な前金,より良いサービス,そして,より魅力的な契約条件を作家に提供することで,原稿獲得のために熾烈に競争している。しかし,訴状で主張されているように,本件買収計画は,この重要な競争を排除することになり,その結果,作家が受け取る前金は減少し,最終的には消費者が読むことのできる書籍の数と種類が減少することとなる。
 訴状によると,サイモン&シュスターを21億7500万ドルで買収することによって,ペンギン・ランダムハウスは,トップセラーが見込まれる書籍の出版権を獲得する市場の半分近くを支配することになり,何百人もの個人作家にとっては,選択肢が減り,交渉力が低下することになる。ペンギン・ランダムハウスは,訴状記載の同社の文書によると,米国の出版市場を「寡占状態」と評価しており,サイモン&シュスターの買収計画は,米国における支配的な出版社としての地位を「確固たるもの」にすることを目的としている。
 裁判所は,反トラスト法が,製品やサービスの買手及び売手の両者を保護するために整備されていることを長い間認識してきた。そこには,本件における,大手出版社間の競争により自身の著作物に対する正当な報酬を確保している作家も含まれている。訴状で明らかにされているように,本件買収計画は,買手同士の統合を通じて,米国の労働者(本件においては作家)に損害を与えることになる。これは「買手独占(monopsony)」と呼ばれる事案である。
 反トラスト局の水平的合併ガイドラインでは,買手独占の事案を分析するための明快な枠組みが示されており,当該ガイドラインの下では,本件買収は反競争的であると推定される。要するに,ペンギン・ランダムハウスがサイモン&シュスターを買収すれば,二つの出版社は互いに競争しなくなり,その結果,作家にとっては,自身の著作物に対する報酬が減ることになる。報酬が少なければ作家の執筆量が減り,書籍の量や種類も減ることを意味する。
 ペンギン・ランダムハウスは,ベルテルスマン(Bertelsmann)の子会社であり,ニューヨーク州ニューヨークに本社を置く。ペンギン・ランダムハウスは,米国で年間2,000冊の新刊書籍を出版している。2019年,ペンギン・ランダムハウスは,米国での出版による収益を24億ドルと報告している。
 サイモン&シュスターは,バイアコム(Viacom)CBSの子会社であり,ニューヨーク州ニューヨークに本社を置く。サイモン&シュスターは,米国で毎年1,000冊の新刊書籍を出版している。2019年,サイモン&シュスターは,米国での出版による収益を7億6000万ドルと報告している。

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