2022年9月

米国

DOJ、Booz Allen HamiltonによるEverWatch買収計画について、差止訴訟を提起

2022年6月29日 米国司法省反トラスト局 公表
原文 
【概要】
 司法省反トラスト局(以下「DOJ」という。)は、Booz Allen Hamilton Holding Corporation(以下「Booz Allen」という。)によるEverWatch Corp.(以下「EverWatch」という。)の買収を差し止めるため、本日(2022年6月29日)、反トラスト民事訴訟を提起した。EverWatchは、EC Defence Holdings LLCの子会社である。Maryland地区の地方裁判所に提出された訴状によると、本件買収は、国家安全保障局(National Security Agency(以下「NSA」という。))が発注する運用モデル及びシミュレーションサービスの公共調達における活発な競争を脅かすものである。差止めを命じず、本件買収が実施されれば、上記の調達分野における競争が失われ、NSAは独占的な入札者と契約せざるを得なくなるだろう。
 
 NSAは、「シグナルインテリジェンス活動」(訳注:通信を傍受して、その内容を解析する諜報活動)の実施のために、運用モデル及びシミュレーションサービスの提供に関する契約を定期的に発注している。NSAは、調達手続の一部として、契約後速やかに次期契約の継続に係る提案依頼書を公表することとしている。Booz Allen及びEverWatchは、本件買収合意以前は、NSAとの契約を獲得するため、激しく競い合っていた。しかしながら、Booz Allenは、NSAが提案依頼書を公表する直前に、競い合う代わりに、唯一のライバル事業者を買収することを決定した。訴状によれば、本件買収合意は、当事会社の入札への積極的なインセンティブを急速に低下させるため、シャーマン法第1条に違反するほか、提案された買収は競争を実質的に制限することとなるため、クレイトン法第7条にも違反する。
 NSAは、暗号学、シグナルインテリジェンス及びサイバーセキュリティを専門とする主要な国防情報機関であり、米国の政策立案者及び軍隊に対してシグナルインテリジェンスを提供する責務を負っている。通信システムの電子信号及び電子放出から得られるシグナルインテリジェンスは、米国を防衛し、米国及び同盟国の目標を達成するために必要な重要情報を米国の指導部に提供することにより、米国の国家安全保障において重要な役割を果たしている。
 Booz Allenは、マネジメント、テクノロジー、コンサルティング、エンジニアリング等の幅広いサービス及びソリューションを提供する事業者である。
 EverWatchは、投資会社のEnlightenment Capitalが保有するEC Defense Holdimgs LLCの子会社であり、データサイエンス、諜報及びサイバーセキュリティに注力した国防及び諜報活動に係る各種サービスを提供している。
 

FTC、メタによるアプリ開発事業者の買収計画について、差止訴訟を提起

2022年6月29日 米国司法省反トラスト局 公表
原文
【概要】
 米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)は、バーチャルリアリティ(VR)大手Meta(旧Facebook。以下「メタ」という。)及びメタの支配株主かつCEOであるマーク・ザッカーバーグCEOによるWithin Unlimited及び同社が設計・開発したVR専用フィットネスアプリ(virtual reality dedicated fitness app)として人気を博しているSupernaturalの買収について、差止めを求めている。
 メタは、既にVRの各分野において、重要なプレーヤーとなっており、同社が築いたVR帝国には、ベストセラーとなった(VR向け)デバイス、主要なアプリストア、最も成功しているVRアプリ開発事業者7社及びベストセラーとなったアプリの1つが含まれている。
 FTCは、メタ及びザッカーバーグCEOが、本件買収計画により、同社のVR帝国を拡大し、ユーザーに対してVRの価値を証明するフィットネスアプリを違法に買収しようとしていると主張している。
 
 VR産業は、ユニークな没入型のデジタル体験を提供しており、高い成長性及び革新性を特徴とする。VRは、タブレット、携帯電話又はモニターのコンテンツとは異なり、動きながらでも完全に包み込まれるような感覚をユーザーに体験させる。VRのユーザーは、通常、完全な三次元の環境に身を置くために、ディスプレイを備えたヘッドセットを使用してVRを体験する。ソフトウェア会社やスタジオ会社は、ヘッドセットにおいて作動するVRアプリを開発し、アプリストアで配信している。こうしたアプリのコンテンツは、リズムゲームやeスポーツ等様々なジャンルに及ぶ。
 メタは、世界的な巨大テクノロジー事業者であり、Facebook、Instagram、Messenger及びWhatsAppを所有している。また、同社は、最大手のVR機器販売事業者であり、米国におけるアプリの主要プロバイダーでもある。メタは、ザッカーバーグCEOのリーダーシップの下、ヘッドセットメーカーであるOculus VRの買収を皮切りに、VR分野を征服するキャンペーンを開始した。メタが運営するQuest Storeは、ベストセラーとなったQuest headsetsの普及に後押しされ、400以上のアプリをダウンロードできる有力なアプリ・プラットフォームとなった。
 メタは、アプリの拡大の一環として、最も成功しているVRアプリ開発事業者7社を買収し、世界最大のVRコンテンツカタログの一つを保有している。さらに、メタは、Beat Gamesの買収により、極めて人気の高いアプリであるBeat Saberを支配するに至っている。
 Within Unlimitedは、独立系のVR開発スタジオであり、VR専用フィットネスアプリ市場において人気を博しているSupernaturalの設計・開発者である。Supernaturalは、Katy Perry等トップクラスのアーティストの楽曲に合わせて、印象的かつ現実感の高い仮想環境の中で行われる高品質かつ多様なワークアウトを提供するアプリである。Within Unlimitedの共同創設者兼CEOは、「フィットネスは、VRにおけるキラーコンテンツである。」と述べている。
 メタは、VR専用フィットネスアプリ市場における潜在的な参入者であり、必要なリソース及び当該市場において競争するための独自のVRアプリを開発する現実的な可能性を有している。しかし同社は、自社製品の投入を通じて市場に参入する代わりに、Supernaturalの買収を試みることを選択した。メタによる  Within Unlimitedの買収が実行されれば、メタのVR専用フィットネスアプリ市場への参入の可能性を消滅させ、将来的なイノベーション及び市場における競争関係を弱めることとなる。
 また、メタが市場に参入し得るという可能性自体が、VR専用フィットネスアプリ市場の競争に影響を与え得るものであるところ、メタによるWithin Unlimitedの買収が実行されると、そうした競争圧力の低下をもたらす。
 さらに、メタは、Supernaturalの競合である自社のBeat Saberを通じて、より一般的なVRフィットネスアプリ(virtual reality fitness app)市場に既に参入しており、現在、メタとWithin Unlimitedは、互いに新機能を追加し、より多くのユーザーを獲得するために刺激し合っている。しかし、本件買収計画を認めてしまうと、こうした両者間の(VRフィットネスアプリ市場における)競争関係が失われることになる。
 本件緊急差止命令及び予備的差止命令についてFTCの議決が行われたところ、賛成3、反対2で承認された。

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