米国
FTC及び米国10州の司法長官、農薬メーカーであるSyngenta Crop Protection及びCorteva, Inc.が、販売業者に金銭を支払うことにより、競合他社が安価なジェネリック製品を農家に販売することを阻止したとして、連邦裁判所に提訴
2022年9月29日 米国連邦取引委員会 公表
原文
【概要】
連邦取引委員会(以下「FTC」という。)及び米国10州の超党派の司法長官は、農薬メーカーであるSyngenta Crop Protection(以下「Syngenta」という。)及びCorteva, Inc. (以下「Corteva」という。)に対し、競合他社が安価なジェネリック製品を農家に販売しないようにするため、販売業者に金銭を支払った疑いで連邦裁判所に提訴した。
訴状によると、Syngenta及びCorteva(以下「2社」という。)は、いわゆる「ロイヤリティ・プログラム」を実施しており、競合他社との取引を制限することを条件に販売業者に報酬が支払われる仕組みを構築した。競争相手がいなくなることで、2社は価格をつり上げることが可能となり、その結果、米国内の農家が何百万ドルも多くの支払をさせられることになった。また、訴状では、参入を阻止するためのこの違法な支払(pay-to-block)のスキームを停止させ、当該行為の影響を受けた市場の競争を回復させることを求めている。
リナ・M・カーンFTC委員長は、次のように述べた。
「FTCは、2社が、農家向けの農薬価格をつり上げる有害な戦略によって、独占を維持することを阻止するために訴訟を提起した。2社は、販売業者に金銭を支払い、ジェネリック製品メーカーを市場から締め出すことで、農家から安価で革新的な製品を選択する機会を奪ってきた。超党派の州連合と連携したFTCの訴訟は、米国の農家を圧迫する略奪的な独占を阻止するための戦いにおいて、我々が団結していることを明確に示している。」
2社は、米国で事業を営む大規模農薬メーカーである。Syngentaは、スイスに本社を置く、中国国営企業の子会社である。Cortevaは、インディアナポリスに本社を置く、2017年に合併したデュポン及びダウ・ケミカルの農業科学事業を引き継いだ事業者である。
FTCは訴状において、特許による独占が認められる期間について、2社が人為的に延長しようとしたことに着目している。新しい農薬を開発したメーカーは、その発明を特許として登録することにより、20年間は他者が販売できないようにすることができる。通常は、特許権の存続期間が終了すると、その製品のジェネリックが市場に参入し、先発製品と競争するので、ジェネリック製品の参入は価格を押し下げることなる。1社のみが新製品の販売を独占するのではなく、多くのメーカーが農家に対する販売競争をすることになる。
しかし、訴状によれば、2社は、自社の独占的利益をジェネリック農薬に侵食されるのを阻止するために、違法な手段を採った疑いがある。2社は、販売業者が競合品のジェネリック農薬を購入する量を極めて低い基準値以下に抑えることを条件に、販売業者に金銭を支払うという「ロイヤリティ・プログラム」を設けた。このプログラムによって、2社は、ジェネリック農薬と公平に競争する場合よりも、多くの利益を得ることができる。また、競合他社を排除することで、高価格を維持することができるため、販売業者に金銭を支払ったとしても、高利益率を維持することができる。販売業者は、高価格を農家に転嫁し、そして、その高価格は最終的には消費者に転嫁される。
訴状によれば、被告事業者の「ロイヤリティ・プログラム」は、農家、中小農薬メーカー及び消費者に弊害を及ぼしている。
① 農家への販売価格の上昇
2社は、特許権の存続期間が終了後もジェネリック農薬との競争を回避することで、農薬の高価格を人為的に維持している。利益の一部を販売業者に分配し、販売業者は高価格で農家に販売することから、農家は農作物を守るために必要な農薬に高い代金を支払い続けなければならなくなる。
② 消費者への販売価格の上昇
農薬の価格の上昇は、最終消費者への販売価格に転嫁される。
③ 農薬市場の競争及びイノベーションの抑制
本ロイヤリティの支払により販売業者はジェネリック農薬メーカーとの取引を躊躇することになるし、さらに、2社の製品に対抗し得る既存の農薬との混合による革新的な新製品などを製造するジェネリック農薬メーカーの市場参入を阻む。
FTCによる提訴は、米国経済における競争及びイノベーションの開放、消費者及び中小企業の保護並びに支配的事業者による不公正な戦術を取り締まるための幅広い取組の一環である。FTCは、ジェネリック製品メーカーが競争に参加しないことを条件に報酬を支払うペイフォーディレイ(pay-for-delay)のスキームを阻止するために、長年にわたって訴訟を提起してきた実績がある。また、FTCは、2022年6月、ジェネリック製品を市場から排除することを目的として行われる、製薬業界の中間業者に対する違法なリベートやキックバックのスキーム(本件訴状で申し立てたものと同様の反競争的行為)に対する執行を強化することを発表している。
訴状では、6種類の農薬有効成分に関する2社の独占的な市場力及び上述の行為による反競争的影響について詳述している。Syngentaは、殺菌剤であるアゾキシストロビン、除草剤であるメソトリオン及びメトラクロールに関して、米国内において独占的な市場力を有している。一方、Cortevaは、除草剤リムスルフロン及び殺虫剤オキサミルに関して、米国内において独占的な市場力を有している。また、同社は除草剤アセトクロルに関しても市場力を有している。
本件訴状は、賛成4票、反対0票、棄権1票で承認された。ノア・ジョシュア・フィリップ委員は棄権した。訴状では、被告事業者が不公正な競争方法を用い、競合製品を排除す ることを条件としてリベートを支払い、不当に取引を制限し、さらに違法に独占を維持することにより、連邦反トラスト法に違反した疑いがあると主張している。そして、カリフォルニア、コロラド、イリノイ、アイオワ、インディアナ、ミネソタ、ネブラスカ、オレゴン、テキサス及びウィスコンシンの各州の反トラスト法及び消費者保護法にも違反しているとしている。
本件訴状には、上記各州の司法長官が加わっている。